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融資による調達

メインバンクをどう決め、どう付き合うか

どの行もメインだと思っていない状態がいちばん危険です。金融機関の種類と向き不向き、信用金庫の会員資格、シェアの考え方、担当者交代への備え、報告の頻度を整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. メインバンクに、法律上の定義はない
  2. 金融機関の種類と、それぞれの向き不向き
  3. 信用金庫・信用組合には取引できる規模の制限がある
  4. メインをどう決めるか
  5. 借入シェアの考え方
  6. 1行に集中させると、何が起きるか
  7. 担当者は数年で変わる
  8. 支店長との接点を持つ
  9. 何を、いつ報告するか
  10. やってはいけない4つ
  11. メインを変えるとき
  12. 公庫・商工中金の位置づけ
  13. 段階別の付き合い方
  14. 関係を数字で点検する
  15. チェックリスト
  16. よくある質問

メインバンクに、法律上の定義はない

「メインバンク」という言葉に、法律上の定義はありません。実務では、次のいずれかを満たす金融機関を指すのが通常です。

指標 内容
借入シェアが最も大きい もっとも一般的な判断基準
決済口座として使っている 売上の入金、仕入・給与の支払がその口座を通る
最初に相談する先 資金需要が出たとき、最初に持ち込む相手
業況を継続的に把握している 試算表・資金繰り表を渡している

重要なのは、この4つが一致していないことが珍しくない点です。借入はA行が最大なのに、決済はB行、相談はC行の担当者に——という状態はよくあります。この場合、どの金融機関も「自分がメインだ」とは思っていません。

「誰もメインだと思っていない」状態が、いちばん危ない

資金が必要になったとき、どの金融機関も「まず他行が動くべき」と考える状態になります。平時は問題になりませんが、業況が悪化したときに、どこも主導的に動きません。

この章の要点

定義はありません。危ないのはどの行もメインだと思っていない状態です。

金融機関の種類と、それぞれの向き不向き

種類 特徴 向いている段階
日本政策金融公庫 政府系。創業融資の制度が整っている 創業期
信用金庫・信用組合 地域密着。小口に対応。会員資格に規模の制限 創業期〜成長初期
第二地方銀行・地方銀行 地域の中核。金額の幅が広い 成長期
都市銀行 金額は大きいが、小口には向きにくい 規模が大きくなってから
商工組合中央金庫 中小企業向けの政府系。組合員制度 成長期

創業期に都市銀行に口座を作りに行っても、融資の話にはなりにくいのが実情です。金額の規模が合わないためで、会社の良し悪しの問題ではありません。

順序としては、公庫と信用金庫から始め、規模が大きくなるにつれて地方銀行、さらに都市銀行へと広げていくのが一般的な流れです。最初に作った関係が、後で効いてきます。

公庫と商工中金の使い分けは 公庫以外の公的資金 の記事で扱っています。

この章の要点

金額の規模で相手が決まります。創業期は公庫と信用金庫から始めるのが現実的です。

信用金庫・信用組合には取引できる規模の制限がある

見落とされやすい点です。信用金庫と信用組合は協同組織の金融機関であり、取引できる事業者の規模に法律上の制限があります。

金融機関 会員・組合員の資格(事業者の場合)
信用金庫 従業員300人以下 または 資本金9億円以下
信用組合 従業員300人以下 または 資本金3億円以下(業種により異なる)

「または」である点が重要です。従業員が300人を超えても、資本金が基準以下であれば資格を満たします。逆に言えば、資本金が大きくなり、かつ従業員も増えると、資格を失う可能性があります。

大型調達で資本金が膨らむと、影響しうる

払込額の2分の1は資本金に計上する必要があるため、大型のエクイティ調達をすると資本金は自動的に大きくなります。信用金庫との関係を続けたいなら、資本金の額の決め方も判断材料に入ります。資本金の設計は 資本金の額をいくらにするか の記事で扱っています。

また、営業区域の定めもあります。本店・事業所が区域外にあると、そもそも取引できません。移転を検討するときは、この点も確認してください。要件の詳細は各金融機関に確認が必要です。

この章の要点

信用金庫・信用組合には規模と区域の制限があります。成長すると外れることがあります。

メインをどう決めるか

「向こうから決めてくれる」ものではありません。こちらが決めて、そのように振る舞うことで決まります。

判断材料 見るべき点
金額の余力 今後3年で必要になる金額に、その金融機関が対応できるか
担当者・支店の理解 事業の中身を理解しようとしているか
これまでの実績 難しい局面で動いてくれたことがあるか
距離 物理的に近いか。訪問と来訪の頻度に効く
本部との距離 支店の裁量の範囲。上に持っていける案件の大きさ

