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債権による調達

継続課金の債権は担保になるか

ARR1.2億円でも売掛金は1,000万円という構造。確定債権・未請求の将来債権・契約もない売上の3層に分け、解約率の意味と、担保より返済原資で説明する道を扱います。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. ARRは大きいのに、担保が小さい
  2. 数字で見る|売掛金はいくらあるか
  3. 前受けにすると、売掛金が消える
  4. 3つの層に分けて考える
  5. ①確定している債権
  6. ②契約はあるが、未請求の将来債権
  7. ③契約もない将来の売上
  8. 将来債権の担保としての難しさ
  9. 解約率が評価を決める
  10. 数字で見る|解約率と残存期間
  11. 年契約と月契約で、評価が変わる
  12. 最低利用期間と解約の条項
  13. 将来の売上を返済原資にする形
  14. 結局、何で調達するか
  15. チェックリスト
  16. よくある質問

ARRは大きいのに、担保が小さい

継続課金のサービスを提供している会社が、売掛金を担保に資金を調達しようとすると、想定よりはるかに小さい金額しか出ないことがあります。

ARR 1.2億円でも、売掛金は1,000万円

年間の経常収益が1.2億円あっても、月次で請求・回収していれば、いつ見ても売掛金は1か月分の1,000万円しかありません。担保になるのは、この1,000万円です。

MRR月間の経常収益。Monthly Recurring Revenue。
ARR年間の経常収益。MRRの12倍で表すことが多い。
解約率一定期間に解約される割合。チャーンレート。
将来債権まだ発生していないが、将来発生する見込みの債権。

これが、継続課金モデルの会社が債権担保では大きな金額を調達しにくい理由です。事業の規模と、担保になる資産の大きさが一致しません。

この章の要点

継続課金モデルは売掛金が薄い。事業規模と担保の大きさが一致しません。

数字で見る|売掛金はいくらあるか

MRR 1,000万円(ARR 1.2億円)の会社で、請求と回収の条件による違いを見ます。

請求・回収の形 売掛金の残高 ARRに対する割合
月次請求・当月末回収 1,000万円 約8%
月次請求・翌月末回収 2,000万円 約17%
年次請求・後払い 最大1.2億円(時期による) —
年次請求・前払い ほぼ0円 0%
1.2億円ARR
1,000万円売掛金(月次・当月回収)
約8%ARRに対する割合

同じARRでも、請求と回収の条件で売掛金の残高がまったく違います。担保として使えるのは、この残高だけです。

さらに、ここに掛け目がかかります。売掛金1,000万円に掛け目70%なら、担保評価は700万円です。ARR 1.2億円の会社が調達できる金額としては、小さいと感じるはずです。

この章の要点

同じARRでも、請求と回収の条件で売掛金の残高が変わります。

前受けにすると、売掛金が消える

ここに、この記事でもっとも重要な構造があります。

形 資金繰り 担保になる売掛金
年次・前払い 非常に楽 ない
月次・後払い 普通 1〜2か月分
年次・後払い 苦しい 多い
資金繰りが楽な形ほど、担保がない

前払いにすれば現金が先に入るので、そもそも資金調達の必要性が小さくなります。その代わり、売掛金という担保はありません。逆に、後払いで資金繰りが苦しい会社ほど、売掛金は厚くなります。

つまり、売掛金を担保に資金を調達したいなら、まず「なぜ資金が必要なのか」を確認してください。前受けを増やせば、そもそも必要額が減ることがあります。

前受金と売掛金の違いは 前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。

この章の要点

資金繰りが楽な形ほど担保がありません。必要性から確認してください。

3つの層に分けて考える

継続課金の「将来の売上」は、確実性によって3つの層に分かれます。

層 状態 担保としての扱い
①確定している債権 提供済み・請求済み・未入金 通常の売掛金として評価される
②契約はあるが、未請求 これから提供する分 将来債権。評価は下がる
③契約もない将来の売上 新規獲得の見込みなど 担保にならない
ARRの数字は、②と③を含んでいる

