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仕入れ資金による調達

「予算がない」で止まった商談を、値引き以外で進める

粗利率60%なら、売価20%の値引きで粗利の33.3%を失います。まず「予算がない」の意味を3つの質問で切り分け、支払い方・範囲・費目・時期で進める7つの案を整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 「予算がない」は、断りの言葉とは限らない
  2. まず、何が「ない」のかを切り分ける
  3. 値引きが、いちばん高くつく
  4. 数字で見る|20%の値引きが失うもの
  5. 案①|支払い方を変える
  6. 数字で見る|月額に直すと
  7. 案②|今期の支出を減らす
  8. 案③|範囲を絞って小さく始める
  9. 案④|予算の費目を変える
  10. 案⑤|時期をずらす
  11. 案⑥|効果を金額で示す
  12. 案⑦|決裁者を変える
  13. 聞くべき3つの質問
  14. それでも値引きするなら、条件を付ける
  15. 競合が安い見積もりを出してきたとき
  16. 自社の値引き基準を、先に決めておく
  17. 提案の組み立て方
  18. チェックリスト
  19. よくある質問

「予算がない」は、断りの言葉とは限らない

商談の終盤で「予算がなくて」と言われたとき、多くの場合それは「今期のこの費目には、この金額を出せる枠がない」という意味です。必要性を否定されたわけではありません。

必要性が否定されたなら、値引きしても通らない

逆に言えば、必要性を認めていない相手に値引きをしても買いません。まず、何が問題なのかを切り分けてください。

予算枠年度ごとに費目別に決められた支出の上限。
資本的支出資産として計上し、耐用年数にわたって費用化する支出。
決裁権限金額に応じて誰が承認するかの社内規程。
この章の要点

「予算がない」の意味を、まず切り分けてください。

まず、何が「ない」のかを切り分ける

本当の意味 有効な対応
今期の枠を使い切った 時期をずらす/来期の稟議
一度に出せる現金がない 支払い方を変える
この費目には枠がない 別の費目で通せないか
この金額だと決裁が上がる 金額を下げるか、決裁者に会う
優先順位が他より低い 効果を金額で示す
必要性を感じていない 値引きしても買わない
断る口実 —
対応がまったく違う

「一度に出せる現金がない」なら分割で解決しますが、「優先順位が低い」なら分割しても通りません。切り分けずに提案すると、外します。

この章の要点

意味によって有効な手が違います。切り分けが先です。

値引きが、いちばん高くつく

値引きの影響 内容
粗利が直接減る 売価の減少がそのまま粗利の減少
次回以降の基準になる 更新時も同じ価格を求められる
他の顧客に伝わる 同業他社に価格が知られる
値引き前提の商談になる 最初から引かれる想定で交渉される
製品の価値を自ら下げる 「その程度の価格だった」
相手の課題は解決していない 現金が出せないなら同じ
最後の行が重要

「一度に120万円を出せない」相手に20%引いても、96万円を一度に出す必要があることは変わりません。問題の性質が違えば、値引きは効きません。

この章の要点

値引きは相手の課題を解決しないことがあります。

数字で見る|20%の値引きが失うもの

提案額120万円、粗利率60%の場合です。

値引き 売価 失う粗利 粗利に対する割合
10% 108万円 12万円 16.7%
20% 96万円 24万円 33.3%
30% 84万円 36万円 50.0%
72万円値引きなしの粗利
33.3%20%引きで失う粗利の割合
50.0%30%引きの場合
売価20%引きは、粗利の3分の1を失う

粗利率60%なら、20%の値引きは粗利の33.3%、30%の値引きは粗利の半分を失います。売価の減少率と、粗利の減少率は違います。

粗利率が低いほど、この影響は大きくなります。粗利率30%なら、20%の値引きで粗利の3分の2が消えます。自社の粗利率で計算してください。

この章の要点

売価20%引き=粗利33.3%減(粗利率60%の場合)。

案①|支払い方を変える

形 相手にとって 自社にとって
分割払い 1回の支出が下がる 入金が分散する
初期費用と月額に分ける 費目を分けられる —
年度をまたぐ支払い 今期の枠を超えない 入金が遅れる
着手金+残金 — —
使った分だけの従量課金 リスクが下がる 収益が読めない
値引きせずに、相手の課題を解決できる

