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仕入れ資金による調達

年に1回しか仕入れない商材の資金計画

年1回の仕入れで1年分の在庫を抱える商材は、仕入れた瞬間に資金が固定されます。回転日数、売れ残りの損失、平均在庫の資金コストを数字で出し、資金の組み立て方を整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 1年分の資金が、一度に要る
  2. 数字で見る|資金の山と、在庫の谷
  3. 在庫回転日数が長くなるのは、構造上あたりまえ
  4. 平均在庫で見ると、必要な資金が分かる
  5. 価格の変動リスクも同時に負う
  6. 数字で見る|売れ残ったときの損失
  7. 資金計画の作り方
  8. 季節資金として借りる
  9. 数字で見る|返済の設計
  10. 分割納品を交渉する
  11. 前受け・予約で先に回収する
  12. 保管費用と劣化を織り込む
  13. 仕入量をどう決めるか
  14. 売れ残りを想定した計画にする
  15. 金融機関への説明
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

1年分の資金が、一度に要る

農産物、季節商材、年1回の入札で決まる仕入れ——仕入れの機会が年に1回しかない商材があります。

特徴 資金への影響
仕入れの時期が決まっている その月に資金が集中する
1年分をまとめて買う 金額が大きい
販売は1年かけて 回収が長期に分散する
追加の仕入れができない 足りなくても補充できない
売れ残っても返せない 在庫リスクを全部負う
「発注を平準化する」が使えない

通常の仕入れなら、発注の頻度を上げて在庫と資金の山を平らにできます。年1回しか買えない商材では、この手が使えません。だから、別の組み立てが要ります。

平均在庫期間を通じて平均した在庫の金額。
季節資金時期的に必要になる資金。回収の時期も決まっている。
在庫回転日数在庫が現金に戻るまでの平均日数。
評価損在庫の価値が下がった場合に計上する損失。
この章の要点

年1回の仕入れでは平準化が使えません。別の組み立てが要ります。

数字で見る|資金の山と、在庫の谷

年間の仕入が6,000万円、毎月ほぼ均等に販売する商材で見ます。

時期 在庫 資金の状態
仕入れの月 6,000万円 6,000万円が出ていく
3か月後 4,500万円 回収が始まる
6か月後 3,000万円 —
9か月後 1,500万円 —
12か月後 0円 回収が終わる
平均 3,000万円 —
6,000万円仕入れ時に必要な資金
3,000万円年間の平均在庫
12か月回収にかかる期間

仕入れの月に6,000万円が必要で、それが1年かけて戻ってきます。平均すると3,000万円が在庫として固定されている状態です。

用意すべきは、平均ではなく最大

平均在庫は3,000万円ですが、仕入れの月に必要なのは6,000万円です。資金計画は、平均ではなく最大で組んでください。

この章の要点

用意すべきは平均ではなく最大。仕入れの月の全額です。

在庫回転日数が長くなるのは、構造上あたりまえ

項目 計算 結果
年間の売上原価 — 6,000万円
1日あたりの売上原価 6,000万円 ÷ 365 約16.4万円
平均在庫 — 3,000万円
在庫回転日数 3,000万円 ÷ 16.4万円 約183日
183日は、この商材では「正常」

通常の卸売業で183日なら在庫が多すぎますが、年1回しか仕入れられない商材では、これが構造上の水準です。他の業種の基準と比べても意味がありません。

大事なのは、自社の過去の数字と比べることです。去年の同じ時期が150日だったなら、今年は増えています。その理由を確認してください。

在庫回転日数の計算は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で、テンプレートつきで扱っています。

