
スタートアップ創出促進保証は、2023年3月に創設された信用保証の制度です。最大の特徴は、経営者保証を不要とすることにあります。
解こうとしている問題は明確です。創業期の借入には、ほぼ必ず経営者保証が付きます。すると、事業がうまくいかなかったときに、個人の債務が残ります。これが創業の意思決定そのものを鈍らせ、また一度の失敗で再挑戦が難しくなる要因になってきました。
この制度は、保証料を上乗せすることと引き換えに、経営者保証を外すという設計になっています。つまり、個人保証のリスクを、金額として買い取れる形にしたものです。
この制度の核は保証料の上乗せと引き換えに、個人保証を外すこと。対価が明示された制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 経営者保証 | 不要 |
| 保証限度額 | 3,500万円 |
| 保証期間 | 10年以内 |
| 据置期間 | 1年以内(一定の場合は3年以内) |
| 保証料率 | 通常の保証料率に、一定の上乗せ |
| 資金使途 | 創業に必要な事業資金(運転資金・設備資金) |
限度額・期間・料率・対象要件は、見直されることがあります。この記事の数字をそのまま前提にせず、申し込む時点で信用保証協会と金融機関に最新の内容を確認してください。自治体が独自に上乗せしている制度がある場合もあります。
保証期間が10年以内という点は、創業期の制度としては長めです。返済期間を長く取れば、毎月の返済額が小さくなります。創業直後の資金繰りにとっては、この点が実質的に効きます。
限度額3,500万円・期間10年以内・経営者保証なし。内容は改定されるため要確認です。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 創業予定者 | これから法人を設立して事業を始める人(事業開始前の一定期間内) |
| 分社化予定者 | 既存の会社から事業を分けて新会社を作る場合 |
| 創業後一定期間内の法人 | 創業から5年未満であることが目安 |
重要なのは、法人であることが前提の制度である点です。個人事業では対象になりません。個人で始めた事業を法人化してから使う、という順序になります。
また、創業からの経過年数に上限があります。「いつか使おう」と思っているうちに、期間を過ぎてしまうことがあります。該当するなら、早い段階で使うかどうかを判断してください。
細かい要件(設立からの期間の数え方、税務申告の回数など)は、保証協会によって運用が異なることがあります。必ず確認してください。
法人限定、かつ創業から一定期間内。使える期間が限られていることに注意してください。
この制度では、通常の保証料率に一定の上乗せがあります。経営者保証がない分、保証協会が負うリスクが大きくなるためです。
| 項目 | 通常の保証 | この制度 |
|---|---|---|
| 経営者保証 | 必要なことが多い | 不要 |
| 保証料率 | 財務内容等による区分 | 上記に一定の上乗せ |
| リスクの所在 | 失敗すれば個人に残る | 会社の債務として完結する |
上乗せ分については、一定の要件を満たす場合に負担を軽減する措置が設けられていることがあります。創業計画の策定や、金融機関等による継続的な支援を受けることが条件になる場合があります。制度の詳細と、現在利用できる軽減措置は、保証協会に確認してください。
判断の軸は、個人保証を外すことに、いくら払う価値があるかです。金額として計算できるので、感覚ではなく数字で比べられます。次章で計算します。
上乗せは保証を外す対価。軽減措置の有無を、必ず確認してください。
保証料は、次の考え方で計算されます。
保証金額 × 保証料率 × 保証期間(年)× 分割返済回数別係数
分割返済では期間を通じて残高が減るため、係数で調整されます。均等分割返済ではおおむね0.55前後が使われます。正確な計算は保証協会と金融機関に確認してください。
3,500万円を10年、均等分割で借りる場合の、上乗せ分だけを計算します。上乗せ幅を0.2%とします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 保証金額 | 3,500万円 |
| 上乗せの料率 | 年0.2% |
| 期間 | 10年 |
| 分割返済回数別係数 | 0.55 |
| 上乗せ分(概算) | 約38万5,000円 |
3,500万円の借入に個人保証を付けないために、10年で約38万5,000円。これが高いか安いかが、判断の中身です。
比べる相手は、事業が立ち行かなくなったときに、3,500万円の債務を個人で背負うリスクです。そう置いて比べれば、金額の意味は明確になります。個人保証が何を意味するかは 経営者保証ガイドライン の記事で扱っています。
上乗せは10年で約38.5万円(3,500万円・0.2%の場合)。背負うリスクと比べてください。
