
資金調達で失敗する形は、大きく2つあります。断られることと、間に合わないこと。後者のほうが、実は多く起きています。
3か月後に必要な資金が、4か月後に実行されても手遅れです。それでも「融資は通った」という結果にはなるため、何が悪かったのかが見えにくくなります。
実行までの日数は、おおむね手段と準備で決まります。どれだけ内容が良くても、着手が遅ければ間に合いません。逆に、早く動けば選べる手段が増えます。
失敗の多くは断られることではなく、間に合わないことです。
| 手段 | 実行までの目安 | 変動の要因 |
|---|---|---|
| 当座貸越の枠(設定済み) | 即日〜数日 | すでに枠がある場合 |
| プロパー・支店決裁 | 2〜3週間 | 資料の揃い方 |
| プロパー・本部決裁 | 3〜5週間 | 本部の審査 |
| 保証協会付き | 1〜2か月 | 協会の審査が並行 |
| 制度融資(自治体) | 1〜2か月以上 | 自治体の手続きが加わる |
| 日本政策金融公庫 | 3週間〜1か月半 | 創業融資は面談がある |
| 商工中金(組合加入から) | 数か月 | 組合への加入手続きが先 |
あくまで目安です。金融機関、支店、時期、案件の内容によって変わります。自社の取引金融機関の実績で確認するのが確実です。「前回はどのくらいかかりましたか」と聞いてみてください。
一番上を見てください。すでに枠があれば、即日〜数日で使えます。これが枠を持つ意味です。ただし業況が悪化すると減らされるため、非常時の備えとしては確実ではありません。詳しくは コミットメントラインと当座貸越枠 の記事で扱っています。
手段によって数日から数か月まで開きがあります。自社の実績で確認してください。
| 要素 | 内容 | 自分で動かせるか |
|---|---|---|
| 1. 資料の準備 | 決算書、試算表、資金繰り表、使途の内訳 | 動かせる |
| 2. 決裁の段階 | 支店決裁か、本部決裁か | 金額で動かせる |
| 3. 外部機関の審査 | 保証協会、自治体 | 動かせない |
| 4. 時期 | 決算期、年度末の混雑 | ある程度、避けられる |
1番と2番は、こちらの判断で変えられます。資料を先に揃えておくこと、金額を支店決裁の範囲に収めること——この2つで、実行までの日数は大きく変わります。
決裁の段階については 融資の稟議はどこで止まるか の記事で扱っています。金額を下げると速くなるのは、本部の審査を経由しなくなるためです。
動かせるのは資料の準備と、決裁の段階。この2つで日数が決まります。
申込の時点で資料が揃っていないと、「資料を集める期間」が日数に上乗せされます。
| 資料 | 揃っている場合 | 揃っていない場合 |
|---|---|---|
| 決算書3期分 | 即日 | 税理士に依頼して数日 |
| 直近の試算表 | 即日(毎月出していれば) | 締めから作成で1〜2週間 |
| 資金繰り表 | 即日 | 作成に数日〜1週間 |
| 使途の内訳 | 即日 | 整理に数日 |
| 設備の見積書 | 即日 | 業者に依頼して1〜2週間 |
| 納税証明 | — | 取得に数日 |
| 登記事項証明書 | — | 取得に数日 |
いちばん響くのが試算表です。毎月出していない会社は、申込の時点から作り始めることになります。締めの作業を含めると、それだけで1〜2週間が消えます。
毎月試算表を出していると、申込の時点で最新の材料がすでに相手側にあります。資料を集める期間がゼロになるだけでなく、業況の説明も済んでいます。試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。
準備していない資料の分だけ、日数が上乗せされます。試算表がいちばん響きます。
10月1日に3,000万円が必要な場合で、2つのパターンを比べます。
| 工程 | A:準備ができている | B:準備がない |
|---|---|---|
| 資料を揃える | 0日(手元にある) | 14日 |
| 使途の内訳・資金繰り表を作る | 2日 | 5日 |
| 申込・面談 | 3日 | 3日 |
| 保証協会の審査 | 21日 | 21日 |
| 金融機関の審査・決裁 | 14日 | 14日 |
| 契約・実行 | 5日 | 5日 |
| 合計 | 45日 | 62日 |
| 着手すべき日 | 8月17日 | 7月31日 |
差は17日です。9月に入ってから動き始めた場合、Aなら間に合いませんがBはなおさら間に合いません。どちらにせよ、必要日の2か月前には動き始める必要があります。
そして、この表には「断られてやり直す期間」が入っていません。1回で通る前提の日数です。組み替えが必要になれば、さらに1か月がかかります。
保証協会付きなら必要日の2か月前。やり直しを見込むなら3か月前です。
必要額を1本で取るか、分けて取るかで、「いつ、いくら使えるか」が変わります。3,000万円を10月1日に必要とする場合で比べます。
| 組み立て | 全額が揃う日 | 一部が使える日 |
