
入金消込は、経理の地味な作業に見えます。しかしこれができていないと、売掛金に関するすべての管理が成り立ちません。
| やりたいこと | 消込ができていないと |
|---|---|
| 債権年齢表を作る | 残高が不正確で、作れない |
| 与信管理をする | 誰が遅れているか分からない |
| ABLの報告を出す | 試算表と明細が合わない |
| 資金繰り表を作る | 入金予定の精度が上がらない |
| 督促する | 本当に未入金かが分からない |
債権管理の記事では年齢表や与信管理を扱いますが、その前提として、入金が正しく消し込まれている必要があります。ここが崩れていると、上に何を積んでも意味がありません。
消込はすべての土台。ここが崩れると、上に積むものが機能しません。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 通帳・入金明細を確認する |
| 2 | 入金の金額と、振込人の名義を見る |
| 3 | どの取引先の、どの請求に対する入金かを特定する |
| 4 | 該当する売掛金を消し込む |
| 5 | 差額があれば、原因を調べる |
| 6 | 特定できない入金は、仮受金などで処理する |
難しいのは3番です。金額と名義だけで、どの請求か特定できるとは限りません。
月に3件請求している取引先が、まとめて1件で振り込んでくる。合計が一致すればよいですが、値引きや振込手数料で金額がずれると、どの請求がいくら払われたのか分からなくなります。
難しいのはどの請求に対する入金かの特定です。
| 合わない原因 | 内容 |
|---|---|
| 振込人名義が会社名と違う | 屋号、担当者名、代行会社名で振り込まれる |
| 複数の請求がまとめて入る | 内訳が分からない |
| 振込手数料が引かれている | 金額が一致しない |
| 値引き・返品が反映されている | 同上 |
| 相殺されている | 同上 |
| 一部だけ入金される | どの請求の一部か分からない |
| 期日と違う日に入る | 予定と突合できない |
1番目がとくに厄介です。「カ)ヤマダ」と振り込まれても、山田商事なのか山田工業なのか分かりません。取引先が増えるほど、この問題は大きくなります。
特定できない入金を仮受金に入れたまま放置すると、売掛金の残高が実態より大きいままになります。年齢表を作れば「滞留している」ように見え、実際には入金済み——という状態が生まれます。
最多の原因は振込人名義の不一致。取引先が増えるほど深刻になります。
月の入金件数によって、作業量がどう変わるかを見ます。
| 月の入金件数 | 1件あたり(手作業) | 月の作業時間 |
|---|---|---|
| 50件 | 3分 | 2.5時間 |
| 200件 | 3分 | 10時間 |
| 500件 | 3分 | 25時間 |
ここに、合わない案件の調査時間が加わります。1件の調査に30分かかるとして、月に10件あれば5時間です。
| 項目 | 200件の場合 |
|---|---|
| 通常の消込 | 10時間 |
| 合わない案件の調査(10件 × 30分) | 5時間 |
| 月の合計 | 15時間 |
| 年間 | 180時間 |
| 時給3,000円として | 年54万円 |
作業そのものより、合わない案件の調査が重くなります。件数が同じでも、突合の精度が低ければ調査時間が膨らみます。
重いのは合わない案件の調査。突合の精度が時間を決めます。
自動化の本質は、入金データと請求データを結びつける「鍵」を作ることです。
| 鍵 | 精度 | 相手への負担 |
|---|---|---|
| 金額 | 低い(同額が複数あると特定できない) | なし |
| 振込人名義 | 中 | なし |
| 請求番号を名義に入れる | 高い | あり |
| 取引先ごとの口座番号 | 非常に高い | なし |
請求番号を振込依頼人名に入れてもらうのは確実ですが、相手に手間をかけます。取引先ごとに振込先の口座番号を分ける方法なら、相手は指定された口座に振り込むだけで、負担がありません。
自動化とは突合の鍵を作ること。相手に負担をかけない方法を選んでください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| やること | 請求書に「振込依頼人名は御社名でお願いします」と記載 |
| 効果 | 名義で取引先が特定できる |
| 費用 | なし |
| 限界 | 複数の請求がまとまると、内訳は分からない |
もっとも手軽な方法です。ただし、支払代行サービスを使っている取引先では、代行会社の名義で振り込まれることがあります。この場合は名義では特定できません。
それでも、取引先ごとに名義のパターンを記録しておけば、次からは自動で判定できます。「カ)ヤマダショウジ=山田商事」という対応表を作ってください。
費用ゼロで始められます。名義のパターンを記録しておいてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| やること | 請求書に「振込依頼人名の前に請求番号をご記入ください」と記載 |
| 効果 | 請求単位で特定できる |
| 費用 | なし |
| 限界 | 相手が対応してくれるか |
相手の経理も、振込の作業を効率化しています。1社のために振込依頼人名を変える運用は、応じてもらえないことがあります。依頼はしてもよいですが、これに頼る設計にはしないでください。
ただし、取引先が少なく、関係が近い場合は有効です。1〜2社に依頼するだけで、多くの入金が特定できるなら試す価値があります。
確実ですが相手の協力が前提。これに頼る設計にはしないでください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| やること | 売掛金の入金だけを受ける口座を作る |
| 効果 | 他の入出金が混ざらず、明細が読みやすくなる |
| 費用 | 口座の維持費用 |
| 副次的な効果 | その口座の動きが、そのまま回収の記録になる |
これだけでも、消込の作業はかなり楽になります。経費の引き落とし、借入の入金、振替などが混ざった口座の明細から売掛金の入金を拾うのは、手間がかかります。
ABLでは入金の実績を報告します。専用口座があれば、その明細をそのまま出せます。混在した口座から抜き出す作業が不要になります。
