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仕入れ資金による調達

発注点を決めると、資金の山が平らになる

必要な資金はいちばん多く払う月で決まります。発注点の決め方、まとめ買い3%引きの損得、品目ごとに発注月をずらすだけで1,200万円変わる構造を数字で示します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 資金が足りなくなるのは、山があるから
  2. 発注点とは何か
  3. 数字で見る|まとめ買いと、こまめな発注
  4. 発注点の決め方
  5. 安全在庫をどう決めるか
  6. 数字で見る|安全在庫と欠品の天秤
  7. 1回の発注量をどう決めるか
  8. まとめ買いの割引を、資金コストと比べる
  9. 数字で見る|3%引きは得か
  10. 納期が長い場合
  11. 季節性がある場合
  12. 発注を分散させると、資金の山が平らになる
  13. 数字で見る|月別の支払いを平らにする
  14. 仕入先との調整
  15. 運用を続ける仕組み
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

資金が足りなくなるのは、山があるから

年間で使う仕入れの総額が同じでも、必要な資金は「いちばん多く払う月にいくら要るか」で決まります。

発注の仕方 年間の仕入額 いちばん多い月 必要な資金
まとめて4回 2億1,600万円 5,400万円 大きい
毎月 2億1,600万円 1,800万円 小さい
年間の総額は同じでも、山の高さが違う

同じ2億1,600万円を仕入れても、4回にまとめれば1回5,400万円、毎月なら1,800万円です。用意すべき資金は3倍違います。

発注点在庫がこの水準まで減ったら発注する、という基準。
安全在庫需要の変動や納期の遅れに備えて、余分に持つ在庫。
リードタイム発注してから納品されるまでの期間。
MOQ最低発注数量。これ未満では発注できない単位。
この章の要点

必要な資金はいちばん多く払う月で決まります。山を平らにしてください。

発注点とは何か

発注点 = リードタイム中の消費量 + 安全在庫

「在庫がこの数量まで減ったら発注する」という基準です。発注してから届くまでの間に使う分と、不測の事態に備える分を足した水準にします。

要素 内容 例
1日あたりの消費量 月間の使用量 ÷ 30 10個
リードタイム 発注から納品までの日数 14日
リードタイム中の消費量 10個 × 14日 140個
安全在庫 変動への備え 60個
発注点 140個 + 60個 200個

在庫が200個まで減ったら発注する。この基準を決めておけば、担当者が判断せずに発注できます。

この章の要点

発注点はリードタイム中の消費量+安全在庫。基準を決めれば判断が要りません。

数字で見る|まとめ買いと、こまめな発注

月間の仕入が1,800万円の品目で、発注の頻度を変えた場合を見ます。

発注の頻度 1回の発注額 平均在庫 在庫回転日数
3か月に1回 5,400万円 2,700万円 45日
月1回 1,800万円 900万円 15日
月2回 900万円 450万円 約8日
2,700万円3か月に1回の平均在庫
450万円月2回の場合
2,250万円その差

平均在庫は「1回の発注量 ÷ 2」で概算できます(納品直後が最大、次の納品直前がゼロに近づくため)。発注の頻度を上げるほど、平均在庫は小さくなります。

2,250万円の資金が、発注の頻度だけで動く

3か月に1回を月2回にすれば、平均在庫が2,250万円減ります。その分の現金が手元に戻ります。単価が変わらないなら、これは純粋な改善です。

在庫と資金の関係は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。

この章の要点

平均在庫は1回の発注量 ÷ 2。頻度を上げるほど小さくなります。

発注点の決め方

順 やること データの出どころ
1 品目ごとの、1日あたりの消費量を出す 過去3〜6か月の出荷実績
2 リードタイムを確認する 仕入先に聞く。過去の実績
3 リードタイム中の消費量を計算する 1 × 2
4 安全在庫を決める 後述
5 発注点 = 3 + 4 —
6 在庫がその水準になったら発注する —
リードタイムは「約束」ではなく「実績」で

仕入先が「14日」と言っていても、実際には20日かかっていることがあります。過去の発注日と納品日を突き合わせて、実績で確認してください。実績より短い日数で計算すると、欠品します。