|---|---|---|
| A 保証協会付きで3,000万円 | 45日後 | 45日後(それまでゼロ) |
| B プロパー1,500万+保証付き1,500万 | 45日後 | 21日後に1,500万円 |
| C 2行にプロパー1,500万ずつ | 21日前後 | 21日前後 |
Bの形が実務的です。速い手段で一部を先に確保し、時間のかかる手段で残りを取る。全額が揃う日は変わりませんが、途中で資金が尽きる危険が下がります。
資金繰り表で残高が最も低くなるのが9月20日なら、そこまでに一部でも入っていれば持ちこたえられます。10月1日に全額が必要とは限りません。必要な日と金額は、月単位ではなく日単位で見てください。
Cは最も速い形ですが、プロパーが2行から出る業況であることが前提です。また、使途を分けて説明する必要があります。配分の考え方は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。
速い手段で一部を先に確保する。判断の基準は「足りなくなる日」です。
「急に資金が必要になった」という状況の多くは、実は事前に分かっていたものです。
| 資金需要 | いつ分かるか |
|---|---|
| 季節的な仕入れ | 毎年同じ時期。前年から分かる |
| 賞与の支払い | 支給月が決まっている |
| 納税 | 決算月から逆算できる |
| 売上増による運転資金の増加 | 受注が決まった時点 |
| 設備投資 | 意思決定の時点 |
| 大口の入金遅延 | 遅延が起きた時点。予測は難しい |
| 取引先の倒産 | 予測は難しい |
上の5つは、資金繰り表を作っていれば数か月前に見えます。見えていないのは、資金繰り表を作っていないか、先まで作っていないかのどちらかです。
3か月先までしか作っていないと、保証協会付き融資の日数(1〜2か月)を引いた残りが1〜2か月しかありません。6か月先まで作っていれば、不足が見えた時点でまだ4か月あります。
予測が難しい下の2つに備えるのが、枠であり、経営セーフティ共済です。予測できるものは計画で、できないものは備えで対応する——この切り分けが要ります。
多くの資金需要は数か月前に見えています。資金繰り表を6か月先まで作ってください。
| 時期 | 混む理由 |
|---|---|
| 3月(年度末) | 金融機関の期末。案件が集中する |
| 9月(中間期末) | 同様 |
| 12月 | 賞与・納税の資金需要が重なる |
| 自社の決算直後 | 決算書の提出と審査が重なる |
| 年末年始・大型連休 | 営業日が減る |
混む時期は、審査に時間がかかるだけでなく、こちらの資料提出も遅れがちになります。決算作業と融資の申込が重なると、どちらも滞ります。
一方で、期末には金融機関側にも実績を作りたい事情があります。条件面で有利になることもあるため、一概に避けるべきとは言えません。日数に余裕を見たうえで、その時期を狙うという判断はあり得ます。
混む時期は日数に余裕を見る。条件面では有利になることもあります。
保証協会付き融資が1〜2か月かかるのは、審査が二重に入るからです。
| 工程 | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 金融機関 | 案件として受け付け、内容を確認する |
| 2 | 金融機関 | 保証協会へ保証を申し込む |
| 3 | 保証協会 | 審査。面談が入ることもある |
| 4 | 保証協会 | 保証の承諾 |
| 5 | 金融機関 | 稟議・決裁 |
| 6 | 金融機関 | 契約・実行 |
3番の保証協会の審査が、プロパーにはない工程です。ここだけで2〜3週間かかることがあります。
さらに制度融資では、自治体の手続きが加わります。自治体の窓口で申込書に認定を受けてから金融機関へ、という流れになる制度もあり、その分だけ日数が延びます。
急ぎの資金需要には、プロパーで支店決裁の範囲に収めるのがもっとも速い形です。ただしプロパーは業況が良くないと出ません。プロパーで借りられる状態を作っておくことが、速さの準備でもあります。
保証協会付きは審査が二重。速さを取るならプロパーです。
| やること | 短縮できる日数の目安 |
|---|---|
| 毎月、試算表と資金繰り表を渡しておく | 1〜2週間 |
| 決算書を確定後すぐ提出しておく | 数日 |
| 使途の内訳表を先に作っておく | 数日 |
| 金額を支店決裁の範囲に収める | 1〜2週間 |
| 必要な資料を先に聞いて、まとめて出す | 往復の分 |
| 納税証明・登記事項証明を先に取っておく | 数日 |
| 不利な事実も最初に伝える | やり直しを防ぐ |
| 実行の希望日を最初に伝える | — |
最後の項目は効果があります。「10月1日に必要です」と最初に伝えると、そこから逆算して動いてもらえます。期日を示さないと、通常のペースで進みます。
7番目も重要です。稟議が進んだ後に新しい事実が出ると、手続きをやり直すことになります。不利な情報こそ、最初に伝えてください。
