
事業計画書には、事業の内容、市場、競合、体制など、多くのことを書きます。しかし融資の審査で最初に読まれるのは、数値計画の部分です。
理由は単純で、担当者が稟議書に転記するのが、その数字だからです。事業の魅力をどれだけ丁寧に書いても、返済の裏づけになる数字がなければ、稟議書の欄は埋まりません。
順序が逆になっている計画書をよく見ます。先に数字を組み立て、その数字がなぜそうなるのかを文章で説明する——この順で作ると、全体の整合が取れます。
最初に読まれるのは数値計画。文章は、その数字の説明として書いてください。
数値計画に対する問いは、突き詰めると3つです。
| 問い | 答えるもの | 示し方 |
|---|---|---|
| 1. その売上は、どこから来るのか | 売上の根拠 | 単価 × 数量の積み上げ |
| 2. 本当にその費用で足りるのか | 費用の妥当性 | 固定費の内訳、変動費率 |
| 3. いつから、いくら返せるのか | 返済原資 | 簡易キャッシュフローと返済額の比較 |
このうち、多くの計画書で欠けているのが3番目です。売上と利益の計画は書いてあるのに、「その利益から、この借入をどう返すのか」が書かれていません。
利益と返済可能額が別物であることは 返済原資の説明 の記事で扱っています。元本の返済は損金にならないため、返済額と同じだけ利益が出ていても足りません。
問いは3つ。欠けやすいのは「いつから、いくら返せるのか」です。
売上計画でもっとも重要なのは、総額ではなく、分解されているかです。
| 書き方 | 読まれ方 |
|---|---|
| 「初年度 売上2,160万円」 | 根拠がない。どこから出た数字か分からない |
| 「月額サービス、既存20社+新規月2社」 | やや前進。単価が不明 |
| 「月額5万円 × 20社 = 月100万円、受託案件 80万円 × 月1件」 | 検証できる。数量の前提を議論できる |
分解する利点は、議論ができるようになることです。「月2社の新規獲得は、今の営業体制で可能か」という問いに対して、根拠を示せます。総額で書かれていると、この議論そのものが成立しません。
単価と数量に分けると、自分でも無理な前提に気づきます。「年間3,000万円」は言えても、「月15件を12か月」と書くと、その体制がないことが見えてきます。銀行に出す前に、自分の検証になります。
単価 × 数量に分解する。分解して初めて、議論と検証ができます。
同じ売上2,160万円を、2つの書き方で比べます。
| 項目 | A:総額で書いた場合 | B:分解して書いた場合 |
|---|---|---|
| 記載 | 年間売上 2,160万円 | 月額サービス 5万円×20社+受託 80万円×月1件 |
| 担当者の作業 | 根拠を聞き取る必要がある | そのまま稟議書に書ける |
| 議論 | 「多すぎませんか」で終わる | 「20社の内訳は」と具体的に進む |
| 感度の確認 | できない | 「15社なら」と計算し直せる |
| 実績との比較 | 売上総額だけ | 件数と単価のどちらがずれたか分かる |
最後の行が、実は長期的にいちばん効きます。計画と実績がずれたとき、原因を件数か単価かに切り分けて説明できるためです。「売上が届きませんでした」ではなく「単価は計画どおりでしたが、件数が月1.5件でした」と言えると、計画の精度そのものへの信頼が変わります。
分解しておくと、ずれた原因を切り分けて説明できます。次の計画の信用につながります。
ここまでの考え方をそのまま形にしたテンプレートです。単価と数量、固定費を入れれば、月次の損益と返済原資まで自動で計算されます。
水色の欄に入力すると、グレーの欄が自動で計算されます。Excel版には計算式が入っています。
1 売上計画(商品・サービスごとに、単価と数量で)
| 商品・サービス | 単価 | 月間数量 | 月間売上 | 年間売上 |
|---|---|---|---|---|
| (例)月額サービスA | 50,000 | 20 | 1,000,000 | 12,000,000 |
| (例)受託案件B | 800,000 | 1 | 800,000 | 9,600,000 |
| 合計 | 1,800,000 | 21,600,000 |
2 費用計画(変動費率と、毎月の固定費)
| 区分 | 項目 | 月額 | 年額 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 変動費 | 売上に対する割合(%) | 30 | 仕入・外注など売上に比例する費用 | |
| 固定費 | 役員報酬 | |||
| 固定費 | 給与・賞与 | |||
| 固定費 | 法定福利費 | |||
| 固定費 | 地代家賃 | |||
| 固定費 | 水道光熱費 | |||
