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仕入れ資金による調達部材・製造費・金型の3つに分けて、いつ現金が出ていくかを整理します。ロットを小さくしたときの単価と金型費の跳ね上がりも、数字で比べます。

ハードウェアの事業では、売上が立つずっと前に、大きな支出が発生します。
| 段階 | 資金の動き |
|---|---|
| 設計・試作 | 出ていく |
| 金型・治具 | まとまった額が出ていく |
| 部材の調達 | 前払いを求められることがある |
| 製造 | 出ていく |
| 出荷 | — |
| 入金 | 数か月後 |
ソフトウェアなら、開発費は主に人件費で、月々に分散します。ハードウェアでは、部材と製造の代金が特定の時期に集中します。この山が、資金計画の中心になります。
支出が特定の時期に集中します。この山が資金計画の中心です。
1台あたりの製造原価3万円の製品を、初回1,000台つくる場合で見ます。
| 項目 | 金額 | 時期 |
|---|---|---|
| 金型・治具 | 800万円 | 量産の3〜4か月前 |
| 部材(1,000台分) | 1,800万円 | 量産の1〜3か月前 |
| 製造委託費(1,000台分) | 1,200万円 | 製造時 |
| 合計 | 3,800万円 | — |
| 売上(1台5万円) | 5,000万円 | 出荷後1〜3か月 |
3,800万円が先に出て、5,000万円が数か月後に入ります。その間、資金は完全に拘束されます。
部材と製造費は在庫という形で残りますが、金型・治具は、その製品を作らなくなれば価値がありません。投資として回収するには、一定台数を売る必要があります。
この例なら、金型800万円を1,000台で割ると、1台あたり8,000円。台数が少ないほど、1台あたりの負担が重くなります。
3,800万円が先に出て、入金は数か月後。金型は売れないと戻りません。
| 項目 | 金型 | 部材 | 製造費 |
|---|---|---|---|
| 性質 | 投資(固定費) | 在庫になる | 在庫に転化する |
| 売れなかったら | 戻らない | 在庫として残る | 在庫として残る |
| 担保になるか | なりにくい | 在庫として評価されうる | — |
| 賄うべき資金 | エクイティ向き | デットも可能 | デットも可能 |
| 台数を増やすと | 1台あたりが下がる | 比例して増える | 比例して増える |
金型は売れなければ回収できない投資なので、返済義務のないエクイティで賄うのが本来の形です。部材と製造費は在庫として残るため、借入でも説明が立ちます。
融資とエクイティの配分は 融資とエクイティの比率 の記事で扱っています。回収の確度で分けるという原則は、ここでも同じです。
金型はエクイティ向き、部材と製造費はデットでも説明が立ちます。
| 部品の種類 | 納期の目安 | 資金への影響 |
|---|---|---|
| 汎用の部品 | 数週間 | 小さい |
| 特注の部品 | 1〜3か月 | 中 |
| 半導体・特殊な部品 | 数か月〜 | 大きい |
| 金型を使う部品 | 金型の製作期間が加わる | 大きい |
99点の部品が2週間で届いても、1点が6か月なら、製造開始は6か月後です。そしてその部品を先に押さえるなら、資金も先に出ます。
部品表(BOM)を作ったら、納期の長い順に並べてください。いちばん長い部品が、量産の時期と資金の拘束期間を決めます。
いちばん長い納期の部品が、全体の時期と資金拘束を決めます。
部材1,800万円のうち、長納期部品が600万円ある場合を見ます。
| 時期 | 支出 | 累計 |
|---|---|---|
| 6か月前 | 長納期部品 600万円 | 600万円 |
| 4か月前 | 金型 800万円 | 1,400万円 |
| 2か月前 | その他の部材 1,200万円 | 2,600万円 |
| 製造時 | 製造委託費 1,200万円 | 3,800万円 |
| 出荷から2か月後 | 入金 5,000万円 | +1,200万円 |
最初の支出から入金まで、8か月かかります。その間、3,800万円が事業に拘束されます。
支出は6か月かけて分散しますが、入金は出荷後にまとまって来ます。月別の資金繰り表を作ると、いつ残高が最も低くなるかが見えます。そこが、調達すべき金額です。
最初の支出から入金まで8か月。月別の資金繰り表で山を見てください。
| 相手 | 前払いを求める理由 |