もっとも重要なのが1番目です。今は十分でも、3年後に必要な金額に対応できない金融機関をメインにすると、その時点で組み替えが必要になります。成長を見込んでいるなら、1段上の規模の金融機関との関係も並行して作っておいてください。

3番目も見ておく価値があります。業況が良いときに貸してくれるのは、どの金融機関も同じです。差が出るのは、苦しいときにどう振る舞ったかです。過去にそういう局面があったなら、その記憶が判断材料になります。

この章の要点

決め手は3年後の必要額に対応できるか。今の規模で選ばないでください。

借入シェアの考え方

メインにどれだけ集中させるかは、バランスの問題です。

状態 利点 欠点
1行に集中 関係が深くなる。手続きが簡単 方針転換に対応できない
メイン+1〜2行 比較ができる。1行が止まっても代替がある 説明の手間が増える
多数に分散 リスクは分散される どこも深く関わらない

実務的には、メインを明確に置いたうえで、2〜3行と取引するのが標準的な形です。メインのシェアを最も大きくし、他行にも一定の残高を置いておきます。

「2行目以降は要らないのでは」と思うかもしれませんが、取引実績がない金融機関は、必要になった時点では動けません。審査には過去の取引実績が材料として使われます。少額でもよいので、平時から残高を持っておく意味はここにあります。

複数行から借りるときの順番と配分は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。

この章の要点

メインを明確に、加えて2〜3行。実績のない金融機関は、いざというとき動けません。

1行に集中させると、何が起きるか

1行取引は、平時には効率的です。問題が出るのは、金融機関側の事情が変わったときです。

金融機関側で起きること 借り手への影響
業種に対する方針が変わる その業種への新規融資が絞られる
支店の方針・目標が変わる 同じ案件でも扱いが変わる
担当者・支店長が交代する これまでの理解が引き継がれない
合併・統合が起きる 審査の基準が変わる
自行の与信枠に余裕がなくなる 良い会社でも出せなくなる

いずれもこちらの業績とは無関係に起こります。1行に集中していると、これらが起きた時点で選択肢がありません。

代替先を作るのは、必要になる前

資金が必要になってから新しい金融機関に行っても、間に合いません。審査には決算書だけでなく、取引の実績が使われます。平時に少額でも借りて、返済実績を作っておくことが、その準備です。

この章の要点

方針転換は業績と無関係に起こります。代替先は、必要になる前に作ってください。

担当者は数年で変わる

多くの金融機関で、担当者は数年で交代します。支店長も同様です。これは制度として組み込まれた仕組みであり、避けられません。

交代で起きること 対処
事業の理解が一からになる 事業内容の資料を、常に最新にしておく
口頭で共有していた事情が消える 重要なことは書面で渡す
関係の深さがリセットされる 支店長・次長とも接点を持っておく
前任の評価が引き継がれない場合がある 提出資料の履歴が、実質的な記録になる

対策の中心は「書面で残す」ことに尽きます。毎月の試算表と資金繰り表を渡していれば、それがそのまま引き継ぎ資料になります。口頭で築いた信頼は、担当者とともに消えます。

交代の挨拶に来たときは、前任者と同じ説明を、あらためて一通り行ってください。「前任から聞いていると思いますが」で済ませると、実際には伝わっていないことが多くあります。

この章の要点

関係は担当者ではなく、資料に蓄積させてください。交代は必ず来ます。

支店長との接点を持つ

融資の可否は、支店の裁量で決まる部分と、本部の判断による部分に分かれます。支店長が案件をどう扱うかは、実務上大きな差になります。

機会 使い方
決算の報告 年1回、決算書を持参して直接説明する
期中の業況報告 半年に1回程度、数字の推移を説明する
大きな案件の相談 担当者経由だけでなく、直接話す機会を作る
支店長の交代時 着任後、早めに挨拶と説明の機会を持つ

頻繁に会う必要はありません。年に2回程度、数字を持って説明するだけで、支店内での認知はまったく変わります。担当者にとっても、支店長が事業を理解していれば稟議を上げやすくなります。

その場で話す内容は、業績の報告と、今後の資金需要の見通しです。具体的な依頼をしなくてもかまいません。「この会社は、必要になる前に話に来る」という認識を作るのが目的です。

