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仕入れ資金による調達

原材料が値上がりしたときの資金の手当て

原材料の値上がりは、粗利だけでなく必要な運転資金も増やします。10%の上昇が資金繰りに与える影響を計算し、価格転嫁までの資金の手当てと先行仕入れの損得を整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 同じ量を買うのに、多く払う
  2. 数字で見る|10%の値上げで、いくら要るか
  3. 在庫の金額も上がる
  4. 本当の問題は、転嫁までのずれ
  5. 数字で見る|3か月遅れると、いくら失うか
  6. 転嫁を早めるためにできること
  7. 転嫁できない場合の判断
  8. 先行仕入れは得か
  9. 数字で見る|値上げ前にまとめ買いする
  10. 先行仕入れの前提条件
  11. 資金をどう手当てするか
  12. 金融機関への説明の仕方
  13. 仕入先との交渉
  14. 値下がりしたときの備え
  15. 繰り返し起きる前提で備える
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

同じ量を買うのに、多く払う

原材料や仕入価格が上がると、売上も量も変わらないのに、必要な資金だけが増えます。

変わるもの 変わらないもの
仕入の支払額 販売する量
在庫の金額 売上(転嫁するまで)
所要運転資金 —
粗利(転嫁するまで減る) —
売上が増えていないのに、運転資金が増える

増加運転資金は、通常は売上の増加にともなって発生します。値上がりの場合は、売上が増えていないのに資金だけが必要になります。説明の仕方も変わります。

価格転嫁仕入価格の上昇分を、販売価格に反映すること。
所要運転資金事業を回すために立て替えている金額。
先行仕入れ値上げの前に、まとめて仕入れておくこと。
粗利率売上に対する売上総利益の割合。
この章の要点

値上がりでは売上が増えていないのに資金が必要になります。

数字で見る|10%の値上げで、いくら要るか

月商3,000万円、売上原価率60%(月間の仕入1,800万円)の会社で計算します。

項目 値上げ前 10%値上げ後
月間の仕入額 1,800万円 1,980万円
増える額(月) — 180万円
増える額(年) — 2,160万円
10%値上げ幅
月180万円増える支払い
年2,160万円年間では

年間で2,160万円、支払いが増えます。売上も量も変わらないのに、です。

この2,160万円は、どこかから出さなければならない

売価に転嫁できれば売上が増えて賄えます。転嫁できなければ、粗利が2,160万円減ります。どちらにせよ、転嫁が完了するまでの期間は、資金を用意する必要があります。

この章の要点

10%の値上げで年2,160万円。売上は増えていません。

在庫の金額も上がる

見落とされやすい点です。仕入価格が上がれば、同じ量を持っていても在庫の金額が上がります。

項目 値上げ前 10%値上げ後
在庫の量 30日分 30日分(変わらない)
在庫の金額 1,800万円 1,980万円
増える額 — 180万円
在庫が増えていないのに、在庫金額が増える

決算書で在庫が増えていれば、金融機関は理由を聞きます。「量は変わっていませんが、単価が10%上がったためです」と説明できる必要があります。在庫回転日数を出していれば、この区別が即座にできます。

在庫回転日数の計算は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。

つまり、値上がりによって所要運転資金も180万円増えます。月々の支払い増とは別に、在庫に固定される資金が増えるということです。

この章の要点

量が同じでも在庫金額が上がり、所要運転資金も増えます。

本当の問題は、転嫁までのずれ

値上がりそのものより、仕入価格が上がる日と、販売価格を上げられる日のずれが問題になります。

項目 タイミング
仕入価格の上昇 通知された日から(すぐ)
販売価格の改定の交渉 数週間〜数か月
顧客との合意 —
契約・価格表の改定 —
新価格での販売開始 数か月後
このずれの期間、粗利が丸ごと削られる

仕入は上がっているのに売価は据え置き——その差は、すべて粗利から出ます。転嫁が遅れるほど、失う金額が大きくなります。

長期の契約や、年間で価格を決めている取引では、次の改定まで転嫁できないことがあります。その場合、ずれの期間は1年になり得ます。

この章の要点

問題は値上がりそのものより、転嫁までのずれです。

数字で見る|3か月遅れると、いくら失うか

先ほどの会社で、転嫁が3か月遅れた場合を計算します。

項目 値上げ前 転嫁前(値上げ後)
月商 3,000万円 3,000万円(据え置き)
月間の売上原価 1,800万円 1,980万円
月間の売上総利益 1,200万円 1,020万円
粗利率 40.0% 34.0%
減る粗利(月) — 180万円
月180万円減る粗利
3か月転嫁の遅れ
540万円失う粗利の合計