ただし、担保契約で入金先の口座が指定されることがあります。契約の内容を確認してから決めてください。
専用口座にするだけで明細が読みやすくなります。ABLの報告にも効きます。
もっとも精度が高い方法です。取引先ごとに異なる振込先の口座番号を指定する仕組みが、金融機関から提供されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 1つの口座に、取引先ごとに異なる番号を割り当てる |
| 相手がすること | 指定された口座に振り込むだけ |
| 効果 | 口座番号で、取引先が確実に特定できる |
| 費用 | 金融機関のサービス利用料 |
| 導入 | 金融機関との契約が必要 |
相手は請求書に書かれた口座に振り込むだけです。名義がどうであれ、口座番号で取引先が分かります。これが最大の利点です。
提供の形や名称は金融機関によって異なります。取引金融機関に「入金の消込を自動化する仕組みはありますか」と聞いてみてください。
ただし、取引先の数が少なければ、費用に見合わないことがあります。入金件数と、消込にかかっている時間から判断してください。
相手に負担をかけずに確実に特定できます。件数が多いほど効きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| やること | 入出金の明細データを、会計ソフトに取り込む |
| 方法 | 金融機関の提供するデータ、または口座連携の機能 |
| 効果 | 手入力がなくなる。転記ミスが消える |
| 自動照合 | ソフトによっては、金額と名義で候補を提示する |
多くの会計ソフトに、口座の明細を取り込んで、売掛金と照合する機能があります。完全に自動にはなりませんが、候補が提示されるだけで作業時間は大きく減ります。
新しい仕組みを入れる前に、すでに使っている会計ソフトに消込の機能がないかを確認してください。使っていないだけ、ということがよくあります。
まずいまのソフトの機能を確認。使っていないだけのことがあります。
消込が正確になると、「いつ入金されているか」の実態が見えます。
| 取引先 | 契約上の支払日 | 実際の入金日 | 差 |
|---|---|---|---|
| A商事 | 月末 | 月末 | 0日 |
| B工業 | 月末 | 翌月5日前後 | +5日 |
| C製作所 | 10日 | 10日 | 0日 |
契約上の支払日ではなく、実際に入る日で資金繰り表を作れるようになります。B工業のように毎回5日遅れる相手がいれば、その前提で組めます。「入るはずの日に入らない」という事態が減ります。
資金繰り表の作り方は 事業計画の数値テンプレート の記事でも扱っています。
実際の入金日が分かると、資金繰り表の精度が上がります。
| 見えること | 意味 |
|---|---|
| 毎回同じ額の端数が残る | 振込手数料を相手が差し引いている |
| 不定期に端数が残る | 値引き・返品の処理のずれ |
| 請求額の一部だけ入る | 相手の資金繰りが苦しい可能性 |
| 特定の請求だけ入らない | 請求内容に争いがある |
消込が曖昧だと、これらが「なんとなく合わない」として埋もれます。正確に消し込めば、原因ごとに分けて見えるようになります。
振込手数料の数百円でも、月200件あれば年間で相当な金額になります。そして、残高が実態と合わなくなる原因にもなります。原因が分かれば、契約と請求書の記載で解決できます。
正確に消し込めば、端数の原因が分かれて見えます。
| 消込が不正確だと | 正確だと |
|---|---|
| 入金済みなのに滞留に見える | 本当に未入金のものだけが残る |
| 督促して、恥をかく | 正確に督促できる |
| 年齢表が信用できない | 年齢表がそのまま使える |
| ABLの報告が合わない | 試算表と一致する |
消込ができていない会社でよく起きます。督促したら「もう払っています」と言われ、調べ直すことになる。取引先との関係も損ないますし、時間も失います。
債権年齢表は、消込が正確であることを前提にした道具です。作り方は 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。
年齢表も督促も、消込が正確であることが前提です。
月200件の入金がある会社で、突合の自動化率を上げた場合を見ます。
| 項目 | 自動照合なし | 自動照合あり(8割が自動) |
|---|---|---|
| 手作業で処理する件数 | 200件 | 40件 |
| 通常の消込(1件3分) | 10時間 | 2時間 |
| 合わない案件の調査 | 5時間 | 2時間 |
| 月の作業時間 | 15時間 | 4時間 |
| 年間 | 180時間 | 48時間 |
| 時給3,000円として | 54万円 | 14.4万円 |
年間で約40万円分の時間が浮きます。この金額と、仕組みの導入費用を比べてください。
費用対効果を時間だけで測ると、小さく見えることがあります。しかし本当の価値は、年齢表・与信管理・資金繰り表が機能するようになることです。ここは金額に直しにくいものの、効果は大きくなります。
時間の削減は年40万円程度。本当の価値は、他の管理が機能することです。
| 順 | やること | 費用 |
|---|---|---|
| 1 | いま消込にかかっている時間を測る | なし |
| 2 | 合わない案件の原因を分類する | なし |
| 3 | 振込人名義の対応表を作る | なし |
| 4 | 請求書に振込手数料の負担を明記する | なし |
| 5 | いま使っている会計ソフトの消込機能を確認する | なし |
| 6 | 入金専用口座を作る | 口座の維持費 |
| 7 | 銀行データの取り込みを設定する | ソフトによる |
| 8 | 取引先ごとの口座番号の仕組みを検討する | サービス利用料 |
1番から5番までは費用がかかりません。まずここをやってから、必要に応じて6番以降を検討してください。
振込人名義と取引先の対応表を作るだけで、名義が分からずに調べる時間がなくなります。1回作れば、以後は追加するだけです。
1〜5番は費用ゼロ。まずここから始めてください。
3番の名義の対応表から。1回作れば、以後は追加するだけです。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。