
ストックオプションの枠をどれだけ空けておくか、という話は「10%くらい」といった数字から始まりがちです。順序が逆になっています。
枠は、誰を何人採るか、その人たちに1人あたりどれだけ渡すかを積み上げた結果です。先に比率を決めてしまうと、採用が進んだときに足りないか、逆に大きく空けすぎたまま希薄化だけ抱えることになります。
枠は先に決める比率ではなく、採用計画から出る結果です。比率から入ると、必ずどちらかにずれます。
手順は3つです。
3つ目に統一的な基準はありません。当編集部でも確認できるものはないため、目安の数値は示しません。決め方の考え方としては、現金報酬をどれだけ抑えるかとセットで見るのが実務的です。同じポジションでも、市場水準に近い給与を出せるなら割合は小さくなります。
この3つを掛け合わせると、必要な株数が出ます。それを合計したものが枠です。
「7%」のまま持っていると、次のラウンドで株式が増えるたびに必要な株数が変わります。枠は株数で確定させ、比率は結果として表示するようにしてください。資本政策表と同じ考え方です。
いまの株数 → 採用人数 → 1人あたりの割合の順に積む。枠は株数で持ち、比率は表示にとどめます。
1人あたりの割合に基準はありませんが、決め方の筋道はあります。ストックオプションは現金報酬の代わりに渡すものなので、給与をどれだけ抑えるかとセットで考えます。
同じポジションでも、次のように分かれます。
| 状況 | 現金報酬 | 1人あたりの割合 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 資金が潤沢 | 市場水準に近い額を出せる | 小さくできる | 不足分が小さいので、埋める量も少ない |
| 資金が限られる | 市場水準を下回る | 大きくなる | 差額を将来の値上がりで埋めることになる |
| 立ち上げ直後 | ほとんど出せない | 最も大きい | リスクを取る度合いがそのまま反映される |
つまり割合は「その人の価値」ではなく「現金で払えない差額の大きさ」で決まります。同じ人を、資金調達の前と後で採用する場合、渡す割合は変わって当然です。
早い時期に入る人ほど、会社が続くかどうかの不確実性を引き受けています。同じポジションでも、10人目と50人目では割合が違うのが普通です。後から入る人のほうが、給与も市場水準に近づけられます。
この考え方を採用の場で説明できるようにしておくと、社内で比率の説明を求められたときに一貫した答えを出せます。逆に、その場の交渉で個別に決めていくと、後から不公平が表面化します。
候補者に「0.25%」と伝えても、それが何株で、いくらになりうるのかは伝わりません。株数、権利行使価額、その時点の1株価格の3つをセットで示してください。あわせて、行使にはお金を払う必要があること、株式をすぐ売れるとは限らないことも説明しておくと、認識のずれが起きにくくなります。
割合は現金で払えない差額の大きさで決まります。入社の時期でも変わるのが普通です。
上の手順をそのまま計算するシートを置いておきます。ポジションごとに人数と割合を入れると、必要な株数と、枠を含めた完全希薄化後の比率が出ます。次のラウンドの発行株数を入れれば、ラウンド後の比率も出ます。
Excel版は、採用人数と1人あたりの割合を入れれば必要な株数と希薄化後の比率が自動で出ます。入力する欄は水色、自動計算はグレーです。
はじめに|このシートの使い方
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | いまの発行済株式総数と、未行使の新株予約権の数を入れます |
| 2 | ポジションごとに、採用人数と1人あたりの割合を入れます |
| 3 | 枠を含めた完全希薄化後の比率を確認します |
| ※ | 計算式が入ったExcel版があります。株数と比率が自動で出ます |
1 いまの株数(記入例)
| 項目 | 株数 | 説明 |
|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 12,800 | いま実際にある株式。新株予約権は含めない |
| 発行済の新株予約権(未行使) | 1,200 | すでに発行している分 |
| 完全希薄化後の株式数 | 14,000 | 発行済 + 未行使の新株予約権 |
2 採用計画と枠(記入例)
| ポジション | 採用人数 | 1人あたりの割合 | 必要な株数 | 合計の割合 | メモ |
|---|---|---|---|---|---|
| CxO クラス | 2 | 1.50% | 420 | 3.00% | 経営を担う採用 |
