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仕入れ資金による調達

仕入れ資金は「借りる」以外に何ができるか

不足の原因は支払いが早い・在庫が多い・回収が遅いの3つ。所要運転資金の式で分解し、3つを動かせば借りずに2,000万円が生まれる構造と、8つの手段の優先順位を示します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 仕入れ資金が足りない理由は、3つに分解できる
  2. 所要運転資金という1本の式
  3. 数字で見る|3つの項目を動かす
  4. 手段①|支払条件を交渉する
  5. 手段②|在庫を減らす
  6. 手段③|回収を早める
  7. 数字で見る|3つを同時に動かすと
  8. 手段④|前受け・着手金
  9. 手段⑤|発注を平準化する
  10. 手段⑥|商社や卸の与信を通す
  11. 手段⑦|後払い・分割のサービスを使う
  12. 手段⑧|リース・割賦
  13. それでも足りないときに借りる
  14. 借りるときの使途の説明
  15. 優先順位のつけ方
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

仕入れ資金が足りない理由は、3つに分解できる

「仕入れの資金が足りない」という状態は、次の3つのどれか(または組み合わせ)です。

— 原因 内容
① 払うのが早すぎる 仕入代金の支払いが、売上の回収より先に来る
② 在庫が多すぎる 仕入れたものが、現金に戻るまで時間がかかる
③ 回収が遅すぎる 売ってから入金まで日数がかかる
借りることは、原因への対処ではない

借入は、①②③によって生じた穴を埋める手段です。原因そのものは変わりません。だから借りても、翌月も同じ穴が空きます。まず原因を特定してください。

所要運転資金事業を回すために立て替えている金額。
在庫回転日数在庫が現金に戻るまでの平均日数。
支払サイト仕入れてから代金を支払うまでの期間。
CCC仕入代金を払ってから、売上を回収するまでの日数。
この章の要点

原因は支払いが早い・在庫が多い・回収が遅いの3つ。借入は対処ではありません。

所要運転資金という1本の式

所要運転資金 = 売掛金 + 在庫 - 買掛金

この金額が、事業を回すために立て替えている額です。前受金があれば、さらに差し引きます。

項目 資金への効果 動かす手段
売掛金 増えるほど資金が必要 回収を早める
在庫 増えるほど資金が必要 在庫を減らす
買掛金 増えるほど資金が楽になる 支払いを遅らせる
前受金 増えるほど楽になる 前受けを導入する

この4項目のどれかを動かせば、必要な資金は減ります。借りるのは、動かせなかった分を埋めるためです。

この章の要点

式は売掛金+在庫-買掛金。4項目のどれかを動かせば、必要額が減ります。

数字で見る|3つの項目を動かす

月商3,000万円、売上原価率60%の会社で計算します。

項目 日数 金額
日商(月商 ÷ 30) — 100万円
1日あたりの売上原価 — 60万円
売掛金 60日 6,000万円
在庫 30日 1,800万円
買掛金 30日 ▲1,800万円
所要運転資金 — 6,000万円

ここから、それぞれを動かした場合の効果を見ます。

動かすもの 変化 所要運転資金 減る額
支払サイト 30日 → 45日 5,100万円 ▲900万円
在庫回転日数 30日 → 20日 5,400万円 ▲600万円
回収サイト 60日 → 55日 5,500万円 ▲500万円
900万円支払15日延長
600万円在庫10日短縮
500万円回収5日短縮

いずれも、借りずに数百万円の資金を生みます。そして費用はかかりません。

この章の要点

1項目を動かすだけで数百万円。費用はかかりません。

手段①|支払条件を交渉する

交渉の形 効果 難易度
支払サイトを延ばす 買掛金が増え、資金が楽になる 高い
締め日を変える 支払いの時期がずれる 中
分割払いにする 1回の支払額が減る 中
手形での支払いに変える 資金の流出が後ろにずれる —
効果は大きいが、相手にとっては不利

