
創業時に融資を受けられた会社が、2回目で急に難しくなる——よく起こることです。会社が悪くなったわけではないのに、なぜ変わるのか。
理由は明確です。1期目の決算書が、できたからです。
| 時期 | 判断の材料 |
|---|---|
| 創業時 | 事業計画書、自己資金、経営者の経歴。実績がないので、計画で判断される |
| 2期目 | 1期目の決算書、返済実績、計画と実績の差。実績で判断される |
創業時は実績がないため、計画と人物で判断されます。しかし1期目の決算が出れば、その決算書が判断の中心になります。計画がどれだけ良くても、実績がそれを下回っていれば、実績のほうが見られます。
1期目の決算書ができた瞬間に、判断の材料が計画から実績へ変わります。
| 見られる点 | 創業時 | 2期目 |
|---|---|---|
| 事業計画 | 中心 | 参考。実績との差が見られる |
| 自己資金 | 中心 | 純資産として見られる |
| 経営者の経歴 | 重視される | 相対的に軽くなる |
| 決算書 | ない | 中心 |
| 返済実績 | ない | 重視される |
| 計画と実績の差 | — | ここが問われる |
最後の行が、2期目に固有の論点です。創業時に出した計画に対して、実績がどうだったか。ここを説明できるかどうかが、2回目の審査を左右します。
計画を大きく下回っていた場合、下回ったこと自体より、その理由を把握しているかが見られます。「思ったより伸びませんでした」で終わると、次の計画も信用されません。
2期目の固有の論点は計画と実績の差。理由を数字で説明できるかが問われます。
1期目の決算書で、とくに見られるのは次の点です。
| 見られる点 | 望ましい状態 |
|---|---|
| 純資産 | プラス。資本金を食いつぶしていない |
| 営業利益 | 黒字。難しければ、赤字幅が計画の範囲内 |
| 代表者への貸付金 | ゼロ |
| 現預金の残高 | 借りた資金が残っている、または使途どおりに使われている |
| 売掛金・在庫 | 回収・販売できている |
| 役員報酬 | 実態に合った水準 |
1期目で債務超過になっていると、2回目は非常に厳しくなります。資本金が小さいまま赤字を出すと、1期で純資産がマイナスになります。資本金100万円の会社が150万円の赤字を出せば、それだけで債務超過です。
銀行が決算書のどこを見るかは 銀行は決算書のどこを見るか の記事で扱っています。
1期目で債務超過になると、2回目は厳しくなります。純資産を守ってください。
| やってしまいがちなこと | 2期目への影響 |
|---|---|
| 代表者が会社から借りる | 役員貸付金として残る。区分ができていないと読まれる |
| 役員報酬を極端に低くする | 実態を反映していない決算と見られる。生活も持たない |
| 決算書の提出が遅れる | 何かあるのではと疑われる |
| 資金使途と違う使い方をする | 契約違反。以後の取引が止まる |
1番目は、創業期に非常によく起きます。個人の生活費が足りず、会社の口座から引き出す。これが役員貸付金として決算書に残ります。
役員報酬は、損金算入の要件(定期同額給与など)があるため、原則として事業年度開始から3か月以内にしか変えられません。低く設定しすぎて生活が持たなくなると、会社から借りるしかなくなります。生活に必要な水準を、最初に確保してください。
2番目も関連します。役員報酬を極端に低くすれば損益は良く見えますが、実態を反映していない決算として修正されます。さらに1番目を招きます。
役員報酬を生活が持つ水準に設定する。低すぎると役員貸付金を生みます。
創業向けの制度には、創業からの経過年数に上限があります。
| 制度 | 目安 | 注意 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫の創業向け制度 | 制度により、創業からの期間に定めがある | 制度は改定される。要確認 |
| 信用保証協会の創業関連保証 | 創業前〜創業後の一定期間 | 同上 |
| スタートアップ創出促進保証 | 創業後5年未満が目安 | 経営者保証が不要 |
| 自治体の創業支援制度 | 自治体による | 利子補給・保証料補助がある場合がある |
創業向けの制度は、実績が乏しくても使えるように設計されています。期間を過ぎると、通常の審査基準で判断されることになります。該当する制度があるなら、期間内に使うかどうかを判断してください。
経営者保証を不要とする制度については スタートアップ創出促進保証 の記事で扱っています。制度の内容は改定されるため、申し込む時点で必ず確認してください。
創業向けの制度には期間の上限があります。過ぎると通常の基準になります。
2期目に効く材料のうち、こちらで確実に作れるのが返済実績です。
| 状態 | 評価 |
|---|---|
| 1年以上、遅れずに返済している | 強い材料になる |
