
増額を申し込んで断られたとき、返ってくる答えは「総合的に判断した結果」であることが多くあります。これでは、次に何をすればよいか分かりません。
しかし、断られる理由は、実は限られた数のパターンに収まります。そして、理由によって次の打ち手はまったく違います。資料を足せば通るものもあれば、資料をいくら足しても通らないものもあります。
理由が分からないまま何度も申し込むと、案件として扱ってもらえなくなります。まず何が原因だったのかを、可能な範囲で特定してください。
理由は限られたパターンに収まります。特定しないと次の一手が決まりません。
| 項目 | 言えるか | 理由 |
|---|---|---|
| 債務者区分そのもの | 言えない | 内部の査定結果 |
| 審査の基準・スコアの内容 | 言えない | 審査の手法にあたる |
| 本部の与信方針 | 言いにくい | 内部の方針 |
| 財務上の懸念点 | 言える | 決算書から読み取れる客観的な事実 |
| 資料の不足 | 言える | 改善の依頼として |
| 金額の妥当性 | 言える | — |
| 保全の必要性 | 言える | 条件の提示として |
つまり、「なぜ貸せないか」は言えなくても、「どこが弱いか」は言えるという構造です。聞き方をここに合わせる必要があります。
なお、経営者保証については、2023年4月から金融機関に個別具体的な説明が求められています。保証を求める理由と、解除の可能性を高める方法について、説明を求める根拠があります。詳しくは 経営者保証ガイドライン の記事で扱っています。
「なぜ貸せないか」は言えなくても「どこが弱いか」は言えます。
| — | 理由 | 資料で解決するか | 時間 |
|---|---|---|---|
| ① | 金額が過大 | 金額を下げれば解決 | すぐ |
| ② | 債務者区分が下がっている | しない | 1期以上 |
| ③ | 本部・支店の与信方針 | しない | 読めない |
| ④ | 保全が足りない | 条件の組み替えで解決しうる | すぐ |
| ⑤ | 資料・説明が足りない | する | すぐ |
①④⑤はすぐに手が打てます。②③は待つか、他行に当たるかになります。この切り分けができれば、無駄な時間を使わずに済みます。
①④⑤はすぐ打てる手がある。②③は待つか、他行かです。
もっとも多く、もっとも解決しやすい理由です。
| 何が過大なのか | 判定 |
|---|---|
| 債務償還年数が長くなりすぎる | 有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー。実務では10年が目安 |
| その金融機関の与信枠を超える | 1社への与信の上限が内部で管理されている |
| 支店長の決裁権限を超える | 本部の審査になり、基準が厳しくなる |
| 資金使途に対して大きい | 使途から積み上げた金額と合っていない |
3,000万円で否決された案件が、1,500万円なら支店決裁で通る——という形はよくあります。必要額に届かなくても、実行できるほうが前に進みます。残りは他行や別の手段で埋める組み立てに切り替えてください。
金額を下げるほかに、期間を延ばすという手もあります。期間が長ければ毎月の返済額が下がり、返済能力の説明が立ちやすくなります。決裁の仕組みは 融資の稟議はどこで止まるか の記事で扱っています。
金額を下げる、期間を延ばす。「全額を1行から」の前提を外すと道が開けます。
これは、資料を足しても変わりません。区分そのものが動かない限り、持ち込める案件の形が限られます。
| 区分が下がる原因 | 戻すのに要する時間 |
|---|---|
| 2期連続の赤字 | 黒字化して1〜2期 |
| 債務超過(実質ベース) | 数期。資本性の資金が入れば早い |
| 延滞 | 1年以上 |
| 条件変更(リスケ) | 数年 |
区分が原因かどうかは、担当者の言い回しから推測できます。「保証協会でお願いします」「今期の着地を見てから」「まず改善計画を」といった言葉が出ていれば、その可能性があります。
区分の仕組みと戻し方は 債務者区分 の記事で扱っています。期中の情報提供と、資本性の資金の投入が、比較的早く効く手段です。
区分が理由なら資料では変わりません。期中の情報提供と資本の充実が効きます。
こちらの業績とは無関係に起こる理由です。
| 方針の例 | 影響 |
|---|---|
| 特定の業種への融資を絞っている | 良い会社でも出せない |
| 1社への与信の総額に上限がある | これ以上増やせない |
| 支店の目標・方針が変わった | 同じ案件でも扱いが変わる |
| 自行の資金・資本の状況 | — |
金融検査マニュアルの廃止後、金融機関ごとの判断の幅は広がっています。業種方針や与信枠が理由なら、他行に当たる価値が高い理由です。同じ決算書でも、別の金融機関では通ることがあります。
