
請求書を1日遅く出しただけで、入金が1か月遅れることがあります。資金繰りの中で、これほど費用対効果の高い改善は多くありません。
取引先の多くは「月末締め・翌月末払い」のように、締め日で区切って支払いをまとめます。締め日を1日でも過ぎれば、その請求は次の締めに回り、支払いは1か月後ろにずれます。
締め日を1日過ぎると、入金は1か月後ろにずれます。
| 請求書が届いた日 | 締め | 支払日 | 納品からの日数 |
|---|---|---|---|
| 8月31日(締め日当日) | 8月末 | 9月30日 | — |
| 9月1日(1日遅れ) | 9月末 | 10月31日 | +31日 |
1日の差が、31日の差になります。納品も作業も同じなのに、入金だけが1か月遅れます。
月の前半に発生した請求は、多少遅れても同じ締めに入ります。危ないのは、月末近くの取引です。ここで1日遅れると、丸ごと1か月ずれます。
締め日は取引先ごとに違います。20日締めの相手に21日に請求書を出せば、そこでも1か月ずれます。「月末に出せばよい」という運用は、締め日が月末の相手にしか通用しません。
危ないのは締め日の直前。取引先ごとに締め日が違います。
月商3,000万円の会社で、500万円の請求が1件、締め日をまたいだ場合です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ずれた請求の金額 | 500万円 |
| ずれた期間 | 1か月 |
| その間、余分に必要な資金 | 500万円 |
| 年に4回起きたら | その都度、同じことが起きる |
500万円を1か月、余計に立て替えることになります。これを借入で埋めるなら、その分の利息がかかります。
この500万円は、請求書を1日早く出すだけで不要になります。手数料も利息も担保も要りません。資金調達の手段を比べる前に、まずここを確認してください。
1件のずれでその金額を1か月立て替えることになります。
個別の1件ではなく、全体の回収サイトを1日短くした場合を計算します。
売掛金の残高は「日商 × 回収サイトの日数」で決まります。サイトが1日短くなれば、売掛金が日商1日分だけ減ります。その分の現金が手元に戻ります。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 日商 | 月商 ÷ 30 |
| 売掛金の残高 | 日商 × 回収サイトの日数 |
| 1日短縮の効果 | 日商1日分 |
1日短縮で日商1日分の資金が手元に戻ります。
月商3,000万円、回収サイト60日の会社で計算します。
| 項目 | 現在 | 5日短縮後 |
|---|---|---|
| 月商 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 日商 | 100万円 | 100万円 |
| 回収サイト | 60日 | 55日 |
| 売掛金の残高 | 6,000万円 | 5,500万円 |
| 浮く資金 | — | 500万円 |
5日短縮すれば、500万円が手元に戻ります。そして、この500万円には返済も手数料もありません。
500万円を年利3%で借りれば、年間15万円の利息です。債権譲渡なら、もっとかかります。請求の運用を見直すほうが、はるかに安く済みます。
必要な運転資金の計算は 資金使途の説明 の記事で扱っています。
月商3,000万円なら、5日で500万円。借りるより安く済みます。
| 工程 | 失われがちな時間 |
|---|---|
| 納品・役務の提供 | — |
| 検収 | 相手の確認待ちで数日〜 |
| 社内での請求データの作成 | 月末にまとめてやると数日 |
| 承認 | 決裁者が不在で止まる |
| 発行・送付 | 郵送なら2〜3日 |
| 相手の受領・計上 | 受付部署が違うと回付に時間がかかる |
この工程のどこかで数日を失うと、締め日をまたぐ危険が出ます。まず自社のどこで時間がかかっているかを特定してください。
失われるのは検収待ち・月末集中・郵送の3か所が多くなります。
| 状態 | 問題 |
|---|---|
| 月末に全件まとめて作る | 作業が集中し、月初にずれ込む |
| 担当者が1人 | 不在だと止まる |
| 承認が月末に集中 | 決裁者のところで滞留する |
月末にまとめるのではなく、納品や検収が終わった時点で請求データを作っておく形にしてください。締め日には送信するだけになります。
特に、月の前半に納品したものは、その時点で請求データまで作れます。月末に残るのは、月末近くの数件だけになります。
