
債権を譲り受けても、それだけでは「自分のものだ」と誰にでも主張できるわけではありません。
理由は、債権は目に見えないからです。不動産なら登記簿があり、動産なら現物があります。しかし債権には、外から見て誰のものか分かる仕組みがありません。
売り手が同じ売掛金をA社とB社の両方に売ってしまう——これが起こり得ます。どちらが優先するかを決めるルールが必要で、それが対抗要件の制度です。
債権は外から誰のものか分からない。だから優劣を決めるルールが要ります。
混同されやすいのですが、「誰に対抗するか」で必要なものが違います。
| 対抗する相手 | 必要なもの | 意味 |
|---|---|---|
| 債務者(取引先) | 通知 または 承諾 | 取引先に「自分に払え」と言える |
| 第三者 (他の譲受人、差押債権者など) |
確定日付のある通知・承諾 または債権譲渡登記 |
他の権利者に優先できる |
ただの通知では、債務者には対抗できても第三者には対抗できません。二重譲渡のときに負けます。だから実務では、内容証明郵便(確定日付が付く)を使います。
この2つを分けて理解してください。「通知した」だけでは足りない場面があります。
債務者向けと第三者向けで必要なものが違います。後者には確定日付が要ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が行うか | 譲渡人(売った側) |
| 誰に | 債務者(取引先) |
| 内容 | 誰に、どの債権を譲渡したか |
| 方法 | 第三者対抗要件を備えるなら内容証明郵便 |
| 効力発生 | 債務者に到達した時 |
ここが重要です。通知は、譲渡人(売った側)が行わなければなりません。買った側が「私が譲り受けました」と通知しても、債務者は応じる必要がありません。売り手が協力しないと、通知による対抗要件は備えられません。
実務では、譲渡契約の中で「譲渡人は通知を行う」と定め、通知書に署名押印してもらう形が取られます。譲受人が譲渡人の代理人として通知する方法もありますが、代理権の証明が必要です。
通知は譲渡人が行う。買った側が単独で通知しても効力がありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が行うか | 債務者(取引先) |
| 誰に | 譲渡人または譲受人のどちらでもよい |
| 方法 | 第三者対抗要件を備えるなら確定日付のある証書 |
| 効果 | 通知と同じ |
| 追加の効果 | 異議をとどめない承諾なら、抗弁の扱いが変わりうる |
承諾は、債務者が協力してくれる場合に使えます。3者間の債権譲渡では、この形が取られます。
債務者が承諾しているということは、その債権の存在を認めているということです。架空の債権ではないか、すでに相殺されていないか——こうした不安が減ります。だから3者間のほうが手数料が安くなります。
確定日付を得る方法としては、公証役場で確定日付印を押してもらうのが一般的です。手数料は1通あたり数百円程度です。
承諾は債務者が債権の存在を認める行為。だから条件が良くなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 要件 | 譲渡人が法人であること |
| 効果 | 第三者対抗要件を備える |
| 債務者対抗要件 | 登記だけでは足りない |
| 債務者に対抗するには | 登記事項証明書を交付して通知するか、承諾を得る |
| 利点 | 取引先に知られずに、第三者対抗要件を備えられる |
ここを誤解すると、実務で困ります。登記をしても、取引先に「自分に払え」とは言えません。取り立てる段階では、結局は通知が必要になります。
つまり登記は、「二重譲渡や差押えに負けない」状態を、取引先に知られずに作る手段です。取り立てる必要が生じるまでは、取引先は何も知りません。
2社間のファクタリングでは、この性質が「取引先に知られずに売る」形の土台になっています。売掛先に打ち明けたほうがよい場合と、やってはいけない隠し方を整理した解説もあります。
費用と期間は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。
登記が備えるのは第三者対抗要件だけ。債務者には通知が要ります。
| 場面 | 確定日付 |
|---|---|