ARRは「いまの契約が1年続いた場合の収益」を表す数字です。そのうち担保として確実に評価されるのは①だけで、②は割り引かれ、③は含まれません。

この章の要点

ARRには②と③が含まれます。確実に評価されるのは①だけです。

①確定している債権

条件 内容
提供 済んでいる(その月の利用分)
請求 済んでいる
金額 確定している
評価 通常の売掛金と同じ

これは、通常の売掛金として扱われます。取引先の信用力、集中度、回収の実績で掛け目が決まります。

評価の仕組みは 金融機関は売掛金の何を評価しているか の記事で扱っています。

契約者が個人だと、評価が下がる

継続課金のサービスでは、契約者が個人や小規模事業者であることが多いのが特徴です。1件あたりの金額が小さく、信用力も測りにくいため、掛け目は低くなる傾向があります。

この章の要点

①は通常の売掛金。ただし契約者が個人だと掛け目が下がります。

②契約はあるが、未請求の将来債権

ここが判断の難しい層です。契約は存在するが、まだ提供も請求もしていない分です。

評価を左右する点 内容
解約できるか いつでも解約できるなら、債権は発生しない
最低利用期間 定めがあれば、その分は確実性が上がる
契約期間 年契約か、月ごとの自動更新か
解約率の実績 過去のデータがあるか
提供の義務 自社がサービスを提供し続けられるか
「いつでも解約できる」契約は、担保になりにくい

月ごとの自動更新で、いつでも解約できる契約では、将来の債権が発生する保証がありません。担保として評価するのが難しくなります。

5番目も見落とされやすい点です。将来債権が発生するには、自社がサービスを提供し続ける必要があります。会社が事業を続けられなくなれば、債権も発生しません。担保を実行する場面では、まさにそれが起きている可能性があります。

この章の要点

「いつでも解約できる」契約は担保になりにくい。提供義務も残ります。

③契約もない将来の売上

例 扱い
新規獲得の見込み 担保にならない
アップセルの見込み 同上
契約更新の見込み 契約が更新されてから

事業計画としては重要な数字ですが、担保としては評価されません。債権が特定できないためです。

ただし、融資の審査では、返済原資として説明する材料にはなります。担保の話と、返済能力の話は別です。この点は 返済原資の説明 の記事で扱っています。

この章の要点

③は担保になりません。ただし返済原資の説明には使えます。

将来債権の担保としての難しさ

難しさ 内容
発生するか分からない 解約されれば発生しない
自社の継続が前提 提供できなければ、債権も発生しない
債務者が多数で小口 1件ずつ回収するのが現実的でない
債務者が個人 信用力が測りにくい
評価の方法 確立した基準がない
実行の難しさ 多数の利用者に通知して回収するのは、現実的でない
2番目が、根本的な問題

不動産や在庫の担保は、会社が倒れても資産として残ります。しかし継続課金の将来債権は、会社がサービスを提供できなくなれば、そもそも発生しません。担保として実行する場面では、その前提が崩れています。

この構造があるため、銀行のABLでは、継続課金の将来債権を担保として大きく評価することが難しくなっています。法律上できないのではなく、実行時の価値が読めないためです。

将来債権の譲渡自体は、集合債権譲渡担保 の記事のとおり法律上は可能です。問題は、評価と実行です。

この章の要点

根本的な問題は、会社が倒れれば債権も発生しないことです。

解約率が評価を決める

将来債権を評価しようとするなら、解約率が中心の指標になります。

指標 意味
月次解約率 1か月に解約される割合
金額ベースの解約率 件数ではなく金額で見た解約
継続期間の分布 どのくらい使われているか
過去のデータの長さ 何年分の実績があるか
データがなければ、評価できない

解約率が低いと主張しても、データがなければ材料になりません。創業から日が浅い会社は、実績の蓄積そのものが足りないため、評価が難しくなります。

件数ベースではなく金額ベースの解約率を見てください。小口の顧客が多数解約しても金額の影響は小さく、大口が1件解約すれば大きく効きます。

この章の要点

指標は金額ベースの解約率。データの蓄積がなければ評価できません。

数字で見る|解約率と残存期間

月次解約率から、平均してどのくらい契約が続くかを見ます。

月次解約率 平均継続月数(1 ÷ 解約率) 年に直すと
1% 100か月 約8.3年
2% 50か月 約4.2年
5% 20か月 約1.7年
10% 10か月 約0.8年
2%月次解約率
50か月平均継続月数
10%解約率が上がると

