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仕入れ資金による調達原材料の値上がりは、粗利だけでなく必要な運転資金も増やします。10%の上昇が資金繰りに与える影響を計算し、価格転嫁までの資金の手当てと先行仕入れの損得を整理します。

原材料や仕入価格が上がると、売上も量も変わらないのに、必要な資金だけが増えます。
| 変わるもの | 変わらないもの |
|---|---|
| 仕入の支払額 | 販売する量 |
| 在庫の金額 | 売上(転嫁するまで) |
| 所要運転資金 | — |
| 粗利(転嫁するまで減る) | — |
増加運転資金は、通常は売上の増加にともなって発生します。値上がりの場合は、売上が増えていないのに資金だけが必要になります。説明の仕方も変わります。
値上がりでは売上が増えていないのに資金が必要になります。
月商3,000万円、売上原価率60%(月間の仕入1,800万円)の会社で計算します。
| 項目 | 値上げ前 | 10%値上げ後 |
|---|---|---|
| 月間の仕入額 | 1,800万円 | 1,980万円 |
| 増える額(月) | — | 180万円 |
| 増える額(年) | — | 2,160万円 |
年間で2,160万円、支払いが増えます。売上も量も変わらないのに、です。
売価に転嫁できれば売上が増えて賄えます。転嫁できなければ、粗利が2,160万円減ります。どちらにせよ、転嫁が完了するまでの期間は、資金を用意する必要があります。
10%の値上げで年2,160万円。売上は増えていません。
見落とされやすい点です。仕入価格が上がれば、同じ量を持っていても在庫の金額が上がります。
| 項目 | 値上げ前 | 10%値上げ後 |
|---|---|---|
| 在庫の量 | 30日分 | 30日分(変わらない) |
| 在庫の金額 | 1,800万円 | 1,980万円 |
| 増える額 | — | 180万円 |
決算書で在庫が増えていれば、金融機関は理由を聞きます。「量は変わっていませんが、単価が10%上がったためです」と説明できる必要があります。在庫回転日数を出していれば、この区別が即座にできます。
在庫回転日数の計算は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。
つまり、値上がりによって所要運転資金も180万円増えます。月々の支払い増とは別に、在庫に固定される資金が増えるということです。
量が同じでも在庫金額が上がり、所要運転資金も増えます。
値上がりそのものより、仕入価格が上がる日と、販売価格を上げられる日のずれが問題になります。
| 項目 | タイミング |
|---|---|
| 仕入価格の上昇 | 通知された日から(すぐ) |
| 販売価格の改定の交渉 | 数週間〜数か月 |
| 顧客との合意 | — |
| 契約・価格表の改定 | — |
| 新価格での販売開始 | 数か月後 |
仕入は上がっているのに売価は据え置き——その差は、すべて粗利から出ます。転嫁が遅れるほど、失う金額が大きくなります。
長期の契約や、年間で価格を決めている取引では、次の改定まで転嫁できないことがあります。その場合、ずれの期間は1年になり得ます。
問題は値上がりそのものより、転嫁までのずれです。
先ほどの会社で、転嫁が3か月遅れた場合を計算します。
| 項目 | 値上げ前 | 転嫁前(値上げ後) |
|---|---|---|
| 月商 | 3,000万円 | 3,000万円(据え置き) |
| 月間の売上原価 | 1,800万円 | 1,980万円 |
| 月間の売上総利益 | 1,200万円 | 1,020万円 |
| 粗利率 | 40.0% | 34.0% |
| 減る粗利(月) | — | 180万円 |
3か月転嫁が遅れれば、540万円の粗利が消えます。粗利率も40%から34%に、6ポイント下がります。
転嫁の交渉を1か月早く始めて1か月早く実施できれば、それだけで180万円が残ります。資金調達の手段を探すより、転嫁を早めるほうが効果が大きい場面です。
損益分岐点も上がります。固定費が月1,000万円なら、損益分岐点売上は2,500万円から約2,941万円に上がります(1,000万円 ÷ 34%)。
3か月の遅れで540万円。1か月早めれば180万円が残ります。
| やること | 効果 |
|---|---|
| 仕入先の値上げ通知を、すぐ共有する | 社内の判断が早くなる |
| 値上げの根拠資料を取っておく | 顧客への説明に使える |
