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仕入れ資金による調達相手の資金繰りを悪くする交渉なので、理由と交換材料が要ります。「苦しい」が禁句である理由、通りやすい型、自社が下請法の親事業者になる場合の制限を整理します。

支払サイトを延ばす交渉は、自社の資金繰りを楽にする代わりに、相手の資金繰りを悪くするものです。
| 自社 | 相手 |
|---|---|
| 買掛金が増える | 売掛金が増える |
| 所要運転資金が減る | 所要運転資金が増える |
| 資金が楽になる | 資金が苦しくなる |
「お願いします」で通る話ではありません。相手にとっては、自社が資金を借りるのと同じ効果を、相手の負担で得ようとする交渉です。それを理解したうえで組み立ててください。
これは相手の負担で自社の資金繰りを良くする交渉です。
| 持っていくもの | 内容 |
|---|---|
| 理由 | なぜ条件を変える必要があるのか |
| 交換材料 | 相手にとって、何がよくなるのか |
| 具体的な提案 | 何日を、何日にしたいのか |
| 期間 | 恒久的か、一定期間か |
相手が負担を受け入れるには、相手にとっての利点が要ります。発注量、契約期間、支払いの確実性——何か差し出せるものを用意してから、話を持っていってください。
理由と交換材料の両方が要ります。片方では通りません。
| 項目 | 効果 | 相手の負担 | 通りやすさ |
|---|---|---|---|
| 支払サイトを延ばす | 大きい | 大きい | 低い |
| 締め日を変える | 中 | 小さい | 高い |
| 支払日を変える | 中 | 小さい | 高い |
| 分割払いにする | 中 | 中 | 中 |
支払サイトそのものを延ばすのではなく、締め日を月末から20日に変えてもらう——これなら相手の負担は小さく、自社の資金繰りには効きます。相手にとっては事務の手間だけです。
まず締め日と支払日の変更を検討してください。サイトの延長より、はるかに通りやすい交渉です。
サイトの延長より締め日・支払日の変更のほうが通りやすくなります。
月間の仕入が1,800万円の取引で、支払サイトを30日から45日に延ばした場合です。
| 項目 | 自社 | 相手 |
|---|---|---|
| 1日あたりの取引額 | 60万円 | 60万円 |
| 15日分 | 買掛金が900万円増える | 売掛金が900万円増える |
| 所要運転資金 | ▲900万円 | +900万円 |
| 年利3%で借りた場合 | 年27万円の節約 | 年27万円の負担 |
自社が得るものと、相手が失うものは、同じ金額です。ゼロサムの交渉であることを理解しておいてください。
相手の経理も、「900万円分、うちの資金繰りが悪くなる」と計算します。その負担を受け入れてもらうには、それに見合う何かが要ります。
自社が得るものと相手が失うものは同額。ゼロサムの交渉です。
| 言ってはいけないこと | 相手の受け取り方 |
|---|---|
| 「資金繰りが苦しいので」 | 与信を絞られる。取引を縮小される |
| 「他社はもっと長い」 | 根拠がないと反発される |
| 「取引を続けたいなら」 | 力関係を使った圧力と受け取られる |
| 「一時的に」(実際は恒久的) | 後で信頼を失う |
| 担当者だけに言う | 決裁されない。話が進まない |
相手は自社の売掛金を見ています。「苦しい」と伝えれば、与信を絞られるか、前払いを求められるか、取引を縮小されます。支払サイトを延ばすどころか、逆の方向に動きます。
これは、金融機関に対して「借りられないと倒産します」と言ってはいけないのと同じ構造です。弱さを見せる交渉は、条件を悪くします。
「苦しい」は禁句。与信を絞られ、逆の方向に動きます。
| 型 | 言い方 |
|---|---|
| 発注量とセット | 「来期の発注を◯%増やす計画です。あわせて支払条件を見直させていただけませんか」 |
| 社内規程として | 「支払条件を全社で統一することになりました。◯日での運用にご協力いただけませんか」 |
| 長期契約とセット | 「年間契約に切り替えたいと考えています。条件もあわせてご相談させてください」 |