月末にまとめない。納品のつど作って、締め日には送るだけにしてください。
| 状態 | 対処 |
|---|---|
| 検収の期限が決まっていない | 契約で「納品後◯日以内に検収」と定める |
| 検収の担当者が分からない | 納品時に確認する |
| 検収の書面がない | 書面またはメールで残す運用にする |
| みなし検収の定めがない | 一定期間内に異議がなければ検収とみなす条項を入れる |
「納品後7日以内に異議の申し出がない場合、検収が完了したものとみなす」——この一文があれば、相手の確認が遅れても請求に進めます。取引基本契約を作るときに入れてください。
検収の書面は、債権を資金化するときにも効きます。確定債権として扱われやすくなるためです。金融機関は売掛金の何を評価しているか の記事で扱っています。
みなし検収の条項で、相手の確認待ちを止められます。
| 方法 | 届くまで | 注意 |
|---|---|---|
| 郵送 | 2〜3日 | 土日祝でさらに延びる |
| FAX | 即日 | 相手が対応しているか |
| メール(PDF) | 即日 | 相手の受付ルールを確認 |
| 請求書システム | 即日 | 相手も使っている必要がある |
| 相手の購買システムへの登録 | 即日 | 大企業で多い形 |
月末に投函して、届くのが翌月2日——これで締め日をまたぎます。メールでの送付に切り替えられないか、取引先に確認してください。
ただし、相手が郵送の原本を求める場合もあります。その場合は「メールで先に送り、原本を後から郵送する」形にできないか相談してください。締めには間に合います。
郵送だけで2〜3日を失います。メール送付を確認してください。
見落とされやすい原因です。請求書を送っても、相手の社内で止まっていることがあります。
| 相手側の事情 | 起きること |
|---|---|
| 送付先が違う | 担当者宛に送ったが、経理に回るのに数日 |
| 受付の締切が早い | 「月末締めだが、請求書は25日まで」という運用 |
| 指定の様式がある | 様式が違うと差し戻される |
| 発注番号の記載が必要 | ないと処理されない |
| システムへの登録が必要 | 郵送では受け付けない |
取引を始めるときに、この1問を聞くだけで防げます。相手の経理部門に直接確認するのが確実です。営業の担当者は知らないことがあります。
2番目はとくに多い運用です。「月末締め」と言われていても、実際の受付締切は25日ということがあります。これを知らないと、毎月1か月ずれ続けます。
取引開始時に「どこに、いつまでに、どう出すか」を確認してください。
すべての基礎になる作業です。取引先ごとに、締め日・支払日・請求書の送付先と締切を一覧にしてください。
| 取引先 | 締め日 | 支払日 | 請求書の締切 | 送付先 | 送付方法 |
|---|---|---|---|---|---|
| A商事 | 月末 | 翌月末 | 月末 | 経理部 | メール |
| B工業 | 20日 | 翌月10日 | 18日 | 購買部 | システム |
| C製作所 | 月末 | 翌々月10日 | 25日 | 本社経理 | 郵送 |
締め日も締切もばらばらなのに、社内では「月末に請求書を出す」という一律の運用になっている——これが最も多い失敗です。表を作れば、どこが危ないかが見えます。
この表は、資金繰り表の精度も上げます。いつ入金されるかが正確に読めるようになります。債権年齢表を作るときにも、支払期日の設定に使えます。
年齢表の作り方は 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。
取引先ごとの一覧を作る。資金繰り表の精度も上がります。
| 記載 | 効果 |
|---|---|
| 支払期日 | 相手の担当者が迷わない。督促の根拠になる |
| 振込手数料の負担 | 端数が残るのを防ぐ |
| 振込先 | — |
| 発注番号・注文番号 | 相手の処理が早くなる |
| 担当者名と連絡先 | 問い合わせが早く解決する |
| 遅延損害金の定め | 契約にあるなら記載する |
書いていない請求書が多くあります。相手の担当者が支払条件を把握していないと、処理が遅れます。「お支払期日:◯年◯月◯日」と明記してください。督促するときの根拠にもなります。
2番目も実務的です。振込手数料を相手が差し引くと、毎回端数が残ります。契約書だけでなく請求書にも記載してください。
支払期日と振込手数料の負担を、請求書に明記してください。
