
次の本格的な調達に進むには材料が足りない。しかし資金は減っていく。この状態を埋めるために受けるのがブリッジファイナンスです。
本番のラウンドと違うのは、目的が「資金を入れること」ではなく「材料が揃うまでの時間を買うこと」だという点です。ここを取り違えると、入れた資金で何も変わらないまま期間が過ぎます。
目的は資金ではなく時間です。その時間で何を達成するかが決まっていないと、意味がありません。
判断が遅れるほど条件は悪くなります。いつまでに決めるかを、先に数字で置いてください。
| 項目 | 出し方 | 例 |
|---|---|---|
| 月次の支出 | 直近3か月の平均 | 1,500万円 |
| 手元資金 | 現預金の残高 | 1億2,000万円 |
| ランウェイ | 手元資金 ÷ 月次の支出 | 8か月 |
| 調達にかかる期間 | 接触から着金まで | 3〜4か月 |
| 判断の期限 | ランウェイ − 調達期間 − 余裕 | 3か月後 |
ランウェイが8か月あっても、動き出せる余裕は3か月しかありません。調達には時間がかかり、そのあいだも資金は減り続けるためです。
「まだ8か月ある」と考えているうちに残り4か月になり、そこから動き出すと交渉力がありません。相手にも残りの期間は伝わります。
使えるのはランウェイから調達期間を引いた残りです。8か月なら、動けるのは3か月です。
本番のラウンドに進むか、ブリッジで時間を買うか。判断の材料は3つです。
| 材料 | 本番に進む | ブリッジにする |
|---|---|---|
| 数字の材料 | 成長を示す指標が揃っている | あと数か月で揃う見込み |
| 投資家の反応 | 複数社が検討に入っている | 「もう少し見たい」が続く |
| 時間 | 交渉に十分な期間がある | 期限が近い |
もっとも判断しやすいのは2つ目です。「もう少し数字が見たい」という反応が複数社から返ってくるなら、いま進めても条件は良くなりません。その「もう少し」を作るのがブリッジの役割です。
逆に、投資家が具体的な条件の話に入っているなら、ブリッジを挟む必要はありません。時間をかけるほど、資金は減ります。
ブリッジを受けると決めたら、その資金で何をどこまで持っていくかを紙に書いてください。書けないなら、時間を買っても同じ状態が続きます。投資家に説明するためではなく、自分たちが判断するために必要な作業です。
判断の軸は「もう少し見たい」が続いているかどうか。その「もう少し」を作るのがブリッジです。
相手の選択肢は3つです。
| 相手 | 進めやすさ | 注意点 |
|---|---|---|
| 既存の投資家 | 速い。事業を理解している | 追加投資の枠があるか。ファンドの残存期間 |
| 新規の投資家 | 遅い。説明から始まる | 既存が入らない理由を聞かれる |
| デット | 審査しだい | 返済が始まると支出が増える |
基本は既存の投資家です。事業の状況をすでに把握しているため、判断が速いためです。新規の投資家に一から説明する時間は、ブリッジの場面では取れません。
既存に声をかける順序も考えてください。リード投資家から先に話すのが通常です。リードが入る姿勢を示せば、他の既存投資家も続きやすくなります。
基本は既存投資家、リードから。新規への説明に使える時間はありません。
ブリッジの形式は主に3つです。
| 形式 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 転換前の投資(J-KISSなど) | いま株価を決めない | 評価額の合意が難しい。もっとも多い |
| 優先株式の追加発行 | 前回と同じ条件で追加発行する | 前回のラウンドから間もない |
| 借入 | 比率が変わらない | 短期で収支が改善する見込みがある |
実務でもっとも使われるのは1つ目です。評価額を決めずに進められるため、交渉が短くて済みます。ブリッジの目的は時間を買うことなので、交渉に時間を使う形式は目的に合いません。
2つ目は、前回のラウンドから日が浅く、条件をそのまま流用できる場合に使われます。手続きが単純になる一方、評価額を前回と同じにする合意が必要です。
もっとも多いのは転換前の投資。交渉が短くて済むため、時間を買う目的に合います。
転換前の投資の形にする場合、決めるのは主に2つです。
次のラウンドで転換するときの評価額の上限です。低く設定するほど、次のラウンドでの希薄化が大きくなります。
ブリッジの場面では、前回のラウンドの評価額を基準に議論されることが多くなります。前回より低いキャップを求められた場合、それは実質的にダウンラウンドと同じ効果を持ちます。ダウンラウンドの記事とあわせて確認してください。
期限までに転換が起きなかった場合、どうなるかを定めます。返還を求められる定めが入っていると、性格が負債に近づきます。
ブリッジは「次のラウンドまで」が前提なので、満期は次のラウンドの見込み時期より後ろに置く必要があります。見込みどおりに進まない可能性を織り込んで、余裕を持たせてください。
