
経営者保証とは、会社の借入について、経営者個人が返済の責任を負う契約です。会社が返せなくなれば、個人の財産で返すことになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が負うか | 代表者個人。共同代表なら複数の場合も |
| いくら負うか | 借入の全額(限度額の定めがある場合を除く) |
| 会社を清算したら | 個人の債務は残る |
| 役員を辞めたら | 自動では外れない。解除の手続きが要る |
| 個人の財産 | 自宅を含め、原則として返済に充てることになる |
ここが最も重い点です。法人の有限責任は、経営者保証によって実質的に無効化されます。事業がうまくいかなかったときに、個人の生活まで巻き込まれる——これが、再挑戦を妨げる要因として問題視されてきた構造です。
もうひとつ見落とされるのが、役員を辞めても自動では外れないことです。後継者に引き継いだつもりでも、手続きをしなければ前経営者が保証人のまま残ります。
保証は会社を畳んでも残り、辞任でも自動では外れません。外すには手続きが要ります。
経営者保証に関するガイドラインは、2013年12月に公表され、2014年2月から適用されている準則です。金融機関と中小企業の関係者が自主的に定めたもので、法的な拘束力はありません。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 要件を満たせば、保証を求めない扱いを検討してもらえる | 要件を満たしたから外せ、と強制すること |
| 保証を求める理由の説明を受けられる | 説明に納得できないから無効だ、と主張すること |
| 保証債務の整理で、一定の資産を残せる可能性がある | 必ず残せると約束させること |
ただし、金融庁の監督指針に取り込まれており、金融機関には実務上の重みがあります。「法的拘束力がないから関係ない」という扱いを、金融機関がしているわけではありません。
実務としては、「ガイドラインに基づいて検討していただけますか」と切り出せることに意味があります。話の土俵が変わります。
強制力はありませんが、監督指針に取り込まれています。交渉の土俵として使えます。
ガイドラインは、次の3つを満たす場合に、保証を求めない可能性を検討するとしています。
| 要件 | 中身 | 難易度 |
|---|---|---|
| 1. 法人と経営者の関係の明確な区分・分離 | 資産・経理を分ける。役員報酬や貸付が適切な範囲にある | 自分で変えられる |
| 2. 財務基盤の強化 | 返済能力がある。内部留保が十分 | 時間がかかる |
| 3. 財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示 | 経営の透明性。継続的に情報を出している | 自分で変えられる |
2の財務基盤は、数字の積み上げなので時間がかかります。しかし1と3は、経営者の判断ひとつで変えられます。そして実務では、この2つができていないことが理由で断られる例が多くあります。
3つすべてを完璧に満たす必要があるかというと、そうではありません。総合的に判断されます。ただし、1の区分・分離ができていない状態では、他がどれだけ良くても話が進みません。
3要件のうち1と3は今日から変えられます。1ができていないと、話が始まりません。
もっとも具体的で、もっとも見られるのがここです。
| 見られる点 | 問題になる状態 | あるべき状態 |
|---|---|---|
| 役員貸付金 | 会社から代表者への貸付がある | ゼロ。あるなら返済計画がある |
| 役員報酬 | 社会通念上、著しく高い/低い | 職務内容に見合った水準 |
| 事業用資産の所有 | 事業に使う不動産が代表者個人の名義 | 法人所有。または適正な賃料で賃貸借契約 |
| 経費 | 個人的な支出が会社の経費に混ざっている | 明確に分かれている |
| 取引 | 代表者個人や親族の会社との取引が不明瞭 | 条件が明示され、合理的 |
| 口座 | 会社の口座と個人の口座が混用されている | 完全に分離 |
最初に指摘されるのが役員貸付金です。金額が小さくても、「会社の資金を個人が使っている」という事実が残ります。これがあると、他の要件がどれだけ整っていても、保証の解除は難しくなります。
事業用資産の名義も重要です。代表者個人が持つ不動産を会社が使っている場合、賃貸借契約を締結し、適正な賃料を支払う形にしてください。無償で使っている状態は、区分ができていない典型例です。
これらは決算書と勘定科目内訳明細書に表れます。銀行がどこを見ているかは 銀行は決算書のどこを見るか の記事で扱っています。
まず役員貸付金をゼロに。ここが残っていると、他が整っていても進みません。
時間がかかる部分です。見られるのは、会社の資産や収益力で、借入を返済できる状態にあるかです。
| 見られる点 | 目安 |
|---|---|
| 純資産 | 債務超過でないこと。実質ベースで判断される |
