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仕入れ資金による調達粗利率60%なら、売価20%の値引きで粗利の33.3%を失います。まず「予算がない」の意味を3つの質問で切り分け、支払い方・範囲・費目・時期で進める7つの案を整理します。

商談の終盤で「予算がなくて」と言われたとき、多くの場合それは「今期のこの費目には、この金額を出せる枠がない」という意味です。必要性を否定されたわけではありません。
逆に言えば、必要性を認めていない相手に値引きをしても買いません。まず、何が問題なのかを切り分けてください。
「予算がない」の意味を、まず切り分けてください。
| 本当の意味 | 有効な対応 |
|---|---|
| 今期の枠を使い切った | 時期をずらす/来期の稟議 |
| 一度に出せる現金がない | 支払い方を変える |
| この費目には枠がない | 別の費目で通せないか |
| この金額だと決裁が上がる | 金額を下げるか、決裁者に会う |
| 優先順位が他より低い | 効果を金額で示す |
| 必要性を感じていない | 値引きしても買わない |
| 断る口実 | — |
「一度に出せる現金がない」なら分割で解決しますが、「優先順位が低い」なら分割しても通りません。切り分けずに提案すると、外します。
意味によって有効な手が違います。切り分けが先です。
| 値引きの影響 | 内容 |
|---|---|
| 粗利が直接減る | 売価の減少がそのまま粗利の減少 |
| 次回以降の基準になる | 更新時も同じ価格を求められる |
| 他の顧客に伝わる | 同業他社に価格が知られる |
| 値引き前提の商談になる | 最初から引かれる想定で交渉される |
| 製品の価値を自ら下げる | 「その程度の価格だった」 |
| 相手の課題は解決していない | 現金が出せないなら同じ |
「一度に120万円を出せない」相手に20%引いても、96万円を一度に出す必要があることは変わりません。問題の性質が違えば、値引きは効きません。
値引きは相手の課題を解決しないことがあります。
提案額120万円、粗利率60%の場合です。
| 値引き | 売価 | 失う粗利 | 粗利に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 10% | 108万円 | 12万円 | 16.7% |
| 20% | 96万円 | 24万円 | 33.3% |
| 30% | 84万円 | 36万円 | 50.0% |
粗利率60%なら、20%の値引きは粗利の33.3%、30%の値引きは粗利の半分を失います。売価の減少率と、粗利の減少率は違います。
粗利率が低いほど、この影響は大きくなります。粗利率30%なら、20%の値引きで粗利の3分の2が消えます。自社の粗利率で計算してください。
売価20%引き=粗利33.3%減(粗利率60%の場合)。
| 形 | 相手にとって | 自社にとって |
|---|---|---|
| 分割払い | 1回の支出が下がる | 入金が分散する |
| 初期費用と月額に分ける | 費目を分けられる | — |
| 年度をまたぐ支払い | 今期の枠を超えない | 入金が遅れる |
| 着手金+残金 | — | — |
| 使った分だけの従量課金 | リスクが下がる | 収益が読めない |
「一度に出せない」が理由なら、支払いを分けるだけで問題は解消します。価格を下げる必要はありません。
ただし、分割にすると自社の入金が遅れます。その影響は 後払いで受注したとき、自社の入金はいつになるか の記事で扱っています。
「一度に出せない」なら、分けるだけで解決します。
120万円を分割した場合の見え方です。
| 回数 | 月々 | 1日あたり |
|---|---|---|
| 6回 | 200,000円 | 約6,667円 |
| 12回 | 100,000円 | 約3,333円 |
| 24回 | 50,000円 | 約1,667円 |
| 36回 | 約33,333円 | 約1,111円 |
12回に分ければ月10万円です。「120万円の投資」と「月10万円のコスト」では、社内での通り方がまったく違います。
相手の社内では、月額のほうが既存の費用と比べやすいという事情もあります。「今払っている◯◯が月15万円なので、それより安い」という説明ができます。