| 締め日の統一 | 「経理の締め日を統一したく、御社も20日締めにしていただけませんか」 |
| 新規の取引 | 最初に条件を決める |
既存の条件を変えるのは難しくても、新しい取引先とは、最初から自社の希望する条件で始められます。時間はかかりますが、確実です。
2番目の「社内規程として」は、個別の事情ではなく仕組みの話にする形です。相手も「この会社の方針なら仕方ない」と受け止めやすくなります。
いちばん確実なのは新規の取引で最初に決めることです。
| 提案 | 相手の利点 |
|---|---|
| 発注量を増やす | 売上が増える |
| 他社から切り替える | シェアが上がる |
| 取扱い品目を増やす | — |
| 安定した発注を約束する | 生産・仕入の計画が立てやすい |
発注を10%増やすと、相手の粗利はいくら増えるか。それが、支払サイト延長による相手の負担(金利換算)を上回れば、相手にとっても得な取引になります。
先ほどの例で、支払サイト15日延長の相手の負担は年27万円でした。発注を増やして相手の粗利が年27万円以上増えるなら、相手は受け入れる理由があります。
月1,800万円の仕入で、相手の粗利率が20%なら、発注を1%増やすだけで相手の粗利は年43万円増えます。この計算を示せれば、交渉は具体的になります。
発注増による相手の粗利の増加と、相手の負担を比べて示してください。
| 提案 | 相手の利点 |
|---|---|
| 年間契約にする | 売上の見通しが立つ |
| 最低発注量を約束する | 生産計画が立てやすい |
| 解約の予告期間を設ける | 急な取引停止がない |
| 複数年の契約 | 設備投資の判断がしやすくなる |
仕入先にとって、「来年もこの量が出る」という見通しには価値があります。原材料の手配、人員の配置、設備の判断がしやすくなります。
最低発注量を約束すれば、売れなくても仕入れる義務が生じます。在庫が積み上がる原因にもなります。約束する量は、確実に捌ける水準にしてください。
長期契約は相手に価値があります。ただし自社も縛られます。
| 示せるもの | 相手の安心 |
|---|---|
| これまで一度も遅れていない実績 | 最も強い |
| 決算書の開示 | 財務内容を確認できる |
| 取引年数 | — |
| 支払日の固定 | 相手も資金繰りが読める |
| 自動引落・口座振替 | 遅延の可能性が下がる |
支払いを遅らせてほしいと頼むのに、これまで期日を守っていなければ話になりません。日頃から確実に払っていることが、この交渉の前提です。
逆に言えば、「これまで◯年、一度も遅れたことがありません」は強い材料です。相手の経理も、それは把握しています。
5番目も有効です。サイトは延ばす代わりに、支払日を固定して自動引落にする。相手は日付が読めるようになり、資金繰りが立てやすくなります。
一度も遅れていない実績が前提であり、最強の材料です。
| 提案 | 効果 |
|---|---|
| 一部を前払い、残りをサイト延長 | 相手の資金繰りへの影響を和らげる |
| 手付金を入れる | 相手の仕入れ資金になる |
| 現金払いと分ける | 一部は従来どおりにする |
相手も、原材料を仕入れる資金が必要です。その部分を前払いで渡し、残りの支払いを延ばす——相手にとっては、資金繰りの山が平らになります。
一見、自社の資金繰りに不利に見えますが、前払いする金額より延ばす金額のほうが大きければ、差し引きでプラスです。
たとえば月1,800万円の仕入で、300万円を前払いし、残り1,500万円を45日サイトにする。計算して、差し引きの効果を確認してください。
一部前払いで相手の山を平らに。差し引きの効果を計算してください。
見落とされやすい論点です。資本金の関係によっては、自社が下請法の「親事業者」にあたり、支払サイトが規制されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用の判定 | 自社と相手の資本金の額、取引の内容で決まる |
| 支払期日 | 受領日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内 |