| 価格改定の手順を、あらかじめ決めておく | 都度の判断をなくす |
| 契約に価格改定の条項を入れる | 次回から交渉が早くなる |
| 改定の予告期間を短くする | — |
| 全顧客に一斉に通知する | 個別交渉より早い |
「原材料が上がったので」と口頭で言うより、仕入先からの値上げ通知書を示すほうが説得力があります。受け取ったら保管し、顧客への説明資料に添えてください。
4番目は、次回以降に効きます。「原材料価格が◯%以上変動した場合、価格を改定できる」という条項を契約に入れておけば、都度の交渉が不要になります。
価格転嫁については、取引上の立場の弱い事業者が転嫁しにくい状況への対応が、政策として進められています。公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口も確認してください。
仕入先の通知書を根拠に使う。契約に改定条項を入れてください。
| 選択肢 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 仕様・量目を見直す | 内容を変えて価格を維持する | 表示の適正さに注意 |
| 仕入先を変える | より安い調達先を探す | 品質・納期の確認が要る |
| 原価の他の部分を下げる | 歩留まり、廃棄、外注費 | — |
| 取引をやめる | 採算が合わない取引から撤退 | 固定費の負担が残る |
| 粗利の薄い商品を絞る | — | — |
| 当面は受け入れる | 粗利の減少を許容する | 期限を決める |
転嫁できないまま続けると、粗利が削られ続けます。「◯月までに転嫁できなければ、取引を見直す」と、社内で期限を決めてください。期限がないと、そのまま何年も続きます。
4番目には注意が要ります。取引をやめても固定費は残るため、売上が減った分だけ損益分岐点との差が広がります。撤退の判断は、固定費の削減とセットで考えてください。
受け入れるなら期限を決める。期限がないと何年も続きます。
値上げの通知を受けてから実施までに期間があれば、その間にまとめて仕入れるという選択肢があります。
| 比べるもの | 計算 |
|---|---|
| 得られるもの | 先行して買った分 × 値上げ幅 |
| かかるもの | 増える在庫 × 資金のコスト + 保管費用 |
| リスク | 売れ残り、劣化、需要の変化 |
10%の値上げを避けられるなら、数か月分の在庫を持つ資金コストより、はるかに大きな効果になります。計算して確認してください。
値上げ幅と資金コスト+保管費用を比べてください。
値上げ前に3か月分(5,400万円)をまとめて仕入れる場合を計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 先行して仕入れる額(3か月分) | 5,400万円 |
| 10%の値上げを避けられる額 | 540万円 |
一方、かかる費用です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 増える在庫(2か月分) | 3,600万円 |
| その資金を年利3%で3か月借りた場合 | 約27万円 |
| 保管費用 | 商材による |
540万円の節約に対し、資金コストは約27万円。保管費用を足しても、大きく得になる計算です。
得だと分かっていても、一度に5,400万円を払えなければ選べません。ここでも、資金繰りが事業の選択肢を狭めます。値上げの通知を受けた時点で、資金の手当てを検討してください。
540万円の節約に対し資金コスト約27万円。用意できることが前提です。
| 条件 | 満たさないと |
|---|---|
| その量が確実に売れる | 売れ残れば、値上げ分より大きな損失 |
| 資金を用意できる | そもそも実行できない |
| 劣化・陳腐化しない | 保管中に価値が下がる |
| 保管スペースがある | 外部倉庫の費用がかかる |
| 値上げが確実である | 撤回されれば、在庫だけが残る |
| 仕入先が応じる | 値上げ前の駆け込みを制限されることがある |
値上げを通知すれば、駆け込みの注文が来ることは相手も分かっています。「値上げ前の発注は◯個まで」と制限されることがあります。通知を受けたら、早めに確認してください。
1番目がもっとも重要です。3か月分と思って買ったものが6か月かかって売れれば、その間の資金コストと保管費用が膨らみます。過去の販売実績で確認してください。
前提は確実に売れること・資金があること・劣化しないことの3つです。