| VP・部門長 | 3 | 0.60% | 252 | 1.80% | |
| シニアメンバー | 5 | 0.25% | 175 | 1.25% | |
| メンバー | 10 | 0.08% | 112 | 0.80% | |
| アドバイザー | 3 | 0.10% | 42 | 0.30% | 社外。要件の確認が必要 |
| 合計(必要な枠) | 23 | 1,001 | 7.15% | ||
| ※ | 割合は、枠を足す前の完全希薄化後14,000株に対するものとして株数へ換算しています |
3 希薄化の確認(記入例)
| 項目 | 株数 | 比率 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 12,800 | いまある株式 | |
| 発行済の新株予約権(未行使) | 1,200 | すでに発行している分 | |
| これから発行する枠 | 1,001 | シート2の合計 | |
| 完全希薄化後の株式数 | 15,001 | 3つの合計 | |
| 新株予約権の合計が占める割合 | 14.67% | ここが「SO枠が何%か」と呼ばれる数字 | |
| 次のラウンドで発行する株数 | 2,800 | 入力してください | |
| ラウンド後の完全希薄化後 | 17,801 | ||
| ラウンド後のSO枠の割合 | 12.36% | 枠を先に取ると、ラウンド後は割合が下がる |
計算のしかた
| 項目 | 計算式 |
|---|---|
| 必要な株数 | 採用人数 × 1人あたりの割合 × 完全希薄化後の株式数 |
| 完全希薄化後の株式数 | 発行済株式総数 + 未行使の新株予約権 + これから発行する枠 |
| SO枠の割合 | (未行使の新株予約権 + これから発行する枠)÷ 完全希薄化後の株式数 |
Excel版は、株数と1株あたり金額を入れると持株比率が自動で出ます。 入力するところは水色、自動で計算されるところはグレーに塗り分けてあります。 1枚目に使い方、最後に用語集が入っています。
コピーを押すと、タブ区切りでクリップボードに入ります。 Googleスプレッドシートに貼ると列が揃ったまま入ります(計算式は入りません)。
入っている数字はすべて記入例です。実在の会社のものではありません。 自社の数字に置き換えて使ってください。
数字はすべて記入例です。とくに「1人あたりの割合」はそのまま使わないでください。自社の給与水準と採用したい人材に合わせて置き換えるための欄です。
シートは順序を守るための道具です。埋めれば、比率から入る誘惑を避けられます。
枠をいつ設定するかで、誰が薄まるかが変わります。ここは投資家との交渉で必ず論点になります。
| ラウンドの前に取る | ラウンドの後に取る | |
|---|---|---|
| 薄まる人 | 既存の株主だけ | 既存の株主と、新しい投資家の両方 |
| 創業者への影響 | 大きい | 相対的に小さい |
| 投資家の主張 | こちらを求めることが多い | 会社側が求める |
投資家が「ラウンド前に枠を設定してほしい」と求めるのは、自分の持分が枠によって薄まらないようにするためです。同じ「7%の枠」でも、前か後かで創業者の手元に残る比率が変わります。
枠の大きさそのものより、この論点のほうが金額的な影響は大きくなることがあります。枠の議論に入る前に、前か後かを確認してください。
前に取れば既存株主だけが薄まる。枠の大きさと同じくらい、タイミングが効きます。
「多めに空けておけば安心」とは言えません。未行使の新株予約権は完全希薄化後の株数に入るため、使っていなくても希薄化として数えられます。
逆に、小さすぎると採用の途中で足りなくなります。追加の枠を設定するには決議が必要で、そのタイミングで既存の株主が薄まります。どちらに振れても代償があるので、採用計画から積むしかありません。
未行使の枠も希薄化として数えられます。大きすぎても小さすぎても代償があります。
採用が想定より進んだ場合、枠は足りなくなります。取れる手は3つです。
| 手 | やること | 負担 |
|---|---|---|
| 枠を追加する | 新たに新株予約権の発行枠を決議する | 既存の株主全員が薄まる。投資家の同意が要ることがある |
| 失効分を再利用する | 退職などで失効した分を、別の人に割り当てる | 失効の条件を契約に入れていないと発生しない |
| 1人あたりを減らす | これから配る分の割合を下げる | 採用の競争力が落ちる |
