
融資の可否は、担当者が決めるものではありません。担当者が案件を文書にまとめ、上位者の承認を順に得ていく——この手続きが稟議です。
この構造を理解していないと、交渉の相手を間違えます。担当者は決定権者ではなく、案件を組み立てて上に通す役割です。したがって、こちらがやるべきことは「担当者を説得すること」ではなく、「担当者が上に通せる材料を渡すこと」になります。
担当者は決定権者ではありません。上に通せる材料を渡すのがこちらの仕事です。
| 段階 | 誰が | 見ていること |
|---|---|---|
| 1 | 担当者 | 案件として成立するか。必要な資料がそろうか |
| 2 | 融資担当の役席(係長・課長) | 稟議書の内容に穴がないか |
| 3 | 次長・副支店長 | 支店の方針と整合するか |
| 4 | 支店長 | 支店として引き受けるか。権限内なら、ここで決まる |
| 5 | 本部・審査部 | 権限を超える案件。全行の基準で判断する |
| 6 | (保証付きの場合)保証協会 | 保証を引き受けるか。並行して審査される |
金融機関や案件によって細部は違いますが、おおむねこの順序で進みます。各段階で止まる可能性があり、止まった理由によって次の打ち手が変わります。
「難しいです」という答えだけでは、次に何をすればよいか分かりません。支店内で止まったのか、本部で否決されたのか、保証協会で止まったのか。これが分かると、打ち手が具体的になります。
止まった段階を知ること。それによって次の打ち手が変わります。
多くの金融機関で、支店長が決裁できる金額には上限が定められています。金額は金融機関や支店の規模によって異なり、公表されるものではありません。
| 金額 | 決まる場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 支店長の権限内 | 支店 | 速い。支店の判断で完結する |
| 権限を超える | 本部・審査部 | 時間がかかる。全行の基準で判断される |
ここから、実務上の示唆が出ます。支店長の権限内に収まる金額であれば、支店長との関係が直接効きます。逆に、権限を超える金額では、支店長が賛成していても本部で否決されることがあります。
権限の金額を直接聞くことはできませんが、「これは支店でご判断いただける規模でしょうか」という聞き方であれば、多くの担当者は答えます。この一言で、交渉の相手が変わります。
支店長との関係の作り方は メインバンクとの付き合い方 の記事で扱っています。
支店の権限内かどうかを確認してください。それによって説得すべき相手が変わります。
| 止まる場所 | 典型的な理由 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 担当者が書けない | 材料が足りない。使途や返済原資が説明できない | 資料を追加する |
| 支店内で差し戻し | 条件が支店の方針に合わない。保全が足りない | 金額・期間・保全を組み替える |
| 本部で否決 | 全行の基準に合わない。業種・区分の問題 | 金額を下げて支店の権限内に収める |
| 保証協会で止まる | 枠がない。要件を満たさない。過去の履歴 | プロパーで検討する/制度を変える |
この4つのどこで止まったかによって、やるべきことがまったく違います。資料を足せば通るものもあれば、資料をいくら足しても通らないものもあります。
止まる場所は4つ。資料で解決するものと条件の組み替えが要るものに分かれます。
もっとも多く、そしてもっとも解決しやすいのがこれです。稟議書に書くべき欄が埋まらない状態です。
| 埋まらない欄 | 必要な材料 |
|---|---|
| 資金使途 | 何にいくら使うのかの内訳 |
| 必要額の根拠 | 資金繰り表。なぜその金額なのか |
| 返済原資 | 何から返すのか。時期と金額 |
| 直近の業況 | 月次試算表。前期からの変化 |
| 今後の見通し | 受注残、契約状況 |
| 他行取引 | 各行の残高・条件・期日 |
経験の浅い担当者は、何が足りないかを整理して伝えられないことがあります。こちらから「稟議で必要な資料は何ですか」と聞いてください。足りないものを先に埋めるほうが、往復が減ります。
この段階での停滞は、時間だけが過ぎて、可否がはっきりしないのが厄介です。「検討中です」が続くときは、資料が足りていない可能性を疑ってください。
「検討中」が続くときは、材料不足を疑う。必要な資料を自分から聞いてください。
稟議書は書けたが、支店内の承認が得られない場合です。理由は、案件そのものより条件の組み方にあることが多くあります。
| 差し戻しの理由 | 組み替えの方向 |
|---|---|
| 金額が大きい | 必要額を分割する。一部を別の調達で賄う |
| 期間が長い | 短期にして、実績を作ってから延ばす |
| 保全が足りない | 保証協会付きに切り替える |
| 使途が支店の方針に合わない | 使途を分解し、通る部分だけ先に実行する |
| 既存の借入が多い | 借換とセットにして、総額を増やさない形にする |