| 手段 | 向いている場面 |
|---|---|
| 増加運転資金の融資 | 値上がりによる恒常的な増加分 |
| 季節資金・短期の融資 | 先行仕入れの資金 |
| 当座貸越の枠 | すでに枠がある場合 |
| 支払条件の交渉 | 費用がかからない |
| 在庫の見直し | 他の品目の在庫を減らして原資にする |
| 回収を早める | 費用がかからない |
売上が増えていなくても、「仕入価格の上昇により、所要運転資金が◯万円増えた」という説明は成立します。金額の根拠も、仕入先の値上げ通知で示せます。
4番目と6番目は費用がかかりません。他の項目で必要額を減らせないかを、先に検討してください。この考え方は 仕入れ資金は「借りる」以外に何ができるか の記事で扱っています。
値上がりも増加運転資金として説明できます。根拠は通知書です。
| 示すもの | 内容 |
|---|---|
| 仕入先からの値上げ通知 | 金額の根拠 |
| 値上げ前後の所要運転資金の比較 | いくら増えるか |
| 価格転嫁の計画と進捗 | いつ、どのくらい転嫁するか |
| 粗利率の推移 | 転嫁が進めば戻ることを示す |
| 在庫の量と金額を分けた説明 | 量は増えていないことを示す |
| 返済原資 | 転嫁後の粗利、または売上の回収 |
値上がり分をずっと吸収し続けるなら、粗利が減ったままで、返済原資が細ります。「◯月から◯%転嫁し、粗利率を戻す」という計画を示してください。それが返済の裏づけになります。
3番目が説明の核です。「一時的に運転資金が増えるが、転嫁によって戻る」という形にできれば、融資の説明として成立します。
転嫁の計画が返済原資の裏づけになります。必ず示してください。
| 交渉できること | 内容 |
|---|---|
| 値上げ幅 | 根拠を確認する。全品目一律か |
| 実施の時期 | 猶予をもらえないか |
| 段階的な実施 | 一度に10%ではなく、5%ずつ2回 |
| 数量による調整 | 発注量を増やす代わりに幅を抑える |
| 支払条件 | 値上げを受け入れる代わりにサイトを延ばす |
「原材料が上がったため」という説明でも、どの原材料が、どのくらい上がったのかを聞いてください。原材料が原価の一部でしかないなら、全体で10%上がる理由を確認する余地があります。
3番目は現実的です。段階的にすれば、転嫁の準備をする時間が稼げます。相手にとっても、取引を失うより段階的に上げるほうが良い場合があります。
ただし、仕入先も原材料の値上がりを吸収していることを忘れないでください。無理に抑え込めば、供給の優先順位が下がります。
根拠の確認と、段階的な実施。抑え込むより、時間を稼ぐ交渉を。
価格は上がるだけではありません。先行仕入れをした後に値下がりすれば、在庫が割高になります。
| 状況 | 影響 |
|---|---|
| 値上げ後に相場が下がった | 高い在庫を抱えている |
| 競合が値下げした | 売価を下げざるを得ない |
| 在庫の評価 | 正味売却価額が下がれば、評価損の検討 |
値上がりで売価を上げた後、相場が下がってもすぐに売価を下げる必要はありません。ただし競合が下げれば、追随することになります。その場合、高い在庫を抱えたまま売価だけ下がります。
この対称性を理解しておいてください。先行仕入れは、値上がりが続く前提での判断です。相場が反転する可能性がある商材では、慎重に。
先行仕入れは値上がりが続く前提の判断。反転の可能性も見てください。
| 備え | 内容 |
|---|---|
| 契約に価格改定の条項を入れる | 次回から交渉が早くなる |
| 値上げ通知から転嫁までの手順を決める | 都度の判断をなくす |
| 主要な原材料の相場を見る | 予兆を早く掴む |
| 仕入先を複数持つ | 比較と交渉の材料になる |
| 粗利率を毎月見る | 転嫁の遅れが数字に出る |
| 資金の余裕を持つ | 先行仕入れの判断ができる |
月次で粗利率を見ていれば、仕入価格の上昇が転嫁される前に、数字として表れます。「先月40%だった粗利率が38%に下がった」——そこから原因を追えば、早く動けます。
月次で見るべき数字は 試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。粗利率は、その中でも最優先の指標です。
粗利率の低下が最初のサイン。月次で見てください。
4番と5番——転嫁の遅れがいくらかを計算し、目標時期を決めてください。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。