月額にすると、既存の費用と比べやすくなります。
| やり方 | 効果 |
|---|---|
| 導入を期末にずらし、支払いを翌期に | 今期の枠を使わない |
| 今期は着手金だけ、残りは翌期 | 今期の支出を小さくする |
| 契約は今期、請求は翌期 | 会計処理の確認が必要 |
| 年度をまたぐ分割 | 両期に分散する |
いつの費用として計上するかは、契約の内容と役務の提供時期で決まります。「請求を遅らせれば翌期の費用になる」とは限りません。相手の経理部門に確認してもらってください。
期末の予算については 期末予算の枠に収める提案の組み立て方 の記事で扱っています。
計上時期は相手の経理に確認してもらってください。
| やり方 | 効果 |
|---|---|
| 1部署・1拠点から始める | 金額が下がる |
| 機能を絞る | — |
| 期間を区切る(3か月の試験導入) | 決裁が下がる |
| ユーザー数を絞る | — |
| 成果が出たら拡大する前提にする | 次の稟議が通りやすい |
120万円は部長決裁でも、30万円なら課長決裁で通ることがあります。金額が下がると、承認の階層そのものが変わります。
ただし、小さく始めると効果も小さくなります。「効果が出なかった」と判断されて拡大しないリスクがあるため、何をもって成功とするかを事前に合意してください。
金額が下がると決裁の階層が変わります。
| 費目 | 特徴 |
|---|---|
| システム投資・設備投資 | 枠が別に確保されていることが多い |
| 人件費・採用費 | 人を採るより安いという説明 |
| 外注費・業務委託費 | — |
| 研修費・教育費 | — |
| 広告宣伝費 | — |
| 全社の戦略予算 | 部門の枠外 |
相手も、自分の部署の枠しか見ていないことがあります。「他の費目や、全社の枠で使えるものはないか」と聞くだけで、道が開くことがあります。
2番目の説明は強力です。「採用1人分の年間コストと比べてどうか」という比較なら、金額の桁が変わります。
「どの予算なら残っているか」を聞いてください。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 次年度の予算に組み込んでもらう | 予算編成の時期を確認する |
| 予算編成の時期に合わせて再提案する | 多くは期末の2〜4か月前 |
| それまでに稟議の材料を渡しておく | — |
| 期中の補正予算を確認する | あることがある |
| 使い切れなかった予算を探す | 期末に発生する |
「来期ならいける」なら、予算編成がいつ行われるかを聞いてください。編成が終わってから提案しても、また1年待つことになります。
5番目は逆のパターンです。期末に「使い切らないと来期の枠が減る」という事情で、急に予算が出ることがあります。期末の2か月前に一度声をかける価値があります。
予算編成の時期を聞いて、そこに合わせてください。
| 示し方 | 例 |
|---|---|
| 削減できる費用 | 月◯時間 × 時給 = 月◯円 |
| 増える売上 | 成約率が◯%上がれば年◯円 |
| 回収期間 | ◯か月で投資額を回収 |
| 避けられる損失 | ミス1件あたりの損害 × 件数 |
| 他の手段との比較 | 人を1人採ると年◯円 |
「月10万円のコストで、月30万円の効果が出るなら4か月で回収できます」という形にできれば、予算の話ではなく投資の話になります。
ただし、効果の数字は相手と一緒に作ってください。こちらが勝手に置いた前提は、社内で「本当か」と問われて止まります。相手の実データで計算するのが確実です。
効果の数字は、相手の実データで一緒に作ってください。
| 状況 | やること |
|---|---|
| 担当者の裁量を超えている | 上位者との面談を依頼する |
| 部門の予算では足りない | 全社の枠を持つ人に会う |
| 費目が別部門の管轄 | その部門に紹介してもらう |
| 担当者が稟議を書けない | 稟議の材料を作って渡す |
担当者が必要性を認めているのに進まないなら、社内で説明する材料が足りていないことが多いです。稟議に貼り付けられる形の資料を渡してください。
渡すべきは、課題・解決策・効果の試算・費用・他社比較・導入スケジュールをA4数枚にまとめたものです。担当者の作業を減らすほど、話は進みます。
担当者がそのまま稟議に使える資料を渡してください。
| 質問 | 分かること |
