
調達をすると持株比率が下がります。これを希薄化と呼びますが、自分が持っている株数は1株も減りません。増えるのは分母のほうです。
7,000株を持っていて、全体が11,200株なら62.5%。会社が2,800株を新しく発行すれば、全体は14,000株になり、同じ7,000株でも50.0%になります。株数は変わらず、比率だけが動いています。
この区別が大事なのは、判断の基準が変わるからです。比率が下がったことを損失と捉えると、調達額を減らす方向に動いてしまいます。実際に見るべきは、比率ではなく、その比率が表す金額です。
希薄化で動くのは分母です。株数は減りません。比率ではなく金額で見てください。
希薄化の計算は複雑に見えますが、やることは3つだけです。
| 順 | やること | 式 |
|---|---|---|
| 1 | 発行する株数を出す | 調達額 ÷ 1株あたり金額 |
| 2 | 発行後の株数の合計を出す | いまの株数 + 発行する株数 |
| 3 | 比率を出す | 自分の株数 ÷ 発行後の合計 |
この3つを、ラウンドごとに繰り返すだけです。2ラウンド先、3ラウンド先も、同じ計算を重ねるだけで出ます。
難しく感じる原因は計算そのものではなく、分母に何を入れるかです。発行済株式だけで数えるのか、未行使の新株予約権も含めるのか。ここがずれていると、同じ会社の同じ日でも違う比率が出ます。
投資家との会話は完全希薄化後が基準です。自社の計算も、そちらに揃えてください。
計算は3ステップ。難しいのは式ではなく分母の定義を揃えることです。
実際に3ラウンド分を追います。設定は次のとおりです。
| 株主 | 株数 | いま | シード後 | シリーズA後 | シリーズB後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 代表 | 7,000 | 62.5% | 50.0% | 41.2% | 34.1% |
| 共同創業者 | 2,500 | 22.3% | 17.9% | 14.7% | 12.2% |
| 初期メンバー | 500 | 4.5% | 3.6% | 2.9% | 2.4% |
| SO枠 | 1,200 | 10.7% | 8.6% | 7.1% | 5.9% |
| シード投資家 | 2,800 | — | 20.0% | 16.5% | 13.7% |
| シリーズA投資家 | 3,000 | — | — | 17.6% | 14.6% |
| シリーズB投資家 | 3,500 | — | — | — | 17.1% |
| 株数の合計 | — | 11,200 | 14,000 | 17,000 | 20,500 |
代表の比率は3回の調達で62.5%から34.1%まで下がります。1回あたりおよそ2割ずつ薄まっている計算です。
ここで見ておきたいのは、下がり方が回を追うごとに緩やかになることです。シードで12.5ポイント、シリーズAで8.8ポイント、シリーズBで7.1ポイント。分母が大きくなるほど、同じ株数の発行が与える影響は小さくなります。
3回の調達で62.5%→34.1%。ただし下がり方は回を追うごとに緩やかになります。
同じ計算をするシートを置いておきます。株主と株数、ラウンドごとの1株あたり金額と引き受ける株数を入れると、各ラウンド後の比率が出ます。
Excel版は、株数と1株あたり金額を入れれば各ラウンド後の比率が自動で出ます。ラウンドは3回まで置けます。
はじめに|このシートの使い方
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | いまの株主と株数を入れます(未行使の新株予約権も1行として入れる) |
| 2 | ラウンドごとに、1株あたり金額と引き受ける株数を入れます |
| 3 | 各ラウンド後の比率を見ます。評価額は強気・中立・弱気の3通りで置き換えてください |
| ※ | 計算式が入ったExcel版があります。比率が自動で出ます |
1 希薄化の推移(記入例)
| 株主 | 株数 | いま | シード後 | シリーズA後 | シリーズB後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 代表 | 7,000 | 62.5% | 50.0% | 41.2% | 34.1% |
| 共同創業者 | 2,500 | 22.3% | 17.9% | 14.7% | 12.2% |
| 初期メンバー | 500 | 4.5% | 3.6% | 2.9% | 2.4% |
| ストックオプション枠(未行使) | 1,200 | 10.7% | 8.6% | 7.1% | 5.9% |
| シード投資家 | 2,800 | 20.0% | 16.5% | 13.7% | |
| シリーズA投資家 | 3,000 | 17.6% | 14.6% | ||
| シリーズB投資家 | 3,500 | 17.1% | |||
| 株数の合計 | 11,200 | 14,000 | 17,000 | 20,500 |
2 ラウンドの条件(記入例)
| 項目 | シード | シリーズA | シリーズB |