3か月転嫁が遅れれば、540万円の粗利が消えます。粗利率も40%から34%に、6ポイント下がります。

1か月早く転嫁できれば、180万円

転嫁の交渉を1か月早く始めて1か月早く実施できれば、それだけで180万円が残ります。資金調達の手段を探すより、転嫁を早めるほうが効果が大きい場面です。

損益分岐点も上がります。固定費が月1,000万円なら、損益分岐点売上は2,500万円から約2,941万円に上がります(1,000万円 ÷ 34%)。

この章の要点

3か月の遅れで540万円。1か月早めれば180万円が残ります。

転嫁を早めるためにできること

やること 効果
仕入先の値上げ通知を、すぐ共有する 社内の判断が早くなる
値上げの根拠資料を取っておく 顧客への説明に使える
価格改定の手順を、あらかじめ決めておく 都度の判断をなくす
契約に価格改定の条項を入れる 次回から交渉が早くなる
改定の予告期間を短くする —
全顧客に一斉に通知する 個別交渉より早い
仕入先からの通知書を、そのまま根拠にする

「原材料が上がったので」と口頭で言うより、仕入先からの値上げ通知書を示すほうが説得力があります。受け取ったら保管し、顧客への説明資料に添えてください。

4番目は、次回以降に効きます。「原材料価格が◯%以上変動した場合、価格を改定できる」という条項を契約に入れておけば、都度の交渉が不要になります。

価格転嫁については、取引上の立場の弱い事業者が転嫁しにくい状況への対応が、政策として進められています。公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口も確認してください。

この章の要点

仕入先の通知書を根拠に使う。契約に改定条項を入れてください。

転嫁できない場合の判断

選択肢 内容 注意
仕様・量目を見直す 内容を変えて価格を維持する 表示の適正さに注意
仕入先を変える より安い調達先を探す 品質・納期の確認が要る
原価の他の部分を下げる 歩留まり、廃棄、外注費 —
取引をやめる 採算が合わない取引から撤退 固定費の負担が残る
粗利の薄い商品を絞る — —
当面は受け入れる 粗利の減少を許容する 期限を決める
「当面は受け入れる」なら、期限を決める

転嫁できないまま続けると、粗利が削られ続けます。「◯月までに転嫁できなければ、取引を見直す」と、社内で期限を決めてください。期限がないと、そのまま何年も続きます。

4番目には注意が要ります。取引をやめても固定費は残るため、売上が減った分だけ損益分岐点との差が広がります。撤退の判断は、固定費の削減とセットで考えてください。

この章の要点

受け入れるなら期限を決める。期限がないと何年も続きます。

先行仕入れは得か

値上げの通知を受けてから実施までに期間があれば、その間にまとめて仕入れるという選択肢があります。

比べるもの 計算
得られるもの 先行して買った分 × 値上げ幅
かかるもの 増える在庫 × 資金のコスト + 保管費用
リスク 売れ残り、劣化、需要の変化
値上げ幅が資金コストを大きく上回ることが多い

10%の値上げを避けられるなら、数か月分の在庫を持つ資金コストより、はるかに大きな効果になります。計算して確認してください。

この章の要点

値上げ幅と資金コスト+保管費用を比べてください。

数字で見る|値上げ前にまとめ買いする

値上げ前に3か月分(5,400万円)をまとめて仕入れる場合を計算します。

項目 金額
先行して仕入れる額(3か月分) 5,400万円
10%の値上げを避けられる額 540万円

一方、かかる費用です。

項目 金額
増える在庫(2か月分) 3,600万円
その資金を年利3%で3か月借りた場合 約27万円
保管費用 商材による
540万円値上げを避けられる額
約27万円資金コスト
約20倍その差

540万円の節約に対し、資金コストは約27万円。保管費用を足しても、大きく得になる計算です。

ただし、5,400万円を用意できることが前提

得だと分かっていても、一度に5,400万円を払えなければ選べません。ここでも、資金繰りが事業の選択肢を狭めます。値上げの通知を受けた時点で、資金の手当てを検討してください。

