
「評価額3億円で7,000万円の出資」という話をしているとき、3億円が出資を受ける前の金額なのか、受けた後の金額なのかで、渡す株式の量が変わります。
前者がプレマネー、後者がポストマネーです。言葉としては知られていますが、会話のなかでどちらの意味で使われているかは、明示されない限り分かりません。
プレとポストは調達額のぶんだけ違います。どちらで話しているかは、明示されない限り分かりません。
発行済が11,200株の会社が、7,000万円を調達する場面で比べます。
| プレマネー3億円の場合 | ポストマネー3億円の場合 | |
|---|---|---|
| プレマネー | 3億円 | 2億3,000万円 |
| ポストマネー | 3億7,000万円 | 3億円 |
| 1株あたり金額 | 26,786円 | 20,536円 |
| 発行する株数 | 2,613株 | 3,409株 |
| 投資家の比率 | 18.9% | 23.3% |
同じ「3億円」「7,000万円」という言葉で、投資家の比率が4.4ポイント違います。創業者側から見れば、それだけ持分が減るということです。
金額に直すと、ポストマネーが3億7,000万円の会社で4.4%は約1,630万円にあたります。言葉の確認を怠るだけで動く金額としては、小さくありません。
同じ数字でも4.4ポイント、金額にして約1,630万円の差が出ます。
単なる不注意ではなく、構造的な理由があります。
2つ目と3つ目が重なると、お互いが自分の慣れた前提で話したまま、合意したつもりになります。タームシートを作る段階で初めて食い違いが表面化し、そこから交渉をやり直すことになります。
ずれに気づくのが遅いほど、修正の余地が小さくなります。すでに他の投資家へ条件を伝えていたり、社内で説明していたりすると、後戻りが難しくなります。最初の会話で確認するだけで避けられる種類の問題です。
投資家はポスト、会社はプレで考えがちです。お互いが自分の前提のまま合意したつもりになります。
確認の仕方は簡単で、数字が出た最初のタイミングで聞くだけです。
| 場面 | 確認の仕方 |
|---|---|
| 相手が金額を出したとき | 「その3億円は、プレとポストのどちらでしょうか」 |
| 自分から出すとき | 「プレマネー3億円で考えています」と先に言い切る |
| メールでやり取りするとき | 「プレ3億円・調達7,000万円・ポスト3億7,000万円」と3つ並べて書く |
| タームシートを受け取ったとき | 記載がプレかポストかを読み、1株あたり金額から逆算して確かめる |
3つ目の「3つ並べて書く」のが、もっとも確実です。プレ・調達額・ポストを同時に書けば、どちらの意味かを問う余地がなくなります。
聞くことに遠慮は要りません。投資家にとっても、認識がずれたまま進むのは避けたい事態です。早い段階での確認は、むしろ丁寧な進め方として受け取られます。
プレ・調達額・ポストを3つ並べて書く。これだけで取り違えは起きません。
相手の立場から見ると、この論点の意味が分かりやすくなります。
投資家は通常、「このラウンドで何%取るか」から考えます。ファンドの設計上、1社あたりに投じる金額と、期待する持分の範囲がある程度決まっているためです。「7,000万円で20%」という形で考えることになります。
この考え方は、そのままポストマネー基準です。比率を先に決めれば、ポストマネー評価額は自動的に決まります(7,000万円 ÷ 20% = 3億5,000万円)。プレマネーは、そこから調達額を引いた残りです。
一方、会社の側は「いまの会社の価値はいくらか」から考えます。こちらはプレマネーの発想です。同じ交渉を、両者が別の入口から見ていることになります。
| 投資家の入口 | 会社の入口 | |
|---|---|---|
| 先に決めるもの | 取る比率 | いまの会社の価値 |
| 自然に出てくるもの | ポストマネー | プレマネー |
| 調達額が動いたとき | プレマネーを調整する | 比率を調整する |
これが分かっていると、交渉の進め方が変わります。相手が比率から話しているなら、こちらも比率で返したほうが噛み合います。プレマネーの金額だけを押しても、相手の判断基準に届きません。
投資家が比率から考えるなら、会社の側も「今回は何%までなら渡せるか」を先に決めておくと話が速く進みます。評価額の金額を守ろうとするより、希薄化の上限を決めるほうが、次のラウンドまで含めた設計がしやすくなります。
投資家は比率から、会社は金額から考えます。相手の入口に合わせて比率で返すほうが噛み合います。
どちらで合意しても構いませんが、ポストマネーを基準にするほうが、後の計算がずれにくくなります。
理由は、投資家の比率が直接決まるためです。ポストマネー3億円で7,000万円なら、投資家の比率は7,000万 ÷ 3億 = 23.3%。この数字は、他に何を足しても動きません。
プレマネーを基準にすると、調達額が変わるたびに比率が変わります。追加の投資家が入って調達額が増えれば、最初の投資家の比率も変わる計算になります。
| プレマネー基準 | ポストマネー基準 | |