全品目でやる必要はありません。金額の大きい上位の品目から始めてください。在庫金額の大半は、上位のいくつかで占められているのが通常です。

この章の要点

リードタイムは実績で確認する。金額の大きい品目から始めてください。

安全在庫をどう決めるか

考え方 内容
需要の変動に備える 月によって出荷が増減する幅
納期の遅れに備える リードタイムが延びた場合
欠品したときの損失で決める 失注の大きさ
簡易な決め方 リードタイム中の消費量の◯%
厳密な計算より、まず決めることが大事

統計的に安全在庫を求める方法もありますが、中小企業では「リードタイム中の消費量の30%」のような簡易な基準で十分なことが多くあります。決まっていないことのほうが問題です。

ただし、品目によって水準を変えてください。欠品が致命的な品目は厚めに、代替が効く品目は薄めに。一律にすると、どちらも最適になりません。

この章の要点

厳密さより決まっていること。品目によって水準を変えてください。

数字で見る|安全在庫と欠品の天秤

安全在庫を厚くすれば欠品は減りますが、資金が固定されます。どちらが得かを計算します。

項目 金額
安全在庫を60個から120個に増やす —
仕入単価 1万2,000円
増える在庫金額 72万円
その資金を年利3%で借りた場合 年2万1,600円

一方、欠品による損失です。

項目 金額
1回の欠品で失う売上 50万円
その粗利(率30%) 15万円
年に1回起きるとすれば 年15万円の損失
年2.2万円安全在庫を厚くする費用
年15万円欠品1回の損失
約7倍その差

年に1回でも欠品を防げるなら、安全在庫を厚くしたほうが得です。ただしこれは、欠品が実際に起きる場合の話です。

動かない在庫とは、扱いが違う

この計算が成り立つのは、その品目が実際に売れている場合です。出荷がゼロの品目に安全在庫の議論はありません。品目別に切り分けてください。

この章の要点

売れている品目なら、欠品の損失のほうが大きいことが多くなります。

1回の発注量をどう決めるか

制約 内容
最低発注数量(MOQ) これ未満では発注できない
発注のたびにかかる費用 送料、事務の手間
まとめ買いの割引 量が多いと単価が下がる
保管のスペース 倉庫の容量
賞味期限・劣化 持てる期間の上限
発注費用と、在庫の資金コストの釣り合い

発注の頻度を上げれば在庫は減りますが、送料と事務の手間が増えます。1回の発注にかかる費用と、在庫を持つ資金のコストが釣り合う水準が、理論上の最適です。

実務では、MOQと保管スペースの制約で、選べる幅が限られることが多くあります。その場合は、制約の中で最も小さい単位を選んでください。

MOQの問題は 最低発注数量(MOQ)が資金繰りを決めてしまう の記事で扱っています。

この章の要点

発注費用と在庫の資金コストの釣り合い。制約の中で最小の単位を。

まとめ買いの割引を、資金コストと比べる

「まとめて買えば単価が下がる」——この判断は、計算しないと損得が分かりません。

比べるもの 計算
得られるもの 年間の仕入額 × 割引率
失うもの 増える平均在庫 × 資金のコスト(年率)
加えて考えるもの 保管費用、劣化・陳腐化のリスク
割引は「年間の仕入額」に効き、資金コストは「増えた在庫」に効く

この2つは効く対象が違います。年間の仕入額が大きいほど割引の効果は大きく、在庫が増える幅が大きいほど資金コストが大きくなります。必ず金額で比べてください。

この章の要点

割引は年間の仕入額に、資金コストは増えた在庫に効きます。

数字で見る|3%引きは得か

月1回の発注を、3か月に1回にまとめて3%の割引を受ける場合を計算します。

項目 月1回 3か月に1回(3%引き)
年間の仕入額 2億1,600万円 2億952万円
割引額 — 年648万円
1回の発注額 1,800万円 5,400万円
平均在庫 900万円 2,700万円
増える在庫 — 1,800万円
その資金コスト(年利3%) — 年54万円
年648万円3%割引の効果
年54万円増える在庫の資金コスト
12倍その差