2つ目の失効分の再利用は、付与契約に「退職した場合は権利が失効する」と書いていなければ起きません。書いていなければ、辞めた人の分が枠に戻らないまま残ります。税制適格の要件とあわせて、付与契約の段階で決めておく項目です。
足りなくなったときの主な逃げ道は失効分の再利用です。付与契約に書いていないと使えません。
枠が足りなくなったときの「追加」は、書類上は新しい新株予約権の発行です。手順と、詰まりやすい点を押さえておきます。
| 順 | やること | 詰まりやすい点 |
|---|---|---|
| 1 | 追加する株数を決める | 採用計画を出し直さないと、また足りなくなる |
| 2 | 投資家の同意が要るかを確認する | 投資契約や株主間契約に、発行の事前承諾が定められていることがある |
| 3 | 募集事項を決議する | 株主総会の特別決議が必要になる場合がある |
| 4 | 1株あたりの価額を評価し直す | 前回の行使価額は使えない |
| 5 | 登記する | 新株予約権は登記事項になる |
| 6 | 資本政策表を更新する | 更新を忘れると、完全希薄化後がずれる |
2番でつまずくことがあります。投資契約に「一定数を超える新株予約権の発行には事前の承諾が必要」と書かれていることがあり、その場合は投資家との交渉になります。追加する理由として採用計画を示せるかどうかで、話の進み方が変わります。
4番も見落とされます。前回と同じ行使価額を使うと、契約時点の1株あたりの価額を下回る可能性があります。ラウンドを挟んでいればなおさらです。評価はそのつど必要になります。
追加は投資家の同意と、価額の再評価で止まりやすい。採用計画を示せるように準備してください。
枠を決めたあと、実務で崩れやすいのが「いま何株残っているか」が分からなくなることです。付与のたびに記録していないと、枠を超えて付与していたことに後から気づきます。
管理する項目は次のとおりです。資本政策表とは別に、1枚持つのが実務的です。
| 項目 | 書くこと | 抜けると |
|---|---|---|
| 付与日 | 決議の日 | 行使できる時期が計算できない |
| 対象者 | 氏名と、付与時点の役職 | 対象者の要件を満たしていたか確認できない |
| 株数 | その回に付与した数 | 枠の残りが合わなくなる |
| 権利行使価額 | 1株あたりの金額 | 年間の行使価額の上限を試算できない |
| 行使できる期間 | 開始日と終了日 | 要件を満たしているか確認できない |
| 状態 | 未行使/行使済み/失効 | 完全希薄化後の株数がずれる |
| 枠の残り | 決議した枠から差し引いた数 | 超過に気づかない |
とくに「状態」を更新していないケースが多く見られます。退職して失効した分を未行使のまま数えていると、完全希薄化後の株数が実態より大きくなり、比率がずれたまま投資家に提出することになります。
枠の消化は別の1枚で管理します。とくに「状態」の更新を忘れると、比率がずれます。
枠の設計と同じくらい実務で効くのが、渡すときの説明です。説明が足りないと、受け取る側は価値を評価できません。結果として、採用の武器になりません。
伝えるべき項目は5つです。
最後の項目を省かないでください。「◯◯万円分」と伝えると、現金と同じものだと受け取られます。実際には、行使にお金を払う必要があり、その後も売却できる保証はありません。ここを説明しておかないと、後で認識のずれが表面化します。
将来の評価額を前提にした金額を示すのは避けてください。実現する保証がないうえ、示した金額が期待値として残ります。事実として確定しているのは、株数・行使価額・直近の1株価格の3つだけです。それ以上は本人の判断材料として渡すものではありません。
確定している事実は株数・行使価額・直近の1株価格の3つ。将来の金額は示さないでください。
資本政策表では、この2つを分けて管理してください。混ぜると、完全希薄化後の比率が合わなくなります。
| 区分 | 意味 | 完全希薄化後に入るか |
|---|---|---|
| 発行済・未行使 | すでに個人に付与し、まだ行使されていない | 入る |
| 枠の残り | 発行を決議したが、まだ誰にも付与していない | 入れるかどうかは前提しだい |
| 行使済み | 行使されて株式になった | 発行済株式のほうに移る |
2つ目の扱いが会社によって違います。投資家と話すときは、どちらの前提で数えているかを先に揃えてください。同じ会社の同じ日でも、前提が違えば比率が変わります。
発行済・未行使/枠の残り/行使済みを分けて持つ。枠の残りの扱いは、相手と前提を揃えてください。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。