
債権を使った資金調達を検討すると、次のような数字が並びます。
| 手段 | 提示される数字 |
|---|---|
| ABL | 「年利3.0%」 |
| 債権譲渡 | 「手数料3%」 |
| でんさい割引 | 「割引料 年2.5%」 |
| 取引信用保険 | 「保険料率 年0.3%」 |
ABLの年利3.0%と、債権譲渡の手数料3%は、同じ数字に見えて10倍以上違うことがあります。前者は1年分、後者は1回分だからです。
単位が違います。年率にそろえない限り、比較になりません。
1回あたりの手数料率を、その資金を使う日数で割り戻します。30日使うなら12倍、60日なら約6倍になります。
| 手数料 | 使う日数 | 年率 |
|---|---|---|
| 3% | 30日 | 約36.5% |
| 3% | 60日 | 約18.3% |
| 3% | 90日 | 約12.2% |
| 5% | 30日 | 約60.8% |
| 1% | 30日 | 約12.2% |
同じ手数料率でも、使う日数によって年率は大きく変わります。回収サイトが短い債権を早く資金化するほど、年率は高くなります。
手数料率 × 365 ÷ 日数。日数が短いほど、年率は高くなります。
額面1,000万円の売掛金を、手数料3%で譲渡する場合を見ます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 額面 | 1,000万円 |
| 手数料(3%) | 30万円 |
| 受け取る金額 | 970万円 |
| 本来の入金までの日数 | 30日 |
| 年率 | 約36.5% |
同じ1,000万円を、年利3.0%のABLで30日借りた場合の利息は約2万5,000円です。手数料30万円と比べると、12倍以上の差があります。
年率だけ見れば圧倒的にABLが有利です。それでも債権譲渡が使われるのは、速さと、審査の通りやすさです。ABLは審査に時間がかかり、業績が悪いと出ません。年率だけで判断できない理由が、ここにあります。
手数料3%・30日は年率約36.5%。ABLの12倍以上です。
| 種類 | 内容 | 見えやすさ |
|---|---|---|
| ①直接費用 | 手数料・利息・登記費用・保証料 | 見えやすい |
| ②間接費用 | 報告・書類作成の手間、待ち時間 | 見えにくい |
| ③機会費用 | 担保余力を使う、枠を使う | 最も見えにくい |
「ABLのほうが年率が低いから有利」——これは①だけを見た判断です。②の報告の手間と、③の担保余力を使うことを入れて初めて、正しく比べられます。
コストは直接・間接・機会の3種類。①だけでは判断できません。
| 手段 | 直接費用の内訳 |
|---|---|
| ABL | 利息、債権譲渡登記の費用、実地調査の費用(負担する場合)、抹消の費用 |
| 債権譲渡 | 手数料、登記の費用(2者間の場合)、事務手数料 |
| でんさい割引 | 割引料 |
| 保証協会付き融資 | 利息、信用保証料 |
「手数料3%」と言われても、登記費用、事務手数料、印紙代が別にかかることがあります。見積もりは「総額でいくらか」で取ってください。
とくにABLでは、登記の費用が設定時と抹消時の2回かかります。初回は割高になるため、短期で終わらせると費用対効果が悪くなります。
登記の費用は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。
見積もりは総額で取る。登記は設定時と抹消時の2回かかります。
| 手段 | 発生する手間 | 目安 |
|---|---|---|
| ABL | 毎月の報告(債権明細・年齢表・試算表) | 月1〜数時間 |
| ABL | 実地調査への対応 | 年数回 |
| 債権譲渡 | 申込時の書類。継続して使うなら毎回 | 都度 |
| 保証協会付き | 申込時の書類 | 都度 |
ABLの報告に月2時間かかり、時給を3,000円とすれば、年間で7万2,000円です。金額としては小さく見えますが、金利差が小さい場合には判断を変えます。
債権年齢表や試算表は、ABLのためだけでなく、経営の管理としても必要なものです。すでに作っているなら、追加の負担はほぼありません。
報告の実務は ABLを使うと毎月どんな報告が発生するか の記事で扱っています。
ABLの報告は月1〜数時間。すでに作っている資料なら負担は小さいです。
| 手段 | 使う資源 | 後に残る影響 |
|---|---|---|
| ABL | 売掛金の担保余力 | 他の調達に使えなくなる |
| 債権譲渡 | その債権のみ | 譲渡した分だけ |
| 保証協会付き融資 | 保証協会の枠 | 非常時に使えなくなる |
| プロパー融資 | 与信枠 | — |
集合債権譲渡担保で売掛金を全部押さえられると、次の調達で債権が使えません。その時点では費用として表れませんが、業況が悪化したときに効いてきます。
この影響は 一度担保に入れた資産を、他の調達でも使えるか の記事で扱っています。
比較の際は、「この選択で、次に使える手がどれだけ残るか」を並べて書いてください。金額にはできませんが、記載があるだけで判断が変わります。
金額にできませんが、次に使える手がどれだけ残るかを並べてください。
3つの手段を、総コストで比べます。
| 項目 | ABL(年利3%) | 債権譲渡(手数料3%) | 保証協会付き(年利2%+保証料) |
|---|---|---|---|
| 直接費用(利息・手数料) | 約4.9万円 | 30万円 | 約3.3万円 |
| 登記費用(初回) | あり | 2者間ならあり | — |
| 信用保証料 | — | — | あり |
| 間接費用(報告の手間) | あり | 小さい | 小さい |
| 機会費用 | 担保余力を使う | その債権のみ | 保証枠を使う |
| 実行までの日数 | 2〜3週間 | 数日 | 1〜2か月 |
直接費用だけ見れば、ABLが圧倒的に安くなります。1,000万円 × 3% × 60日 ÷ 365日 = 約4.9万円です。
ABLは実行まで2〜3週間かかり、業績が悪ければ出ません。今週必要な資金には使えません。間に合わない手段は、どれだけ安くても選べません。
