
融資の審査で必ず問われるのが、何に使うのかです。金額や金利の話の前に、ここが決まらないと案件になりません。
理由は単純です。使い道が分かれば、返済の原資も分かるからです。仕入れに使うなら、その商品が売れて現金になったときに返せます。設備に使うなら、その設備が生む利益から返すことになります。使途と返済は、対になっています。
使途が決まれば返済原資も決まります。この2つは対で説明してください。
| 項目 | 運転資金 | 設備資金 |
|---|---|---|
| 使い道 | 仕入れ、人件費、経費 | 機械、車両、店舗、システム |
| 必要な資料 | 資金繰り表、売上・仕入の推移 | 見積書、契約書、図面 |
| 返済期間 | 短期〜中期(1〜7年程度) | 設備の耐用年数に合わせる |
| 返済原資 | 売上の回収 | その設備が生む利益+減価償却費 |
| 審査の焦点 | 金額の妥当性 | 投資の回収可能性 |
| 資金の交付 | 口座への入金 | 業者へ直接振り込まれることがある |
設備資金は証拠で説明できるのが特徴です。見積書があれば金額が確定し、契約書があれば実在が確認できます。そのため、運転資金より説明が容易です。
一方で、設備資金には制約もあります。資金が業者へ直接振り込まれる場合があり、手元に現金として残りません。また、見積もりより安く済んだ分を運転資金に回すことは、原則としてできません。
設備資金は証拠で説明できるぶん通りやすいが、手元には残りません。
「運転資金」と一括りにせず、種類を分けて説明すると通りやすくなります。
| 種類 | 内容 | 返済の考え方 |
|---|---|---|
| 経常運転資金 | 事業を続ける限り、常に必要な資金 | 事業が続く限り必要。借換が前提 |
| 増加運転資金 | 売上の増加にともなって増える分 | 増えた売上の回収から |
| 季節資金 | 繁忙期の仕入れなど、時期的に必要な資金 | その季節の売上回収から。短期 |
| つなぎ資金 | 入金までの期間を埋める資金 | 入金時に一括返済 |
| 決算資金 | 納税、配当など決算期に必要な資金 | 短期 |
| 賞与資金 | 賞与の支払いに充てる資金 | 短期。次の賞与までに返す |
どれに当たるかを明示すると、返済期間と返済原資が自動的に決まります。担当者にとっては、稟議書が書きやすくなります。
「運転資金を3,000万円」ではなく、「増加運転資金として1,250万円、季節資金として1,750万円」と言えば、それだけで説明の半分が終わります。金額の根拠も、返済の時期も、種類から出てきます。
種類を明示すれば、返済期間と返済原資が自動的に決まります。
事業を続けるうえで常に必要になる資金は、次の式で計算されます。金融機関も、この考え方で必要額を検証します。
売上債権(売掛金・受取手形)+ 棚卸資産 - 仕入債務(買掛金・支払手形)
商品を仕入れて(在庫になり)、売って(売掛金になり)、入金されるまでの間、会社は資金を立て替えています。その立て替えの総額です。
| 項目 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 3,000万円 | 売ったが、まだ入金されていない |
| 棚卸資産 | 1,000万円 | 仕入れたが、まだ売れていない |
| 買掛金 | ▲1,500万円 | 仕入れたが、まだ払っていない |
| 経常運転資金 | 2,500万円 | 常に立て替えている金額 |
この2,500万円は、事業を続ける限り、ずっと必要な資金です。返済すれば、その分だけ手元の現金が減ります。だから経常運転資金に対する融資は、返済と借換を繰り返すのが通常の形です。
この計算を自分でしていることを示すだけで、説明の質が変わります。金融機関が使っている物差しと、同じ物差しで話していることになるからです。
売掛金+在庫-買掛金。これが常に立て替えている金額です。自分で計算してください。
前章の会社の売上が、1.5倍に伸びたとします。売掛金・在庫・買掛金も同じ比率で増えるとすると——
| 項目 | 現在 | 売上1.5倍後 | 増加 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 3,000万円 | 4,500万円 | +1,500万円 |
| 棚卸資産 | 1,000万円 | 1,500万円 | +500万円 |
| 買掛金 | ▲1,500万円 | ▲2,250万円 | ▲750万円 |
| 経常運転資金 | 2,500万円 | 3,750万円 | +1,250万円 |
売上が1.5倍になると、1,250万円の資金が追加で必要になります。売上が伸びて利益が出ていても、その利益が現金として手元に残る前に、仕入れと立て替えが先に出ていくためです。
