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債権による調達

売掛金の残高を取引先に確認してもらう手続き

残高が正確になるだけでなく、相手が債務を承認することで時効が更新されます。積極的確認と消極的確認の違い、差異の典型4つ、逆に求められたときの対応を整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 自社の帳簿だけでは、確かめられないこと
  2. 残高確認とは何か
  3. 3つの効果
  4. ①残高が正確になる
  5. ②時効が更新される
  6. 債権の時効は何年か
  7. ③資金調達で信頼される
  8. 2つのやり方|積極的確認と消極的確認
  9. いつ送るか
  10. 書面に書くこと
  11. 返ってこないときの読み方
  12. 取引先から送られてきたとき
  13. 数字が合わないときの手順
  14. 数字で見る|差異の典型
  15. 電子帳簿保存法との関係
  16. 送る相手を絞る
  17. 手間を減らす工夫
  18. チェックリスト
  19. よくある質問

自社の帳簿だけでは、確かめられないこと

売掛金の残高は、自社の帳簿に記録されています。しかしその金額を、取引先も同じように認識しているとは限りません。

自社の認識 取引先の認識 差の原因
1,000万円の売掛金 950万円の買掛金 値引きの認識違い
請求済み 請求書が届いていない 送付漏れ
納品完了 検収未了 検収の基準の違い
1,000万円 支払済み 入金消込の漏れ

この差は、相手に確認しない限り分かりません。そして、分からないまま時間が経つほど、解決が難しくなります。

残高確認取引先に売掛金の残高を確認してもらう手続き。
残高確認書残高を記載して、相手に確認を求める書面。
債務の承認債務者が債務の存在を認めること。時効の更新事由になる。
消滅時効一定の期間が経過すると、権利が消滅する制度。
この章の要点

自社の帳簿と相手の認識はずれます。確認しなければ分かりません。

残高確認とは何か

「◯月◯日時点で、貴社に対する当社の売掛金は◯◯円です。相違がなければご確認ください」という書面を送り、相手に確認してもらう手続きです。

項目 内容
誰が送るか 債権者(自社)
誰に 取引先の経理部門
何を書くか 基準日、残高、内訳
求めること 確認して署名・押印のうえ返送
頻度 年1回〜半期に1回
監査法人が行う手続きと同じもの

上場企業の監査では、監査人が取引先に直接残高を確認します。「確認」と呼ばれる、監査手続きの中でも証明力の高い方法です。自社で行う場合も、考え方は同じです。

この章の要点

相手に書面で確認してもらう手続き。監査でも使われる方法です。

3つの効果

— 効果 いつ効くか
① 残高が正確になる すぐ
② 時効が更新される 回収が長引いたとき
③ 資金調達で信頼される ABL・債権譲渡の審査

多くの会社が①だけを意識していますが、実務上もっとも見落とされているのが②です。次の章以降で扱います。

この章の要点

効果は3つ。時効の更新が、最も見落とされています。

①残高が正確になる

見つかるもの 放置するとどうなるか
入金消込の漏れ 売掛金が実態より大きく計上される
請求書の送付漏れ そもそも請求されていない。回収されない
値引きの認識違い 端数が残り続ける
相殺の記録漏れ —
検収の未了 売上の計上時期が誤っている可能性
二重計上 —
請求書の送付漏れは、確認しないと分からない

請求書を発行したつもりで送っていない——これは自社の帳簿では気づけません。売掛金として計上されているので、残高としては正しく見えます。相手に確認して初めて「請求書が届いていない」と分かります。

とくに、金額が大きい取引や、担当者が交代した後の取引では確認する価値があります。

この章の要点

請求書の送付漏れは、自社の帳簿では気づけません。

②時効が更新される

ここが、この記事でもっとも重要な点です。債権には時効があり、一定の期間が経つと消滅します。

相手が残高を認めると、時効が更新される

民法では、債務者が債務を「承認」すると、時効が更新されます。それまでに経過した期間はリセットされ、そこから新たに時効期間が進みます。残高確認書に署名して返送してもらうことは、この「承認」にあたり得ます。

行為 時効への効果
債務の承認 時効の更新(リセット)
一部の支払い 承認にあたり得る
催告(内容証明での請求) 6か月間、時効の完成が猶予される
裁判上の請求 時効の完成猶予・更新
単なる督促の電話 証拠が残らない

つまり、回収が長引いている債権について、残高確認書を取っておけば、時効の心配をせずに交渉を続けられます。

具体的な効果は事案によります。時効が迫っている債権があるなら、弁護士に相談してください。ただし、日頃から残高確認を行っていれば、そもそもこの問題が起きにくくなります。

