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仕入れ資金による調達不足の原因は支払いが早い・在庫が多い・回収が遅いの3つ。所要運転資金の式で分解し、3つを動かせば借りずに2,000万円が生まれる構造と、8つの手段の優先順位を示します。

「仕入れの資金が足りない」という状態は、次の3つのどれか(または組み合わせ)です。
| — | 原因 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 払うのが早すぎる | 仕入代金の支払いが、売上の回収より先に来る |
| ② | 在庫が多すぎる | 仕入れたものが、現金に戻るまで時間がかかる |
| ③ | 回収が遅すぎる | 売ってから入金まで日数がかかる |
借入は、①②③によって生じた穴を埋める手段です。原因そのものは変わりません。だから借りても、翌月も同じ穴が空きます。まず原因を特定してください。
原因は支払いが早い・在庫が多い・回収が遅いの3つ。借入は対処ではありません。
この金額が、事業を回すために立て替えている額です。前受金があれば、さらに差し引きます。
| 項目 | 資金への効果 | 動かす手段 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 増えるほど資金が必要 | 回収を早める |
| 在庫 | 増えるほど資金が必要 | 在庫を減らす |
| 買掛金 | 増えるほど資金が楽になる | 支払いを遅らせる |
| 前受金 | 増えるほど楽になる | 前受けを導入する |
この4項目のどれかを動かせば、必要な資金は減ります。借りるのは、動かせなかった分を埋めるためです。
式は売掛金+在庫-買掛金。4項目のどれかを動かせば、必要額が減ります。
月商3,000万円、売上原価率60%の会社で計算します。
| 項目 | 日数 | 金額 |
|---|---|---|
| 日商(月商 ÷ 30) | — | 100万円 |
| 1日あたりの売上原価 | — | 60万円 |
| 売掛金 | 60日 | 6,000万円 |
| 在庫 | 30日 | 1,800万円 |
| 買掛金 | 30日 | ▲1,800万円 |
| 所要運転資金 | — | 6,000万円 |
ここから、それぞれを動かした場合の効果を見ます。
| 動かすもの | 変化 | 所要運転資金 | 減る額 |
|---|---|---|---|
| 支払サイト | 30日 → 45日 | 5,100万円 | ▲900万円 |
| 在庫回転日数 | 30日 → 20日 | 5,400万円 | ▲600万円 |
| 回収サイト | 60日 → 55日 | 5,500万円 | ▲500万円 |
いずれも、借りずに数百万円の資金を生みます。そして費用はかかりません。
1項目を動かすだけで数百万円。費用はかかりません。
| 交渉の形 | 効果 | 難易度 |
|---|---|---|
| 支払サイトを延ばす | 買掛金が増え、資金が楽になる | 高い |
| 締め日を変える | 支払いの時期がずれる | 中 |
| 分割払いにする | 1回の支払額が減る | 中 |
| 手形での支払いに変える | 資金の流出が後ろにずれる | — |
支払サイトを延ばすことは、相手の回収サイトを延ばすことです。相手の資金繰りを悪くする交渉なので、簡単には通りません。切り出し方と根拠が要ります。
交渉の進め方は 仕入先との支払条件交渉、延ばすことの代償は 仕入先への支払いを遅らせると、何と引き換えになるか の記事で扱っています。
効果は最大ですが、相手の資金繰りを悪くする交渉です。
| やること | 効果 | 注意 |
|---|---|---|
| 動かない在庫を処分する | すぐに効く | 評価損が出る |
| 発注の単位を小さくする | 在庫の山が低くなる | 単価が上がることがある |
| 発注の頻度を上げる | 同上 | 送料・手間が増える |
| 品目を絞る | 管理する在庫が減る | 売上機会を失う可能性 |
| 受注生産に変える | 在庫を持たない | 納期が伸びる |
動かない在庫は、資金を固定しているだけで、何も生んでいません。処分すれば現金になり、保管の費用も減ります。評価損は出ますが、その在庫はいずれ処分することになります。