ただし、延滞や条件変更のような事実は、どこでも重く見られます。他行に当たる価値があるのは、理由が③(またはその金融機関固有の事情)である場合です。
③が理由なら他行で違う判断があり得ます。業績と無関係な理由だからです。
「担保があれば」「保証協会でなら」という言い方で示されます。会社の信用だけでは足りないが、保全が取れれば検討できるという状態です。
| 組み替えの方向 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 保証協会付きに切り替える | プロパーが難しい場合 | 協会の枠を使う |
| 担保を入れる | 不動産、預金など | 完済まで外れない |
| 期間を短くする | 短期にして実績を作る | 借換の手間が増える |
| 金額を下げる | 保全の必要性が下がる | — |
| 借換とセットにする | 金融機関の残高が大きく増えない | — |
担保を入れるかどうかは慎重に判断してください。一度入れた担保は、その借入を完済するまで外れません。他の調達の余地を狭めます。
最後の「借換とセットにする」は有効です。既存の借入を借り換えて新規分を上乗せすれば、残高の増加が小さく見えます。借換保証 の記事で扱っています。
保全が理由なら組み替えで通ることがあります。担保は最後の手段にしてください。
否決というより、そもそも案件として上がっていない状態です。「検討中です」が続く場合、これを疑ってください。
| 足りていないもの | 影響 |
|---|---|
| 資金使途の内訳 | 稟議書の資金使途の欄が埋まらない |
| 必要額の根拠 | 金額の妥当性が説明できない |
| 返済原資 | 返済計画の欄が書けない |
| 直近の業況 | 最新の状況が分からない |
| 他行取引の状況 | 全体像が見えない |
この理由による停滞は、時間だけが過ぎて可否がはっきりしないのが特徴です。そして、こちらが動けば解決します。
資料の揃え方は 銀行面談の準備、使途の書き方は 資金使途の説明 の記事で扱っています。
「検討中」が続くなら⑤を疑う。こちらが動けば解決します。
| 言われ方 | 推測される理由 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 「金額を見直していただければ」 | ①金額 | 下げて再提案する |
| 「本部の判断で難しく」 | ①または③ | 支店決裁の範囲まで下げる |
| 「今期の着地を見てから」 | ②区分(数字が惜しい) | 着地見込みを資料で示す |
| 「まず改善計画を」 | ②区分(すでに下にある) | 計画を作る。時間がかかる |
| 「この業種は今ちょっと」 | ③与信方針 | 他行に当たる |
| 「当行の残高が既に」 | ③与信枠 | 他行に当たる |
| 「保証協会でお願いできれば」 | ④保全 | 協会の枠を確認して切り替える |
| 「担保をご検討いただければ」 | ④保全 | 慎重に判断する |
| 「もう少し資料を」 | ⑤資料 | すぐ揃える |
| 期日を示さず「検討中」が続く | ⑤資料 | 必要な資料を直接聞く |
断りの言葉そのものより、その前後で何に触れたかに情報があります。決算の話が出れば②、業種の話が出れば③、書類の話が出れば⑤です。
断りの言葉よりその前後で何に触れたかを見てください。
| 聞き方 | 返ってくるもの |
|---|---|
| 「なぜ貸せないのですか」 | 「総合的な判断で」 |
| 「どうすれば貸してもらえますか」 | 一般論になりやすい |
| 「どういう条件なら、ご検討いただけますか」 | 金額・期間・保全の具体的な話になる |
| 「当行の評価上、どこが弱く見えていますか」 | 財務上の懸念点が返る |
| 「金額を◯万円にすれば、可能性はありますか」 | ①かどうかが分かる |
| 「保証協会付きなら、いかがですか」 | ④かどうかが分かる |
| 「今期の決算が出たら、再度ご相談してよいですか」 | ②かどうかが分かる |
理由を直接聞くと、言えない領域に触れるため一般論になります。条件を具体的に示して、可能性を確認する形にすると、答えられる範囲で返ってきます。
下の3つは、理由を切り分けるための質問です。金額を下げれば可能性があると言われれば①、保証協会付きなら検討できると言われれば④、決算を見てからと言われれば②——と分かります。
条件を示して可能性を聞く。理由が切り分けられます。
聞く前に、自分で当たりをつけられます。次の3つを計算してください。
| 指標 | 計算 | 例 |
|---|---|---|
| 実質純資産 | 純資産 -(役員貸付金・回収不能の売掛金・不良在庫など) | 2,000万円 - 1,300万円 = 700万円 |
| 簡易キャッシュフロー | 税引後利益 + 減価償却費 | 700万円 + 200万円 = 900万円 |