この章の要点

540万円の節約に対し資金コスト約27万円。用意できることが前提です。

先行仕入れの前提条件

条件 満たさないと
その量が確実に売れる 売れ残れば、値上げ分より大きな損失
資金を用意できる そもそも実行できない
劣化・陳腐化しない 保管中に価値が下がる
保管スペースがある 外部倉庫の費用がかかる
値上げが確実である 撤回されれば、在庫だけが残る
仕入先が応じる 値上げ前の駆け込みを制限されることがある
仕入先も、駆け込みを予想している

値上げを通知すれば、駆け込みの注文が来ることは相手も分かっています。「値上げ前の発注は◯個まで」と制限されることがあります。通知を受けたら、早めに確認してください。

1番目がもっとも重要です。3か月分と思って買ったものが6か月かかって売れれば、その間の資金コストと保管費用が膨らみます。過去の販売実績で確認してください。

この章の要点

前提は確実に売れること・資金があること・劣化しないことの3つです。

資金をどう手当てするか

手段 向いている場面
増加運転資金の融資 値上がりによる恒常的な増加分
季節資金・短期の融資 先行仕入れの資金
当座貸越の枠 すでに枠がある場合
支払条件の交渉 費用がかからない
在庫の見直し 他の品目の在庫を減らして原資にする
回収を早める 費用がかからない
値上がりは、増加運転資金として説明できる

売上が増えていなくても、「仕入価格の上昇により、所要運転資金が◯万円増えた」という説明は成立します。金額の根拠も、仕入先の値上げ通知で示せます。

4番目と6番目は費用がかかりません。他の項目で必要額を減らせないかを、先に検討してください。この考え方は 仕入れ資金は「借りる」以外に何ができるか の記事で扱っています。

この章の要点

値上がりも増加運転資金として説明できます。根拠は通知書です。

金融機関への説明の仕方

示すもの 内容
仕入先からの値上げ通知 金額の根拠
値上げ前後の所要運転資金の比較 いくら増えるか
価格転嫁の計画と進捗 いつ、どのくらい転嫁するか
粗利率の推移 転嫁が進めば戻ることを示す
在庫の量と金額を分けた説明 量は増えていないことを示す
返済原資 転嫁後の粗利、または売上の回収
転嫁の計画がないと、返済原資が説明できない

値上がり分をずっと吸収し続けるなら、粗利が減ったままで、返済原資が細ります。「◯月から◯%転嫁し、粗利率を戻す」という計画を示してください。それが返済の裏づけになります。

3番目が説明の核です。「一時的に運転資金が増えるが、転嫁によって戻る」という形にできれば、融資の説明として成立します。

この章の要点

転嫁の計画が返済原資の裏づけになります。必ず示してください。

仕入先との交渉

交渉できること 内容
値上げ幅 根拠を確認する。全品目一律か
実施の時期 猶予をもらえないか
段階的な実施 一度に10%ではなく、5%ずつ2回
数量による調整 発注量を増やす代わりに幅を抑える
支払条件 値上げを受け入れる代わりにサイトを延ばす
値上げの根拠を確認する

「原材料が上がったため」という説明でも、どの原材料が、どのくらい上がったのかを聞いてください。原材料が原価の一部でしかないなら、全体で10%上がる理由を確認する余地があります。

3番目は現実的です。段階的にすれば、転嫁の準備をする時間が稼げます。相手にとっても、取引を失うより段階的に上げるほうが良い場合があります。

ただし、仕入先も原材料の値上がりを吸収していることを忘れないでください。無理に抑え込めば、供給の優先順位が下がります。

この章の要点

根拠の確認と、段階的な実施。抑え込むより、時間を稼ぐ交渉を。

値下がりしたときの備え

価格は上がるだけではありません。先行仕入れをした後に値下がりすれば、在庫が割高になります。

状況 影響
値上げ後に相場が下がった 高い在庫を抱えている
競合が値下げした 売価を下げざるを得ない
在庫の評価 正味売却価額が下がれば、評価損の検討
転嫁した売価を、下げられるか

値上がりで売価を上げた後、相場が下がってもすぐに売価を下げる必要はありません。ただし競合が下げれば、追随することになります。その場合、高い在庫を抱えたまま売価だけ下がります。

この対称性を理解しておいてください。先行仕入れは、値上がりが続く前提での判断です。相場が反転する可能性がある商材では、慎重に。

この章の要点

先行仕入れは値上がりが続く前提の判断。反転の可能性も見てください。

繰り返し起きる前提で備える

備え 内容
契約に価格改定の条項を入れる 次回から交渉が早くなる
値上げ通知から転嫁までの手順を決める 都度の判断をなくす
主要な原材料の相場を見る 予兆を早く掴む
仕入先を複数持つ 比較と交渉の材料になる
粗利率を毎月見る 転嫁の遅れが数字に出る
資金の余裕を持つ 先行仕入れの判断ができる
粗利率の低下が、最初のサインになる