支払サイトを延ばすことは、相手の回収サイトを延ばすことです。相手の資金繰りを悪くする交渉なので、簡単には通りません。切り出し方と根拠が要ります。

交渉の進め方は 仕入先との支払条件交渉、延ばすことの代償は 仕入先への支払いを遅らせると、何と引き換えになるか の記事で扱っています。

この章の要点

効果は最大ですが、相手の資金繰りを悪くする交渉です。

手段②|在庫を減らす

やること 効果 注意
動かない在庫を処分する すぐに効く 評価損が出る
発注の単位を小さくする 在庫の山が低くなる 単価が上がることがある
発注の頻度を上げる 同上 送料・手間が増える
品目を絞る 管理する在庫が減る 売上機会を失う可能性
受注生産に変える 在庫を持たない 納期が伸びる
1番目が、いちばん効果が大きい

動かない在庫は、資金を固定しているだけで、何も生んでいません。処分すれば現金になり、保管の費用も減ります。評価損は出ますが、その在庫はいずれ処分することになります。

在庫と資金の関係は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。

この章の要点

まず動かない在庫。資金を固定しているだけで何も生んでいません。

手段③|回収を早める

やること 費用
請求書の発行を早める なし
締め日をまたがないようにする なし
検収の期限を契約で定める なし
回収サイトを交渉する なし(交渉の手間)
債権を資金化する 手数料

上の3つは費用がかかりません。とくに請求書の発行タイミングは、締め日をまたぐだけで1か月ずれるため、効果が大きくなります。

詳しくは 請求書の発行タイミングを1日早める効果 の記事で扱っています。

この章の要点

請求の運用を直すだけなら費用ゼロ。まずここから。

数字で見る|3つを同時に動かすと

先ほどの会社で、3つすべてを動かした場合を見ます。

項目 現状 改善後
売掛金(回収60日 → 55日) 6,000万円 5,500万円
在庫(30日 → 20日) 1,800万円 1,200万円
買掛金(30日 → 45日) ▲1,800万円 ▲2,700万円
所要運転資金 6,000万円 4,000万円
6,000万円現状の所要運転資金
4,000万円3つを動かした後
2,000万円生まれた資金

2,000万円の資金が、借りずに生まれます。すべてを同時に達成するのは簡単ではありませんが、どれか1つでも動けば数百万円です。

2,000万円を借りる費用と比べる

2,000万円を年利3%で借りれば、年間60万円の利息です。債権譲渡なら、もっとかかります。条件の見直しには、その費用がかかりません。

この章の要点

3つを動かせば2,000万円。1つでも数百万円です。

手段④|前受け・着手金

形 効果 相手の受け入れ
着手金 仕入れの資金を、顧客が先に出す形になる 比較的高い
中間金 工程の途中で受け取る 高い
全額前受け 仕入れ資金が要らなくなる 低い
年払いの割引 継続課金なら 高い(相手に利点がある)
特注品・受注生産なら、理由が立つ

「その相手のためだけに仕入れる」取引では、着手金を求める理由が説明できます。キャンセルされると転売できないためです。相手にも理解されやすい形です。

前受金の扱いは 前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。負債であり、提供の義務が残る点に注意してください。

この章の要点

着手金なら仕入れ資金を顧客が先に出す形になります。

手段⑤|発注を平準化する

資金が足りなくなるのは、支出が特定の時期に集中していることが原因の場合もあります。

状態 起きること
まとめて発注している その月だけ支払いが跳ね上がる
季節的に集中している 特定の時期に資金需要が出る
発注のタイミングがばらばら 資金繰りが読めない
年間の総額が同じでも、山があると資金が要る

必要な資金は「年間いくら使うか」ではなく、「いちばん多く払う月にいくら要るか」で決まります。山を平らにすれば、必要な資金が減ります。

発注のタイミングを決める考え方は 発注点を決めると、資金の山が平らになる の記事で扱っています。

この章の要点

必要額はいちばん多く払う月で決まります。山を平らにしてください。

手段⑥|商社や卸の与信を通す

項目 内容
仕組み 商社が仕入先に支払い、自社は商社に支払う
効果 商社の支払条件で仕入れられる
費用 商社の口銭(手数料)
向いている場面 海外からの仕入れ、大口の仕入れ、前払いを求められる仕入れ
注意 口銭の分だけ原価が上がる