この章の要点

年2回、数字を持って会う。必要になる前に来る会社という認識を作ってください。

何を、いつ報告するか

時期 報告すること 相手
毎月 試算表・資金繰り表・受注状況 担当者
決算確定後、できるだけ早く 決算書・勘定科目内訳明細書・申告書 担当者+支店長
半年ごと 業績の推移と、今後の見通し 支店長
随時 悪い情報(大口の失注、取引先の倒産など) すぐに担当者へ
随時 設備投資、増員、新規事業などの計画 担当者

4番目が最も重要です。悪い情報は、こちらから先に伝えてください。取引先の倒産や大口の失注は、いずれ決算書や資金繰りに表れます。後から分かるのと、先に聞いているのとでは、扱いがまったく違います。

決算書は、確定したらすぐに持っていってください。提出が遅れること自体が、何かあるのではないかという疑いを生みます。内容が良くない期ほど、早く出すのが基本です。

この章の要点

悪い情報こそ、こちらから先に。決算書は、内容が悪い期ほど早く出してください。

やってはいけない4つ

やってはいけないこと なぜ
他行の条件を黙って使い、比較だけする 手間をかけさせて実行しないことが続くと、案件を上げてもらえなくなる
悪い情報を伏せる 後から判明すると、以後すべての説明の信頼性が落ちる
資料の提出が遅れる・出さない 把握できないこと自体が、金融機関の内部で問題になる
行ごとに違う説明をする 必ず食い違いが表面化する

1番目は、条件交渉そのものを否定するものではありません。他行の条件を示して交渉することは、正当な行為です。問題になるのは、実行する気がないのに見積もりだけ取り続ける場合です。

「A行がこの条件を出しています。同等にしていただけるなら、御行で実行したい」——実行する意思を示したうえでの交渉であれば、金融機関も検討します。

この章の要点

条件交渉は問題ありません。問題は実行する意思なく見積もりだけ取ることです。

メインを変えるとき

成長にともなって、メインを変える必要が出ることがあります。金額の規模が合わなくなった、担当の支店の裁量を超えた、といった場合です。

やること 注意点
新しい金融機関との取引を先に作る 少額から始め、返済実績を作る
既存のメインには、正直に伝える 黙って比重を移すと、必ず気づかれる
既存の借入を一括で返さない 関係を切ると、戻れなくなる
時間をかける 1〜2年かけて比重を移す
関係を切らずに、比重を移す

これまでのメインを外すのではなく、新しい金融機関の比重を上げていく形にしてください。一括返済して関係を終わらせると、その金融機関には二度と戻れません。選択肢を減らす行為です。

正直に伝えることには、意外な効果もあります。「今後こういう規模の資金が必要になる」と伝えると、既存のメインが対応を検討することがあります。話す前に諦めないでください。

この章の要点

切るのではなく比重を移す。1〜2年かけて、正直に進めてください。

公庫・商工中金の位置づけ

政府系金融機関は、民間の金融機関とは役割が違います。メインバンクの議論とは別枠で考えてください。

機関 役割 民間との関係
日本政策金融公庫 創業・小規模事業者向けの制度が中心 民間と併用するのが前提
商工組合中央金庫 中小企業向け。組合員制度がある 民間と併用する

公庫から借りていることは、民間の金融機関にとってマイナスにはなりません。創業期に公庫で実績を作り、その返済履歴をもって民間に持ち込む、という流れは一般的です。

むしろ、公庫だけで完結させてしまうほうが問題です。公庫には限度額があり、規模が大きくなれば民間との取引が必要になります。公庫で借りられているうちに、民間との関係を作っておいてください。

この章の要点

公庫はマイナスになりません。問題は公庫だけで完結させることです。

段階別の付き合い方

段階 取引先 やること
創業期 公庫+信用金庫 創業融資で実績を作る。決済口座を集約する
成長初期 信用金庫(メイン)+公庫 保証協会付きで実績を重ねる。月次の情報提供を始める
成長期 信用金庫/地方銀行+1〜2行 プロパー融資への移行を目指す。2行目を作る
拡大期 地方銀行(メイン)+2〜3行 枠の設定、経営者保証の解除を交渉する

各段階で共通するのは、次の段階で必要になる関係を、1段階前から作り始めることです。必要になってから動くと、実績がないまま審査を受けることになります。

保証協会付きからプロパーへの移行は プロパー融資へ移るには、経営者保証の解除は 経営者保証ガイドライン の記事で扱っています。

この章の要点

次の段階の関係を1段階前から作る。必要になってからでは実績が足りません。

関係を数字で点検する

感覚ではなく、数字で確認してください。年に1回、次の表を作ります。

金融機関 借入残高 シェア 金利 保証 次回期日
A信用金庫 5,000万円 50% — 協会付き —
B銀行 3,000万円 30% — プロパー —
日本政策金融公庫 2,000万円 20% — — —
合計 1億円 100% — — —