|---|---|
| 「今期の枠がないということでしょうか、それとも金額そのものでしょうか」 | 時期の問題か、金額の問題か |
| 「いくらなら通りますか」 | 実際の枠の大きさ |
| 「支払いを分けられれば、通る余地はありますか」 | 現金の問題か、予算の問題か |
「いくらなら通りますか」と聞くと値引き要求に聞こえますが、実際には「枠の大きさ」を聞いています。その金額が分かれば、範囲を絞るか、分割するか、期をまたぐかを選べます。
3番目の答えが「はい」なら、値引きの必要はありません。支払い方の問題なので、価格を下げずに解決できます。
3番目に「はい」なら、値引きは不要です。
| 引き換えに求めるもの | 効果 |
|---|---|
| 契約期間を長くする | 年間の総額は変わらない |
| 一括前払いにしてもらう | 資金繰りが改善する |
| 他部署・他拠点への展開 | 数量で取り返す |
| 導入事例として名前を出す | 営業の資産になる |
| 紹介をもらう | — |
| 今回限りと明記する | 次回の基準にさせない |
理由なく引いた価格は、「元の価格には根拠がなかった」という意味になります。何かと引き換えにしてください。
最後の行は必ず入れてください。見積書や契約書に「初年度限りの特別価格」と明記しなければ、更新時も同じ価格が前提になります。
引くなら引き換えと、今回限りの明記を。
「他社さんは80万円でした」と言われたとき、同じ土俵で値段を下げにいくのが最も不利な対応です。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 範囲が同じか確認する | 含まれるもの・含まれないものを並べる |
| 導入後にかかる費用を比べる | サポート・保守・追加費用 |
| 総額で比べる | 3年間の総費用に揃える |
| 移行・切り替えのコスト | — |
| 失敗した場合の損失 | 安く買って使えないリスク |
| 支払い方で差をつける | 価格ではなく条件で勝つ |
初期費用が安くても、月額のサポート費や追加機能の費用を含めると総額が上回ることがあります。比較の単位を揃えてください。
それでも総額で負けているなら、価格ではなく支払い条件で差をつけるという手があります。「総額は高いが、初期の負担は当社のほうが小さい」という形なら、予算の制約がある相手には有効です。
3年の総額に揃えて比べてください。
商談の場で判断すると、必ず引きすぎます。基準を事前に決めておいてください。
| 決めておくこと | 例 |
|---|---|
| 値引きの上限 | 粗利率が◯%を下回る価格は出さない |
| 誰が承認するか | ◯%までは担当、それ以上は責任者 |
| 引き換えに必ず求めるもの | 期間・前払い・事例掲載など |
| 値引き以外の代替案の順序 | 分割・範囲縮小・時期変更 |
| 「今回限り」の明記 | 必須とする |
「値引き◯%まで」ではなく、「粗利率◯%を下回らない」という基準にしてください。原価が案件ごとに違う場合、値引き率だけでは赤字の案件が生まれます。
また、値引きの実績を記録してください。誰に、いつ、いくら引いたか。同じ顧客に繰り返し引いていないか、特定の担当者だけが引いていないかが分かります。
なお、取引先によって価格に差をつける場合、その理由と程度によっては独占禁止法上の論点になることがあります。合理的な理由を説明できる形にしておいてください。
基準は値引き率ではなく、下限の粗利率で決めてください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 「予算がない」の意味を3つの質問で切り分ける |
| 2 | 金額の問題なら、範囲を絞った案を出す |
| 3 | 現金の問題なら、支払い方を変える案を出す |
| 4 | 時期の問題なら、予算編成の時期を確認する |
| 5 | 優先順位の問題なら、効果を金額で示す |
| 6 | 稟議に使える資料を担当者に渡す |
| 7 | 値引きは最後。引くなら引き換えを求める |
1〜6で解決できる場面が多くあります。最初に値引きを出すと、他の選択肢を検討する機会そのものが失われます。
値引きは最後。先に6つの手を試してください。
1〜3の質問で、打つべき手が決まります。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。