|---|---|
| 部材商社 | 実績のない会社への与信を持てない |
| EMS・製造委託先 | 専用の部材を手配する。キャンセルされると転売できない |
| 金型メーカー | その会社専用のものを作る |
| 海外の仕入先 | 回収の手段が限られる |
創業から間もない会社に対して、数千万円の与信を持つ理由が相手にはありません。しかも専用品なら、キャンセルされたときに転売できません。前払いは、相手にとって合理的な要求です。
だから、「前払いを断る」より「前払いの負担を軽くする代替案を出す」ほうが現実的です。代替案は EMSの前払い要求に対して出せる代替案 の記事で扱っています。
前払いは相手にとって合理的。断るより代替案を出してください。
| 資金の使い道 | 向いている調達 | 理由 |
|---|---|---|
| 設計・試作 | エクイティ | 回収の見込みが立たない |
| 金型・治具 | エクイティ | 売れなければ戻らない |
| 初回ロットの部材 | エクイティ寄り | 売れる確証がない |
| 2回目以降の部材 | デットも可能 | 初回の販売実績がある |
| 受注済み分の製造 | デット(つなぎ資金) | 入金が確定している |
初回は「売れるかどうか分からない」ため、借入の説明が立ちません。しかし初回が売り切れれば、2回目は「前回と同じものを、同じように売る」という説明ができます。
5番目がもっとも説明しやすい形です。受注が確定していれば、その入金を返済原資として示せます。つなぎ資金として、期間も金額も根拠があります。
返済原資の示し方は 返済原資の説明 の記事で扱っています。
実績と受注ができれば、デットが使えるようになります。
2回目のロットで、300台の受注が確定している場合を見ます。
| 項目 | 金額 | 説明 |
|---|---|---|
| 受注(300台 × 5万円) | 1,500万円 | 入金が確定している |
| 必要な部材・製造費(300台分) | 900万円 | — |
| つなぎ資金として説明できる額 | 900万円 | 返済原資は1,500万円の入金 |
| 受注のない700台分 | 2,100万円 | 説明が難しい |
受注が確定している分は、つなぎ資金として説明できます。入金の時期も金額も示せるためです。
1,000台つくってから売るのと、300台の受注を取ってから1,000台つくるのとでは、資金調達の説明のしやすさがまったく違います。先に受注を取ることには、販売以外の意味があります。
先に受注を取ると、調達の説明が変わります。
| 形 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 予約販売 | 出荷前に注文と代金を受ける | 消費者向け |
| クラウドファンディング | 支援という形で先に資金を集める | 新製品の立ち上げ |
| 法人向けの前受け | 契約時に一部を受け取る | BtoB |
| 代理店からの前受け | — | — |
前受けで集まった金額は、その製品に対する需要の実測値です。目標に届かなければ、量産の規模を見直す材料になります。作ってから売れないと分かるより、はるかに安全です。
ただし、前受金は負債であり、製品を届ける義務が残ります。集まった資金を他の支出に使い切ると、製造ができなくなります。前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。
前受けは資金と需要の検証を同時に得られます。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 納期の遅延 | ハードウェアでは頻繁に起きる。信用を失う |
| 原価の見積もり違い | 集めた金額で作れなくなる |
| 為替の変動 | 海外から部材を買う場合 |
| 数量が読めない | 集まりすぎても、少なすぎても困る |
| 返金の可能性 | 作れなければ返す義務 |
| 手数料 | プラットフォームの手数料 |
前受けで集めた資金は、その製品を作って届けるための費用です。他の用途に使えば、製造の資金が足りなくなります。専用の口座で管理することも検討してください。
2番目はとくに危険です。量産の原価が試作の想定より高くなるのは、よくあることです。集めた金額で作れるかを、量産の見積もりで確認してから募集してください。
集めた資金はすでに使い道が決まっています。他に使わないでください。
| 項目 | 大ロット | 小ロット |
|---|---|---|
| 1台あたりの単価 | 安い | 高い |