「一度に出せない」が理由なら、支払いを分けるだけで問題は解消します。価格を下げる必要はありません。

ただし、分割にすると自社の入金が遅れます。その影響は 後払いで受注したとき、自社の入金はいつになるか の記事で扱っています。

この章の要点

「一度に出せない」なら、分けるだけで解決します。

数字で見る|月額に直すと

120万円を分割した場合の見え方です。

回数 月々 1日あたり
6回 200,000円 約6,667円
12回 100,000円 約3,333円
24回 50,000円 約1,667円
36回 約33,333円 約1,111円
同じ120万円が、月10万円に見える

12回に分ければ月10万円です。「120万円の投資」と「月10万円のコスト」では、社内での通り方がまったく違います。

相手の社内では、月額のほうが既存の費用と比べやすいという事情もあります。「今払っている◯◯が月15万円なので、それより安い」という説明ができます。

この章の要点

月額にすると、既存の費用と比べやすくなります。

案②|今期の支出を減らす

やり方 効果
導入を期末にずらし、支払いを翌期に 今期の枠を使わない
今期は着手金だけ、残りは翌期 今期の支出を小さくする
契約は今期、請求は翌期 会計処理の確認が必要
年度をまたぐ分割 両期に分散する
会計・税務の処理は、相手側で確認してもらう

いつの費用として計上するかは、契約の内容と役務の提供時期で決まります。「請求を遅らせれば翌期の費用になる」とは限りません。相手の経理部門に確認してもらってください。

期末の予算については 期末予算の枠に収める提案の組み立て方 の記事で扱っています。

この章の要点

計上時期は相手の経理に確認してもらってください。

案③|範囲を絞って小さく始める

やり方 効果
1部署・1拠点から始める 金額が下がる
機能を絞る —
期間を区切る(3か月の試験導入) 決裁が下がる
ユーザー数を絞る —
成果が出たら拡大する前提にする 次の稟議が通りやすい
小さく始めれば、決裁権限も下がる

120万円は部長決裁でも、30万円なら課長決裁で通ることがあります。金額が下がると、承認の階層そのものが変わります。

ただし、小さく始めると効果も小さくなります。「効果が出なかった」と判断されて拡大しないリスクがあるため、何をもって成功とするかを事前に合意してください。

この章の要点

金額が下がると決裁の階層が変わります。

案④|予算の費目を変える

費目 特徴
システム投資・設備投資 枠が別に確保されていることが多い
人件費・採用費 人を採るより安いという説明
外注費・業務委託費 —
研修費・教育費 —
広告宣伝費 —
全社の戦略予算 部門の枠外
「どの予算なら残っていますか」と聞く

相手も、自分の部署の枠しか見ていないことがあります。「他の費目や、全社の枠で使えるものはないか」と聞くだけで、道が開くことがあります。

2番目の説明は強力です。「採用1人分の年間コストと比べてどうか」という比較なら、金額の桁が変わります。

この章の要点

「どの予算なら残っているか」を聞いてください。

案⑤|時期をずらす

やること 内容
次年度の予算に組み込んでもらう 予算編成の時期を確認する
予算編成の時期に合わせて再提案する 多くは期末の2〜4か月前
それまでに稟議の材料を渡しておく —
期中の補正予算を確認する あることがある
使い切れなかった予算を探す 期末に発生する
予算編成の時期を聞いておく

「来期ならいける」なら、予算編成がいつ行われるかを聞いてください。編成が終わってから提案しても、また1年待つことになります。

5番目は逆のパターンです。期末に「使い切らないと来期の枠が減る」という事情で、急に予算が出ることがあります。期末の2か月前に一度声をかける価値があります。

この章の要点

予算編成の時期を聞いて、そこに合わせてください。

案⑥|効果を金額で示す

示し方 例
削減できる費用 月◯時間 × 時給 = 月◯円
増える売上 成約率が◯%上がれば年◯円
回収期間 ◯か月で投資額を回収
避けられる損失 ミス1件あたりの損害 × 件数
他の手段との比較 人を1人採ると年◯円
回収期間が、いちばん通りやすい

「月10万円のコストで、月30万円の効果が出るなら4か月で回収できます」という形にできれば、予算の話ではなく投資の話になります。

ただし、効果の数字は相手と一緒に作ってください。こちらが勝手に置いた前提は、社内で「本当か」と問われて止まります。相手の実データで計算するのが確実です。

この章の要点

効果の数字は、相手の実データで一緒に作ってください。

案⑦|決裁者を変える

状況 やること
担当者の裁量を超えている 上位者との面談を依頼する
部門の予算では足りない 全社の枠を持つ人に会う
費目が別部門の管轄 その部門に紹介してもらう
担当者が稟議を書けない 稟議の材料を作って渡す
担当者が味方なら、稟議を代わりに書く