| 固定費 | 通信費 | |||
| 固定費 | 広告宣伝費 | |||
| 固定費 | 支払手数料 | |||
| 固定費 | 減価償却費 | 返済原資の計算に使うので必ず入れる | ||
| 固定費 | その他 | |||
| 固定費 | 合計 |
3 月次損益(1と2から計算する)
| 項目 | 計算のしかた |
|---|---|
| 売上高 | 1 売上計画の月別合計 |
| 変動費 | 売上高 × 変動費率 |
| 売上総利益 | 売上高 - 変動費 |
| 固定費 | 2 費用計画の固定費合計(月額) |
| 営業利益 | 売上総利益 - 固定費 |
| 累計営業利益 | 前月の累計 + 当月の営業利益 |
4 返済原資(返せるかどうかの確認)
| 項目 | 金額 | 計算のしかた |
|---|---|---|
| 営業利益(年間) | 3 月次損益の年間合計 | |
| 減価償却費(年間) | 2 費用計画の減価償却費の年額 | |
| 法人税等の負担率(%) | 30 | 概算。税理士に確認する |
| 税引後利益 | 営業利益 × (1 - 税率) | |
| 簡易キャッシュフロー | 税引後利益 + 減価償却費 | |
| 年間の元本返済額 | すべての借入の元本返済額の合計 | |
| 過不足 | 簡易キャッシュフロー - 年間の元本返済額 | |
| 必要な税引前利益 | (年間の元本返済額 - 減価償却費) ÷ (1 - 税率) |
5 入れてはいけない数字(提出前の確認)
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 根拠のない売上 | 市場規模の何%という置き方。単価×数量に分解できているか |
| 右肩上がりだけの計画 | 季節性も失注も織り込んでいない計画になっていないか |
| 固定費が実態より小さい | 人を増やす前提の売上なのに人件費が増えていないか |
| 減価償却費の計上漏れ | 設備があるのに償却費が入っていないか |
| 前回の計画と整合しない | 前に出した計画と説明が食い違っていないか |
| 達成できない数字 | 後で実績と比べられることを前提に置いているか |
Excel版は、株数と1株あたり金額を入れると持株比率が自動で出ます。 入力するところは水色、自動で計算されるところはグレーに塗り分けてあります。 1枚目に使い方、最後に用語集が入っています。
コピーを押すと、タブ区切りでクリップボードに入ります。 Googleスプレッドシートに貼ると列が揃ったまま入ります(計算式は入りません)。
入っている数字はすべて記入例です。実在の会社のものではありません。 自社の数字に置き換えて使ってください。
| シート | やること |
|---|---|
| はじめに | 使い方の3ステップ。最初に読む |
| 1 売上計画 | 商品・サービスごとに、単価と各月の数量を入れる |
| 2 費用計画 | 変動費率と、固定費の月額を入れる |
| 3 月次損益 | 自動計算。累計がプラスに転じる月を確認する |
| 4 返済原資 | 年間の元本返済額を入れると、足りるかどうかが出る |
| 入れてはいけない数字 | 提出前の確認 |
入力するのは1と2、それに4の返済額だけです。3は完全に自動で、4も返済額を入れれば過不足と必要な税引前利益まで出ます。
金額の単位は決めて統一してください。途中で単位を変えると、計算結果が合わなくなります。
入力するのは単価・数量・固定費・返済額の4つだけです。
費用を一括りにすると、売上が変わったときの利益が計算できません。売上に比例して増えるもの(変動費)と、増えないもの(固定費)に分けてください。
| 区分 | 代表的なもの | 売上が2倍になると |
|---|---|---|
| 変動費 | 仕入原価、外注費、販売手数料、運賃 | おおむね2倍になる |
| 固定費 | 役員報酬、給与、家賃、保険料、減価償却費 | 基本的に変わらない |
実務では、きれいに分かれないものもあります。厳密さより、分けてあることのほうが重要です。迷うものは、比率が大きいほうに寄せてかまいません。
計上漏れが最も多いのがここです。設備があるのに償却費が入っていないと、利益が実態より大きく出ます。さらに、返済原資の計算にも使う数字なので、無いと計画そのものが組めません。
厳密さより分けてあること。減価償却費の計上漏れに注意してください。
固定費と変動費に分けると、いくら売れば赤字にならないかが計算できます。
売上総利益率は「1 - 変動費率」です。変動費率が30%なら、売上総利益率は70%になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月間の固定費 | 700万円 |