| 債務償還年数 | 有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー | 7,200万円 ÷ 900万円 = 8年 |
ここで3,000万円を追加で借りると、どうなるか。
| 項目 | 現在 | 3,000万円借入後 |
|---|---|---|
| 有利子負債 | 7,200万円 | 1億200万円 |
| 簡易キャッシュフロー | 900万円 | 900万円(変わらない) |
| 債務償還年数 | 8年 | 約11.3年 |
10年という目安を超えます。つまり、この会社が3,000万円を求めて断られたなら、理由は①(金額が過大)である可能性が高い、と当たりがつきます。
逆算すると、900万円 × 10年 = 9,000万円が負える総額の目安。既存の7,200万円を引いて、1,800万円までなら説明が立つことになります。
この計算をしてから申し込めば、断られること自体を減らせます。そして断られたときも、理由の見当がつきます。計算方法は 返済原資の説明 の記事で扱っています。
簡易CF × 10年 - 既存借入が説明できる上限。超えていれば理由は①です。
| 理由 | 打ち手 | 効果が出るまで |
|---|---|---|
| ①金額 | 金額を下げる。期間を延ばす。他行と分ける | すぐ |
| ②区分 | 月次の情報提供。資本性の資金。黒字化 | 1期〜数期 |
| ③方針 | 他行に当たる。時期を変えて再打診 | 読めない |
| ④保全 | 保証協会付きへ。借換とセット。短期にする | すぐ |
| ⑤資料 | 使途の内訳・資金繰り表・返済原資を揃える | すぐ |
②に対する打ち手のうち、もっとも早く効くのは資本性の資金です。エクイティでの調達や、役員借入金の資本性借入金への転換は、決算を待たずに実質純資産を改善します。
③については、時期を変えて再打診するという選択肢もあります。業種方針は永続的なものではありません。ただし、いつ変わるかは読めません。
②に効くのは資本性の資金。決算を待たずに実質純資産を改善できます。
| 理由 | 再申込の目安 |
|---|---|
| ①金額 | すぐ。金額を下げて再提案 |
| ⑤資料 | すぐ。資料を揃えて再提出 |
| ④保全 | すぐ。条件を組み替えて |
| ②区分(今期の数字が理由) | 決算確定後 |
| ②区分(すでに下にある) | 1期以上 |
| ③方針 | 読めない。他行を優先 |
理由が分からないまま同じ内容で何度も申し込むと、案件として扱ってもらえなくなります。再申込は、必ず何かを変えてから行ってください。
①と⑤なら、その場で「では、この形ではいかがですか」と切り替えられます。面談を終える前に、代案を出せるよう準備しておいてください。
再申込は必ず何かを変えてから。同じ内容の繰り返しは逆効果です。
| 理由 | 他行で通る可能性 |
|---|---|
| ①金額 | ある(その金融機関の枠の問題なら) |
| ②区分 | 低い(どこでも同じ決算書を見る) |
| ③方針 | 高い(業績と無関係な理由) |
| ④保全 | あり得る(保全の考え方が違うことがある) |
| ⑤資料 | —(まず資料を揃える) |
③が理由なら、他行に当たる価値が高いです。金融検査マニュアルの廃止後、金融機関ごとの判断の幅は広がっています。
ただし、取引実績のない金融機関に、いきなり大きな金額を持ち込んでも通りません。審査には過去の取引実績が材料として使われます。平時から2〜3行と関係を作っておく意味がここにあります。
関係の作り方は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。
他行が効くのは主に③。ただし取引実績がないと、そこでも通りません。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 「どういう条件なら検討いただけますか」と聞く |
| 2 | 「当行の評価上、どこが弱く見えていますか」と聞く |
| 3 | 答えを記録する |
| 4 | 自分で実質純資産・簡易CF・債務償還年数を計算し、理由の見当をつける |
| 5 | 理由を5つのどれかに当てはめる |
| 6 | 打ち手を決める(金額を下げる/資料を揃える/他行/待つ) |
| 7 | 関係は切らない。月次の情報提供は続ける |
7番が重要です。断られたからといって、その金融機関との関係を切らないでください。状況が変われば、次は通ります。月次の情報提供を続けていれば、改善したときにすぐ持ち込めます。
また、3番の記録は次の交渉で効きます。「前回ご指摘の点は、こう改善しました」と言えることが、大きな差になります。
断られても関係は切らない。指摘は記録し、次の交渉で使ってください。
1〜5番を申し込む前にやれば、断られること自体が減ります。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。