担当者が必要性を認めているのに進まないなら、社内で説明する材料が足りていないことが多いです。稟議に貼り付けられる形の資料を渡してください。

渡すべきは、課題・解決策・効果の試算・費用・他社比較・導入スケジュールをA4数枚にまとめたものです。担当者の作業を減らすほど、話は進みます。

この章の要点

担当者がそのまま稟議に使える資料を渡してください。

聞くべき3つの質問

質問 分かること
「今期の枠がないということでしょうか、それとも金額そのものでしょうか」 時期の問題か、金額の問題か
「いくらなら通りますか」 実際の枠の大きさ
「支払いを分けられれば、通る余地はありますか」 現金の問題か、予算の問題か
2番目は、値引きの話ではない

「いくらなら通りますか」と聞くと値引き要求に聞こえますが、実際には「枠の大きさ」を聞いています。その金額が分かれば、範囲を絞るか、分割するか、期をまたぐかを選べます。

3番目の答えが「はい」なら、値引きの必要はありません。支払い方の問題なので、価格を下げずに解決できます。

この章の要点

3番目に「はい」なら、値引きは不要です。

それでも値引きするなら、条件を付ける

引き換えに求めるもの 効果
契約期間を長くする 年間の総額は変わらない
一括前払いにしてもらう 資金繰りが改善する
他部署・他拠点への展開 数量で取り返す
導入事例として名前を出す 営業の資産になる
紹介をもらう —
今回限りと明記する 次回の基準にさせない
無条件に引かない

理由なく引いた価格は、「元の価格には根拠がなかった」という意味になります。何かと引き換えにしてください。

最後の行は必ず入れてください。見積書や契約書に「初年度限りの特別価格」と明記しなければ、更新時も同じ価格が前提になります。

この章の要点

引くなら引き換えと、今回限りの明記を。

競合が安い見積もりを出してきたとき

「他社さんは80万円でした」と言われたとき、同じ土俵で値段を下げにいくのが最も不利な対応です。

やること 内容
範囲が同じか確認する 含まれるもの・含まれないものを並べる
導入後にかかる費用を比べる サポート・保守・追加費用
総額で比べる 3年間の総費用に揃える
移行・切り替えのコスト —
失敗した場合の損失 安く買って使えないリスク
支払い方で差をつける 価格ではなく条件で勝つ
3年の総額に揃えると、逆転することがある

初期費用が安くても、月額のサポート費や追加機能の費用を含めると総額が上回ることがあります。比較の単位を揃えてください。

それでも総額で負けているなら、価格ではなく支払い条件で差をつけるという手があります。「総額は高いが、初期の負担は当社のほうが小さい」という形なら、予算の制約がある相手には有効です。

この章の要点

3年の総額に揃えて比べてください。

自社の値引き基準を、先に決めておく

商談の場で判断すると、必ず引きすぎます。基準を事前に決めておいてください。

決めておくこと 例
値引きの上限 粗利率が◯%を下回る価格は出さない
誰が承認するか ◯%までは担当、それ以上は責任者
引き換えに必ず求めるもの 期間・前払い・事例掲載など
値引き以外の代替案の順序 分割・範囲縮小・時期変更
「今回限り」の明記 必須とする
下限の粗利率を決める

「値引き◯%まで」ではなく、「粗利率◯%を下回らない」という基準にしてください。原価が案件ごとに違う場合、値引き率だけでは赤字の案件が生まれます。

また、値引きの実績を記録してください。誰に、いつ、いくら引いたか。同じ顧客に繰り返し引いていないか、特定の担当者だけが引いていないかが分かります。

なお、取引先によって価格に差をつける場合、その理由と程度によっては独占禁止法上の論点になることがあります。合理的な理由を説明できる形にしておいてください。

この章の要点

基準は値引き率ではなく、下限の粗利率で決めてください。

提案の組み立て方

順 やること
1 「予算がない」の意味を3つの質問で切り分ける
2 金額の問題なら、範囲を絞った案を出す
3 現金の問題なら、支払い方を変える案を出す
4 時期の問題なら、予算編成の時期を確認する
5 優先順位の問題なら、効果を金額で示す
6 稟議に使える資料を担当者に渡す
7 値引きは最後。引くなら引き換えを求める
値引きは最後の手段にする

