
海外の取引先への販売が増えると、国内とは違う要素が資金繰りに入ってきます。
| 項目 | 国内 | 海外 |
|---|---|---|
| 通貨 | 円 | 外貨のことが多い |
| 受け取る金額 | 確定している | 為替で変わる |
| 着金までの日数 | 即日〜翌営業日 | 数日かかることがある |
| 手数料 | 数百円 | 送金手数料・中継銀行手数料 |
| 回収できないとき | 国内の手続き | 相手国の法制度による |
| 信用情報 | 取得しやすい | 取りにくい |
違いは通貨・日数・手数料・回収の難しさの4つです。
| リスク | 内容 | 対処の方向 |
|---|---|---|
| ①為替 | 受け取る円の金額が変わる | 円建てにする、為替予約 |
| ②信用 | 相手が払わない | 前受け、L/C、保険 |
| ③時間 | 着金まで日数がかかる | 決済方法の選択 |
「海外取引は不安」で止まると、対処が決まりません。為替・信用・時間のどれが問題なのかを分けてください。それぞれに別の手段があります。
この記事のタイトルは「円で早く受け取る」ですが、これは①と③への対処にあたります。②については、別の手段が必要です。
為替・信用・時間に分ける。それぞれ別の手段があります。
もっとも単純な対処です。契約と請求を円建てにすれば、為替リスクは相手が負います。
| 項目 | 円建て | 外貨建て |
|---|---|---|
| 受け取る円の金額 | 確定している | 為替で変わる |
| 為替リスク | 相手が負う | 自社が負う |
| 会計処理 | 単純 | 換算・評価替えが必要 |
| 相手の受け入れ | 交渉が要る | 受け入れられやすい |
| 価格競争力 | 相手から見ると読みにくい | — |
どちらの通貨にするかは、交渉力の問題です。相手が大きく、代替の供給先がある場合は、相手の通貨を求められます。逆に、自社の製品が代替しにくいなら、円建てを通せることがあります。
まず円建てを提案してみてください。断られてから、次の手を考えれば済みます。最初から外貨建てで組む必要はありません。
まず円建てを提案する。断られてから次を考えれば済みます。
10万ドルの請求を、契約時1ドル150円、入金時のレートが変わった場合で見ます。
| 入金時のレート | 受け取る円 | 契約時との差 |
|---|---|---|
| 1ドル160円 | 1,600万円 | +100万円 |
| 1ドル150円 | 1,500万円 | 0円 |
| 1ドル140円 | 1,400万円 | ▲100万円 |
| 1ドル135円 | 1,350万円 | ▲150万円 |
1ドルあたり10円動けば、1,500万円の取引で100万円変わります。粗利率が20%なら粗利は300万円なので、その3分の1が為替で消える計算です。
為替の変動幅を、その取引の粗利と比べてください。粗利より変動幅のほうが大きいなら、為替で赤字になる可能性があります。円建てか、為替予約を検討する水準です。
なお、円安に動けば利益が増えます。リスクは片側だけではありません。ただし、事業の利益が為替で左右される状態は、経営としては不安定です。
変動幅をその取引の粗利と比べてください。粗利より大きいなら対処が要ります。
| 手段 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 為替予約 | 将来のレートを固定する | 手数料・スプレッド |
| 回収を早める | 変動にさらされる期間を短くする | なし |
| 前受けにする | 受領時のレートで確定する | なし |
| 外貨のまま保有する | その通貨で支払う予定があるなら | — |
| 価格に織り込む | 変動を見込んだ価格にする | 競争力が下がる |
2番目は見落とされやすい手です。回収までの期間が短ければ、為替の変動にさらされる期間も短くなります。費用もかかりません。
輸入もしている会社なら、受け取った外貨をそのまま支払いに充てれば、為替の影響を打ち消せます。両替の手数料も不要です。自社の外貨の出入りを、まず確認してください。
回収を早めるのは費用ゼロ。外貨の出入りが相殺できないかも確認を。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 将来の特定の日に、決めたレートで両替する契約 |
| 効果 | 受け取る円の金額が確定する |