| 据置期間中で、利息のみ支払っている | 元本の返済実績がない。材料としては弱い |
| 一度でも引き落としができなかった | 記録が残る。重く見られる |
2番目は見落とされやすい点です。据置期間を長く取ると、元本の返済実績が作れません。2期目の申込までに元本の返済履歴を作っておきたいなら、据置の設定を判断材料に含めてください。
3番目は決定的です。創業期の1回の延滞は、非常に重く扱われます。実績が乏しい会社にとって、返済を守れるかどうかは数少ない判断材料だからです。
資金繰り表を見ていれば、引き落としに足りないことは数週間前に分かります。間に合わないと分かった時点で、先に連絡してください。事前の相談と、事後の延滞では扱いがまったく違います。
返済実績は自分で作れる最強の材料。延滞ゼロを何より優先してください。
| 手段 | 2期目での使いやすさ | 備考 |
|---|---|---|
| 公庫の追加融資 | 返済実績があれば検討される | 既存の返済状況が見られる |
| 保証協会付き(一般保証) | 決算書で判断される | 1期目の内容しだい |
| 創業向けの保証制度 | 期間内なら使える | 期間の確認を |
| 自治体の制度融資 | 要件を満たせば | 保証料・利子の補助がある場合 |
| プロパー融資 | 2期目では通常、難しい | 黒字2期が目安 |
2期目の段階でプロパー融資が出ることは、まずありません。保証協会付きか、公庫が現実的な選択肢です。プロパーへの移行は、その先の話になります。
プロパーへの移行は プロパー融資へ移るには の記事で扱っています。
2期目は保証協会付きか公庫。プロパーはその先の話です。
資本金300万円で創業し、公庫から500万円を借りた会社で考えます。1期目の決算で2つのパターンを比べます。
| 項目 | A:小幅な赤字 | B:大きな赤字+役員貸付 |
|---|---|---|
| 資本金 | 300万円 | 300万円 |
| 1期目の損益 | ▲100万円 | ▲250万円 |
| 役員貸付金 | 0円 | 80万円 |
| 決算書の純資産 | 200万円 | 50万円 |
| 実質純資産 | 200万円 | ▲30万円 |
| 銀行の見方 | 初年度としては想定内 | 実質的に債務超過 |
Bは決算書上は純資産50万円でプラスですが、役員貸付金80万円を資産から控除されると、実質▲30万円の債務超過になります。赤字幅の差だけでなく、役員貸付金80万円が決定的に効いています。
Bの会社は、2期目の融資が非常に厳しくなります。そしてこの80万円は、期中に精算しておけば消せたものです。
役員貸付金80万円が黒字と実質債務超過を分けます。決算日までに精算してください。
希望額を出す前に、自社がいくらまでなら説明できるかを計算しておくと、交渉が現実的になります。使うのは債務償還年数です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1期目の営業利益 | 200万円 |
| 法人税等(30%) | ▲60万円 |
| 減価償却費 | +100万円 |
| 簡易キャッシュフロー | 240万円 |
| 既存の借入(公庫) | 500万円 |
| 現在の債務償還年数 | 約2.1年 |
債務償還年数の目安を10年とすると、この会社が負える借入の総額は 240万円 × 10年 = 2,400万円。既存の500万円を引いて、追加で説明できるのは1,900万円までということになります。
2期目の実績では、この上限まで出ることはまずありません。あくまで「この金額を超えると説明が立たない」という線です。上限を超える希望額を出すと、金額の妥当性から議論が始まってしまいます。
逆に言えば、大きく借りたいなら簡易キャッシュフローを増やすしかありません。利益を増やすか、減価償却費が大きい設備投資をするか。この構造は 返済原資の説明 の記事で扱っています。
簡易CF × 10年 -既存借入が説明できる上限。超える希望額は、議論が別方向に進みます。
2期目でよく起きるのが、「売上は順調に伸びているのに、追加融資が出ない」という状況です。理由は次のいずれかです。
| 理由 | 中身 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 利益が出ていない | 返済原資の計算に使うのは売上ではなく利益 | 粗利率と固定費を示す |
| 既存の借入の返済が進んでいない | 据置期間中で、元本が減っていない | 返済実績を作ってから |
| 債務償還年数が長すぎる | 稼ぐ力に対して借入が大きい | 金額を下げる |
| 実質純資産がマイナス | 役員貸付金・回収不能の売掛金 | 期中に整理する |
| 資金使途が説明できない | 「運転資金」としか言えていない | 増加運転資金として計算する |
最後の項目は、成長している会社ほど当てはまります。売上が伸びると運転資金が増える——この計算を示せると、資金需要が前向きなものとして説明できます。計算方法は 資金使途の説明 の記事で扱っています。