この章の要点

他業種の基準と比べない。自社の過去の同じ時期と比べてください。

平均在庫で見ると、必要な資金が分かる

見る数字 使い道
仕入れ月の必要額 調達すべき金額
平均在庫 年間を通じて固定される資金
月末残高の推移 返済の設計
回収の分布 返済原資の時期

販売が均等でない場合は、月別の在庫残高を出してください。季節商材なら、特定の月に集中して売れることが多く、その分布で返済の設計が変わります。

販売の分布が、返済の設計を決める

年間を通じて均等に売れるなら、返済も均等にできます。後半に集中して売れるなら、前半の返済は軽くしてもらう必要があります。据置期間の設定が効く場面です。

この章の要点

販売の分布が返済の設計を決めます。月別に出してください。

価格の変動リスクも同時に負う

年1回の仕入れには、資金以外のリスクもあります。

リスク 内容
売れ残り 返品も追加発注もできない
相場の下落 翌年の仕入価格が下がれば、在庫が割高になる
需要の変化 1年前の予測が外れる
劣化・品質の低下 保管期間が長い
競合の動き 1年間、対応できない
資金を借りて仕入れるなら、リスクは二重になる

自己資金で仕入れて売れ残れば、その分の損失で済みます。借りて仕入れて売れ残れば、返済だけが残ります。この違いを理解したうえで、仕入量を決めてください。

この章の要点

借りて仕入れて売れ残れば、返済だけが残ります。

数字で見る|売れ残ったときの損失

6,000万円分を仕入れ、2割が売れ残った場合を見ます。

項目 金額
仕入額 6,000万円
売れた分(8割) 4,800万円(原価)
売上(粗利率30%とすると) 約6,857万円
売れ残り(2割) 1,200万円(原価)
半値で処分した場合の回収 600万円
損失 600万円
2割売れ残りの割合
1,200万円売れ残りの原価
600万円半値処分での損失

2割の売れ残りで、600万円の損失です。粗利率30%なら、売れた分の粗利は約2,057万円なので、その3割近くが消えます。

「少し多めに」が、いちばん高くつく

欠品を恐れて多めに仕入れる判断は、年1回の商材ではとくに高くつきます。追加できない代わりに、減らすこともできないからです。過去の販売実績を、慎重に見てください。

この章の要点

2割の売れ残りで粗利の3割近くが消えます。

資金計画の作り方

順 やること
1 仕入れの時期と金額を確定する
2 過去3年の月別の販売実績を出す
3 今年の月別の販売計画を作る
4 月別の在庫残高の推移を出す
5 月別の入金の推移を出す(回収サイトを反映)
6 月別の資金繰り表を作る
7 残高が最も低くなる月と金額を特定する
8 必要な調達額と、返済の設計を決める

2番が重要です。過去の実績がなければ、計画が立てられません。年1回の商材では、実績の蓄積がそのまま計画の精度になります。

前年の記録を、必ず残す

月別の販売数、売れ残りの量、処分の金額、価格の推移——これらを毎年記録していれば、翌年の仕入量の判断が精度を持ちます。記録がなければ、毎年が勘になります。

この章の要点

過去3年の月別実績が計画の土台。記録がなければ勘になります。

季節資金として借りる

項目 内容
使途 季節資金(時期が決まった仕入れ)
金額の根拠 仕入れの契約・見積もり
返済原資 その商材の売上の回収
返済期間 販売の期間に合わせる
返済の形 販売の分布に合わせる(据置の検討)
使途と返済原資が明確なので、説明しやすい

「◯月に◯万円の仕入れが必要。◯月から◯月にかけて販売し、その回収で返済する」——季節資金は、融資の説明としてはもっとも通りやすい部類です。時期も金額も根拠が示せます。

使途の説明の仕方は 資金使途の説明 の記事で扱っています。「仕入れ資金」ではなく「季節資金」と明示してください。

この章の要点

季節資金と明示する。使途も返済原資も明確なので通りやすくなります。

数字で見る|返済の設計

6,000万円を借りて、1年で販売・回収する場合の返済を設計します。

販売の分布 返済の形 理由
年間で均等 毎月500万円ずつ 回収が均等なら、返済も均等でよい
後半に集中 前半は据置、後半に多く返す 前半は回収が少ない
前半に集中 前半に多く返す 早く返せば利息が減る