| 費用 | 金融機関のスプレッドなど |
| 注意 | 入金が遅れると、予約日に外貨がない |
| 相場が有利に動いた場合 | その利益は得られない |
ここが実務上の落とし穴です。予約した日に入金がなければ、外貨を用意できません。その場合、市場で調達するか、予約を延長する必要があり、費用が発生します。相手の支払いが遅れがちなら、予約の期日に余裕を持たせてください。
為替予約は、「利益を出すため」ではなく「不確実性をなくすため」に使うものです。相場が有利に動いたときの利益を放棄する代わりに、金額を確定させます。
利用にあたっては金融機関との契約が必要です。取引金融機関に、自社の規模で使えるかを確認してください。
為替予約は不確実性をなくす道具。入金の遅れに注意してください。
| 方法 | 回収の確実性 | 費用 | 自社の手間 |
|---|---|---|---|
| 前受け(全額) | 最も高い | 低い | 小さい |
| 分割前受け | 高い | 低い | 小さい |
| 信用状(L/C) | 高い | 高い | 大きい |
| T/T送金(後払い) | 低い | 低い | 小さい |
| オンライン決済 | — | 手数料率による | 小さい |
確実性と手間・費用は、おおむね反対の関係にあります。もっとも確実なのは前受けで、費用も手間も小さい。ただし相手が受け入れるかは別です。
少額なら前受けかオンライン決済、大口で相手の信用が読めないならL/C、継続的な取引で信頼関係があるならT/Tの後払い——一律にする必要はありません。
確実性と手間は反対の関係。金額と相手で使い分けてください。
| 形 | 内容 | 相手の受け入れ |
|---|---|---|
| 全額前受け | 出荷前に全額を受け取る | 低い |
| 分割前受け | 契約時に一部、出荷時に残り | 比較的高い |
| 着手金のみ | 製造の着手時に一部 | 高い |
相手専用の仕様で作る、その相手にしか売れない——そういう取引では、前受けを求める理由が説明できます。「キャンセルされると転売できないため」という事情は、相手にも理解されます。
金額の面でも、前受けなら為替のリスクも信用のリスクも同時に消えます。もっとも単純で、もっとも効果の大きい手段です。
前受金の扱いは 前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。負債として計上され、提供の義務が残る点に注意してください。
前受けなら為替と信用の両方が同時に解決します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 相手の銀行が、条件を満たせば支払うことを確約する |
| 効果 | 相手ではなく、銀行の信用で回収できる |
| 条件 | 書類(船積書類など)が条件に合致していること |
| 難しさ | 書類の不備(ディスクレ)があると、支払われない |
| 費用 | 開設手数料・買取手数料など |
| 期間 | 開設から書類の確認まで、日数がかかる |
L/Cは「書類が条件どおりであること」を支払いの条件にします。日付、数量、表記が1文字でも違えば、不一致として扱われることがあります。実務の経験がないと、ここでつまずきます。
大口の取引や、相手の信用が読めない場合には有効ですが、手間と費用がかかります。金額が小さい取引では見合いません。
利用するなら、取引銀行の外国為替の担当者に相談してください。書類の作成でも支援を受けられます。
L/Cは銀行の信用で回収できますが、書類の不備でつまずきます。
もっとも一般的なのがT/T送金です。単純で費用も低い代わりに、後払いだと回収の保証がありません。
| 守り方 | 内容 |
|---|---|
| 一部を前受けにする | 全額の後払いにしない |
| 初回は少額にする | 実績を作ってから金額を上げる |
| 支払期日を短くする | 与信の期間を短くする |
| 与信限度額を決める | 同時に抱える金額の上限 |
| 貿易保険をかける | 後述 |
| 契約書を作る | 準拠法と紛争解決の方法を定める |
争いになったとき、どの国の法律で、どこで解決するのかが決まっていないと、手続きの入口で行き詰まります。仲裁を定めるか、裁判の管轄を定めるか——契約を作るときに弁護士に確認してください。
2番目も実務的です。初回は少額で、期日どおりに払われることを確認してから金額を上げる。国内の与信管理と同じ考え方です。