月次で粗利率を見ていれば、仕入価格の上昇が転嫁される前に、数字として表れます。「先月40%だった粗利率が38%に下がった」——そこから原因を追えば、早く動けます。

月次で見るべき数字は 試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。粗利率は、その中でも最優先の指標です。

この章の要点

粗利率の低下が最初のサイン。月次で見てください。

チェックリスト

仕入価格が上がったときに

  • 値上げ幅と、月間・年間で増える支払額を計算した
  • 在庫金額の増加分を計算した
  • 所要運転資金がいくら増えるか出した
  • 転嫁するまでの粗利の減少額を計算した
  • 転嫁の目標時期を決めた
  • 仕入先の値上げ通知書を保管した
  • 顧客への説明資料を用意した
  • 転嫁できない場合の期限を決めた
  • 先行仕入れの損得を計算した
  • 先行仕入れの前提(確実に売れる・資金・劣化)を確認した
  • 仕入先に、値上げの根拠と段階的な実施を確認した
  • 費用のかからない手段(支払条件・在庫・回収)を先に検討した
  • 融資を申し込む場合、転嫁の計画を示せる
  • 契約に価格改定の条項を入れる準備をした
  • 粗利率を毎月見る運用にした
この章の要点

4番と5番——転嫁の遅れがいくらかを計算し、目標時期を決めてください。

よくある質問

Q. 値上がりすると、どのくらい資金が要りますか
月間の仕入が1,800万円で10%上がれば、月180万円、年2,160万円の支払い増です。加えて在庫の金額も同じ割合で上がるため、所要運転資金も増えます。
Q. いちばん問題なのは何ですか
仕入価格が上がる日と、売価を上げられる日のずれです。その間、粗利が丸ごと削られます。3か月遅れれば、この例で540万円が消えます。
Q. 粗利率はどのくらい下がりますか
原価率60%の会社で仕入が10%上がれば、粗利率は40%から34%に下がります。6ポイントの低下です。固定費が月1,000万円なら、損益分岐点売上は2,500万円から約2,941万円に上がります。
Q. 転嫁を早めるには、どうすればよいですか
仕入先の値上げ通知書を、そのまま顧客への説明資料に使ってください。口頭より説得力があります。また、価格改定の手順をあらかじめ決めておけば、都度の判断が要りません。
Q. 転嫁できない場合は、どうしますか
仕様の見直し、仕入先の変更、他の原価の削減、粗利の薄い商品を絞る——などです。当面受け入れる場合は、「◯月までに転嫁できなければ取引を見直す」と期限を決めてください。
Q. 値上げ前にまとめ買いすると得ですか
計算上は大きく得になります。3か月分5,400万円を先行仕入れすれば10%分の540万円を避けられ、資金コストは年利3%・3か月で約27万円です。ただし前提条件があります。
Q. 先行仕入れの前提条件は何ですか
その量が確実に売れること、資金を用意できること、劣化・陳腐化しないことの3つです。加えて、保管スペースと、仕入先が駆け込みの注文に応じるかも確認してください。
Q. 仕入先は駆け込み注文に応じますか
制限されることがあります。値上げを通知すれば駆け込みが来ることは相手も分かっており、「値上げ前の発注は◯個まで」とされる場合があります。通知を受けたら早めに確認してください。
Q. 在庫が増えた理由を、銀行にどう説明しますか
「量は変わっていませんが、仕入単価が10%上がったためです」と説明してください。在庫回転日数を出していれば、量の増加か単価の上昇かを即座に区別できます。
Q. 融資は受けられますか
増加運転資金として説明できます。ただし転嫁の計画がないと返済原資が説明できません。「◯月から◯%転嫁し、粗利率を戻す」という計画を示してください。
Q. 仕入先と交渉できることはありますか
値上げ幅の根拠、実施の時期、段階的な実施です。とくに段階的にできれば、転嫁の準備をする時間が稼げます。ただし相手も値上がりを吸収しているので、抑え込みすぎないでください。
Q. 次に備えるには、何をすればよいですか
契約に価格改定の条項を入れること、値上げ通知から転嫁までの手順を決めておくこと、そして粗利率を毎月見ることです。粗利率の低下が、最初のサインになります。
出典