| 収益力 | 継続的に黒字であること |
| 内部留保 | 利益の蓄積があること |
| 債務償還年数 | 実務では10年以内がひとつの目安 |
| 資産の内容 | 換価可能な資産があるか |
ここで言う「返済できる状態」は、個人の保証がなくても回収の見込みが立つという意味です。保証は、会社の信用が足りない部分を個人が補う仕組みですから、会社の信用だけで足りるようになれば、保証は不要になります。
したがって、この要件を満たす道は2つです。収益を積み上げて純資産を厚くするか、担保などの保全で代替するか。後者については、後の章で触れます。
要件2の本質は会社の信用だけで足りるか。保証は信用の不足を埋める仕組みです。
ここも、今日から取りかかれる要件です。
| やること | 頻度 |
|---|---|
| 月次試算表の提出 | 毎月 |
| 資金繰り表の提出 | 毎月 |
| 決算書の速やかな提出 | 確定後すぐ |
| 業況の変化の報告 | 随時。悪い情報を先に |
| 求められた資料への対応 | 速やかに |
ガイドラインが求めているのは、「経営の透明性」です。求められたら出す、という受け身の姿勢ではなく、継続的に、こちらから出している状態が必要です。
この要件は、実は要件1とつながっています。法人と個人を分けていなければ、開示できる状態にならないからです。役員貸付金や個人的な経費が混ざった決算書を、堂々と毎月出すことはできません。
具体的な進め方は 試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。
求められて出すのではなく、こちらから継続的に出している状態が要件です。
2022年12月に経営者保証改革プログラムが公表され、監督指針が改正されました。2023年4月から、金融機関には次の対応が求められています。
| 求められている対応 | 中身 |
|---|---|
| 個別具体的な説明 | 保証を求める場合、どの部分が要件を満たしていないのかを説明する |
| 改善の道筋の説明 | どのような改善を図れば、保証の解除の可能性が高まるかを説明する |
| 記録 | 説明した内容を記録し、件数を当局に報告する |
以前は、保証を取る理由が明示されないまま契約に至ることがありました。現在は、金融機関が理由を説明し、記録することを求められています。借り手の側から見れば、説明を求める根拠ができたということです。
なお、制度は改定されます。最新の運用については、金融庁の公表資料と、取引金融機関に確認してください。
2023年4月から金融機関に説明が求められています。聞く根拠があります。
前章を踏まえると、実務でやるべきことがはっきりします。「なぜ保証が必要なのですか」ではなく、「3要件のうち、どこが足りていませんか」と聞くことです。
| 聞き方 | 返ってくるもの |
|---|---|
| 「保証を外してほしい」 | 「難しいです」で終わりやすい |
| 「なぜ保証が必要ですか」 | 一般的な説明になりやすい |
| 「ガイドラインの3要件のうち、当社はどこが足りていませんか」 | 具体的な項目が返る |
| 「何を改善すれば、解除の可能性が高まりますか」 | 次にやることが決まる |
この聞き方をすると、解除を1回の交渉で決めるのではなく、数年かけて条件を整える計画に変わります。1回断られて終わりにするより、はるかに前に進みます。
そして、返ってきた答えは記録しておいてください。次の交渉のときに、「前回ご指摘の点は、こう改善しました」と言えることが効きます。
聞くべきは「どの要件が足りないか」。答えを記録し、次の交渉で使ってください。
| 場面 | 難易度 | 理由 |
|---|---|---|
| 新規の借入で保証を付けない | 相対的に通りやすい | その融資の条件として検討される |
| 借換のときに外す | 中 | 新しい契約として条件を見直せる |
| 既存の借入から保証だけ外す | 難しい | 金融機関に、外す理由がない |
ここは実務上、非常に重要です。すでに実行されている融資から保証だけを外してもらうのは、金融機関にとって一方的に保全が薄くなる話です。応じる理由がありません。
したがって、狙うべきタイミングは新規の融資と、借換のときです。新しい契約を結ぶ場面であれば、条件の一部として交渉できます。
複数の借入をまとめて借り換える、期日が来たものを新しい条件で組み直す——こうした場面を、保証を外す交渉の機会として使ってください。借換保証については 借換保証 の記事で扱っています。
狙うのは新規と借換。既存から保証だけ外すのは、ほぼ通りません。
事業承継の場面については、ガイドラインの特則が2019年12月に公表され、2020年4月から適用されています。
| 原則 | 中身 |
|---|---|
| 二重には取らない | 前経営者と後継者の双方から保証を取ることは、原則として行わない |
| 前経営者の保証 | 承継後、解除を適切に検討する |
| 後継者への保証 | 承継の阻害要因とならないよう、慎重に判断する |