| 必要な資金 | 大きい | 小さい |
| 売れ残りのリスク | 大きい | 小さい |
| 改良の余地 | 次のロットまで待つ | 早く反映できる |
| MOQの制約 | — | 下回れない部材がある |
初回は、需要も品質も確認できていません。単価が高くても小さく始めるほうが、外したときの損失が小さくなります。2回目以降で量を増やせば、単価は下がります。
ただし、部材のMOQが制約になります。「1,000個からしか買えない部品」があれば、その数量が下限になります。MOQの問題は 最低発注数量(MOQ)が資金繰りを決めてしまう の記事で扱っています。
初回は外したときの損失で判断。MOQが下限を決めます。
1,000台と300台で、単価と必要資金を比べます。
| 項目 | 1,000台 | 300台 |
|---|---|---|
| 部材+製造費(1台) | 3万円 | 3.6万円(2割高) |
| 部材+製造費(合計) | 3,000万円 | 1,080万円 |
| 金型 | 800万円 | 800万円(同じ) |
| 必要な資金 | 3,800万円 | 1,880万円 |
| 金型を含む1台あたり原価 | 3.8万円 | 約6.3万円 |
300台なら、必要な資金は半分以下になります。ただし金型が同額のため、1台あたりの原価は3.8万円から約6.3万円に上がります。
1台あたりの原価が上がっても、売れるかどうかが分からない段階では、損失を小さくするほうが優先です。300台が売り切れれば、次は自信を持って1,000台つくれます。
売価5万円なら、300台では原価6.3万円で赤字です。この赤字を「検証の費用」と位置づけられるかどうかが、判断の分かれ目になります。
300台なら資金は半分以下。ただし1台あたりの原価は上がります。
| 状況 | 影響 |
|---|---|
| 完成品が売れ残る | 在庫として残る。値引きしても売りにくい |
| 部材が余る | 次のロットで使えれば無駄にならない |
| 仕様を変更した | 旧仕様の部材が使えなくなる |
| 陳腐化 | 技術の進歩で価値が下がる |
| 借入で作っていた場合 | 返済だけが残る |
汎用品なら値引きすれば売れますが、専用の製品は、その市場でしか売れません。値引きしても買い手が現れないことがあります。この点が、通常の商品在庫と違います。
だからこそ、初回は借入で作らないほうが安全です。売れなければ返済だけが残ります。エクイティで賄っていれば、損失は出ても返済の義務はありません。
初回は借入で作らないほうが安全。売れなければ返済だけが残ります。
| 示すもの | 内容 |
|---|---|
| 資金使途の内訳 | 金型・部材・製造費を分ける |
| 月別の支出の時期 | 長納期部品から順に |
| 初回ロットの数量の根拠 | 予約・受注・市場の反応 |
| 1台あたりの原価の内訳 | 量産時にどう下がるか |
| 売れなかった場合の対応 | 在庫の処理、次の判断 |
| 次のラウンドまでのランウェイ | この資金で何か月もつか |
初回の原価が高いのは当然ですが、台数が増えたときにどこまで下がるのかを、部材の見積もりで示してください。「量産効果で下がります」だけでは、根拠になりません。
ハードウェアの事業では、資金の山が読みにくいことが投資家の懸念になります。月別の支出計画を出せば、その懸念は下がります。
月別の支出計画と、量産時の原価の根拠を示してください。
| 説明できる形 | 内容 | 返済原資 |
|---|---|---|
| 受注済み分のつなぎ資金 | 「300台の受注があり、その製造費として」 | 確定した入金 |
| 2回目以降の増加運転資金 | 「初回が完売し、量を増やす」 | 増えた売上の回収 |
| 設備資金(金型) | 耐用年数の範囲で | 利益+減価償却費 |
| 初回ロットの全額 | 説明が難しい | — |
「売れると思います」では返済原資になりません。「◯社から◯台、◯月納品で受注しています」なら、入金の時期と金額が示せます。先に受注を取ることの意味は、ここにもあります。
創業期で実績がない場合は、創業向けの制度を先に確認してください。経営者保証を不要とする制度もあります。スタートアップ創出促進保証 の記事で扱っています。
受注があるかで説明の質が変わります。先に受注を取ってください。
1番と2番から。いちばん長い納期の部品が、すべての起点です。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。