この章の要点

相手が残高を認めれば時効が更新されます。書面で残す意味はここにもあります。

債権の時効は何年か

2020年4月施行の改正民法で、時効の制度が整理されました。

基準 期間
権利を行使できることを知った時から 5年
権利を行使できる時から 10年

いずれか早いほうで時効が完成します。通常の売掛金では、支払期日が来れば行使できることを知っているので、実質的には5年と考えることになります。

改正前の職業別の短期時効は廃止された

以前は「飲食料は1年」「工事の代金は3年」といった職業別の短期時効がありました。改正でこれらは廃止され、統一されています。ただし改正前に発生した債権には、改正前の規定が適用されます。

5年は、思うより早く来ます。回収を諦めかけて放置していた債権が、気づけば時効という事態が起こります。

この章の要点

実質的には5年。放置している債権があるなら、期間を確認してください。

③資金調達で信頼される

場面 効果
ABLの担保評価 債権の実在が確認できる。評価が上がりうる
債権譲渡の審査 買い手のリスクが下がる
ABLの実地調査 帳簿の信頼性を示す材料になる
融資の審査 管理ができている会社と評価される
買い手がいちばん恐れるのは「架空の債権」

債権を買う側・担保に取る側が最も警戒するのは、そもそも存在しない債権です。残高確認書があれば、相手が存在を認めていることの証拠になります。

3者間の債権譲渡で条件が良くなるのも、同じ理由です。取引先が承諾することで、債権の存在が確認できるためです。この点は 対抗要件とは の記事で扱っています。

この章の要点

買い手が恐れるのは架空の債権。確認書はその証拠になります。

2つのやり方|積極的確認と消極的確認

方式 相手に求めること 返信率 証明力
積極的確認 一致・不一致にかかわらず返信 低い 高い
消極的確認 相違がある場合だけ返信 — 低い

消極的確認は手間がかかりませんが、「返信がない=一致している」とは限りません。単に見ていないだけかもしれません。

時効の更新を狙うなら、積極的確認

相手からの返信がなければ、債務の承認があったとは言えません。時効の更新や、資金調達での証明力を求めるなら、署名・押印のうえ返送してもらう形にしてください。

実務では、金額の大きい取引先には積極的確認、それ以外は消極的確認という使い分けが現実的です。

この章の要点

時効の更新や証明力を求めるなら積極的確認(返送してもらう形)です。

いつ送るか

時期 理由
決算期末 決算の数字を確定させる。年1回はここ
半期末 年2回にするなら
ABL・債権譲渡の申込前 資料として提出できる
滞留が発生したとき 時効の管理のため
担当者が交代したとき 引き継ぎの確認

基本は決算期末に年1回です。相手も決算のために残高を確認するので、応じてもらいやすい時期でもあります。

相手の決算期に合わせると、応じてもらいやすい

取引先の決算期末に送ると、相手も同じ作業をしているため対応が早くなります。主要な取引先の決算期は把握しておいてください。

この章の要点

基本は決算期末に年1回。滞留が出たら、その都度も。

書面に書くこと

項目 内容
基準日 いつ時点の残高か
残高の金額 —
内訳 請求日・請求番号・金額の明細
返送の期限 2週間程度が目安
返送の方法 返信用封筒、メール、FAXなど
相違がある場合の記入欄 相手の認識する金額を書いてもらう
署名・押印欄 —
担当者の連絡先 問い合わせ先
内訳を付けると、確認が早くなる

合計金額だけを書いて送ると、相手は自社のデータと突き合わせる作業が発生します。請求ごとの明細を付けておけば、相手はそれと照合するだけで済みます。返信率が上がります。

6番目も忘れずに。相違がある場合に、相手の認識する金額を書いてもらう欄を設けておくと、差の原因を特定しやすくなります。

この章の要点

内訳を付けると返信率が上がります。相違の記入欄も設けてください。

返ってこないときの読み方

状況 考えられること 対応
1回目で返ってこない 単に忘れている 再送・電話で依頼
何度依頼しても返らない 社内の体制の問題 担当者に直接確認
金額に争いがある 認識が違う 早期に協議する
連絡が取れない 信用上の懸念 与信を見直す
署名を拒む 何らかの理由がある 理由を確認する
返ってこないこと自体が情報