|---|---|---|
| 先に決まるもの | 発行前の評価額 | 投資家の比率 |
| 調達額が増えたとき | 比率が変わる | プレマネーが下がる |
| 創業者にとって | 調達額を増やすと薄まる | 希薄化の上限が先に決まる |
ポストマネー基準では、調達額が増えるとプレマネーのほうが下がります。つまり「会社の評価が下がった」ように見える形になります。数字の見た目は悪くなりますが、希薄化の幅が先に確定するという利点があります。
ポストマネー基準なら希薄化の幅が先に確定します。調達額が動いても比率は変わりません。
実務でさらに厄介なのが、ストックオプションの枠をどちらに含めるかです。
「プレマネー3億円」と言うとき、その3億円を割る株数に、これから設定する枠を含めるのか含めないのかで1株あたり金額が変わります。
投資家は前者を求めることが多くなります。「プレマネー3億円」で合意していても、枠の扱い次第で創業者の持分は変わります。
確認すべきは、「プレかポストか」に加えて「1株あたり金額を出すときの分母に何が入るか」です。ここまで確認して、はじめて数字が固まります。
プレかポストかに加えて分母に枠を含めるかを確認してください。ここでもう一段ずれます。
J-KISSなど転換前の投資がある場合、その転換分を分母に含めるかどうかという論点が加わります。
含める場合、1株あたり金額が下がり、新しい投資家の株数が増えます。含めない場合、転換分は新しい投資家と一緒に希薄化を受けることになります。
| 分母に含めるもの | 1株あたり金額 | 誰が負担するか |
|---|---|---|
| 発行済株式だけ | 高い | 枠と転換分の希薄化を全員で負う |
| + 未行使の新株予約権 | 中 | 既存株主の負担が増える |
| + これから設定する枠 | 低い | 既存株主の負担がさらに増える |
| + 転換前の投資の転換分 | 最も低い | 既存株主がすべて負う |
実務では、この4段階のどこで合意するかが交渉の中身になります。「プレマネー3億円」という言葉だけでは、何も決まっていません。
分母には4段階の選択肢があります。どこまで含めるかが、実際の交渉の中身です。
条件がタームシートに落ちたら、金額の記載から逆算して確かめます。
| 確認する項目 | 読み取ること |
|---|---|
| 評価額 | プレかポストか。明記されているか |
| 調達額 | 今回の総額。複数の投資家の合計か、1社分か |
| 1株あたり金額 | 記載があれば、そこから分母を逆算できる |
| 発行株数 | 調達額 ÷ 1株あたり金額と一致するか |
| 発行後の比率 | 記載があれば、自分の計算と一致するか |
| 枠の扱い | ラウンドの前に設定するか、後か |
1株あたり金額が書かれていれば、評価額 ÷ 1株あたり金額で分母が逆算できます。その数字が、自社の発行済株式数と一致するのか、枠を含めた数字なのかを見れば、前提が分かります。
逆算した分母が自分の把握している株数と合わない場合、そこに何かが含まれています。必ず確認してください。
評価額 ÷ 1株あたり金額で分母が逆算できます。自社の株数と合わなければ、何かが含まれています。
比率の議論は抽象的になりがちです。最後は金額に直して確認してください。
先ほどの例で、代表が7,000株を持っているとします。
| プレ3億円 | ポスト3億円 | |
|---|---|---|
| 1株あたり金額 | 26,786円 | 20,536円 |
| 代表の持分の金額 | 1億8,750万円 | 1億4,375万円 |
| 差 | 4,375万円 | |
同じ会社、同じ日、同じ7,000株。言葉の解釈だけで4,375万円の差が出ます。比率のままだと「4.4ポイント」という小さな数字に見えますが、金額に直すとそうではありません。
比率ではなく金額に直して確認してください。4.4ポイントは、この例では4,375万円です。
同じ金額ならプレのほうが有利ですが、交渉では金額そのものが動きます。「ポストで3億5,000万円」と「プレで3億円」なら、後者のほうがポストは3億7,000万円で、会社に有利です。数字と定義をセットで比べてください。
タームシートに評価額が書かれていても、分母の定義まで書かれているとは限りません。1株あたり金額か、発行後の比率のどちらかが書かれていなければ、まだ確定していないと考えてください。
タームシートで合意した条件を後から動かすのは、実務上かなり難しくなります。合意する前に確認するしかありません。
誤解は3つ。数字と定義はセット・分母まで書かれているか・後からは動かせない。
確認した内容は、その場のやり取りで終わらせず、記録に残してください。
とくに4つ目です。次のラウンドで「前回はどういう前提だったか」を聞かれる場面は必ず来ます。そのとき再現できないと、説明に時間がかかります。
確認した内容はメールと資本政策表の履歴に残します。次のラウンドで必ず参照されます。
最初の1つで9割が防げます。金額が出たら、その場で聞く。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。