|---|---|---|---|
| 1株あたり金額(円) | 25,000 | 60,000 | 120,000 |
| 発行株数 | 2,800 | 3,000 | 3,500 |
| 調達額(円) | 70,000,000 | 180,000,000 | 420,000,000 |
| ポストマネー評価額(円) | 350,000,000 | 1,020,000,000 | 2,460,000,000 |
| プレマネー評価額(円) | 280,000,000 | 840,000,000 | 2,040,000,000 |
| その回の希薄化率 | 20.0% | 17.6% | 17.1% |
3 代表の持分を金額で見る(記入例)
| 時点 | 1株あたり金額(円) | 代表の株数 | 持分の金額(円) | 比率 |
|---|---|---|---|---|
| シード後 | 25,000 | 7,000 | 175,000,000 | 50.0% |
| シリーズA後 | 60,000 | 7,000 | 420,000,000 | 41.2% |
| シリーズB後 | 120,000 | 7,000 | 840,000,000 | 34.1% |
| ※ | 比率は下がっても、株価が上がれば金額としての価値は増えます |
計算のしかた
| 項目 | 計算式 |
|---|---|
| 発行株数 | 調達額 ÷ 1株あたり金額 |
| 持株比率 | その株主の株数 ÷ その時点の株数の合計 |
| ポストマネー | 1株あたり金額 × 発行後の株数の合計 |
| プレマネー | ポストマネー − その回の調達額 |
| その回の希薄化率 | 調達額 ÷ ポストマネー評価額 |
Excel版は、株数と1株あたり金額を入れると持株比率が自動で出ます。 入力するところは水色、自動で計算されるところはグレーに塗り分けてあります。 1枚目に使い方、最後に用語集が入っています。
コピーを押すと、タブ区切りでクリップボードに入ります。 Googleスプレッドシートに貼ると列が揃ったまま入ります(計算式は入りません)。
入っている数字はすべて記入例です。実在の会社のものではありません。 自社の数字に置き換えて使ってください。
使い方のコツは、評価額を3通り置くことです。強気・中立・弱気で1株あたり金額を変えると、自分の持分がどこまで下がりうるかの幅が見えます。1通りだけ計算しても、判断の材料にはなりません。
評価額は見込みです。3通り置いて幅で見るほうが、判断の材料になります。
先ほどの例で、代表の持分を金額に換算します。
| 1株あたり | 代表の株数 | 持分の金額 | 比率 | |
|---|---|---|---|---|
| シード | 25,000円 | 7,000株 | 1億7,500万円 | 50.0% |
| シリーズA | 60,000円 | 7,000株 | 4億2,000万円 | 41.2% |
| シリーズB | 120,000円 | 7,000株 | 8億4,000万円 | 34.1% |
比率は50.0%から34.1%へ下がっていますが、金額は1億7,500万円から8億4,000万円へ増えています。株価が上がっているためです。
つまり、希薄化そのものが悪いわけではありません。悪いのは、株価が上がらないまま比率だけが下がることです。同じ株数を発行しても、1株あたり金額が低ければ、調達できる金額は小さく、比率の低下だけが残ります。
「希薄化を抑えたいので調達額を減らす」という判断は、たいてい逆効果です。1株あたり金額が同じなら、調達額を半分にすれば発行株数も半分になり、比率の低下は確かに小さくなります。ただし手元資金も半分になるため、次の調達が早まります。回数が増えれば、結局は同じか、それ以上に薄まります。
比率が下がっても株価が上がっていれば金額は増えます。見るべきは比率の低下幅ではありません。
希薄化の大きさを決めるのは、調達額そのものではなく、調達額とポストマネー評価額の比率です。
式にすると、こうなります。
その回の希薄化率 = 調達額 ÷ ポストマネー評価額
シードの例では、7,000万円 ÷ 3億5,000万円 = 20.0%。実際にシード投資家の比率は20.0%になっています。
この式から分かるのは、交渉すべきは調達額ではなく評価額だということです。同じ7,000万円を調達しても、ポストマネーが3億5,000万円なら20%、7億円なら10%の希薄化で済みます。
| 調達額 | ポストマネー | 希薄化率 | 手元に入る現金 |
|---|---|---|---|
| 7,000万円 | 3億5,000万円 | 20.0% | 7,000万円 |
| 7,000万円 | 7億円 | 10.0% | 7,000万円 |
| 3,500万円 | 3億5,000万円 | 10.0% | 3,500万円 |
2行目と3行目は希薄化率が同じですが、手元に残る現金は倍違います。評価額を上げられるなら、調達額を減らす理由はありません。
希薄化率は調達額 ÷ ポストマネー。交渉するのは調達額ではなく評価額です。
調達と同時にストックオプションの枠を設定すると、希薄化は2つの要素から生じます。