創業融資では「自己資金がいくら必要か」が必ず論点になります。この制度では、純資産の要件が設けられている場合があります。
| 論点 | 考え方 |
|---|---|
| 自己資金の額 | 制度の要件と、金融機関の審査の両方で見られる |
| なぜ見られるか | 経営者保証がない分、会社の資本の厚みが重要になる |
| 資本金との関係 | 資本金が薄いと、返済の裏づけが弱いと見られる |
| 確認 | 要件は改定される。申込時に確認する |
考え方として理解しておきたいのは、個人保証がない制度ほど、会社そのものの資本が見られるということです。保証で埋めていた部分を、資本で埋める必要があります。
自己資金の作り方と、審査での見られ方は 創業融資の自己資金要件 の記事で扱っています。
保証がない分、会社の資本の厚みが見られます。要件は申込時に確認してください。
| 比較 | この制度 | 通常の創業融資 |
|---|---|---|
| 経営者保証 | 不要 | 求められることが多い |
| 保証料 | 上乗せがある | 通常の料率 |
| 限度額 | 3,500万円 | 制度による |
| 期間 | 10年以内 | 制度による |
| 自己資金・純資産 | 要件が設けられる場合がある | 制度による |
判断は単純です。経営者保証を外したいかどうかに尽きます。外したいなら、上乗せ分を払う価値があるかを計算する。それだけです。
上乗せ分は借入額に比例します。1,000万円の借入なら、0.2%・10年・係数0.55で約11万円です。金額が小さいほど、保証を外す判断は容易になります。
逆に言えば、金額が大きくなるほど、上乗せの絶対額も大きくなります。ただし同時に、個人で背負う債務も大きくなります。比率は変わりません。
判断は保証を外したいかどうかの1点。上乗せ額は借入に比例します。
創業期の資金調達では、日本政策金融公庫の制度と、保証協会付きの制度を併用するのが一般的です。
| 調達先 | 役割 | 経営者保証 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 創業期の中心的な調達先 | 制度により、不要とする取り扱いがある |
| 民間金融機関+この制度 | 民間との取引実績を作る | 不要 |
| 自治体の制度融資 | 保証料・金利の補助がある場合がある | 制度による |
公庫にも、保証人を不要とする取り扱いの制度があります。どちらが有利かは、金額、期間、金利、保証料の合計で比べてください。
実務的に重要なのは、公庫だけで完結させないことです。民間金融機関との取引実績は、後の段階で必ず必要になります。この制度は、個人保証を負わずに民間との取引を始める手段としても使えます。
金融機関との関係の作り方は メインバンクとの付き合い方 の記事で扱っています。
公庫と併用が基本。この制度は保証を負わずに民間と取引を始める手段になります。
限度額3,500万円をどう見るかは、事業の性質によります。
| 事業の性質 | 3,500万円の意味 |
|---|---|
| 初期投資が小さいサービス業 | 十分に足りることが多い |
| 店舗・設備が必要な事業 | 設備で使い切ることがある |
| 赤字先行のソフトウェア事業 | 人件費で消える。追加の調達が前提になる |
| 在庫を持つ事業 | 仕入れの規模しだい |
注意したいのは、この枠を使い切ると、それ以上は別の枠を使うことになる点です。信用保証には全体の限度額があり、制度ごとの枠もあります。枠は有限の資源だと考えてください。
保証協会全体の限度額の考え方は プロパー融資へ移るには の記事で扱っています。
3,500万円は有限の枠。使い切った後にどうするかも、同時に考えてください。
据置期間は、元本の返済を行わず、利息だけを支払う期間です。創業直後の資金繰りに直接効きます。
| 据置 | その間 | その後 |
|---|---|---|
| 据置なし | 初月から元本を返す | 返済期間が長く取れる |
| 据置1年 | 1年間は利息のみ | 残り期間で元本を返すため、月々の返済額が増える |
3,500万円を10年で借り、据置を1年取ると、元本を返す期間は9年になります。月々の元本返済は、3,500万円 ÷ 120か月 = 約29万円から、3,500万円 ÷ 108か月 = 約32万円に増えます。
据置は返済を減らすものではなく、後ろにずらすものです。売上が立つまでの期間が読めているなら有効ですが、その期間に売上が立たなければ、負担が重くなった状態で返済が始まります。
据置は先送りであって軽減ではありません。月々の返済額は、その分だけ増えます。
審査の中心は創業計画書です。経営者保証がない制度では、会社そのもので返せるかを説明する必要があります。
| 項目 | 書くこと | よくある不足 |
|---|---|---|
| 事業の内容 | 誰に、何を、いくらで売るか | 概念的で、売る相手が具体的でない |