直接費用ではABLが6倍安い。しかし間に合わなければ選べません。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 必要な日まで1か月以上ある | ABL・融資を優先する |
| 2〜3週間 | プロパー融資、既存の枠 |
| 1週間以内 | 既存の枠、または債権譲渡 |
| 今日・明日 | 既存の枠。なければ手段が限られる |
資金が間に合わなければ何が起きるか——仕入れができない、支払いが遅れる、信用を失う。その損失と、手数料の差を比べてください。30万円の手数料でも、それで失注を防げるなら安いことがあります。
ただし、これが繰り返されるなら、構造の問題です。毎回「間に合わないから高い手段を使う」状態は、資金繰り表を先まで作っていないことが原因であることが多くあります。
日数の逆算は 融資実行までの日数を逆算して動く の記事で扱っています。
速さの価値は間に合わなかった場合の損失で測ってください。
1回だけなら手数料30万円で済みますが、毎月使えば話が変わります。
「今月は手数料30万円」と考えると、判断を誤ります。同じことを12回繰り返すなら、年間360万円です。年間の総額で、他の手段と比べてください。
継続して使うなら年間の総額で比べてください。
毎月1,000万円の売掛金を、手数料3%で資金化し続けた場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1回あたりの手数料 | 30万円 |
| 年間の回数 | 12回 |
| 年間の手数料 | 360万円 |
| 売上総利益率30%で、埋めるのに必要な売上 | 1,200万円 |
年間360万円は、粗利率30%なら1,200万円の売上に相当します。この金額を毎年払い続けることになります。
毎月資金化しているということは、回収と支払の条件が事業の構造に合っていないということです。回収サイトの短縮や支払サイトの延長で、必要額そのものを減らせないか検討してください。費用がかかりません。
請求のタイミングを見直すだけでも効果があります。月商3,000万円の会社なら、回収を5日早めるだけで500万円が手元に戻ります。請求書の発行タイミング の記事で扱っています。
年360万円は粗利率30%なら1,200万円の売上に相当します。
| 手段 | 決算書への表れ方 | 次の融資への影響 |
|---|---|---|
| ABL | 借入金が増える | 債務償還年数が伸びる |
| 債権譲渡 | 負債は増えないが、手数料が費用に出る | 金額が大きいと資金繰りを疑われる |
| 保証協会付き | 借入金が増える | 債務償還年数が伸びる |
債権譲渡は借入金を増やしませんが、手数料が売上債権売却損などの費用として計上されます。金額が大きければ、金融機関はそこから資金繰りの状況を読み取ります。
年間360万円の手数料が計上されていれば、「なぜこれだけの費用が出ているのか」は必ず問われます。説明できる状態にしておいてください。
銀行が決算書をどう見るかは 銀行は決算書のどこを見るか の記事で扱っています。
負債は増えなくても手数料は費用に出ます。説明できる状態に。
| 確認 | 理由 |
|---|---|
| 償還請求権の有無 | あると実質的に借入に近い。手数料が安い理由になっている |
| 手数料以外の費用 | 登記費用・事務手数料・印紙代 |
| 掛け目 | 額面の何%が現金になるか |
| 実行までの日数 | 間に合うか |
| 継続して使えるか | 1回限りか、枠として使えるか |
| 取引先への通知 | 2者間か3者間か |
| 担保に入る範囲 | 次の調達に残る余地 |
1番目を必ず確認してください。償還請求権が付いていれば、取引先が倒産したときに自社が買い戻します。リスクの所在がまったく違うのに、手数料だけ比べると判断を誤ります。
この論点は 「債権による調達」とは何を指すか の記事で扱っています。
償還請求権の有無を必ず確認。手数料が安い理由はここにあることがあります。
候補が3つ以上になったら、次の表を作ってください。
| 項目 | 候補A | 候補B | 候補C |
|---|---|---|---|
| 調達できる金額 | — | — | — |
| 直接費用(総額) | — | — | — |
| 年率に換算 | — | — | — |
| 実行までの日数 | — | — | — |
| 償還請求権 | — | — | — |
| 取引先への通知 | — | — | — |
| 使う担保・枠 | — | — | — |
| 毎月の手間 | — | — | — |
| 継続利用の年間総額 | — | — | — |
この表を埋めようとすると、確認していない項目が見つかります。そこを相手に聞いてください。答えられない、または曖昧な回答しか返ってこない場合は、それ自体が判断の材料になります。
表を作ると確認していない項目が見つかります。そこを聞いてください。
最後に、比較表に入れるべきもう1つの候補があります。調達せずに済ませる方法です。
| 手段 | 効果 | 費用 |
|---|---|---|
| 請求のタイミングを早める | 回収サイトが実質的に縮む | なし |
| 回収条件を交渉する | 必要な運転資金が減る | なし |
| 支払条件を交渉する | 同上 | なし |
| 前受け・着手金を導入する | 同上 | なし |
| 在庫を減らす | 同上 | なし |
| 支出の時期をずらす | 必要な時期が後ろにずれる | なし |
年率36.5%の手段を検討する前に、費用のかからない方法で必要額を減らせないかを確認してください。すべてを解決できなくても、必要額が減れば費用も減ります。
必要な運転資金の計算は 資金使途の説明 の記事で扱っています。「売掛金+在庫-買掛金-前受金」の各項目が、それぞれ改善の対象です。
比較表に「調達しない」という候補も入れてください。費用ゼロです。
1番と14番——年率にそろえることとそもそも減らせないかが両端です。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。