この条件なら、まとめ買いのほうが圧倒的に得です。3%の割引が年648万円に対し、資金コストは年54万円です。

ただし、前提が3つある

①その在庫が確実に売れること ②1,800万円の資金を用意できること ③劣化・陳腐化しないこと。3つとも満たさなければ、この計算は成り立ちません。

とくに②が重要です。得だと分かっていても、5,400万円を一度に払えなければ選べません。これが「資金繰りが、事業の選択肢を狭める」という状態です。

この章の要点

割引3%なら得ですが、資金が用意できることが前提です。

納期が長い場合

状況 影響 対処
リードタイムが60日 発注点が高くなる。在庫が厚くなる —
海外からの輸入 船積み・通関の時間も加わる 分割して発注する
受注生産の部材 — 納期の短縮を交渉する
納期が不安定 安全在庫を厚くせざるを得ない 複数の仕入先を持つ
リードタイムの短縮は、在庫の削減と同じ効果

リードタイムが60日から30日になれば、発注点が30日分下がります。その分だけ在庫を減らせます。仕入先との交渉で短縮できないかを検討してください。

4番目も重要です。納期が守られないと、安全在庫を厚くするしかありません。その分の資金コストは、実質的に仕入先の納期管理の問題を自社が負担している形です。

この章の要点

リードタイムの短縮は在庫の削減と同じ効果があります。

季節性がある場合

状況 資金への影響
繁忙期の前に仕入れが集中 その時期に資金が必要
閑散期は在庫が動かない 資金が固定される
年に1回しか仕入れられない 1年分の資金が要る
季節性は、平準化できない

需要そのものに季節性がある場合、発注を平準化しても在庫が積み上がるだけです。この場合は、資金の側で対応することになります。季節資金の融資が、そのための仕組みです。

季節資金は、使途と返済の時期が明確なため、融資の説明としては通りやすい部類です。「◯月の繁忙期に向けた仕入れ、◯月〜◯月の入金で返済」という形になります。

年に1回しか仕入れられない商材については 年に1回しか仕入れない商材の資金計画 の記事で扱っています。

この章の要点

季節性は平準化できません。季節資金で対応するのが正しい形です。

発注を分散させると、資金の山が平らになる

季節性がない品目については、発注のタイミングを意図的にずらすことで、支払いの山を平らにできます。

状態 問題
複数の品目を同じ月にまとめて発注 その月の支払いが跳ね上がる
発注のタイミングがばらばら 資金繰りが読めない
品目ごとに発注月をずらす 支払いが平準化される
同じ量を買っても、月をずらせば山が下がる

A品目を1月、B品目を2月、C品目を3月——というように、発注のタイミングをずらすだけで、1か月あたりの支払額が下がります。年間の総額は変わりません。

この章の要点

品目ごとに発注月をずらすだけで、支払いの山が下がります。

数字で見る|月別の支払いを平らにする

3つの品目を、まとめて発注する場合とずらす場合で比べます。

月 まとめて発注 ずらして発注
1月 1,800万円 600万円
2月 0円 600万円
3月 0円 600万円
4月 1,800万円 600万円
いちばん多い月 1,800万円 600万円
年間の総額 7,200万円 7,200万円
1,800万円まとめた場合の山
600万円ずらした場合
1,200万円用意すべき資金の差

年間の総額は同じ7,200万円でも、用意すべき資金は1,200万円違います。そして、この改善に費用はかかりません。

資金繰り表で、山を見つける

まず6か月先までの資金繰り表を作り、支払いが跳ね上がる月を特定してください。その月に集中している発注を、前後にずらせないかを検討します。

この章の要点

年間総額は同じでも、用意すべき資金は1,200万円違います。費用はゼロです。

仕入先との調整

相談すること 相手の受け止め
発注の頻度を上げる 送料の負担が増える。難色を示すことも
MOQを下げてもらう 生産ロットの都合で難しいことがある
分割納品にする 受け入れられやすい
リードタイムを短くしてもらう —
納期を確実にしてもらう 安全在庫を減らせる
分割納品は、比較的通りやすい

「発注はまとめるが、納品を3回に分けてもらう」——相手は生産をまとめられるうえ、自社は在庫と支払いを分散できます。双方に利点がある形です。支払いのタイミングも納品ごとにできないか、あわせて相談してください。

3番目が実務的にもっとも現実的です。まとめ買いの割引を受けながら、在庫と資金の山を抑えられる可能性があります。

この章の要点

分割納品が現実的。割引を受けながら山を抑えられます。

運用を続ける仕組み

やること 理由
発注点を一覧表にする 担当者が判断せずに動ける
在庫数を、毎週または毎日見る 発注点を下回ったら発注する
四半期に1回、発注点を見直す 消費量やリードタイムは変わる
リードタイムの実績を記録する 約束と実績のずれを把握する
資金繰り表に、発注予定を反映する 支払いの山が事前に見える
品目を絞って始める 全品目は無理。上位から
全品目でやろうとすると、止まる