月次解約率が2%なら、平均して50か月続く計算になります。10%なら10か月です。

この数字を、そのまま担保評価に使えるわけではない

平均継続月数が50か月でも、50か月分の債権が担保として評価されることはありません。将来になるほど不確実性が増し、自社の継続も前提になるためです。この計算は、事業の質を示す材料として使ってください。

実務的には、解約率が低く安定していることを示せれば、融資の審査で返済原資の説明に使えます。担保評価より、そちらでの価値のほうが大きくなります。

この章の要点

解約率は担保評価より、返済原資の説明で効きます。

年契約と月契約で、評価が変わる

契約の形 将来債権の確実性 資金繰り
年契約・前払い —(売掛金が発生しない) 最も楽
年契約・後払い(月次請求) 高い(解約しにくい) 普通
月契約・自動更新 低い(いつでも解約できる) 普通

2番目の形が、担保としてはもっとも評価されやすい構成です。年間の契約があるため将来の債権が発生する確実性が高く、月次で請求するため売掛金も一定額が残ります。

ただし、資金繰りとしては前払いが強い

担保の評価と、資金繰りの楽さは別の話です。前払いにすれば、そもそも調達の必要性が減ります。どちらを取るかは、事業の状況によります。

この章の要点

担保としては年契約・月次請求が有利。ただし前払いのほうが資金繰りは楽です。

最低利用期間と解約の条項

条項 将来債権への効果
最低利用期間 その期間の債権は、確実性が上がる
中途解約時の違約金 解約されても、一定額が発生する
解約の予告期間 即日の解約を防ぐ
自動更新の条項 更新の手続きがなくても継続する
期間途中の返金の定め 返金する定めがあると、確実性が下がる
消費者向けでは、制約がある

契約者が消費者の場合、中途解約の制限や違約金の定めには、消費者契約法などによる制約があります。事業者向けと同じ設計はできません。契約を作るときは弁護士に確認してください。

また、特定の役務提供に該当する取引では、中途解約や書面の交付について法令上の定めがあります。該当するかを確認してください。

この章の要点

最低利用期間が確実性を上げます。ただし消費者向けには制約があります。

将来の売上を返済原資にする形

担保としてではなく、返済原資として将来の売上を使うという考え方があります。

形 内容
将来の売上の一定割合を返済に充てる 売上が減れば返済額も減る設計
ベンチャーデット 融資+新株予約権
通常の融資 返済原資として、継続収益の安定性を説明する
エクイティ 返済不要

1番目のような形を提供する事業者が増えています。担保を取るのではなく、将来の売上に連動して返済する設計です。

条件を必ず年率に換算して比べる

「売上の◯%を返済」という形は、そのままでは年率が分かりません。総返済額と返済期間から、年率に換算して他の手段と比べてください。手数料の比べ方は 債権を使った調達のコストの比べ方 の記事で扱っています。

3番目も現実的です。解約率が低く、継続収益が安定していることは、返済能力の説明として強い材料になります。担保がなくても、返済原資が説明できれば融資は検討されます。

この章の要点

担保ではなく返済原資として説明する道があります。年率に換算して比べてください。

結局、何で調達するか

状況 現実的な手段
売掛金が1〜2か月分ある その範囲でABL・債権譲渡
解約率が低く、実績がある 通常の融資(返済原資として説明)
黒字化している 通常の融資。金額も伸ばせる
赤字で成長中 エクイティ、または創業向けの制度
前払いに変えられる そもそも調達額を減らせる
ラウンドの間をつなぐ 希薄化しないデット