他の取引先は返してくるのに、特定の1社だけ返ってこない。その差には理由があります。与信管理の観点でも見てください。

与信管理の進め方は 与信管理を最小の手間で回す の記事で扱っています。

この章の要点

返ってこないこと自体が情報。与信の観点でも見てください。

取引先から送られてきたとき

逆の立場もあります。仕入先から「買掛金の残高を確認してください」という書面が届く場面です。

対応 影響
確認して返送する 相手との関係が保たれる。自社の買掛金も正確になる
放置する 支払う意思がないと受け取られうる
金額が違うまま署名する 認めたことになりうる
金額を確かめずに押印しない

署名・押印して返送することは、その金額の債務があると認めることになり得ます。自社の帳簿と突き合わせてから返してください。相違があれば、その旨を書いて返送します。

とくに注意すべきは、すでに支払った分が含まれていないかです。相手の消込が漏れていれば、二重に請求されている状態になります。そのまま認めると、後で争いになります。

確認すること 内容
基準日 いつ時点の残高か
支払済みの分が含まれていないか 相手の消込漏れ
値引き・返品が反映されているか —
検収していない分が含まれていないか —
相殺の記録 売掛金がある場合

返送する前に、自社の買掛金の明細と1件ずつ突き合わせてください。合っていれば署名して返す。合っていなければ、自社の認識する金額を書いて返す。それだけです。

放置も、選択としてまずい

返さないでいると、相手からは「支払う意思がないのか」と受け取られます。金額に争いがあるなら、なおさら書面で自社の認識を示しておくべきです。後の交渉で材料になります。

この章の要点

署名は債務を認めることになり得ます。突き合わせてから返送してください。

数字が合わないときの手順

順 やること
1 自社の明細と、相手の認識する金額を並べる
2 差額を計算する
3 差額に対応する取引を特定する
4 典型的な原因(後述)に当てはめる
5 どちらが正しいかを確認する
6 帳簿を修正するか、相手に修正してもらう
7 再発しないよう、運用を変える

7番を飛ばさないでください。同じ原因の差異が毎年出るなら、運用を変えなければ解決しません。

この章の要点

差異を直すだけでなく、運用を変えるまで進めてください。

数字で見る|差異の典型

自社が1,000万円、相手が940万円と認識している場合の内訳を分解します。

原因 金額 どちらが正しいか
入金済みだが、消込が漏れている 30万円 相手
値引きの認識違い 20万円 協議が必要
振込手数料の差 1万円 契約による
期ずれ(相手の計上が翌月) 9万円 どちらも正しい
差額の合計 60万円 —
1,000万円自社の認識
940万円相手の認識
60万円差額

この4つが、差異の典型です。1番目は自社の処理漏れ、4番目は期ずれなので実質的な問題ではありません。問題は2番目と3番目で、運用を変えないと毎回出ます。

振込手数料は、契約と請求書の両方に書く

「振込手数料は貴社にてご負担ください」と請求書にも記載してください。契約書だけでは、相手の実務担当者に伝わりません。1件数百円でも、件数が多ければ積み上がります。

この章の要点

差異の典型は4つ。値引きと振込手数料は運用を変えないと毎回出ます。

電子帳簿保存法との関係

残高確認書をやり取りする形は、紙だけではなくなっています。メールやシステムで送受信する場合、電子取引の保存の問題が出てきます。

やり取りの形 保存の扱い
紙で送り、紙で返送を受ける 紙のまま保存できる
メールで送受信する 電子取引として、電子での保存が求められうる
紙で送り、メールで返送を受ける 返送分は電子取引にあたりうる
取引情報の授受にあたるかを確認する

残高確認書が、電子帳簿保存法でいう電子取引の「取引情報」にあたるかは、書面の内容と運用によります。請求や支払いに関する情報を含むなら、保存の要件を確認してください。具体的な判断は税理士に相談してください。

実務としては、どちらの形で運用するかを決めて、保存の方法をそろえておくことです。紙とメールが混在すると、後で探すときに手間がかかります。

また、時効の更新や資金調達の資料として使うことを考えると、いずれの形でも「いつ、誰が、何を確認したか」が分かる状態で残す必要があります。メールなら送受信の記録ごと保存してください。

この章の要点

紙とメールを混在させない。保存の方法をそろえておいてください。

送る相手を絞る

全取引先に送るのは現実的ではありません。効果の大きいところに絞ってください。

優先度 対象 理由
高 売掛金の残高が大きい上位数社 差異の金額が大きい
高 滞留している債権のある取引先 時効の管理
高 ABL・債権譲渡の対象にする取引先 資料として必要
中 取引を始めて間もない先 運用の確認
中 担当者が交代した先 引き継ぎの確認
低 少額・単発の取引先 手間に見合わない

