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仕入れ資金による調達MOQがあると、需要ではなく仕入先の都合で在庫の量が決まります。大ロットと小ロットの分岐点は「売れ残りをいくらで処分できるか」。数字で計算して判断します。

仕入先から「最低1,000個から」と言われたとき、その時点で、いくら仕入れるかという判断は自分の手を離れています。
月に100個しか売れないのに1,000個から——という条件では、10か月分の在庫を最初に買うことが決まってしまいます。資金繰りは、需要ではなくMOQが決めることになります。
MOQは需要ではなく、仕入先の都合で在庫の量を決めます。
月に100個売れる商品を、3つのMOQの条件で仕入れる場合です。販売価格は1個2,000円とします。
| 条件 | 仕入単価 | 1回の仕入額 | 何か月分か |
|---|---|---|---|
| MOQ 1,000個 | 800円 | 80万円 | 10か月分 |
| MOQ 500個 | 900円 | 45万円 | 5か月分 |
| MOQ 200個 | 1,100円 | 22万円 | 2か月分 |
1回に出す現金が、58万円違います。大きいロットのほうが単価は安いのに、最初に必要な現金は3.6倍になります。
ロットが大きいほど単価は安く、必要な現金は多い。
| 項目 | 大きいロット | 小さいロット |
|---|---|---|
| 仕入単価 | 安い | 高い |
| 粗利率 | 高い | 低い |
| 1回の支払い | 大きい | 小さい |
| 在庫の量 | 多い | 少ない |
| 保管のコスト | かかる | 少ない |
| 外したときの損失 | 大きい | 小さい |
| 品切れのリスク | 低い | 高い |
| 発注の手間・送料 | 少ない | 回数が増える |
大きいロットの利点は単価と品切れ防止、小さいロットの利点は現金と、外したときの損失の小ささです。単価だけを見て「まとめたほうが得」と判断すると、現金の側を見落とします。
比べるのは単価だけでなく、現金と外したときの損失です。
年間1,200個(月100個×12か月)がすべて売れる前提で比べます。
| 条件 | 年間の仕入額 | 年間の粗利 |
|---|---|---|
| MOQ 1,000個(800円) | 96万円 | 144万円 |
| MOQ 500個(900円) | 108万円 | 132万円 |
| MOQ 200個(1,100円) | 132万円 | 108万円 |
すべて売れるなら、大きいロットが明らかに有利です。粗利の差は年36万円になります。
| 条件 | 平均在庫 | 資金コスト(年3%) |
|---|---|---|
| MOQ 1,000個 | 40万円 | 12,000円 |
| MOQ 500個 | 22.5万円 | 6,750円 |
| MOQ 200個 | 11万円 | 3,300円 |
在庫を多く持つ資金コストの差は、年8,700円です。単価差の年36万円に比べれば、40分の1以下です。「在庫を持つと金利がかかる」という理屈だけでは、小さいロットを正当化できません。
つまり「売れるなら、まとめて買うべき」です。問題は、売れなかったときです。
すべて売れるなら大ロットが有利。資金コストの差は小さい。
1,200個売れると見込んだのに、実際は600個しか売れなかった場合です。
| 条件 | 発注 | 売れ残り | 在庫として残る原価 |
|---|---|---|---|
| MOQ 1,000個 | 1回・1,000個 | 400個 | 32万円 |
| MOQ 500個 | 2回・1,000個 | 400個 | 36万円 |
| MOQ 200個 | 3回・600個 | 0個 | 0円 |
MOQ200個なら、3回目まで発注して600個。売れ行きが落ちた時点で4回目を出さなければ、売れ残りはゼロです。これが小さいロットの本当の価値です。
ただし、売れ残ったからといって、全額が損失になるわけではありません。いくらで処分できるかで結論が変わります。
小ロットの価値は単価ではなく、途中で止められることです。
600個しか売れなかったときの、最終的な手取りを比べます。MOQ200個は売れ残りゼロなので、粗利54万円で確定です。
| 残り400個の処分単価 | MOQ1,000個の手取り | MOQ200個 | どちらが上か |
|---|---|---|---|
| 0円(全損) | 40万円 | 54万円 | 小ロット |
| 200円 | 48万円 | 54万円 | 小ロット |
| 350円 | 54万円 | 54万円 | 同じ |
| 500円 | 60万円 | 54万円 | 大ロット |
| 1,000円(半値) | 80万円 | 54万円 | 大ロット |