返済原資は売上ではなく利益。成長による資金需要は、計算して示してください。
2期目は、2行目の金融機関との関係を作り始める時期でもあります。
| やること | 理由 |
|---|---|
| 地元の信用金庫に口座を作る | 創業期に対応してもらいやすい |
| 決済口座として使い始める | 取引の量が、審査の材料になる |
| 少額でも借りて、返す | 口座だけでは取引実績にならない |
| 決算書と試算表を渡す | 借りていなくても、状況を知ってもらう |
3番目が要点です。口座を作っただけでは、審査の材料になりません。借りて返した実績があって初めて、次のときに動けます。
公庫だけで完結させてしまうと、規模が大きくなったときに困ります。公庫の枠が使えているうちに、民間との関係を作っておいてください。金融機関との関係の作り方は メインバンクとの付き合い方 の記事で扱っています。
口座だけでは足りません。少額でも借りて返すことが実績になります。
決算が確定してからできることは限られます。期末までに手を打ってください。
| やること | いつまでに | 効果 |
|---|---|---|
| 代表者への貸付金を精算する | 決算日まで | 実質純資産が改善する |
| 長期間残っている仮払金を整理する | 決算日まで | 同上 |
| 回収できない売掛金を処理する | 決算日まで | 資産の中身が実態に合う |
| 減価償却を限度額まで計上する | 決算時 | 修正されない決算になる |
| 債務超過にならないか試算する | 期末の2〜3か月前 | 対策の時間ができる |
| 資本性の資金を検討する | 期末まで | 純資産が改善する |
5番目が実務的に重要です。期末の2〜3か月前に、着地見込みで純資産を試算してください。債務超過になりそうだと分かれば、増資や役員借入金の資本性借入金への転換など、打てる手があります。決算が締まってからでは何もできません。
期末の2〜3か月前に純資産を試算する。締まってからでは手がありません。
| 順 | やること | 時期 |
|---|---|---|
| 1 | 決算書・勘定科目内訳明細書・申告書を、全取引行に提出する | 確定後すぐ |
| 2 | 創業時の計画と実績を並べ、差の理由を整理する | 提出前に |
| 3 | 2期目の計画を作る(月次・返済原資つき) | 提出時に一緒に |
| 4 | 担当者に、追加融資の可能性を相談する | 提出のとき |
| 5 | 月次試算表の提出を始める | すぐ |
2番を飛ばさないでください。計画と実績の差は、必ず聞かれます。こちらから先に整理して説明すれば、「把握している経営者」として扱われます。聞かれてから慌てると、逆になります。
決算書の提出が遅れることは、それ自体が不利に働きます。内容が良くない期ほど、早く出してください。
計画と実績の差をこちらから先に説明する。決算書は内容が悪い期ほど早く出してください。
株式で資金を集めているスタートアップでは、事情がやや異なります。
| 項目 | 状況 | 説明の仕方 |
|---|---|---|
| 純資産 | 資本金・資本剰余金が厚い | 純資産のプラスを示す |
| 営業利益 | 計画的に赤字 | 投資の内容と、回収の時期を示す |
| 手元資金 | 調達直後は厚い | ランウェイを月数で示す |
| 返済原資 | 利益からは説明できない | 手元資金と、契約済みの入金で示す |
| 次の調達 | 予定がある | 既存投資家の継続支援の意向を示す |
ポイントは、返済原資を損益計算書の外から示すことです。赤字であっても、手元資金と確定した入金があれば、返済の確実性は説明できます。
また、調達した直後は融資も受けやすくなります。純資産が厚く、手元資金もある状態だからです。必要になってからではなく、調達の直後に動くほうが有利です。
融資とエクイティの組み合わせは 融資とエクイティの比率 の記事で扱っています。
赤字でも純資産と手元資金で説明できます。調達の直後に動くのが有利です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 2期目 | 返済実績を積む。2行目を作る。月次の提出を始める |
| 3期目 | 黒字化を目指す。保証協会付きで金額を伸ばす |
| 黒字2期が続いたら | 短期・少額のプロパーを提案する |
| その後 | 経営者保証の解除を交渉する。保証協会の枠を空けておく |
この順序は飛ばせません。各段階で必要な実績は、時間をかけないと作れないものだからです。だからこそ、2期目の段階で3期目・4期目に必要になるものを始めておく意味があります。
実績は時間でしか作れません。次の段階に必要なものを、1段階前から始めてください。
1番と5番——役員貸付金ゼロと延滞ゼロが、2期目の土台です。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。