とくに仕入先が前払いを求める場合に有効です。商社が前払いに対応し、自社は商社の支払条件(例えば月末締め翌月末払い)で仕入れられます。

口銭は、実質的な資金調達コスト

口銭の分だけ原価が上がりますが、その代わりに前払いの資金が不要になります。年率に換算して、借入と比べてください。

詳しくは 商社の与信枠を通して仕入れる の記事で扱っています。

この章の要点

商社の与信で前払いが不要になります。口銭は年率で比べてください。

手段⑦|後払い・分割のサービスを使う

項目 内容
仕組み 事業者が仕入代金を立て替え、自社は後日または分割で支払う
効果 支払いの時期を後ろにずらせる
費用 手数料
審査 自社の信用が見られる
比べ方 手数料を年率に換算して、借入と比べる
年率に直さないと、比較にならない

「手数料2%」でも、支払いを30日後ろにずらすだけなら年率に直すと約24%です。年利数%の借入と比べれば高くなります。速さと審査の通りやすさに価値があるかで判断してください。

年率への換算の考え方は 債権を使った調達のコストの比べ方 の記事で扱っています。手数料率 × 365 ÷ 日数です。

この章の要点

手数料2%・30日は年率約24%。必ず年率に換算してください。

手段⑧|リース・割賦

対象 使えるか
設備・機械 使える
車両 使える
システム・ソフトウェア 使えることがある
販売する商品(在庫) 通常は使えない
原材料 通常は使えない

リース・割賦は設備には使えますが、販売する商品の仕入れには通常使えません。この違いを理解しておいてください。

設備をリースにすれば、仕入れに資金を回せる

直接の手段ではありませんが、設備投資をリースにして現金の支出を抑えれば、その分を仕入れに回せます。資金の使い先を組み替える発想です。

ただし、リースの費用は年率に直すと高くなることがあります。設備を借入で買う場合と比べてください。

この章の要点

リースは設備向け。商品の仕入れには通常使えません。

それでも足りないときに借りる

手段 向いている場面 費用
増加運転資金の融資 売上が伸びて資金が必要 年利
季節資金 時期が決まっている仕入れ 年利。短期
当座貸越の枠 必要額が月によって変動する 使った分の利息
ABL(在庫・売掛金担保) 担保になる資産がある 年利+報告の手間
債権譲渡 急ぎ。業績が悪い 年率は高い

上の2つが基本です。仕入れ資金は、使途が明確で回収の時期も読めるため、融資の説明としては通りやすい部類です。

使途の説明は 資金使途の説明、枠の使い方は コミットメントラインと当座貸越枠 の記事で扱っています。

この章の要点

仕入れ資金は使途が明確で、融資の説明としては通りやすい部類です。

借りるときの使途の説明

種類 説明の形 返済原資
増加運転資金 「売上が◯%増え、所要運転資金が◯万円から◯万円に増えた。差額を」 増えた売上の回収
季節資金 「◯月の繁忙期に向けて◯万円の仕入れが必要。◯月〜◯月の入金で返済」 その季節の売上
つなぎ資金 「◯月◯日に◯万円の入金が確定。それまでの◯日間」 確定した入金
「仕入れ資金」とだけ言わない

種類を明示すれば、返済期間と返済原資が自動的に決まります。担当者は稟議書が書きやすくなり、実行までの日数も短くなります。

増加運転資金なら、所要運転資金の計算表をそのまま持っていってください。「売掛金が◯万円増え、在庫が◯万円増え、買掛金が◯万円増えたので、差額が◯万円」——これが金額の根拠になります。

この章の要点

種類を明示する。所要運転資金の計算表が、そのまま根拠になります。

優先順位のつけ方

順 やること 費用 効果が出るまで
1 動かない在庫を処分する なし(評価損は出る) 数週間
2 請求書の発行を早める なし すぐ
3 発注を平準化する なし 数か月
4 着手金・前受けを導入する なし 新規取引から
5 支払条件を交渉する なし(関係のコスト) 数か月
6 商社の与信を使う 口銭 数週間
7 融資を申し込む 利息 2週間〜2か月
8 後払いサービス・債権譲渡 高い 数日
上から順に検討する