売れ残った400個を定価の17.5%以上で処分できるなら、大きいロットのほうが有利です。それを下回るなら、小さいロットのほうが手取りは多くなります。
だから問うべきは「在庫は少ないほうがよいか」ではなく、「この商品は、売れ残ったらいくらで処分できるか」です。
| 商品の性質 | 処分価格 | 向いているロット |
|---|---|---|
| 定番・型落ちしない | 高い(定価に近い) | 大きいロット |
| 消耗品・日用品 | 比較的高い | 大きいロット |
| 季節商材 | 翌シーズンまで持てば戻る | — |
| 流行商材・アパレル | 低い | 小さいロット |
| 賞味期限・使用期限あり | 期限切れで0円 | 小さいロット |
| 受注生産・カスタム品 | 0円に近い | 小さいロット |
分岐点は売れ残りの処分価格。期限のある商品ほど小ロットが正解です。
ここまでは「資金が足りている前提」の計算です。実際には、そもそも払えるかという問題があります。
| 条件 | 最初に出す現金 | 回収まで |
|---|---|---|
| MOQ 1,000個 | 80万円 | 売れ切るまで10か月 |
| MOQ 200個 | 22万円 | 2か月 |
粗利の計算でいくら有利でも、80万円を出せなければその選択肢は存在しません。MOQが資金繰りを決める、というのはこの意味です。
逆に言えば、資金を用意できれば、単価の安い選択肢を取れるようになります。これが仕入れ資金の調達を考える理由です。
手段の全体像は 仕入れ資金は「借りる」以外に何ができるか の記事で扱っています。
計算で有利でも、払えなければ選べません。資金が選択肢を作ります。
| 条件 | 平均在庫 | 1日の出荷 | 在庫回転日数 |
|---|---|---|---|
| MOQ 1,000個 | 500個 | 約3.3個 | 150日 |
| MOQ 500個 | 250個 | 約3.3個 | 75日 |
| MOQ 200個 | 100個 | 約3.3個 | 30日 |
同じ商品を同じペースで売っていても、MOQの違いだけで回転日数が150日と30日に分かれます。回転日数の改善を考えるとき、発注ロットは最初に見る項目です。
回転日数と資金の関係は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、Excelのテンプレートとあわせて扱っています。
回転日数の改善は、発注ロットを見るところから始まります。
| 切り出し方 | 相手にとっての意味 |
|---|---|
| 年間の総量を約束する | 合計は変わらないので受けやすい |
| 分納にしてもらう | 発注は1,000個、納品は月200個ずつ |
| 単価が上がることを受け入れる | 小ロットの手間を価格で補う |
| 初回だけ小さくしてもらう | 試験販売という位置づけ |
| 他の商品とまとめて発注 | 1回の取引額は保てる |
| 納期を長めに認める | 相手が生産を組みやすい |
「発注は1,000個、納品は月200個ずつ」という形にできれば、単価は大ロットのまま、支払いと在庫は小ロットになります。両方の利点が取れます。
ただし、支払いも分納にできるかを必ず確認してください。納品だけ分けて支払いは一括、という条件では資金繰りは改善しません。
交渉の進め方は 仕入先との支払条件交渉 の記事で扱っています。
発注は大ロット、納品と支払いは分納。両方の利点が取れます。
| 形 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 同業と共同発注 | 合計でMOQを満たす | 競合との調整 |
| 複数商品の混載 | 同じ工場の別商品とまとめる | — |
| 買い取り保証付きの共同購入 | 誰がどれだけ引き取るか事前に | 精算の取り決めが必要 |
| 商社にまとめてもらう | 商社が複数社分を集約 | 口銭がかかる |
誰がどれだけ引き取るか、引き取らなかった分は誰が負担するか。これを決めずに始めると、売れ残りの押し付け合いになります。書面で決めてから発注してください。
同業との共同発注は、価格や数量の取り決めの内容によっては、独占禁止法上の問題になる場合があります。特に競合同士で販売価格に影響する取り決めをする場合は注意が必要です。判断に迷う場合は専門家に確認してください。
精算の取り決めを先に。同業との共同発注は独禁法にも注意。
| 項目 | 海外の工場から直接 | 国内の代理店から |
|---|---|---|
| MOQ | 大きい | 小さい(1個から等) |
| 単価 | 安い | 高い |
| リードタイム | 長い | 短い |
| 支払条件 | 前払いが多い | 掛けで買えることも |
| 在庫リスク | 自社が持つ | 代理店が持つ |
| 為替リスク | あり | なし |