実行の希望日を最初に伝える。期日を示さないと、通常のペースで進みます。
| やってはいけないこと | なぜ |
|---|---|
| 不利な事実を伏せる | 後で判明すると、稟議をやり直すことになり、かえって遅れる |
| 資料を小出しにする | 往復が増える |
| 複数行に同じ使途で満額申し込む | 使途の説明が崩れ、確認に時間がかかる |
| 金額や条件を途中で変える | 稟議を書き直すことになる |
| 毎日催促する | 担当者の作業時間を奪う |
4番目は意外と多く起きます。申込後に「やはり金額を増やしたい」と言うと、稟議は最初からやり直しです。金額は、資金繰り表から積み上げて確定させてから申し込んでください。
5番目については、催促するなら期日の確認という形にしてください。「いつ頃、可否のご連絡をいただけますか」であれば、進捗の確認として機能します。
申込後に金額を変えると稟議はやり直し。先に確定させてください。
逆算して間に合わないと分かった時点で、やることが変わります。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 担当者に、必要な日と金額を正直に伝える |
| 2 | 間に合う手段があるかを聞く(プロパー、枠、短期) |
| 3 | 金額を下げて、支店決裁の範囲に収められないか検討する |
| 4 | 一部だけ先に実行してもらえないか相談する |
| 5 | 支払いの時期をずらせないか、取引先と交渉する |
| 6 | つなぎの手段を検討する |
5番を忘れないでください。資金を増やすだけが解決策ではありません。支払いを遅らせられれば、必要な日そのものが後ろにずれます。取引先との交渉のほうが早いこともあります。
期限が迫ってから「間に合いません」と言われるのが、金融機関にとっても最も困る形です。早く共有すれば、一部先行実行や短期のつなぎなど、打てる手が出てきます。
資金を増やす以外に、支払いを遅らせるという手があります。早く共有してください。
| 手段 | 日数 | 注意 |
|---|---|---|
| 当座貸越の枠 | 即日〜数日 | 設定済みの場合のみ |
| 手形貸付 | 比較的速い | 短期。実績があれば |
| 支払条件の交渉 | 交渉しだい | 費用がかからない |
| 回収の前倒し交渉 | 交渉しだい | 同上 |
| 役員からの一時的な貸付 | 即日 | 契約書を作る。貸付金と混同しない |
| ファクタリング | 数日 | 費用が高い。常用しない |
上から順に検討してください。費用がかからない手段が3番と4番にあります。ここを飛ばして費用の高い手段に行くのは、順序が逆です。
5番目の役員貸付は、会社から役員への貸付(役員貸付金)とは逆向きです。役員が会社に貸すのは役員借入金で、銀行の評価上は資本に近いものとして扱われることがあります。ただし契約書を作り、記録を残してください。詳しくは 役員借入金 の記事で扱っています。
費用のかからない支払・回収条件の交渉を先に検討してください。
結論としては、希望を伝えることはできますが、確約はされません。
| 項目 | 実務 |
|---|---|
| 実行の希望日 | 最初に伝えれば、そこから逆算して進めてもらえる |
| 決裁後の実行 | 契約書の締結、印鑑証明などの手続きに数日 |
| 設備資金 | 業者へ直接振り込まれる場合がある |
| 月末・月初 | 手続きが混むことがある |
3番目には注意してください。設備資金は、資金が業者に直接振り込まれることがあります。「口座に入る」前提で資金繰りを組んでいると、ずれます。実行の形を事前に確認してください。
また、決裁が下りてから実行までにも数日かかります。契約書の締結、必要書類の提出、印紙の手配などです。「承認されました」と言われた日が実行日ではありません。
決裁から実行までさらに数日かかります。設備資金は業者へ直接振り込まれることも。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 常時 | 月次の試算表・資金繰り表を渡す。6か月先まで作る |
| 6か月前 | 資金繰り表で不足する月と金額を把握する |
| 3か月前 | 担当者に相談する。必要な資料を聞く。使途を固める |
| 2か月前 | 金額を確定し、申込。実行の希望日を伝える |
| 1か月前 | 進捗を確認する。追加の資料に対応する |
| 2週間前 | 決裁の見込みを確認する。間に合わなければ代案へ |
| 実行 | — |
3か月前の「相談」を飛ばさないでください。正式な申込の前に相談しておくと、必要な資料と、通りそうな金額が分かります。申込してから条件が合わないと分かるより、はるかに早く済みます。
3か月前の相談が要です。申込の前に、必要な資料と通る金額が分かります。
5番と6番——着手日を決め、やり直しの余裕を見る。ここが実務の核です。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。