実務でよく起きるのが、承継したのに前経営者の保証が残ったままという状態です。役員を退任しても、保証は自動では外れません。承継の手続きの中に、保証の解除を明示的に組み込んでください。
後継者の側から見れば、「保証を求められるなら継がない」という判断があり得ます。それが承継を妨げてきたことへの対応が、この特則です。承継の交渉では、この特則を前提に話してかまいません。
承継では二重には取らないのが原則。前経営者の保証解除を、手続きに組み込んでください。
事業が立ち行かなくなり、保証債務を整理する場面についても、ガイドラインは定めを置いています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続き | 法的整理ではなく、私的整理として進める枠組み |
| 残せる資産 | 破産手続で認められる自由財産を超える資産を、残せる可能性がある |
| 自宅 | 一定の要件のもとで、住み続けられる可能性がある |
| 信用情報 | 手続きによっては、事故情報として登録されない扱いがある |
| 前提 | 早期に申し出ること。財産の隠匿などがないこと |
この枠組みは、資産が残っているうちに申し出ることが前提です。限界まで持ちこたえてから相談しても、残せるものがありません。使えるかどうかは、タイミングでほぼ決まります。
要件や手続きは複雑で、専門家の関与が必要です。該当しそうな状況にあるなら、弁護士や、中小企業活性化協議会などの公的な相談窓口に、早い段階で相談してください。
整理の枠組みは早期の申し出が前提。限界まで待つと使えません。
保証は、会社の信用の不足を埋める仕組みです。したがって、外すときには代わりの手当てを求められることがあります。
| 求められること | 内容 | 判断 |
|---|---|---|
| 金利の上乗せ | 保証がない分、リスクを金利に反映する | 金額を計算して比べる |
| 担保の提供 | 不動産などで保全する | 慎重に。完済まで外れない |
| 財務制限条項 | 純資産や利益の水準を維持する約束 | 達成できる水準か確認する |
| 報告義務の強化 | 四半期ごとの報告など | 負担は小さい。受けてよい |
| 期間の短縮 | 長期ではなく短期にする | 借換の手間が増える |
財務制限条項には注意してください。「純資産を◯◯万円以上に維持する」といった約束を入れると、それを下回った時点で、期限の利益を失う(一括返済を求められうる)ことになります。水準が達成可能かを必ず確認してください。
報告義務の強化は、受けてよい条件です。どのみち要件3で求められていることですから、追加の負担はほとんどありません。
代替を求められます。報告義務なら受ける、財務制限条項は水準を確認してください。
赤字が前提のスタートアップでは、要件2(財務基盤)を満たすのが構造的に困難です。ただし、別の道があります。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 創業向けの保証制度 | 経営者保証を不要とする制度が用意されている |
| 純資産で説明する | 調達により資本が厚く、純資産がプラスであることを示す |
| 要件1と3を完璧にする | 財務で足りない分を、区分と透明性で補う |
| 公庫の制度を使う | 保証人を不要とする取り扱いがある制度を確認する |
いちばん現実的なのが1番目です。創業期には、経営者保証を不要とする保証制度が用意されています。詳しくは スタートアップ創出促進保証 の記事で扱っています。
3番目も軽視できません。要件1と3は、赤字であっても完璧にできます。財務で不利な分、ここで差をつけておくことが、後の交渉の土台になります。
財務で不利な分、創業向け制度を使い、要件1と3を完璧にしておいてください。
| 順 | やること | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 役員貸付金・個人的な経費・口座の混用をなくす | 決算期まで |
| 2 | 事業用資産の名義と賃貸借契約を整える | 数か月 |
| 3 | 月次の試算表・資金繰り表の提出を始める | すぐ |
| 4 | 担当者に「3要件のうち、どこが足りないか」を聞く | — |
| 5 | 回答を記録し、改善の計画を作る | — |
| 6 | 改善を実行し、次の決算に反映させる | 1期 |
| 7 | 新規融資または借換の機会に、解除を申し入れる | — |
| 8 | 代替条件が出たら、金額と影響を計算して判断する | — |
1回で決まる話ではありません。数年かけて条件を整え、機会を待つ取り組みです。ただし1番と3番は今日から始められますし、それが前提条件になります。
数年がかりです。1番と3番は今日から始めてください。
2番の役員貸付金ゼロが最初の関門。ここが残っていると先に進めません。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。