投資家は多くの場合、枠をラウンドの前に設定することを求めます。前に設定すれば、枠による希薄化を既存株主だけが負うためです。
「20%の希薄化で調達する」という合意でも、ラウンド前に7%の枠を設定すれば、創業者から見た実際の低下はそれ以上になります。枠の議論と調達の議論を分けて考えないでください。
枠をラウンド前に設定すると、既存株主だけが負担します。調達の希薄化と合算して見てください。
優先株式には、前のラウンドより低い価格で新株を発行した場合に、既存の優先株主を保護する条項が付くことがあります。
働き方は、既存の優先株式が普通株式に転換されるときの比率を調整するという形です。1株が1株ではなく1.2株に転換される、といった調整が入ります。
| 調整の型 | 内容 | 創業者への影響 |
|---|---|---|
| 完全な調整 | 新しい発行価格まで、既存の転換価格を引き下げる | 影響が大きい |
| 加重平均による調整 | 発行株数も考慮して、引き下げ幅を緩める | 影響は相対的に小さい |
| 調整なし | 条項が入っていない | — |
この調整で増えるのは既存の優先株主の持分で、減るのは普通株主、つまり創業者と従業員の持分です。新しい投資家への希薄化に、この調整が上乗せされます。
条項の有無と、どちらの型かは、投資契約の段階で確認してください。効くのは、業績が計画どおりにいかなかった場面です。
希薄化防止条項で薄まるのは普通株主だけです。型によって影響の大きさが変わります。
調達のたびに交渉するより、先に「ここまでは下がってよい」という線を決めておくほうが判断が速くなります。
線を決めるときの材料は3つです。
| 材料 | 確認すること |
|---|---|
| 意思決定に必要な比率 | 過半数か、1/3超か。拒否権の設計とあわせて見る |
| 今後の調達回数 | あと何回調達するか。回数が多いほど、1回あたりを抑える必要がある |
| 出口での手取り | 残余財産分配の条件を含めて、いくら残るか |
1つ目について補足すると、比率だけで意思決定が決まるわけではありません。拒否権が広く設定されていれば、過半数を持っていても単独では進められません。逆に、拒否権が限定的なら、比率が下がっても実質的な決定権は保てます。
線を決める材料は意思決定・調達回数・出口の手取り。比率単体では判断できません。
「評価額3億円で7,000万円」と言われたとき、3億円がプレなのかポストなのかで結果が変わります。プレなら希薄化は7,000万 ÷ 3億7,000万 = 18.9%、ポストなら7,000万 ÷ 3億 = 23.3%。同じ言葉で4.4ポイント違います。
発行済株式だけで計算すると、比率が実際より高く出ます。資本政策表で2列に分けて持っていないと、どちらの数字を使っているか分からなくなります。
J-KISSなど転換前の投資がある場合、転換したときの株数を見込んでおかないと、実際の希薄化が想定を超えます。キャップが決まっていれば試算できます。
間違いは3つ。プレとポスト・潜在株式の扱い・転換前の投資。どれも分母の問題です。
交渉に入る前に、自分の側で数字を持っておくと話が速くなります。
とくに最後の項目です。今回の条件だけで判断すると、次のラウンドで想定外に薄まります。今回20%、次も20%なら、2回で36%下がる計算になります。
今回だけでなく2ラウンド先まで試算してください。積み上がり方が見えます。
J-KISSや転換社債で調達した分は、発行した時点では株数が決まっていません。次のラウンドで転換され、そこで初めて希薄化が確定します。
| 時点 | 資本政策表での見え方 |
|---|---|
| コンバーチブルで調達したとき | 株数は未確定。比率に出ない |
| 次のラウンドの条件が決まったとき | 転換後の株数が確定する |
| 転換されたとき | 既存株主の比率が一度に下がる |
転換の株数は、バリュエーションキャップとディスカウントのうち、投資家に有利なほうで決まるのが一般的です。次のラウンドの評価額が高いほど、キャップが効いて株数が増えます。
つまり事業が順調に伸びるほど、コンバーチブルによる希薄化は大きくなります。この点は直感に反するので、必ず数字で確認してください。
| 次ラウンドのプレ評価額 | キャップ4億円の場合の転換価格 |
|---|---|
| 3億円(キャップ以下) | 3億円ベース(ディスカウント適用) |
| 8億円(キャップ超) | 4億円ベース=株数が増える |
転換の条件は契約で決まります。キャップ・ディスカウント・転換の起点となるラウンドの定義を、発行前に確認してください。詳しくは J-KISSの転換条件とバリュエーションキャップの読み方 の記事で扱っています。
コンバーチブルは伸びるほど希薄化が大きくなることがあります。
最初に確認するのはプレかポストか。ここがずれていると、以降の計算がすべてずれます。
出口から逆算して資本政策を組む考え方は IPOとM&Aで、逆算する資本政策はどう違うか の記事で扱っています。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。