上位数社だけでも、売掛金の大部分がカバーできます。まずそこから始めてください。

この章の要点

上位数社と、滞留のある先から。全社に送る必要はありません。

手間を減らす工夫

工夫 効果
様式を固定する 毎年、数字を差し替えるだけにする
会計ソフトの機能を使う 残高確認書の出力機能があることがある
内訳を自動で出す 得意先元帳から生成する
返信用封筒を同封する 返信率が上がる
メールで送る 相手の運用に合わせる
決算期末の作業に組み込む 別の作業にしない
返信の管理表を作る 誰から返ってきたかを追う
決算の作業に組み込む

別の取り組みとして立ち上げると続きません。決算期末の締めの作業の一部として、毎年同じ時期にやる形にしてください。

債権の管理全般は 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。年齢表を作っていれば、送る相手の選定もそこからできます。

この章の要点

決算の作業に組み込む。別立てにすると続きません。

チェックリスト

残高確認を行うときに

  • 送る相手を、残高の大きい順に絞った
  • 滞留している債権のある取引先を含めた
  • 基準日を決めた(決算期末が基本)
  • 残高の内訳(請求ごとの明細)を付けた
  • 返送の期限と方法を明記した
  • 相違がある場合の記入欄を設けた
  • 署名・押印欄を設けた(積極的確認の場合)
  • 返信用封筒を同封した
  • 返信の管理表を作った
  • 返ってこない先に、再送・電話で依頼した
  • 差異があった場合、原因を特定した
  • 差異の原因に応じて、運用を変えた
  • 振込手数料の負担を、契約と請求書に明記している
  • 返送された確認書を保管している
  • 決算期末の作業に組み込んだ
この章の要点

14番の保管を忘れずに。時効の更新や資金調達で使う書類です。

よくある質問

Q. 残高確認は、何のためにやるのですか
3つあります。残高が正確になること、相手が債務を承認することで時効が更新されること、資金調達の審査で債権の実在を示せることです。
Q. 自社の帳簿が正しければ、確認は不要ですか
請求書の送付漏れは、自社の帳簿では気づけません。売掛金として計上されているので残高は正しく見えます。相手に確認して初めて分かります。
Q. 時効は何年ですか
権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早いほうです。通常の売掛金では実質的に5年と考えてください。2020年4月施行の改正民法により、職業別の短期時効は廃止されました。
Q. 残高確認で、本当に時効が更新されますか
債務者が債務を承認すれば時効は更新されます。残高確認書に署名して返送してもらうことは、この承認にあたり得ます。ただし具体的な効果は事案によるため、時効が迫っている債権は弁護士に相談してください。
Q. 積極的確認と消極的確認、どちらがよいですか
時効の更新や資金調達での証明力を求めるなら積極的確認です。返信がないと債務の承認があったとは言えません。金額の大きい先は積極的、それ以外は消極的という使い分けが現実的です。
Q. いつ送るのがよいですか
決算期末に年1回が基本です。相手の決算期末に合わせると、相手も同じ作業をしているため対応が早くなります。滞留が発生したときは、その都度も送ってください。
Q. 返信率を上げるには、どうすればよいですか
合計金額だけでなく、請求ごとの明細を付けてください。相手は自社のデータと照合するだけで済みます。返信用封筒の同封、相手の運用に合わせた送付方法も効きます。
Q. 返ってこない場合は、どうしますか
まず再送と電話での依頼です。何度依頼しても返らない、連絡が取れないという場合は、与信の観点でも見てください。他の取引先が返してくるのに1社だけ返ってこないなら、理由があります。
Q. 金額が合いませんでした
典型的な原因は、入金消込の漏れ、値引きの認識違い、振込手数料の差、期ずれの4つです。差額に対応する取引を特定して、どちらが正しいかを確認してください。原因に応じて運用も変えてください。
Q. 振込手数料の差が毎回出ます
「振込手数料は貴社にてご負担ください」と、契約書だけでなく請求書にも記載してください。契約書だけでは相手の実務担当者に伝わりません。
Q. 全取引先に送る必要がありますか
ありません。残高の大きい上位数社と、滞留している債権のある取引先から始めてください。上位数社だけでも、売掛金の大部分がカバーできます。
Q. 返送された確認書は、どうすればよいですか
保管してください。時効の更新の証拠になりますし、ABLや債権譲渡の審査で債権の実在を示す資料にもなります。捨てないでください。
出典

  • 民法 第166条(債権等の消滅時効)、第152条(承認による時効の更新)、第150条(催告による時効の完成猶予)— e-Gov法令検索
  • 民法(債権関係)の改正 — 法務省
  • 中小企業の会計に関する基本要領 — 中小企業庁