| 債務者に「自分に払え」と言うだけ | 不要(通常の通知で足りる) |
| 二重譲渡に備える | 必要 |
| 差押えに備える | 必要 |
| 譲渡人が倒産した場合に備える | 必要 |
実務では、ほぼ常に確定日付が必要だと考えてください。二重譲渡や差押えは、いつ起きるか分かりません。
| 確定日付を得る方法 | 特徴 |
|---|---|
| 内容証明郵便(配達証明付き) | 通知に使う。到達も証明できる |
| 公証役場の確定日付印 | 承諾書に使う。費用が安い |
| 公正証書 | 費用は高いが、証明力が強い |
通知には内容証明郵便+配達証明を使うのが基本です。内容証明で確定日付が付き、配達証明で到達の日が証明できます。到達した時に効力が生じるため、両方が必要です。
実務ではほぼ常に確定日付が必要。通知は内容証明+配達証明で。
額面1,000万円の売掛金が、A社とB社の両方に譲渡された場合を見ます。
| 項目 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 譲渡契約の日 | 4月1日 | 4月10日 |
| 支払った金額 | 950万円 | 950万円 |
| 対抗要件 | 通知(普通郵便) | 内容証明郵便 |
| 債務者への到達 | 4月3日 | 4月12日 |
| 結果 | B社に負ける | 優先する |
契約が先でも、確定日付のある通知がなければ第三者に負けます。A社は先に契約し、先に通知もしましたが、確定日付がないため優先できません。
A社は債権を取得できず、譲渡人に対して損害賠償を請求することになります。しかし譲渡人が二重譲渡をするような状況では、回収は困難です。対抗要件を軽く見ると、こうなります。
なお、債務者との関係では、A社は通知が先に届いているため請求できます。しかし第三者であるB社には対抗できず、最終的にB社が優先します。
契約が先でも確定日付がなければ負けます。契約日ではなく、到達日と確定日付です。
確定日付のある通知が複数ある場合、優劣は到達の先後で決まります。
| 基準 | 正しいか |
|---|---|
| 譲渡契約の日が早いほう | 違う |
| 確定日付の日が早いほう | 違う |
| 通知が債務者に到達した日が早いほう | 正しい |
ここを間違えやすいので注意してください。確定日付は「その日に文書が存在した」ことを示すだけです。優劣を決めるのは、債務者に届いた日です。だから配達証明が必要になります。
同時に到達した場合は、どちらも優先せず、債務者はどちらかに支払えば免責されるという扱いになります。実務では、供託されることが多くなります。
優劣は到達した日で決まります。確定日付の日ではありません。
| 比べるもの | 基準 |
|---|---|
| 登記 vs 確定日付のある通知 | 登記の日と通知の到達日の先後 |
| 登記 vs 登記 | 登記の先後 |
| 登記 vs 差押え | 登記の日と、差押命令の送達日の先後 |
登記も、確定日付のある通知と同じ土俵で比べられます。どちらが先かで決まります。
債権を譲り受ける側は、登記事項概要証明書で、すでに登記が入っていないかを確認します。売る側も、自社に既存の登記があるなら先に伝えてください。後から判明すると、取引が白紙になります。
登記も通知も先後で決まります。既存の登記の有無を先に確認してください。
取引先(債務者)の側から見ると、対抗要件の制度は「誰に払えばよいか」を決めるルールです。
| 状況 | 債務者がすべきこと |
|---|---|
| 通知を受けていない | 元の債権者に払えばよい |
| 通知を受けた | 譲受人に払う |
| 複数の通知を受けた | 優劣が明らかなら先のほうへ。不明なら供託できる |
| 譲渡制限を付けていた | 一定の場合、譲渡人に払って対抗できる |
1番目が重要です。通知を受けていない債務者は、元の債権者に支払えば免責されます。だから2者間の債権譲渡では、取引先は従来どおり譲渡人に支払い、譲渡人がそれを買い手に渡す形になります。
取引先から譲渡人に入金された資金を、譲渡人が買い手に渡さずに使ってしまう——この危険があります。だから2者間は手数料が高くなります。買い手のリスクが大きいためです。
通知がなければ元の債権者に払えば免責。ここに2者間のリスクがあります。