最後から2番目を先に検討してください。年払いへの切り替えや、着手金の導入で、必要額そのものが減ることがあります。

融資とエクイティの配分は 融資とエクイティの比率 の記事で扱っています。

債権担保にこだわらない

継続課金モデルでは、売掛金が薄いため債権担保で大きな金額は取れません。返済原資の説明で通常の融資を受けるか、エクイティを使うほうが現実的です。

この章の要点

債権担保にこだわらず、返済原資の説明で通常の融資を検討してください。

チェックリスト

継続課金の債権を資金調達に使うときに

  • 売掛金の残高が、実際にいくらあるか確認した
  • ARRと売掛金の残高が一致しないことを理解している
  • 請求・回収の条件(月次か年次か、前払いか後払いか)を把握した
  • 確定している債権と、将来債権を分けた
  • 契約者が法人か個人かの構成を把握した
  • 金額ベースの解約率を計算した
  • 解約率のデータが何年分あるか確認した
  • 契約に最低利用期間があるか確認した
  • 中途解約時の違約金の定めがあるか確認した
  • 消費者向けの場合、法令上の制約を確認した
  • 前払いへの切り替えで、必要額を減らせないか検討した
  • 担保ではなく、返済原資として説明する道を検討した
  • 将来の売上に連動する形の条件を、年率に換算して比べた
  • エクイティとの配分を検討した
この章の要点

1番から。売掛金が実際にいくらあるかを、まず確認してください。

よくある質問

Q. ARRが大きければ、担保も大きいですか
違います。ARR 1.2億円でも、月次請求・当月回収なら売掛金は1,000万円しかありません。担保になるのはこの残高だけです。事業の規模と担保の大きさは一致しません。
Q. 前払いにすると、担保がなくなりますか
なくなります。年次・前払いなら売掛金はほぼゼロです。ただし現金が先に入るため、そもそも資金調達の必要性が小さくなります。資金繰りが楽な形ほど担保がない、という関係です。
Q. 将来の契約分は担保になりませんか
法律上、将来債権の譲渡は可能です。ただし解約されれば発生せず、自社がサービスを提供できなくなっても発生しません。担保を実行する場面ではその前提が崩れているため、評価が難しくなります。
Q. 解約率が低ければ、評価は上がりますか
材料にはなりますが、担保評価より返済原資の説明で効きます。データが何年分あるかも見られます。創業から日が浅い会社は、実績の蓄積が足りず評価が難しくなります。
Q. 解約率から、どのくらい続くと言えますか
月次解約率2%なら平均50か月、10%なら10か月です(1÷解約率)。ただしこの月数分の債権が担保評価されるわけではありません。事業の質を示す材料として使ってください。
Q. 件数と金額、どちらの解約率を見ますか
金額ベースです。小口が多数解約しても金額の影響は小さく、大口が1件解約すれば大きく効きます。
Q. どういう契約なら、担保として有利ですか
年契約で、月次請求・後払いの形です。年間の契約があるため将来債権の確実性が高く、月次請求なので売掛金も一定額が残ります。ただし資金繰りとしては前払いのほうが楽です。
Q. 最低利用期間を設ければよいですか
将来債権の確実性は上がります。ただし契約者が消費者の場合、中途解約の制限や違約金の定めには法令上の制約があります。契約を作るときは弁護士に確認してください。
Q. 銀行は継続課金の債権を扱ってくれますか
確定している売掛金は通常どおり扱われます。将来債権については、評価の方法が確立しておらず、実行も現実的でないため、大きく評価されにくいのが実情です。
Q. 将来の売上に連動して返済する形は、どうですか
売上が減れば返済額も減る設計は、資金繰りの面で利点があります。ただし「売上の◯%」という形では年率が分かりません。総返済額と期間から年率に換算して、他の手段と比べてください。
Q. 結局、何で調達すればよいですか
売掛金が薄いため債権担保では大きな金額が取れません。解約率が低く実績があるなら、返済原資として説明して通常の融資を受けるほうが現実的です。赤字で成長中ならエクイティになります。
Q. 調達額を減らす方法はありますか
年払いへの切り替えや、着手金・初期費用の導入です。現金が先に入れば、必要な運転資金そのものが減ります。手段を比べる前に検討してください。
出典