| 変動費率 | 30% |
| 売上総利益率 | 70% |
| 損益分岐点売上(月) | 1,000万円 |
ここで変動費率が30%から35%に上がると、売上総利益率は65%になり、損益分岐点は700万円 ÷ 0.65 = 約1,077万円に上がります。
変動費率が5ポイント上がるだけで、必要な売上が月77万円増えます。この計算を自分でしていると、計画の説明が具体的になります。「原価が上がったので」ではなく、「原価率が5ポイント上がり、損益分岐点が月77万円上がったので、この2つの施策で戻します」と話せます。
固定費 ÷ 売上総利益率。変動費率5ポイントの変化が、必要売上を大きく動かします。
ここが、多くの計画書で抜けている部分です。利益の計画は書いてあるのに、そこから借入をどう返すのかが書かれていません。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 営業利益(年間) | 1,000万円 | 3 月次損益から |
| 法人税等(30%) | ▲300万円 | 概算 |
| 税引後利益 | 700万円 | — |
| 減価償却費(年間) | +200万円 | 現金が出ていない費用 |
| 簡易キャッシュフロー | 900万円 | 返済に回せる現金 |
| 年間の元本返済額 | ▲1,200万円 | 全借入の合計 |
| 過不足 | ▲300万円 | 毎年この分だけ現金が減る |
営業利益1,000万円の計画でも、年間1,200万円の返済には足りません。この表を計画書に入れておくと、担当者は返済計画の欄をそのまま埋められます。
足りない場合に必要な税引前利益も出しておいてください。この例なら、(1,200万円 - 200万円)÷ 0.7 = 約1,429万円です。計画の営業利益がこの水準に届いていないなら、計画か返済期間のどちらかを変える必要があります。
返済原資の表を計画書に入れる。足りないなら、計画か期間を変えてください。
数値計画というと損益(売上と利益)の計画を指しがちですが、銀行が返済の裏づけとして見るのは資金繰りのほうです。この2つは、必ず別に作ってください。
| 項目 | 損益計画 | 資金繰り計画 |
|---|---|---|
| 基準 | 発生した時点で計上 | 入金・出金した時点で計上 |
| 売上 | 売った月に計上 | 回収した月に計上 |
| 仕入 | 売れた月に原価として計上 | 支払った月に計上 |
| 元本の返済 | 出てこない | 出ていく |
| 減価償却費 | 費用として出てくる | 出てこない |
| 設備の購入 | 出てこない(資産に計上) | 買った月に全額出ていく |
回収が翌々月、支払が翌月という条件なら、損益上は黒字の月でも、現金は出ていくほうが多くなります。元本の返済と設備の購入は損益計画に出てこないため、この2つがある会社では、損益計画と資金繰りが大きくずれます。
作り方は単純です。損益計画に、回収サイトと支払サイトを当てはめて、入出金の月に置き直す。そこに元本返済と設備投資、税金の支払いを足します。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 損益計画の売上に、回収サイトを当てはめて入金の月に置く |
| 2 | 仕入・外注に、支払サイトを当てはめて出金の月に置く |
| 3 | 固定費のうち、減価償却費を除いて出金に置く |
| 4 | 借入の元本返済を、毎月の出金に足す |
| 5 | 設備投資、納税、賞与を、その月の出金に足す |
| 6 | 月初残高+入金-出金で、月末残高を出す |
| 7 | 残高が最も低くなる月と、その金額を確認する |
7番が、そのまま必要な借入額の根拠になります。残高が最も低くなる月にいくら足りないのか——ここから積み上げた金額が、希望額になります。使途と必要額の示し方は 資金使途の説明 の記事で扱っています。
返済の裏づけになるのは資金繰り計画。残高が最も低くなる月が、必要額の根拠です。
最も多く、最も重く扱われるのがこれです。
| 書き方 | なぜだめか |
|---|---|
| 「市場規模1,000億円の1%を取る」 | 1%の根拠がない。なぜ0.5%でも2%でもないのか説明できない |
| 「前年比150%成長」 | 何が150%にするのかが書かれていない |
| 「業界平均の利益率を適用」 | 自社が平均である根拠がない |
| 「◯◯社と商談中」(金額だけ) | 成約の確度と時期が示されていない |
共通しているのは、「上から割り当てた数字」になっていることです。目標から逆算した数字は、計画ではなく願望として読まれます。
正しい向きは逆です。今できていることから積み上げて、その結果として総額が出る。積み上げた結果が目標に届かないなら、届かせるための具体策を書きます。