この表を作ると、見えてくることがあります。

確認すること 問題があるとすれば
メインのシェアは十分か 1位と2位が拮抗していると、どちらも主導しない
プロパーの比率はどうか すべて保証協会付きだと、協会の枠を使い切る
金利に説明できない差はないか 交渉の余地がある
返済期日が重なっていないか 同じ時期に借換が集中すると、資金繰りが不安定になる
取引のない金融機関はどこか 代替先の候補

とくに返済期日の集中は見落とされがちです。複数の借入が同じ時期に期日を迎えると、その時期に借換の交渉が集中し、1行でも止まると資金繰りが崩れます。期日は意図的にずらしてください。

この章の要点

年1回、残高・シェア・金利・期日を一覧にする。期日の集中が見つかります。

チェックリスト

金融機関との関係を点検する

  • 借入シェアの一覧を作り、メインが明確になっている
  • 借入・決済・相談の窓口が、同じ金融機関に集まっている
  • メイン以外に、取引実績のある金融機関が1〜2行ある
  • 3年後に必要になる金額に、メインが対応できるか確認した
  • 信用金庫・信用組合と取引している場合、会員資格の要件を満たしているか確認した
  • 返済期日が同じ時期に集中していない
  • プロパーと保証協会付きの比率を把握している
  • 毎月、試算表と資金繰り表を渡している
  • 決算書を確定後すみやかに提出している
  • 年2回程度、支店長と直接話す機会がある
  • 悪い情報を、こちらから先に伝える運用にしている
  • すべての取引行に、同じ資料を渡している
  • 担当者が交代したら、一通り説明し直している
  • 公庫だけで完結せず、民間との取引がある
この章の要点

1番と3番が土台です。メインが明確で、代替先がある状態を作ってください。

よくある質問

Q. メインバンクは、何行と取引するのが適切ですか
メインを1行明確に置き、加えて2〜3行というのが標準的な形です。1行だけだと相手の方針転換に対応できず、分散しすぎるとどこも深く関わりません。
Q. 創業したばかりですが、どこから始めればよいですか
日本政策金融公庫と、地元の信用金庫から始めるのが現実的です。都市銀行は金額の規模が合わず、融資の話になりにくいのが実情です。
Q. 信用金庫と取引できなくなることがありますか
会員資格に規模の制限があります。従業員300人以下または資本金9億円以下が目安ですが、詳細は各金庫に確認してください。大型の増資で資本金が膨らむと影響する可能性があります。
Q. 使っていない口座でも、残高を置いておくべきですか
口座だけでは取引実績になりません。少額でもよいので借りて、返済実績を作ることに意味があります。審査では過去の取引実績が材料として使われます。
Q. 他行の条件を出して交渉してもよいですか
問題ありません。ただし実行する意思を示したうえで行ってください。見積もりだけ取り続けると、案件を上げてもらえなくなります。
Q. メインバンクを変えたいのですが、どう進めればよいですか
新しい金融機関との取引を先に作り、1〜2年かけて比重を移してください。既存の借入を一括返済して関係を切ると、戻れなくなります。既存のメインにも正直に伝えてください。
Q. 担当者と合わないときは、どうすればよいですか
数年で交代するため、待つという選択肢もあります。それまでの間は、書面での提出を徹底して記録を残してください。支店長・次長との接点を持っておくことも有効です。
Q. 公庫から借りていると、民間の評価は下がりますか
下がりません。むしろ創業期に公庫で返済実績を作り、それを民間に持ち込むのは一般的な流れです。問題は、公庫だけで完結させて民間との関係を作らないことです。
Q. 悪い情報は、どこまで伝えるべきですか
資金繰りや決算に影響する事実は伝えてください。大口取引先の倒産、主要案件の失注、想定外の支出などです。いずれ数字に表れるため、先に伝えるほうが有利です。
Q. 支店長に会うのは、失礼になりませんか
なりません。業績の報告として年2回程度、数字を持って説明する機会を作ってください。担当者を通して依頼すれば、通常は対応してもらえます。
Q. 返済期日をずらすには、どうすればよいですか
新しく借りるときに、既存の期日と重ならないよう期間を設定します。すでに集中している場合は、借換のタイミングで調整してください。
Q. エクイティで調達している会社も、銀行と付き合う必要がありますか
あります。調達環境は変わりますし、融資は希薄化を伴いません。ただし赤字が続く段階では評価されにくいため、平時から関係を作っておく意味が大きくなります。融資とエクイティの比率の記事で扱っています。
出典