「売上が伸びているので資金が足りない」というのは、金融機関にとってもっとも理解しやすく、前向きな資金需要です。上の表を1枚作って持っていけば、それだけで説明になります。
逆に、この計算をせずに「なんとなく資金が足りない」と説明すると、金額の根拠がない申込になります。成長しているのに融資が通らない会社の多くは、この説明ができていません。
売上1.5倍で1,250万円が必要。この表1枚が、そのまま説明になります。
| 示すもの | 中身 |
|---|---|
| 売上の実績 | 月次で、前年同月比を示す |
| 増加の裏づけ | 受注残、新規契約、取引先の拡大 |
| 回収と支払の条件 | 売掛金の回収サイト、買掛金の支払サイト |
| 計算 | 上の表。増加額を数字で |
| 返済原資 | 増えた売上の回収から。時期を示す |
3番目の回収と支払の条件は、必ず聞かれます。回収が支払より遅ければ遅いほど、立て替える期間が長くなり、必要な資金が増えるからです。
ここで、条件そのものを見直せないかも検討してください。回収を早めるか、支払を遅くすれば、必要な運転資金は減ります。借りる前に、まずそちらを検討したと示せると、説明の説得力が上がります。
回収と支払の条件が必要額を決めます。条件の見直しを先に検討したことも示してください。
| 用意するもの | 役割 |
|---|---|
| 見積書 | 金額の根拠。複数社から取ると、なお良い |
| 契約書・注文書 | 実在の確認 |
| 図面・カタログ・仕様書 | 何を買うのかの具体性 |
| 設置場所の情報 | 賃貸なら契約書、自社なら登記 |
| 投資回収の計算 | その設備がいくら生むのか |
| 減価償却の見込み | 返済原資の計算に使う |
審査の焦点は投資回収です。「この設備を入れると、年間いくらの利益が増えるのか」「それは返済額を上回るのか」——この2点に答えられれば、案件は成立します。
返済期間は、設備の耐用年数に合わせるのが原則です。5年で使えなくなる設備を10年で返す計画は、通りません。設備が無くなった後も返済が続くことになるからです。
設備資金の返済原資は、その設備が生む利益に減価償却費を足したものです。減価償却は現金の支出を伴わない費用なので、その分の現金は手元に残ります。この関係は 返済原資の説明 の記事で詳しく扱っています。
設備資金は見積書と投資回収の計算。返済期間は耐用年数に合わせてください。
申込書の資金使途欄に「運転資金」とだけ書く——これが、審査が進まない典型的な原因です。
| 書き方 | 担当者の反応 |
|---|---|
| 「運転資金」 | 稟議書の欄が埋まらない。追加の質問が発生する |
| 「仕入資金」 | やや前進。ただし金額の根拠が不明 |
| 「増加運転資金1,250万円(内訳:売掛金の増加1,500万円、在庫の増加500万円、買掛金の増加△750万円)」 | そのまま稟議書に転記できる |
担当者の仕事は、この案件が妥当であることを文書で示すことです。使途が曖昧だと、その文書が書けません。書けない案件は、上に上がりません。
稟議の仕組みについては 融資の稟議はどこで止まるか の記事で扱っています。
「運転資金」だけでは稟議書が書けません。内訳と金額まで分解してください。
率直に書きます。「赤字の補填」という使途は、そのままでは通りません。返済原資が説明できないためです。赤字を埋めるための資金を、何から返すのか——ここに答えがないからです。
ただし、言い換えでごまかす話ではありません。金融機関は決算書を見ますから、赤字であることは分かっています。使途の書き方を変えても、実態は伝わります。
| 状況 | 組み立て方 |
|---|---|
| 一時的な赤字で、改善の見込みがある | 改善計画とセットで説明する。いつ黒字化し、いつから返済に回せるか |
| 構造的な赤字 | 借入では解決しない。事業の見直しが先 |
| 先行投資による計画的な赤字 | 投資の内容と、回収の時期を示す |
| 資金繰りが今月もたない | 条件変更の相談を含めて、早く伝える |
問われているのは「赤字かどうか」ではなく、「返済に回せる現金が、いつから生まれるか」です。そこに具体的な答えがあれば、赤字でも案件になります。無ければ、黒字でも通りません。
資金繰りが逼迫している場合は、新規融資より先に条件変更の相談が現実的なこともあります。タイミングの考え方は 条件変更を申し出るタイミング の記事で扱っています。
問われるのは赤字かどうかではなくいつから返せる現金が生まれるかです。
申告した使途と違う目的に使うことを、資金使途違反(流用)といいます。これは金銭消費貸借契約の違反であり、極めて重く扱われます。