ここで有効なのが、「どういう条件なら通りますか」と聞くことです。否決を受け入れるのではなく、通る形を一緒に探す姿勢を示すと、担当者も動きやすくなります。
とくに借換とセットにするのは実務的です。既存の借入を借り換えて新規分を上乗せすれば、金融機関の残高は大きく増えません。稟議としては通しやすくなります。
聞くべきは「どういう条件なら通るか」。借換とセットにする形が有効です。
支店長は賛成しているのに、本部で否決されるパターンです。支店の意向とは別の基準で判断されているため、支店との関係では動かせません。
| 本部が見ていること | 内容 |
|---|---|
| 全行の与信方針 | その業種への融資を絞る時期かどうか |
| 債務者区分 | 区分に照らして、金額が過大でないか |
| 与信の総額 | 1社への与信が、基準を超えていないか |
| 財務指標 | 債務償還年数、自己資本比率などが基準内か |
| 過去の履歴 | 延滞、条件変更の有無 |
本部での否決に対する最も現実的な打ち手は、金額を下げて、支店長の権限内に収めることです。本部の審査を経由しない形にできれば、支店の判断で決まります。
3,000万円で否決された案件が、1,500万円なら支店決裁で通る——という形はよくあります。必要額に届かなくても、実行できるほうが前に進みます。残りは他行や別の手段で埋める、という組み立てに切り替えてください。
債務者区分が理由である場合は、資料を足しても変わりません。区分の仕組みは 債務者区分 の記事で扱っています。
本部否決には金額を下げて支店権限内に収めるのが最も現実的な打ち手です。
保証協会付きの場合、金融機関の審査とは別に、保証協会の審査があります。金融機関がよいと言っても、協会が保証しなければ実行されません。
| 協会側の理由 | 打ち手 |
|---|---|
| 保証の限度額を使い切っている | プロパーで検討する。別枠の制度がないか確認する |
| 制度の要件を満たさない | 別の制度に切り替える |
| 過去に代位弁済がある | 求償権が残る間は、原則として難しい |
| 業況が基準に満たない | 改善を待つ。金額を下げる |
| 税金の滞納がある | 納税証明が要件。完納または分納の合意が必要 |
見落とされやすいのが税金・社会保険料の滞納です。これがあると、金額や業況にかかわらず止まります。融資を申し込む前に、納税の状況を必ず確認してください。
また、保証協会の審査があるため、実行までの日数は長くなります。プロパーより1〜2週間から数週間は余計にかかると見てください。
協会での停止は税金の滞納が典型。申込前に納税の状況を確認してください。
正確な様式は金融機関ごとに違いますが、共通して書かれる項目は、おおむね次のとおりです。
| 項目 | こちらが用意できる材料 |
|---|---|
| 企業概要・事業内容 | 会社案内、事業の説明資料 |
| 財務状況 | 決算書3期分、勘定科目内訳明細書 |
| 直近の業況 | 月次試算表 |
| 資金使途 | 使途の内訳表 |
| 必要額の根拠 | 資金繰り表 |
| 返済計画・返済原資 | 返済原資の説明資料 |
| 保全の状況 | 担保・保証の有無 |
| 他行取引の状況 | 借入一覧(残高・金利・期日) |
| 所見 | 担当者が書く。ここは代われない |
太字の3つが、こちらが渡さなければ埋まらない欄です。決算書は税理士から出ますが、月次試算表・使途の内訳・資金繰り表は、意識して作らなければ存在しません。
月次の情報提供については 試算表を毎月出す意味、使途の書き方は 資金使途の説明 の記事で扱っています。
試算表・使途の内訳・資金繰り表は、渡さなければ存在しません。ここが勝負です。
面談での担当者の反応には、稟議の段階が表れます。
| 言われ方 | 読み取れること | 次の一手 |
|---|---|---|
| 「必要な資料を教えてください」と言うと具体的に返る | 案件として進める意思がある | 速やかに用意する |
| 「持ち帰って検討します」 | その場では判断材料が足りない | 何が足りないかを聞く |
| 「上と相談してみます」 | 支店内で確認が要る規模 | 支店長への説明機会を求める |
| 「本部に上げてみます」 | 支店の権限を超えている | 金額を下げる選択肢を示す |
| 「保証協会に照会してみます」 | プロパーでは難しい | 枠の状況を確認する |
| 「今期の着地を見てから」 | 現状の数字では上げにくい | 着地見込みを資料で示す |
| 期日を示さず「検討中」が続く | 材料が足りず、止まっている可能性 | 直接確認する |
最後のパターンがいちばん時間を無駄にします。「いつ頃、可否のご連絡をいただけますか」と期日を確認してください。期日が出ないなら、案件として動いていない可能性があります。
期日を聞く。期日が出ないなら、案件は動いていません。
ここまで見てきたとおり、金額を下げることには複数の効果があります。
| 効果 | 中身 |
|---|---|
| 決裁権限が下がる | 支店長の権限内に収まれば、本部の審査を経由しない |