1〜6で解決できる場面が多くあります。最初に値引きを出すと、他の選択肢を検討する機会そのものが失われます。

この章の要点

値引きは最後。先に6つの手を試してください。

チェックリスト

「予算がない」と言われたとき

  • 今期の枠の問題か、金額の問題かを聞いた
  • 「いくらなら通りますか」と聞いた
  • 「支払いを分けられれば通る余地はあるか」と聞いた
  • 必要性そのものが認められているか確認した
  • 自社の粗利率で、値引きの影響を計算した
  • 分割にした場合の月額を出した
  • 年度をまたぐ支払いの可否を確認した
  • 計上時期の扱いを相手の経理に確認してもらった
  • 範囲を絞った小さい案を用意した
  • 金額を下げた場合の決裁者を確認した
  • 「どの予算なら残っているか」を聞いた
  • 予算編成の時期を聞いた
  • 効果を、相手の実データで金額に換算した
  • 回収期間を計算した
  • 稟議にそのまま使える資料を渡した
  • 値引きする場合、引き換えの条件を付けた
  • 競合と比べる場合、3年の総額に揃えた
  • 自社の値引き基準(下限の粗利率)を事前に決めている
  • 「今回限り」と書面に明記した
この章の要点

1〜3の質問で、打つべき手が決まります。

よくある質問

Q. 「予算がない」は断りの言葉ですか
とは限りません。多くは「今期のこの費目には、この金額を出せる枠がない」という意味です。必要性が否定されたわけではないため、切り分けてから対応を決めてください。
Q. どう切り分ければよいですか
3つ聞いてください。「今期の枠の問題か、金額そのものか」「いくらなら通るか」「支払いを分けられれば通る余地はあるか」。3つ目が「はい」なら、値引きは不要です。
Q. 値引きしてはいけないのですか
最後の手段にしてください。粗利率60%なら、売価20%の値引きで粗利の33.3%、30%の値引きで粗利の半分を失います。しかも「一度に出せない」が理由なら、値引きしても相手の課題は解決しません。
Q. 値引きの影響はどれくらいですか
粗利率で変わります。粗利率60%・提案額120万円なら、20%引きで失う粗利は24万円で、粗利72万円の33.3%です。粗利率30%なら、20%の値引きで粗利の3分の2が消えます。
Q. 分割にすると、何が変わりますか
120万円を12回に分ければ月10万円です。「120万円の投資」と「月10万円のコスト」では社内での通り方が違います。また月額なら、既存の費用と比べて説明できます。
Q. 支払いを翌期にすれば、今期の費用にならないのですか
そうとは限りません。いつの費用として計上するかは、契約の内容と役務の提供時期で決まります。「請求を遅らせれば翌期の費用になる」と安易に言わず、相手の経理部門に確認してもらってください。
Q. 小さく始めるのは有効ですか
有効です。金額が下がると決裁の階層が変わります。120万円は部長決裁でも、30万円なら課長決裁で通ることがあります。ただし効果も小さくなるため、何をもって成功とするかを事前に合意してください。
Q. 予算の費目は変えられますか
「どの予算なら残っていますか」と聞いてみてください。相手も自分の部署の枠しか見ていないことがあります。システム投資、人件費・採用費、外注費、全社の戦略予算など、別の枠が使えることがあります。
Q. 効果を金額で示すには
回収期間の形がいちばん通りやすくなります。「月10万円のコストで月30万円の効果なら4か月で回収」という形です。ただし効果の数字は相手の実データで一緒に作ってください。こちらが置いた前提は社内で止まります。
Q. 担当者は前向きなのに進みません
社内で説明する材料が足りていないことが多いです。課題・解決策・効果の試算・費用・他社比較・導入スケジュールをまとめ、稟議にそのまま貼り付けられる形で渡してください。
Q. 「いくらなら通りますか」と聞くと、値引きを求められませんか
聞いているのは枠の大きさです。その金額が分かれば、範囲を絞る・分割する・期をまたぐという選択ができます。必ずしも価格を下げる話ではありません。
Q. どうしても値引きする場合は
引き換えを求めてください。契約期間の長期化、一括前払い、他拠点への展開、導入事例としての掲載、紹介など。そして「初年度限りの特別価格」と書面に明記してください。明記しないと更新時も同じ価格が前提になります。
Q. 競合が安い見積もりを出してきました
同じ土俵で下げにいかないでください。まず範囲が同じかを確認し、導入後のサポート費や追加費用を含めた3年の総額に揃えて比べます。それでも負けているなら、価格ではなく支払い条件で差をつける手があります。
Q. 値引きの基準はどう決めればよいですか
「値引き◯%まで」ではなく「粗利率◯%を下回らない」という基準にしてください。原価が案件ごとに違う場合、値引き率だけでは赤字の案件が生まれます。あわせて、誰が承認するかと、引き換えに必ず求めるものも決めておきます。
出典