| 起きること | 内容 |
|---|---|
| 期限の利益の喪失 | 一括返済を求められうる |
| 以後の取引 | 新規融資が事実上止まる |
| 他行への影響 | 知られれば、他行の判断にも影響する |
| 保証協会付きの場合 | 保証が外れる可能性がある |
典型的なのが、設備資金として借りた資金を、運転資金に回すケースです。設備の購入が中止・延期になったときに起こりがちです。
この場合、黙って使わず、金融機関に相談してください。使途の変更に応じてもらえることもありますし、いったん返済して借り直す形になることもあります。事前に相談すれば手続きの問題、事後に発覚すれば契約違反です。
使途が変わったら先に相談。事後に発覚すれば契約違反として扱われます。
希望額は、感覚ではなく積み上げで出してください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 資金繰り表を6か月先まで作る |
| 2 | 残高が最も低くなる月と、その金額を特定する |
| 3 | 手元に残しておきたい最低額(月商の1か月分など)を決める |
| 4 | 不足額を計算する |
| 5 | そこに、使途ごとの金額を対応させる |
| 6 | 返済が始まった後の資金繰りも作り、返せることを確認する |
6番目を飛ばさないでください。借りた後、返済が始まってから資金繰りが回らなくなる——これが最も多い失敗です。借入は資金繰りを一時的に楽にしますが、返済が始まれば毎月の支出が増えます。
返済開始後の影響は 返済が始まると資金繰りはどう変わるか の記事で扱っています。
必要額は資金繰り表から積み上げる。返済開始後の資金繰りも必ず作ってください。
| 使途 | 適した返済期間 | 理由 |
|---|---|---|
| つなぎ資金 | 入金時に一括 | 入金されれば返せる |
| 季節資金・賞与資金 | 3〜6か月 | その季節の売上回収から |
| 決算資金 | 3〜12か月 | 短期 |
| 増加運転資金 | 3〜5年 | 増えた売上の回収から徐々に |
| 経常運転資金 | 5〜7年、または借換前提 | 事業が続く限り必要 |
| 設備資金 | 耐用年数の範囲内 | 設備が無くなった後に返済を残さない |
期間が合っていないと、それだけで指摘されます。短期の資金需要に長期の借入をすると、返済が終わる前に次の需要が来て、借入が積み上がります。逆に、長期の資金需要に短期の借入をすると、返済負担が重くなりすぎます。
使途と期間は対応させる。ずれていると、それだけで指摘されます。
最後に、実務的な形をまとめます。A4で1枚、次の表を作って持っていってください。
| 使途 | 金額 | 内訳・根拠 | 返済原資 | 希望期間 |
|---|---|---|---|---|
| 増加運転資金 | 1,250万円 | 売掛+1,500/在庫+500/買掛△750 | 増加した売上の回収 | 5年 |
| 季節資金 | 1,000万円 | ◯月の仕入れ(見込み数量×単価) | ◯月〜◯月の入金 | 6か月 |
| 設備資金 | 750万円 | ◯◯機械(見積書添付) | 営業利益+減価償却費 | 7年 |
| 合計 | 3,000万円 | — | — | — |
この1枚があれば、担当者は稟議書の主要な欄をそのまま埋められます。資金使途、必要額の根拠、返済計画——すべてがこの表に入っています。
逆に言えば、この表が作れないなら、まだ申し込む段階にありません。作る過程で、必要額そのものが変わることもあります。
この1枚が作れるかどうかが、申し込む準備ができているかの判定になります。
| 使途 | 説明の型 |
|---|---|
| 増加運転資金 | 「売上が◯%増え、経常運転資金が◯万円から◯万円に増えました。差額の◯万円をお願いします」 |
| 季節資金 | 「◯月の繁忙期に向けて◯万円の仕入れが必要です。◯月〜◯月の入金で返済します」 |
| つなぎ資金 | 「◯月◯日に◯万円の入金が確定しています。それまでの◯日間をお願いします」 |
| 設備資金 | 「◯◯を◯万円で導入します。年間◯万円の利益増を見込み、◯年で回収します」 |
| 決算資金 | 「納税額◯万円の支払いに充てます。◯月までに返済します」 |
共通しているのは、金額・時期・返済原資の3点が1文に入っていることです。この形で説明できれば、追加の質問はほとんど出ません。
1文に金額・時期・返済原資の3点を入れる。これが説明の型です。
14番の内訳表が作れるかで、準備の完了が判定できます。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。