代理店の単価が高いのは、代理店が在庫と為替のリスクを引き受けているからです。需要が読めないうちは、その対価を払って代理店から買うほうが合理的なことがあります。
売れ行きが安定してから直接取引に切り替える、という順序が現実的です。「最初から直接取引が正しい」わけではありません。
代理店の高い単価は在庫リスクの対価。需要が読めるまでは合理的です。
金型や版を作る商材では、MOQの意味が変わります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 金型の費用 | 数量に関係なく一度かかる |
| 1個あたりの金型費 | 数量で割るので、少ないほど高い |
| MOQの根拠 | 金型の費用を回収できる最低数量 |
| 金型の所有権 | 契約で確認する |
| 金型の寿命 | 一定数量で作り直しが必要なことも |
金型800万円を1,000個で割れば1個8,000円、300個で割れば1個約26,700円です。小ロットにすると、単価が上がるだけでなく金型費の負担も跳ね上がります。
この計算は ハードウェアスタートアップの部材調達と前払い の記事で詳しく扱っています。金型の所有権は必ず契約で確認してください。
金型があると、小ロットは単価と金型費の両方で不利になります。
| 項目 | 新商品 | 定番商品 |
|---|---|---|
| 需要の読みやすさ | 読めない | 過去の実績がある |
| 取るべきロット | 小さく | 大きく |
| 単価 | 高くても仕方ない | 下げにいく |
| 優先すること | 外したときの損失を抑える | 粗利率を上げる |
| 切り替えの目安 | 数か月の実績が出てから | |
新商品は小さく、定番は大きく。需要が読める商品と読めない商品を、同じ発注ルールで扱うと、どちらかで必ず損をします。
発注量を機械的に決める仕組みは 発注点を決めると、資金の山が平らになる の記事で扱っています。定番商品ほど、この仕組みが効きます。
新商品は小さく、定番は大きく。同じルールで扱わないでください。
| 手段 | 向いている場面 |
|---|---|
| 仕入れ資金の調達 | 受注や販売の見込みがある |
| 予約販売・前受け | 需要の検証も同時にできる |
| 当座貸越・short term loan | 季節変動に合わせる |
| 売掛金の早期化 | 入金を前倒しして仕入れに回す |
| 支払条件の延長 | 仕入先との交渉 |
MOQの問題の本質は「売れるか分からないものを大量に買う」ことです。予約で先に注文を取れば、MOQ分の需要があるかを確認してから発注できます。資金と需要検証の両方が解決します。
売掛金の早期化は 「債権による調達」とは何を指すか の記事で扱っています。
予約販売は、資金と需要検証の両方を同時に解決します。
単価の比較でよく抜けるのが、1回あたりの送料・輸送費です。発注回数が増えれば、その分だけ積み上がります。
| 項目 | 大きいロット | 小さいロット |
|---|---|---|
| 発注の回数 | 少ない | 多い |
| 1回あたりの送料 | 大きい | 小さい |
| 年間の送料合計 | 少ない | 多い |
| コンテナ単位の輸送 | 1本を埋められる | 混載で割高 |
| 通関・書類の手間 | 回数分だけ少ない | 回数分かかる |
| 検品の手間 | まとめてできる | そのつど発生 |
コンテナ1本を埋められるかどうかで運賃の単価は変わります。小口の混載は、重量あたりの運賃が割高になります。単価だけを比べて発注ロットを決めると、この差を見落とします。
比べるときは、「仕入単価」ではなく「1個あたりの総原価(仕入単価+送料÷数量+通関費用÷数量)」で並べてください。この数字が、実際に粗利を決めます。
比べるのは仕入単価ではなく、1個あたりの総原価です。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 各ロットの単価と、1回の仕入額を並べる |
| 2 | その金額を出せるかを、資金繰り表で確認する |
| 3 | 月の販売見込みから、何か月分になるか出す |
| 4 | 売れ残ったらいくらで処分できるかを見積もる |
| 5 | 見込みの半分しか売れなかった場合の手取りを計算する |
| 6 | 分納・共同発注でMOQを下げられないか確認する |
| 7 | それでも足りなければ、資金の調達を検討する |
処分価格の見積もりが、大ロットと小ロットの分岐点を決めます。この数字を出さずに「単価が安いから」で決めると、期限切れや型落ちで全損したときに取り返せません。
見込みの半分しか売れなかった場合で計算してください。
7番と8番が判断を分けます。必ず数字を出してください。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。