対抗要件を備えても、債権が満額取れるとは限りません。債務者が持っている反対債権で相殺されることがあります。
| 債務者が主張できること | 内容 |
|---|---|
| 相殺 | 債務者が譲渡人に対して債権を持っている場合 |
| 同時履行の抗弁 | 納品が完了していないなど |
| 債権の不存在 | そもそも債権がない、すでに支払った |
| 契約の解除 | — |
実務でいちばん多いのが相殺です。売掛金と買掛金の両方がある取引先では、相殺されると手取りが減ります。
債務者が「異議をとどめない承諾」をした場合、抗弁の扱いが変わることがあります。3者間で承諾を得る形が有利なのは、この点もあります。具体的な効果は契約と事案によるため、弁護士に確認してください。
対抗要件があっても相殺されることがあります。買掛金の有無を確認してください。
額面1,000万円の売掛金を譲り受けたが、取引先に対する買掛金が600万円あった場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売掛金(譲渡した債権) | 1,000万円 |
| 取引先に対する買掛金 | 600万円 |
| 相殺される額 | 600万円 |
| 実際に回収できる額 | 400万円 |
額面1,000万円のつもりが、実質400万円になります。譲渡の手数料は額面に対してかかりますから、買い手にとっては大きな誤算です。
債権を譲渡する前に、その取引先に対する買掛金がないかを確認してください。売りと買いの両方がある取引先の債権は、相殺のリスクがあるため、条件が悪くなるか、対象から外されます。
買掛金がある取引先の売掛金は、相殺で実質額が下がります。
まだ発生していない将来の売掛金も、譲渡・担保にできます。2020年の民法改正で明文化されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡の可否 | 可能(民法466条の6) |
| 対抗要件 | 譲渡の時点で備えることができる |
| 特定 | どの範囲の債権かを特定できることが必要 |
| 特定の方法 | 債務者、取引の種類、発生期間などで特定する |
| 登記 | 債務者が不特定なら、存続期間は10年が上限 |
集合債権譲渡担保では、「○○社に対する、令和×年×月から×年間に発生する売掛債権」のような形で特定します。
詳しくは 集合債権譲渡担保 の記事で扱っています。
将来債権も対象にできます。特定できることが条件です。
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 二重譲渡 | 後から確定日付を備えた側に負ける |
| 譲渡人の債権者による差押え | 差押えに負ける |
| 譲渡人の倒産 | 破産管財人に対抗できない |
| 債務者が譲渡人に支払った | 通知がなければ、債務者は免責される |
いずれの場合も、買い手は債権を取得できず、譲渡人への損害賠償請求しか残りません。そして譲渡人が倒産していれば、回収は困難です。
「登記は不要です」「通知しなくて大丈夫です」と言われたら、買い手がどうやってリスクを管理しているのかを確認してください。対抗要件を備えないまま資金を出す取引には、何か別の事情があります。
備えていないと二重譲渡・差押え・倒産のすべてに負けます。
| 状況 | 使う方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 取引先の協力が得られる | 承諾(確定日付付き) | 費用が安く、条件も良くなる |
| 取引先に知られたくない | 登記 | 通知せずに第三者対抗要件を備えられる |
| 取引先が多い | 登記 | 費用が定額 |
| 将来債権を含む | 登記 | まとめて対象にできる |
| 譲渡人が個人事業主 | 通知または承諾 | 登記が使えない |
| 単発・少額 | 通知 | 登記の費用が見合わない |
費用だけで見れば承諾がもっとも安くなりますが、取引先の協力が前提です。協力が得られるなら、その選択肢を先に検討してください。
取引先の協力が得られるなら承諾が最も有利。得られないなら登記です。
8番と9番——相殺と抗弁は、対抗要件があっても防げません。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。