2番目の場合、前半6か月を据置にして、後半6か月で1,000万円ずつ返すという形が考えられます。

据置は「先送り」であることを忘れない

前半を据置にすれば、後半の返済は倍になります。その時期に本当に回収できるかを、月別の計画で確認してから設定してください。

据置の考え方は 返済予定表テンプレート の記事で、テンプレートつきで扱っています。

この章の要点

返済は販売の分布に合わせる。据置は先送りであることを忘れずに。

分割納品を交渉する

「年1回しか買えない」と思っていても、納品を分けられる場合があります。

交渉の形 効果 相手の受け止め
契約は年1回、納品を分ける 在庫と支払いが分散する 保管の負担が相手に移る
支払いを納品ごとにする 資金の山が下がる —
契約時に一部、納品時に残り 中間的な形 受け入れられやすい
保管料を払って預かってもらう 資金の山が下がる 費用がかかる
数量を押さえることと、引き取ることは別

年1回の仕入れの本質は「数量を押さえる」ことです。契約で数量を確保したうえで、引き取りと支払いを分けられないか——ここが交渉の焦点になります。

4番目も検討する価値があります。保管料を払ってでも、資金の山が下がるほうが得な場合があります。保管料と、資金のコストを比べてください。

この章の要点

焦点は数量の確保と、引き取り・支払いを分けられるかです。

前受け・予約で先に回収する

形 内容 向いている商材
予約販売 販売前に注文と代金を受ける 季節商材、限定品
年間契約 年間分をまとめて契約し、前受けする 継続的に使う商材
会員制・定期便 毎月の代金を先に受ける —
早期予約の割引 早く注文した人に割引 —
仕入れの前に、売り先を確保する

予約で先に受注できれば、仕入量の判断も正確になり、資金も先に入ります。売れ残りのリスクと資金の山を、同時に下げられます。

ただし、前受金は負債であり、提供の義務が残ります。受け取った資金を他の支払いに使い切ると、商品を用意できなくなります。前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で扱っています。

この章の要点

予約なら売れ残りと資金の山を同時に下げられます。

保管費用と劣化を織り込む

費用 内容
倉庫代 1年分の保管。自社倉庫でもスペースの機会費用
温度・湿度の管理 商材による
保険 火災・水害
劣化・目減り 品質の低下、量の減少
管理の手間 棚卸、在庫の移動
資金コストだけでなく、保管費用も計算に入れる

平均在庫3,000万円を年利3%で借りれば年90万円ですが、保管費用がそれ以上かかることもあります。分割納品や保管の委託を検討するときは、両方を合わせて比べてください。

劣化する商材では、在庫が古くなるほど価値が下がります。販売の順序(先入先出)を管理し、古いものから出す運用にしてください。

この章の要点

資金コストだけでなく保管費用も計算に入れてください。

仕入量をどう決めるか

判断材料 内容
過去3年の販売実績 基準になる数字
すでに決まっている受注 確実な部分
予約の状況 —
市場の動向 需要が増えているか
用意できる資金 これが上限になる
売れ残ったときに耐えられる金額 —
「売れる量」ではなく「耐えられる量」で決める

売れると思う量と、売れ残っても耐えられる量は違います。2割売れ残っても事業が続けられる水準を上限にしてください。年1回の商材では、外したときのやり直しが効きません。

売れ残りの損失は前章で計算したとおりです。その金額が、年間の営業利益を超えるなら、仕入量を見直してください。

この章の要点

「売れる量」ではなく「売れ残っても耐えられる量」で決めてください。

売れ残りを想定した計画にする

準備しておくこと 内容
処分の手段 値引き販売、業者への売却、二次流通
処分の時期 いつまでに判断するか
処分の価格の下限 いくらまでなら売るか
翌年の仕入れへの反映 実績として記録する
会計処理 評価損の計上
判断の時期を、あらかじめ決めておく

「もう少し待てば売れるかも」で処分を先送りすると、次のシーズンの仕入れと重なります。「◯月の時点で残っていたら処分する」と、先に決めておいてください。

処分して現金にすれば、次の仕入れの資金に充てられます。残したまま次を仕入れると、資金が二重に必要になります。

この章の要点

処分の判断の時期を先に決める。次の仕入れと重ねないでください。

金融機関への説明

示すもの 内容
仕入れの契約・見積もり 金額の根拠
過去3年の月別の販売実績 回収の見込みの根拠
月別の資金繰り計画 いつ足りなくなるか
返済の計画 販売の分布に合わせた形
売れ残りの実績 過去に何%残ったか
処分の方針 残った場合の対応
売れ残りの実績も、隠さずに出す