在庫と資金の関係は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。
まず動かない在庫。資金を固定しているだけで何も生んでいません。
| やること | 費用 |
|---|---|
| 請求書の発行を早める | なし |
| 締め日をまたがないようにする | なし |
| 検収の期限を契約で定める | なし |
| 回収サイトを交渉する | なし(交渉の手間) |
| 債権を資金化する | 手数料 |
上の3つは費用がかかりません。とくに請求書の発行タイミングは、締め日をまたぐだけで1か月ずれるため、効果が大きくなります。
詳しくは 請求書の発行タイミングを1日早める効果 の記事で扱っています。
請求の運用を直すだけなら費用ゼロ。まずここから。
先ほどの会社で、3つすべてを動かした場合を見ます。
| 項目 | 現状 | 改善後 |
|---|---|---|
| 売掛金(回収60日 → 55日) | 6,000万円 | 5,500万円 |
| 在庫(30日 → 20日) | 1,800万円 | 1,200万円 |
| 買掛金(30日 → 45日) | ▲1,800万円 | ▲2,700万円 |
| 所要運転資金 | 6,000万円 | 4,000万円 |
2,000万円の資金が、借りずに生まれます。すべてを同時に達成するのは簡単ではありませんが、どれか1つでも動けば数百万円です。
2,000万円を年利3%で借りれば、年間60万円の利息です。債権譲渡なら、もっとかかります。条件の見直しには、その費用がかかりません。
3つを動かせば2,000万円。1つでも数百万円です。
| 形 | 効果 | 相手の受け入れ |
|---|---|---|
| 着手金 | 仕入れの資金を、顧客が先に出す形になる | 比較的高い |
| 中間金 | 工程の途中で受け取る | 高い |
| 全額前受け | 仕入れ資金が要らなくなる | 低い |
| 年払いの割引 | 継続課金なら | 高い(相手に利点がある) |
「その相手のためだけに仕入れる」取引では、着手金を求める理由が説明できます。キャンセルされると転売できないためです。相手にも理解されやすい形です。
前受金の扱いは 前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。負債であり、提供の義務が残る点に注意してください。
着手金なら仕入れ資金を顧客が先に出す形になります。
資金が足りなくなるのは、支出が特定の時期に集中していることが原因の場合もあります。
| 状態 | 起きること |
|---|---|
| まとめて発注している | その月だけ支払いが跳ね上がる |
| 季節的に集中している | 特定の時期に資金需要が出る |
| 発注のタイミングがばらばら | 資金繰りが読めない |
必要な資金は「年間いくら使うか」ではなく、「いちばん多く払う月にいくら要るか」で決まります。山を平らにすれば、必要な資金が減ります。
発注のタイミングを決める考え方は 発注点を決めると、資金の山が平らになる の記事で扱っています。
必要額はいちばん多く払う月で決まります。山を平らにしてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 商社が仕入先に支払い、自社は商社に支払う |
| 効果 | 商社の支払条件で仕入れられる |
| 費用 | 商社の口銭(手数料) |
| 向いている場面 | 海外からの仕入れ、大口の仕入れ、前払いを求められる仕入れ |
| 注意 | 口銭の分だけ原価が上がる |
とくに仕入先が前払いを求める場合に有効です。商社が前払いに対応し、自社は商社の支払条件(例えば月末締め翌月末払い)で仕入れられます。
口銭の分だけ原価が上がりますが、その代わりに前払いの資金が不要になります。年率に換算して、借入と比べてください。
詳しくは 商社の与信枠を通して仕入れる の記事で扱っています。
商社の与信で前払いが不要になります。口銭は年率で比べてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 事業者が仕入代金を立て替え、自社は後日または分割で支払う |