| 禁止されること | 支払遅延、買いたたき、減額など |
| 違反した場合 | 公正取引委員会の勧告・指導の対象 |
下請法が適用される取引では、支払期日を60日より後ろに設定することはできません。交渉の前に、適用される取引かどうかを確認してください。
また、手形で支払う場合のサイトについても、運用が厳格化される方向で見直しが進んでいます。具体的な内容と時期は、公正取引委員会・中小企業庁の最新の資料で確認してください。
自社が下請の側になる場合の保護は 大口1社に依存した売掛金をどう扱うか の記事で扱っています。
下請法が適用されるなら、60日を超える交渉はできません。先に確認を。
| タイミング | 通りやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 新規の取引を始めるとき | 高い | 最初に条件を決められる |
| 契約更新のとき | 高い | 条件を見直す場面 |
| 発注量を増やすとき | 高い | 交換材料がある |
| 年度の変わり目 | 中 | 社内規程の変更として説明できる |
| 何もない時期 | 低い | 変える理由がない |
| 自社の業績が悪いとき | 最悪 | 資金繰りを疑われる |
資金が苦しくなってから交渉しても、相手は「苦しいのだな」と察します。業績が良く、発注を増やせるときに交渉するほうが、条件も通りやすくなります。
交渉は業績が良いときに。苦しくなってからでは察されます。
| 手 | 内容 |
|---|---|
| 締め日・支払日の変更に切り替える | 相手の負担が小さく、通りやすい |
| 一部の品目・一部の金額だけにする | 全体でなく、部分から |
| 期間を区切る | 「◯月から◯月まで」と限定する |
| 交換材料を足す | 発注量・契約期間 |
| 他の仕入先を開拓する | 時間はかかるが、根本的 |
| 他の手段で資金を作る | 在庫削減、回収の早期化 |
2番目は現実的です。「全部の取引を45日に」ではなく、「◯◯の品目だけ45日に」と部分から始める。相手の負担が小さくなり、実績もできます。
「わかりました。ではこの形ではいかがでしょうか」と代案を出せる状態にしておいてください。1回の交渉で押し切ろうとすると、関係を損ないます。
他の手段は 仕入れ資金は「借りる」以外に何ができるか の記事で扱っています。
断られたら締め日の変更か部分からに切り替えてください。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 相手の経営が厳しいとき | 相手を倒す原因になりかねない |
| 自社の支払いが遅れた直後 | 信頼がない状態 |
| 代替の効かない仕入先 | 関係が壊れると事業が止まる |
| 相手が小規模で、自社の比重が大きい | 実質的に力の行使になる |
| 下請法が適用され、60日を超える | 法令上できない |
とくに1番目と4番目です。相手が資金繰りに詰まって倒れれば、供給が止まります。代わりを探す時間と費用を考えれば、支払サイトの15日より大きな損失になります。
相手の状況が分からないなら、まず相手の決算情報や支払いの様子を確認してください。与信管理の考え方は 与信管理を最小の手間で回す の記事で扱っています。
相手を倒すと、自社も困ります。相手の状況を先に確認してください。
| 書くこと | 理由 |
|---|---|
| 締め日と支払日 | — |
| 適用の開始時期 | いつの取引分から |
| 対象の範囲 | 全品目か、一部か |
| 期間 | 恒久的か、期間限定か |
| 支払いの方法 | 振込・手形・でんさい |
| 振込手数料の負担 | — |
「話がついている」という状態は、どちらかの担当者が交代した時点で消えます。取引基本契約の変更として、または覚書として、書面に残してください。
合意した後は、その条件を確実に守ってください。延ばしてもらった期日に遅れれば、次の交渉はできなくなります。
口頭の合意は担当者の交代で消えます。書面に残してください。
5番の一度も遅れていないことが、この交渉の前提です。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。