1〜5は費用がかかりません。ここを飛ばして7や8に行くと、毎年その費用を払い続けることになります。ただし、間に合わない場合は順序を変えてください。

8番は、今日明日の資金が必要な場合の手段です。年率が高いため、常用すると構造の問題になります。

この章の要点

1〜5は費用ゼロ。飛ばすと、毎年その費用を払い続けます。

チェックリスト

仕入れ資金を検討するときに

  • 所要運転資金(売掛金+在庫-買掛金)を計算した
  • 売掛金・在庫・買掛金を、それぞれ日数に直した
  • どの項目がいちばん大きいかを把握した
  • 動かない在庫の金額を把握した
  • 在庫を10日減らした場合の効果を計算した
  • 請求書の発行が締め日をまたいでいないか確認した
  • 回収を5日早めた場合の効果を計算した
  • 支払サイトを延ばした場合の効果を計算した
  • 着手金・前受けを導入できる取引がないか検討した
  • 発注が特定の月に集中していないか確認した
  • 商社の与信を使える仕入れがないか検討した
  • 後払いサービスの手数料を、年率に換算した
  • 費用のかからない手段を、先に検討した
  • 借りる場合、資金使途の種類(増加運転資金・季節資金)を特定した
  • 所要運転資金の計算表を、説明資料として用意した
この章の要点

1〜3番から。どの項目がいちばん大きいかで、打つ手が決まります。

よくある質問

Q. 仕入れ資金が足りません。まず何をすべきですか
所要運転資金(売掛金+在庫-買掛金)を計算し、それぞれを日数に直してください。どの項目がいちばん大きいかで、打つ手が決まります。原因を特定せずに借りると、翌月も同じ穴が空きます。
Q. 借りずに資金を生めますか
生めます。月商3,000万円・原価率60%の会社なら、回収を5日早めて500万円、在庫を10日減らして600万円、支払を15日延ばして900万円。3つ合わせて2,000万円です。費用はかかりません。
Q. いちばん効果が大きいのはどれですか
会社によります。売掛金が大きいなら回収、在庫が大きいなら在庫、買掛金が小さいなら支払条件です。まず3つを日数に直して、どれが突出しているかを見てください。
Q. すぐ効くのはどれですか
請求書の発行を早めることです。締め日をまたぐだけで入金が1か月遅れるため、運用を直すだけで効果が出ます。次に、動かない在庫の処分です。
Q. 支払サイトを延ばす交渉は通りますか
簡単ではありません。相手の回収サイトを延ばす交渉なので、相手の資金繰りを悪くします。切り出し方と根拠が必要です。別の記事で扱っています。
Q. 着手金は求められますか
特注品や受注生産なら、理由が説明できます。「その相手のためだけに仕入れるため、キャンセルされると転売できない」という事情は理解されやすいものです。
Q. 商社を通すと、何が変わりますか
商社が仕入先に支払い、自社は商社の支払条件で払えます。とくに仕入先が前払いを求める場合に有効です。口銭の分だけ原価は上がるので、年率に換算して借入と比べてください。
Q. 後払いサービスの手数料は高いですか
年率に換算してください。手数料2%で支払いを30日ずらすなら、年率約24%です。年利数%の借入と比べれば高くなります。速さと審査の通りやすさに価値があるかで判断してください。
Q. リースは仕入れに使えますか
設備や車両には使えますが、販売する商品や原材料の仕入れには通常使えません。ただし設備をリースにして現金の支出を抑えれば、その分を仕入れに回せます。
Q. 融資で借りるなら、どう説明しますか
「仕入れ資金」とだけ言わず、増加運転資金か季節資金かを明示してください。種類が決まれば返済期間と返済原資も決まります。所要運転資金の計算表が、そのまま金額の根拠になります。
Q. 発注を平準化すると、何が変わりますか
必要な資金は「年間いくら使うか」ではなく「いちばん多く払う月にいくら要るか」で決まります。山を平らにすれば、必要な資金が減ります。
Q. 借りるのは、最後の手段ですか
費用のかからない手段を先に検討すべきですが、間に合わない場合は順序を変えてください。また、売上が伸びて運転資金が増える場合は、借入で対応するのが正しい形です。
出典

  • 中小企業の会計に関する基本要領、資金繰り支援、取引適正化 — 中小企業庁
  • 下請代金支払遅延等防止法 — 公正取引委員会
  • 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 — 金融庁