品目が数百あれば、すべてに発注点を設定するのは現実的ではありません。在庫金額の上位20品目から始めてください。それだけで、在庫金額の大半がカバーできることが多くあります。

3番目も重要です。消費量が減った品目の発注点をそのままにしていると、在庫が積み上がります。定期的に見直してください。

この章の要点

上位20品目から始める。四半期に1回、見直してください。

チェックリスト

発注の仕組みを整えるために

  • 資金繰り表で、支払いが跳ね上がる月を特定した
  • その月に集中している発注を把握した
  • 在庫金額の上位20品目を特定した
  • 品目ごとの1日あたりの消費量を出した
  • リードタイムを、約束ではなく実績で確認した
  • 安全在庫の水準を決めた(品目によって変える)
  • 発注点を計算し、一覧表にした
  • 1回の発注量を、MOQと保管スペースの制約の中で決めた
  • まとめ買いの割引額と、増える在庫の資金コストを比べた
  • その在庫が確実に売れるか確認した
  • 品目ごとに発注月をずらせないか検討した
  • 分割納品を仕入先に相談した
  • 季節性がある品目は、季節資金で対応する方針にした
  • 四半期に1回、発注点を見直す運用にした
  • 発注予定を、資金繰り表に反映している
この章の要点

1番と3番から。山がある月と上位20品目を特定してください。

よくある質問

Q. 発注点とは何ですか
「在庫がこの数量まで減ったら発注する」という基準です。リードタイム中の消費量+安全在庫で計算します。決めておけば、担当者が判断せずに発注できます。
Q. まとめ買いと、こまめな発注、どちらがよいですか
割引額と、増える在庫の資金コストを比べてください。月1回を3か月に1回にして3%引きなら、割引は年648万円、資金コストは年54万円。この条件ならまとめ買いが得です。
Q. 得だと分かっても、資金が用意できません
それが制約です。5,400万円を一度に払えなければ、割引を受けられません。資金繰りが事業の選択肢を狭めている状態です。分割納品を相談するか、季節資金の融資を検討してください。
Q. 安全在庫は、どう決めますか
厳密な計算より、まず決めることが大事です。「リードタイム中の消費量の30%」のような簡易な基準で十分なことが多くあります。ただし欠品が致命的な品目は厚めに、代替が効く品目は薄めにしてください。
Q. 安全在庫を厚くすると、損ですか
売れている品目なら、多くの場合は得です。安全在庫を72万円増やす資金コストは年2.2万円、欠品1回の粗利損失が15万円なら、年1回でも防げれば得になります。ただし出荷ゼロの品目は別です。
Q. リードタイムは、どう確認しますか
仕入先の言う日数ではなく、過去の発注日と納品日を突き合わせた実績で確認してください。約束より実際が長いことがよくあります。短い日数で計算すると欠品します。
Q. 全品目に発注点を設定すべきですか
現実的ではありません。在庫金額の上位20品目から始めてください。それだけで在庫金額の大半がカバーできることが多くあります。
Q. 発注の月をずらすと、何が変わりますか
年間の総額は変わりませんが、1か月あたりの支払額が下がります。3品目をまとめて発注すれば1,800万円、ずらせば600万円。用意すべき資金が1,200万円違います。費用もかかりません。
Q. 仕入先に何を相談すればよいですか
分割納品がもっとも現実的です。発注はまとめて相手は生産をまとめられ、自社は在庫と支払いを分散できます。支払いも納品ごとにできないか、あわせて相談してください。
Q. 季節性がある場合はどうしますか
需要そのものに季節性があるなら、発注を平準化しても在庫が積み上がるだけです。季節資金の融資で対応するのが正しい形です。使途と返済の時期が明確なので、説明も通りやすくなります。
Q. リードタイムが長いと、どうなりますか
発注点が高くなり、在庫が厚くなります。逆に言えば、リードタイムの短縮は在庫の削減と同じ効果があります。仕入先との交渉で短縮できないか検討してください。
Q. 一度決めた発注点は、そのままでよいですか
四半期に1回は見直してください。消費量やリードタイムは変わります。消費量が減った品目の発注点をそのままにしていると、在庫が積み上がります。
出典