| 効果 | 支払いの時期を後ろにずらせる |
| 費用 | 手数料 |
| 審査 | 自社の信用が見られる |
| 比べ方 | 手数料を年率に換算して、借入と比べる |
「手数料2%」でも、支払いを30日後ろにずらすだけなら年率に直すと約24%です。年利数%の借入と比べれば高くなります。速さと審査の通りやすさに価値があるかで判断してください。
年率への換算の考え方は 債権を使った調達のコストの比べ方 の記事で扱っています。手数料率 × 365 ÷ 日数です。
手数料2%・30日は年率約24%。必ず年率に換算してください。
| 対象 | 使えるか |
|---|---|
| 設備・機械 | 使える |
| 車両 | 使える |
| システム・ソフトウェア | 使えることがある |
| 販売する商品(在庫) | 通常は使えない |
| 原材料 | 通常は使えない |
リース・割賦は設備には使えますが、販売する商品の仕入れには通常使えません。この違いを理解しておいてください。
直接の手段ではありませんが、設備投資をリースにして現金の支出を抑えれば、その分を仕入れに回せます。資金の使い先を組み替える発想です。
ただし、リースの費用は年率に直すと高くなることがあります。設備を借入で買う場合と比べてください。
リースは設備向け。商品の仕入れには通常使えません。
| 手段 | 向いている場面 | 費用 |
|---|---|---|
| 増加運転資金の融資 | 売上が伸びて資金が必要 | 年利 |
| 季節資金 | 時期が決まっている仕入れ | 年利。短期 |
| 当座貸越の枠 | 必要額が月によって変動する | 使った分の利息 |
| ABL(在庫・売掛金担保) | 担保になる資産がある | 年利+報告の手間 |
| 債権譲渡 | 急ぎ。業績が悪い | 年率は高い |
上の2つが基本です。仕入れ資金は、使途が明確で回収の時期も読めるため、融資の説明としては通りやすい部類です。
使途の説明は 資金使途の説明、枠の使い方は コミットメントラインと当座貸越枠 の記事で扱っています。
仕入れ資金は使途が明確で、融資の説明としては通りやすい部類です。
| 種類 | 説明の形 | 返済原資 |
|---|---|---|
| 増加運転資金 | 「売上が◯%増え、所要運転資金が◯万円から◯万円に増えた。差額を」 | 増えた売上の回収 |
| 季節資金 | 「◯月の繁忙期に向けて◯万円の仕入れが必要。◯月〜◯月の入金で返済」 | その季節の売上 |
| つなぎ資金 | 「◯月◯日に◯万円の入金が確定。それまでの◯日間」 | 確定した入金 |
種類を明示すれば、返済期間と返済原資が自動的に決まります。担当者は稟議書が書きやすくなり、実行までの日数も短くなります。
増加運転資金なら、所要運転資金の計算表をそのまま持っていってください。「売掛金が◯万円増え、在庫が◯万円増え、買掛金が◯万円増えたので、差額が◯万円」——これが金額の根拠になります。
種類を明示する。所要運転資金の計算表が、そのまま根拠になります。
| 順 | やること | 費用 | 効果が出るまで |
|---|---|---|---|
| 1 | 動かない在庫を処分する | なし(評価損は出る) | 数週間 |
| 2 | 請求書の発行を早める | なし | すぐ |
| 3 | 発注を平準化する | なし | 数か月 |
| 4 | 着手金・前受けを導入する | なし | 新規取引から |
| 5 | 支払条件を交渉する | なし(関係のコスト) | 数か月 |
| 6 | 商社の与信を使う | 口銭 | 数週間 |
| 7 | 融資を申し込む | 利息 | 2週間〜2か月 |
| 8 | 後払いサービス・債権譲渡 | 高い | 数日 |
1〜5は費用がかかりません。ここを飛ばして7や8に行くと、毎年その費用を払い続けることになります。ただし、間に合わない場合は順序を変えてください。
8番は、今日明日の資金が必要な場合の手段です。年率が高いため、常用すると構造の問題になります。
1〜5は費用ゼロ。飛ばすと、毎年その費用を払い続けます。
1〜3番から。どの項目がいちばん大きいかで、打つ手が決まります。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。