上から割り当てた数字は願望として読まれます。積み上げて、結果として総額を出してください。
毎月きれいに売上が伸び続ける計画は、かえって信用されません。
| 計画の形 | 読まれ方 |
|---|---|
| 毎月一定率で増加 | 季節性も失注も織り込んでいない。実態を見ていない |
| 初月から黒字 | 立ち上がりの期間を見込んでいない |
| 解約・返品がゼロ | 継続課金型なら、必ず起きるものが入っていない |
| 落ちる月がある | 実態を把握していると読まれる |
「8月は例年、受注が3割落ちます」と書いてある計画のほうが、自社の季節性を把握している証拠になります。そして実際に8月が落ちたとき、計画どおりだったことになります。
継続課金型の事業なら、解約率を明示してください。解約がゼロの計画は、その時点で現実味を失います。
きれいな右肩上がりは実態を見ていないと読まれます。落ちる月を理由つきで入れてください。
売上を伸ばす計画なのに、それを支える費用が増えていない——これも頻出します。
| よくある矛盾 | 指摘される点 |
|---|---|
| 売上2倍なのに人員が同じ | その体制で回るのか |
| 採用を計画しているのに人件費が増えていない | 採用費・法定福利費も含めて計上されているか |
| 拠点を増やすのに家賃が変わらない | — |
| システムを内製するのに開発費がない | — |
| 法定福利費が計上されていない | 給与のおおむね15%程度が別途かかる |
とくに法定福利費の計上漏れは多く見られます。社会保険料の会社負担分は、給与とは別に発生します。人件費を給与の額だけで計上していると、実態より小さくなります。
また、家賃・システム利用料・保険料・顧問料といった、金額が小さく毎月固定で出ていくものの漏れも目立ちます。通帳の毎月の引き落としを1年分見返すと、漏れが見つかります。
売上を伸ばすならそれを支える費用も増やす。通帳の引き落としで漏れを確認してください。
| — | 入れてはいけない数字 | なぜ |
|---|---|---|
| ④ | 減価償却費を入れない | 利益が過大に出る。返済原資の計算も狂う |
| ⑤ | 前に出した計画と整合しない数字 | 説明が食い違うと、計画そのものが割り引かれる |
| ⑥ | 達成できない数字 | 後で実績と比べられる。届かない回数だけ信用が下がる |
⑥について補足します。計画は、出して終わりではありません。次の決算で実績と比べられ、次の申込のときに「前回の計画はどうだったか」が見られます。
背伸びした計画で1回の融資が通っても、達成できなければ次の計画は信用されません。2回続けば、計画を出すこと自体が意味を持たなくなります。長期的には、保守的な計画を出して達成し続けるほうが、はるかに有利です。
計画は後で実績と比べられます。届く数字を出して、達成し続けてください。
見落とされやすい点です。金融機関は、前回提出した計画を保管しています。
| 確認すること | ずれていると |
|---|---|
| 前回の計画の数字 | 今回と大きく違うなら、理由を説明する必要がある |
| 前回の計画の前提 | 「新規事業を始める」と書いたのに、その事業が計画にない |
| 実績との差 | 差の理由を、こちらから先に説明する |
| 他行に出した計画 | 行によって違う計画を出していないか |
最後の項目は重要です。行ごとに違う計画を出すのは避けてください。決算書や借入金内訳から状況は相互に把握されますし、後で説明が合わなくなります。同じ計画を全行に出すのが原則です。
金融機関との情報のやり取りは メインバンクとの付き合い方 の記事で扱っています。
前回の計画は保管されています。全行に同じ計画を出してください。
計画は、出してからのほうが重要です。
| やること | 頻度 | 効果 |
|---|---|---|
| 計画と実績を並べる | 毎月 | ずれに早く気づく |
| 差の理由を1行で書く | 毎月 | 説明の材料が蓄積する |
| 試算表と一緒に渡す | 毎月 | 計画の精度が示せる |
| 大きくずれたら、計画を見直す | 随時 | 古い計画を使い続けない |
3番目が効きます。計画と実績を毎月並べて渡している会社は、次の計画も信用されます。「この会社の計画は当たる」という記録が、そのまま次の審査の材料になります。
月次の提出については 試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。
計画と実績を毎月並べて渡す。当たる計画を出す会社だという記録になります。
11〜13番の返済原資の計算が、いちばん抜けやすい部分です。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。