「毎年10%程度は残りますが、◯月に業者へ売却して回収しています」——この説明があるほうが、把握できている会社として評価されます。残らない前提の計画は、かえって疑われます。

季節資金は使途と返済原資が明確なため、説明が組み立てやすい資金需要です。資料を揃えて、早めに相談してください。

この章の要点

売れ残りの実績も出す。残らない前提の計画は疑われます。

チェックリスト

年1回の仕入れを計画するときに

  • 仕入れの時期と金額を確定した
  • 過去3年の月別の販売実績を出した
  • 過去の売れ残りの割合を把握した
  • 月別の在庫残高の推移を作った
  • 月別の資金繰り計画を作った
  • 残高が最も低くなる月と金額を特定した
  • 平均在庫と、その資金コストを計算した
  • 保管費用・劣化のリスクを織り込んだ
  • 2割売れ残った場合の損失を計算した
  • その損失に耐えられる水準で仕入量を決めた
  • 分割納品・支払いの分割を交渉した
  • 予約販売・前受けで先に回収できないか検討した
  • 季節資金として、返済の設計を販売の分布に合わせた
  • 売れ残った場合の処分の手段と時期を決めた
  • 金融機関に、過去の実績と売れ残りの記録を示した
この章の要点

2番と3番——過去の実績が、すべての判断の土台です。

よくある質問

Q. 年1回しか仕入れられないと、何が違いますか
発注の平準化ができません。1年分の資金が一度に必要になり、在庫回転日数も長くなります。さらに、売れ残っても追加も返品もできないため、在庫リスクを全部負います。
Q. どのくらいの資金が必要ですか
仕入れの月に、仕入額の全額です。年間6,000万円なら、その月に6,000万円。平均在庫は3,000万円ですが、用意すべきは平均ではなく最大です。
Q. 在庫回転日数が180日を超えています
年1回しか仕入れられない商材では、構造上の水準です。他業種の基準と比べても意味がありません。自社の過去の同じ時期と比べて、増えていないかを見てください。
Q. 売れ残ると、どのくらいの損失ですか
6,000万円分を仕入れて2割残り、半値で処分すれば600万円の損失です。粗利率30%なら、売れた分の粗利の3割近くが消えます。
Q. 仕入量は、どう決めますか
「売れる量」ではなく「売れ残っても耐えられる量」で決めてください。2割残っても事業が続けられる水準を上限にします。年1回の商材では、外したときのやり直しが効きません。
Q. 分割で納品してもらえますか
交渉の余地があります。年1回の仕入れの本質は「数量を押さえる」ことなので、契約で数量を確保したうえで、引き取りと支払いを分けられないか相談してください。
Q. 保管料を払ってでも、分けるべきですか
保管料と、資金のコストを比べてください。平均在庫3,000万円を年利3%で借りれば年90万円です。保管料がそれより安く、資金の山が下がるなら検討の価値があります。
Q. 予約販売は有効ですか
有効です。仕入量の判断が正確になり、資金も先に入ります。売れ残りのリスクと資金の山を同時に下げられます。ただし前受金は負債で、提供の義務が残ります。
Q. 融資は受けやすいですか
季節資金は、使途と返済の時期が明確なため説明しやすい資金需要です。仕入れの契約、過去3年の月別販売実績、月別の資金繰り計画を揃えて相談してください。
Q. 返済はどう設計しますか
販売の分布に合わせてください。年間均等に売れるなら返済も均等、後半に集中するなら前半を据置にする形です。ただし据置は先送りで、後半の返済は重くなります。
Q. 売れ残りの実績は、銀行に言うべきですか
出してください。「毎年10%程度は残りますが、◯月に売却して回収しています」という説明があるほうが、把握できている会社と評価されます。残らない前提の計画は疑われます。
Q. 売れ残りは、いつ処分すべきですか
判断の時期をあらかじめ決めておいてください。「もう少し待てば」で先送りすると、次のシーズンの仕入れと重なり、資金が二重に必要になります。
出典