| 市場と競合 | なぜ自社が選ばれるか | 市場規模だけを書き、競合に触れない |
| 売上の見込み | 単価 × 数量に分解した根拠 | 総額だけで、積み上げがない |
| 費用 | 固定費と変動費を分けて記載 | 人件費や家賃の見込みが甘い |
| 資金使途 | 何にいくら使うか | 「運転資金」とだけ書いてある |
| 返済原資 | 何から返すのかを具体的に | 利益が出る前提だけで、時期が示されていない |
| 経歴 | この事業をやる根拠になる経験 | 職歴の羅列になっている |
いちばん弱くなりがちなのが返済原資です。創業直後は利益が出ませんから、「いつから返済に回せる現金が生まれるのか」を、月単位で示す必要があります。
資金使途と返済原資の書き方は、資金使途の説明 と 返済原資の説明 の記事で扱っています。
弱点は返済原資。いつから返せる現金が生まれるかを、月単位で示してください。
制度としては良いものですが、常に最適とは限りません。
| 場合 | 理由 |
|---|---|
| そもそも借入が必要か固まっていない | 使途が曖昧なまま借りると、使い切って返済だけが残る |
| 自治体の制度で、保証料の補助が手厚い | 通常の保証のほうが、総コストで有利になることがある |
| 金額が小さく、公庫だけで足りる | 手続きの手間に見合わないことがある |
| 直後にエクイティで調達する予定がある | 借入を先に入れると、調達の条件交渉に影響する場合がある |
| 返済の見通しが立っていない | 保証がなくても、会社の債務は残る |
経営者保証がなくても、会社が返済義務を負うことに変わりはありません。返せなければ会社は行き詰まります。「個人に来ないから」という理由で借入を増やすのは、判断を誤らせます。
保証がなくても会社の債務は残ります。借りる必要性の判断は、別に行ってください。
株式で資金を集めるスタートアップにとって、この制度は希薄化を伴わない資金として意味を持ちます。
| 観点 | エクイティ | この制度 |
|---|---|---|
| 株式の希薄化 | 起きる | 起きない |
| 返済 | 不要 | 必要 |
| 個人保証 | — | 不要 |
| 調達までの期間 | 数か月 | 数週間〜1、2か月 |
| 金額 | 事業計画による | 3,500万円が上限 |
使いどころとしては、ラウンドとラウンドの間をつなぐ資金、あるいは次のラウンドの評価額を上げるために、もう少し実績を作りたいときです。数千万円で数か月を買えるなら、希薄化を避ける価値は小さくありません。
ただし返済は始まります。返済が始まった後の資金繰りを、必ず織り込んでください。融資とエクイティの組み合わせは 融資とエクイティの比率 の記事で扱っています。
使いどころはラウンドの間をつなぐ資金。希薄化なしで時間を買えます。
制度があることと、窓口で案内されることは別です。自分から名指しで持ち出さないと、話題にならないことがあります。
| 金融機関側の事情 | 中身 |
|---|---|
| 経営者保証がない | 会社が返せなければ、それで終わる。保全が薄い |
| 責任共有制度 | 保証付きでも、金融機関が一定割合のリスクを負う |
| 事務の手間 | 制度ごとに必要書類と手続きが異なる |
| 取扱いの経験 | 支店に扱った実績が少ないと、担当者が提案しにくい |
「創業融資を借りたい」と言うと、その支店で扱い慣れた制度が提案されます。「スタートアップ創出促進保証を使いたいのですが」と制度名で聞いてください。扱えるかどうか、要件を満たすかどうかが、その場で確認できます。
取り扱いがない、あるいは消極的な場合は、他の金融機関にも聞いてみてください。保証協会の制度ですから、扱える金融機関は複数あります。保証協会に直接、扱っている金融機関を尋ねることもできます。
制度名を出して聞く。消極的なら、他の金融機関にも当たってください。
| 順 | やること | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 取引予定の金融機関に、この制度を使いたいと伝える | — |
| 2 | 最新の要件・限度額・料率・軽減措置を確認する | — |
| 3 | 創業計画書と資金繰り計画を作る | 2〜4週間 |
| 4 | 金融機関を通じて保証協会に申し込む | — |
| 5 | 保証協会の面談・審査 | 数週間 |
| 6 | 金融機関の審査・決裁 | 数週間 |
| 7 | 実行 | — |
全体で1〜2か月程度を見ておいてください。保証協会と金融機関の両方の審査が入るため、プロパー融資より時間がかかります。実行までの日数の逆算は 融資実行までの日数 の記事で扱っています。
審査が二重に入るため1〜2か月。必要時期から逆算して動いてください。
6番と7番が判断の中心です。上乗せ額を計算して、リスクと比べること。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。