| 保全の必要性が下がる | 担保や保証を求められにくくなる |
| 債務償還年数が短くなる | 財務指標が基準内に収まりやすい |
| 実行が速い | 審査の段階が減る分、日数が短くなる |
もちろん、必要額に足りなければ意味がありません。しかし「全額を1行から」という前提を外せば、選択肢が増えます。2行に分けて申し込む、一部を別の手段で賄う、といった組み立てです。
複数行への配分の考え方は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。
「全額を1行から」という前提を外すと、通る形が見つかります。
資料は、多ければよいものではありません。稟議書の欄に対応する形で出すのが効果的です。
| やること | 理由 |
|---|---|
| A4で1枚の要約を付ける | 担当者が所見を書くときの下敷きになる |
| 数字は表にする | そのまま稟議書に転記できる |
| 使途は項目と金額で示す | 「運転資金」だけでは欄が埋まらない |
| 返済原資を、月単位で示す | 返済計画の欄に直接使える |
| 悪い材料も先に出す | 後から出ると、稟議をやり直すことになる |
| データで渡す | 転記の手間が減る |
稟議が進んだ後に新しい事実が出ると、それまでの手続きをやり直すことになります。担当者にとって最も避けたい事態であり、次の案件から扱いが慎重になります。不利な事実こそ、最初に伝えてください。
そのまま転記できる形で渡す。不利な事実は最初に伝えてください。
| 断られた理由 | 再申込の目安 |
|---|---|
| 資料が足りなかった | すぐ。資料を整えて再提出 |
| 金額が大きすぎた | すぐ。金額を下げて再提案 |
| 今期の数字が理由 | 決算確定後 |
| 債務者区分が理由 | 区分が変わるまで。1期以上 |
| 本部の業種方針が理由 | 方針が変わるまで。読めない |
| 税金の滞納 | 完納または分納の合意後 |
重要なのは、断られた理由を確認しておくことです。理由が分からないまま何度も申し込むと、案件として扱ってもらえなくなります。
また、1行で断られても、他行では判断が違うことがあります。金融検査マニュアルの廃止後、金融機関ごとの判断の幅は広がっています。断られた理由が業種方針や本部の基準なら、他行に当たる価値があります。
断られた理由の聞き方は 増額を断られた理由 の記事で扱っています。
理由によって、すぐ再挑戦できるものと待つしかないものに分かれます。
| 形 | 実行までの目安 | 要因 |
|---|---|---|
| プロパー・支店決裁 | 2〜3週間 | 段階が少ない |
| プロパー・本部決裁 | 3〜5週間 | 本部の審査が入る |
| 保証協会付き | 1〜2か月 | 協会の審査が並行して入る |
| 制度融資(自治体) | 1〜2か月以上 | 自治体の手続きが加わる |
| 資料が不足している場合 | 上記+往復の分だけ延びる | — |
あくまで目安であり、金融機関・時期・案件によって変わります。決算期や年度末は、案件が集中して長くなる傾向があります。
資金が必要な日から逆算して動いてください。詳しくは 融資実行までの日数 の記事で扱っています。
保証協会付きは1〜2か月。必要日から逆算して動いてください。
3,000万円が必要な会社が、どう申し込むかで結果が変わります。3つの組み立てを比べます。
| 組み立て | 決裁の場所 | 実行までの目安 | リスク |
|---|---|---|---|
| A 1行に3,000万円 | 本部(支店権限を超える) | 3〜5週間 | 否決ならゼロ |
| B 1行に1,500万円+保証協会付き1,500万円 | 支店+協会 | プロパー3週間/協会1〜2か月 | 片方が遅れる |
| C 2行に1,500万円ずつ | 各支店 | 3週間前後 | 説明の手間が2倍 |
Aは、通れば一度で終わります。しかし否決された場合、5週間かけてゼロという結果になります。そこから組み替えて再申込すれば、さらに1か月です。
判断の軸は、いつまでに資金が必要かです。3か月先ならAを試す余裕がありますが、1か月後に必要ならAは選べません。否決されたときに手が残らないからです。
「通る確率が高い順」ではなく、「通らなかったときに、まだ間に合うか」で組み立てを選んでください。資金調達では、否決そのものより、否決に気づくのが遅いことのほうが致命的になります。
なお、Cのように複数行に分ける場合は、資金使途を分けて説明してください。同じ使途で両行に満額を申し込むと、後で説明が崩れます。配分の考え方は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。
選ぶ軸は否決されたときに間に合うか。残り時間が短いほど、分けるほうが安全です。
2〜4番が稟議書の欄を埋める材料。ここがないと、案件が動きません。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。