与信管理の進め方は 与信管理を最小の手間で回す の記事で扱っています。
初回は少額から。準拠法と紛争解決の条項を必ず入れてください。
| 難しさ | 内容 |
|---|---|
| 準拠法 | どの国の法律が適用されるか |
| 管轄 | どこの裁判所で争うか |
| 判決の執行 | 日本の判決が、相手国で執行できるとは限らない |
| 言語・費用 | 現地の弁護士が必要になる |
| 時間 | 国内よりはるかにかかる |
| 相手の所在確認 | 難しい |
金額に対して、回収にかかる費用と時間が見合わないことが多くあります。だから「回収する」より「回収できない事態を避ける」ほうに力を入れてください。前受け、保険、与信限度額です。
回収は現実的に難しい。回収できない事態を避けるほうに力を入れてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 輸出代金が回収できなくなった場合に、保険金が支払われる |
| 対象となる事由 | 相手の信用に関する事由、相手国の事情に関する事由など |
| 提供 | 日本貿易保険(NEXI)、民間の保険会社 |
| てん補率 | 全額ではない |
| 副次的な効果 | 保険会社の引受判断が、与信の材料になる |
国内の取引信用保険と違うのは、相手の信用だけでなく、相手国の事情(送金の制限など)による回収不能も対象になりうる点です。国内取引にはないリスクへの備えです。
中小企業向けの商品も用意されています。制度の内容と対象は改定されるため、日本貿易保険(NEXI)に確認してください。
国内の取引信用保険については 取引信用保険はいくらから検討する価値があるか の記事で扱っています。考え方は共通しています。
貿易保険は相手国の事情による回収不能も対象になりうる点が特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 輸出債権を、相手国の提携先を通じて保証・買取する |
| 効果 | 回収の保証、または資金化 |
| 手数料 | 国内より高くなる傾向 |
| 対象 | 取扱いのある国・相手に限られる |
| 取扱い | 金融機関、専門の事業者 |
相手国に提携先があるかどうかで、使えるかが決まります。取引のある国について、取扱いがあるかを確認してください。
国内と同じく、手数料は年率に直さないと比較になりません。L/Cの費用、貿易保険の保険料、為替予約の費用と並べて、総額で判断してください。比べ方は 債権を使った調達のコストの比べ方 の記事で扱っています。
使えるかは相手国に提携先があるか次第。手数料は年率で比べてください。
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 送金手数料 | 相手が負担するのが通常だが、契約による |
| 中継銀行手数料 | 途中の銀行で差し引かれることがある |
| 被仕向送金手数料 | 受け取る側の銀行の手数料 |
| 両替の費用 | 為替のスプレッド |
海外送金では、途中の銀行が手数料を差し引くことがあります。請求額どおりに送金されても、着金額が少なくなります。誰が負担するかを契約で決めておかないと、毎回端数が残ります。
契約書と請求書に、「送金手数料および中継銀行手数料は、送金人の負担とする」と明記してください。国内の振込手数料と同じ発想です。
着金までの日数も、決済の方法と経路によって変わります。資金繰り表に反映するときは、余裕を見てください。
中継銀行手数料の負担者を、契約と請求書に明記してください。
| 順 | 決めること |
|---|---|
| 1 | 建値通貨(円建てか、外貨建てか) |
| 2 | 決済の方法(前受け・L/C・T/T) |
| 3 | 支払条件(期日) |
| 4 | 手数料の負担者(送金・中継銀行) |
| 5 | 準拠法と紛争解決の方法 |
| 6 | 与信限度額 |
| 7 | 保険をかけるか |
| 8 | 為替の対処(予約の要否) |
1番と5番が、後から変えにくい項目です。最初の契約で決めてください。
国内取引と同じで、条件の変更は新規の取引で交渉するほうが通ります。最初に決めておくことが、いちばん効率的です。
建値通貨と準拠法は、最初の契約で決めてください。
9番と10番——準拠法と手数料の負担は、契約時にしか決められません。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。