キャップは次の希薄化を、満期は負債になるかどうかを決めます。満期は余裕を持たせてください。
金額は、必要な期間から逆算します。
| 順 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 次のラウンドで示したい到達点 | 月次売上3,000万円 |
| 2 | そこまでにかかる期間 | 6か月 |
| 3 | 次の調達にかかる期間 | 4か月 |
| 4 | 必要な期間の合計 | 10か月 |
| 5 | 月次の支出 × 期間 | 1,500万円 × 10 = 1.5億円 |
| 6 | 手元資金を差し引く | 1.5億円 − 1.2億円 = 3,000万円 |
ここで気をつけるのは、3番を入れ忘れることです。到達点までの6か月分だけを調達すると、達成した時点で資金が尽きています。次の調達にかかる期間も含めなければ、同じ状況を繰り返します。
逆に、多く受けすぎると希薄化が大きくなります。期間から計算した金額に、2〜3か月分の余裕を足すくらいが目安になります。
到達点までの期間 + 次の調達にかかる期間で計算します。後者を入れ忘れると繰り返します。
既存の投資家が追加投資に応じない場合、まず理由を確認してください。理由によって、次の動き方が変わります。
| 理由 | 意味 | 次にすること |
|---|---|---|
| ファンドの残存期間 | 投資家側の事情。事業への評価とは別 | その旨を新規の投資家に説明できる |
| 追加投資の枠がない | 同上 | 同上 |
| 事業の進捗に懸念 | 事業側の問題 | 何が懸念かを聞き、対処を検討する |
| 理由を明確にしない | 判断しかねている可能性 | 条件を変えて再度提案する余地がある |
新規の投資家は「既存はなぜ入らないのか」を必ず聞きます。ここに答えられないと、そこで検討が止まります。投資家側の事情であれば、それを説明できるようにしておいてください。
理由を聞いてください。投資家側の事情か、事業への評価かで、次の動き方が変わります。
実務でよく見るのが、ブリッジを重ねてしまう形です。原因は決まっています。
2回目のブリッジに入る場合、1回目と同じ設計にしないでください。同じやり方で同じ結果になります。何を変えるのかを決めてから受けてください。
条件の違う転換前の投資が積み重なると、次のラウンドでの転換計算が複雑になります。投資家ごとにキャップが違えば、転換後の比率も違います。新規の投資家から見て理解しにくい資本構成は、それ自体が交渉の障害になります。
繰り返す原因は到達点・金額・支出・使い方のどれかです。2回目は設計を変えてください。
ブリッジで入れた資金は、次のラウンドで転換します。そのときの希薄化を、いまのうちに試算しておいてください。
キャップが決まっていれば計算できます。希薄化の計算のシートに、転換分を1行として入れると、次のラウンド後の比率が出ます。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 転換後の想定株数 | 次のラウンドの交渉で、分母に含まれる |
| 次のラウンドと合算した希薄化 | ブリッジ単独では見えない |
| 転換後の株式の種類 | 優先株式になるか、普通株式か |
| 既存の優先株式との順位 | 出口での分配の順序に影響する |
とくに2つ目です。ブリッジで5%、次のラウンドで20%なら、合わせて24%薄まります(1 − 0.95 × 0.80)。別々に見ていると、実際の低下幅を見誤ります。
ブリッジの希薄化は次のラウンドと合算して見てください。別々では実際の幅が分かりません。
ブリッジを受けることは、社内から見ると「調達した」という良い知らせに見えます。実際には、本番のラウンドに進めなかったという事実も含んでいます。
説明のときに伝えることは3つです。
1つ目が重要です。到達点が共有されていれば、社内の判断も揃います。「資金が入った」とだけ伝えると、以前と同じ使い方が続きます。
伝えるのは到達点・期間・変えること。「調達した」だけでは、使い方が変わりません。
ブリッジ期間中に何が変われば、本番に進めるのか。入る前に、この条件を書いておいてください。
| 見るもの | 例 |
|---|---|
| 成長の指標 | 月次売上、利用者数、継続率 |
| 収支 | 粗利率、1件あたりの獲得コスト |
| 再現性 | 特定の顧客に依存していないか |
| 投資家の反応 | 以前「見たい」と言われた点が示せるか |
4つ目を忘れないでください。投資家が「もう少し見たい」と言ったときの「もう少し」が何だったのかを、そのときに聞いておくべきです。聞いていなければ、いま聞いてください。
自分たちで決めた到達点に届いても、投資家が見たかった点と違えば、同じ反応が返ってきます。
投資家が言った「もう少し」が何かを聞いておく。自分たちの到達点だけでは足りません。
3番目が抜けやすい項目です。投資家が見たかったものを聞く。ここが分からないまま時間を買っても同じです。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。