2023年10月から、消費税の仕入税額控除には適格請求書(インボイス)が必要になりました。記載事項が定められています。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 登録番号 | 適格請求書発行事業者の登録番号 |
| 発行者の氏名・名称 | — |
| 取引年月日 | — |
| 取引の内容 | 軽減税率の対象なら、その旨 |
| 税率ごとに区分した合計額 | 税抜または税込 |
| 税率ごとの消費税額 | — |
| 交付を受ける者の氏名・名称 | — |
相手は仕入税額控除を受けるために、要件を満たした請求書が必要です。記載が足りないと、差し戻されて再発行になります。その分だけ入金が遅れます。
制度の詳細と最新の取扱いは、国税庁の資料と税理士に確認してください。この記事は考え方を示すものです。
請求書の様式を見直すときは、あわせて支払期日と振込手数料の記載も加えてください。一度に済みます。
記載漏れは差し戻し=入金の遅れになります。様式を確認してください。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 送付の時間がゼロになる | 郵送の2〜3日が消える |
| 作業が軽くなる | 印刷・封入・投函がなくなる |
| 再発行が早い | 差し戻されても即日 |
| 送付の記録が残る | 「届いていない」という主張に対応できる |
| 費用が下がる | 郵送料・用紙代 |
メールやシステムで請求書をやり取りする場合、電子帳簿保存法の電子取引に関する保存の要件が関わります。保存の方法を決めてから切り替えてください。具体的な要件は税理士に確認してください。
切り替えには、相手の同意が要ります。「請求書を電子でお送りしてよろしいですか」と確認してください。多くの取引先は応じます。
電子化で郵送の2〜3日が消えます。保存の要件は先に確認を。
支払日に現金が振り込まれるとは限りません。手形や電子記録債権(でんさい)で支払われる場合、実際に資金になるのはさらに先です。
| 支払いの形 | 資金になる時期 |
|---|---|
| 現金振込 | 支払日 |
| 手形 | 支払日に手形を受け取り、その満期日に資金化 |
| でんさい | 同上。ただし分割して使える |
手形のサイトが120日なら、支払日からさらに120日後にならないと現金になりません。月末締め翌月末払いで手形サイト120日なら、納品から資金化まで5か月以上です。
| 工程 | 日数 |
|---|---|
| 納品から締め日まで(平均) | 15日 |
| 締め日から支払日まで | 30日 |
| 手形の満期まで | 120日 |
| 合計 | 約165日 |
全体の73%を手形サイトが占めるなら、請求書を数日早めても、資金化の時期はほとんど変わりません。この場合は、手形サイトの短縮を交渉するか、割引で資金化するほうが効果が大きくなります。
なお、約束手形については、利用の廃止に向けた方針が示されており、支払サイトの短縮も求められる方向で制度の運用が変わってきています。具体的な内容と時期は、公正取引委員会・中小企業庁の最新の資料で確認してください。
でんさいの場合は、金額を分割して一部だけ割り引くことができます。紙の手形にはない利点です。手段の全体像は 「債権による調達」とは何を指すか の記事で扱っています。
手形サイトが長いと請求を早める効果が薄れます。そちらの交渉を優先してください。
| 指標 | 計算 | 頻度 |
|---|---|---|
| 売上債権回転日数 | 売掛金 ÷ 日商 | 毎月 |
| 締め日をまたいだ件数 | — | 毎月 |
| 請求書の発行日と締め日の差 | — | 毎月 |
| 差し戻しの件数 | — | 毎月 |
1番目が全体の指標です。売掛金 ÷ 日商で、平均して何日で回収できているかが分かります。これが短くなっていれば、改善が効いています。
回収サイトを取引先に交渉して短くするのは、簡単ではありません。しかし請求の運用を直すだけで、実質的な回収日数は縮みます。相手に何も求めずにできる改善です。
月商3,000万円の会社なら、1日縮めば100万円。この数字を社内で共有してください。請求の作業が「経理の事務」ではなく、資金繰りの改善として位置づけられます。
売掛金 ÷ 日商で測る。相手に何も求めずにできる改善です。
2番の請求書の受付締切が、いちばん見落とされます。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。