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信託型ストックオプションの課税見直しで何が変わったか

制度が廃止されたのではなく、権利行使時に給与課税の対象になるという整理が示されました。会社には源泉徴収の義務が生じます。すでに発行している場合の確認点と、いま設計するなら何を選ぶかを整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 信託型ストックオプションとは何だったか
  2. 2023年に示された整理
  3. 何が変わったのか
  4. すでに発行している場合に確認すること
  5. いま新しく設計するなら
  6. 早く入った人との差を、別の方法で埋める
  7. なぜ信託型が広まったのか
  8. 有償ストックオプションという選択肢
  9. 税務の前提が変わったときに、会社がすること
  10. この件から読み取れること
  11. よくある質問

信託型ストックオプションとは何だったか

通常のストックオプションは、付与する時点で「誰に、何個」を決めます。これには難しさがあります。入社が後になる人ほど、株価が上がってから付与されるため、同じ貢献でも受け取る価値が小さくなるからです。

信託型は、この問題を解くために考えられた仕組みでした。会社がまとめて新株予約権を発行し、いったん信託に預けておく。誰に配るかは後から決める。行使価額は信託に預けた時点の水準で固定されるため、後から入った人でも早い時期の価格で受け取れる、という設計です。

信託型ストックオプション新株予約権を信託に預け、配る相手を後から決める仕組み。
権利行使価額その価格で株式を買える、と定めた金額。
給与課税給与所得として課税されること。累進税率が適用される。
源泉徴収会社が支払いの際に税額を差し引いて納付すること。
この章の要点

信託型は「配る相手を後から決めつつ、価格は早い時点で固定する」ための仕組みでした。

2023年に示された整理

この仕組みは、権利を行使した時点では課税されず、株式を売ったときに譲渡所得として課税される、という前提で使われていました。

2023年、国税庁からこの前提とは異なる整理が示されます。実質的に会社が役職員に付与したものとして、権利行使時に給与課税の対象になるという扱いです。

影響は2つの方向に出ました。

後者が実務では重く働きました。すでに行使が行われていた会社では、源泉徴収をしていなかった分の対応が必要になったためです。

「制度が廃止された」わけではない

信託型という仕組み自体が使えなくなったのではなく、税務上の取り扱いについての整理が示されたというのが正確な理解です。ただし、期待されていた税務メリットが前提として成り立たなくなったため、新しく採用する理由は小さくなりました。

この章の要点

変わったのは制度の存廃ではなく課税の取り扱いです。会社側には源泉徴収の義務が生じます。

何が変わったのか

導入を検討していた会社にとって、比較の構図はこう変わりました。

整理が示される前の理解 示された後
行使時の課税 課税されない前提で使われていた 給与課税の対象になる
会社の義務 特段の想定なし 源泉徴収が必要
税制適格との差 配る相手を後から決められる利点 税務上の利点は薄れた

税制適格のストックオプションは、要件を満たせば行使時に課税されません。税務の観点で比べる限り、いま信託型を選ぶ理由は見つけにくくなっています。

一方で「配る相手を後から決めたい」という課題自体は残ります。これは枠の設計で対応することになります。枠を確保しておき、採用のたびに付与する形です。行使価額はその時点の水準になりますが、要件を満たせば適格として扱えます。

この章の要点

税務の利点が薄れた以上、枠を確保して都度付与するほうが素直な設計になりました。

すでに発行している場合に確認すること

過去に信託型を発行している会社では、次の点を確認することになります。いずれも税理士と進める内容です。

確認すること なぜ必要か
すでに行使された分があるか 源泉徴収の対応が必要になる可能性がある
未行使で残っている分の扱い 今後の行使に備えて、源泉徴収の運用を決める
受け取る側への説明 手取りの想定が変わる。行使の判断に影響する
資本政策表への反映 潜在株式として正しく数えられているか
投資家への説明 デューデリジェンスで必ず確認される項目になった

とくに受け取る側への説明は早いほうがよい項目です。行使すれば手取りがこうなる、という前提が変わっているため、本人が把握していないまま行使すると、納税の場面で問題になります。

この章の要点

確認するのは行使済みの有無・今後の運用・本人への説明。すべて税理士と進める内容です。

いま新しく設計するなら

これから設計する場合、選択肢は実質的に次の3つです。

選択肢 行使時の課税 向いている場面
税制適格 要件を満たせば課税されない 役職員への付与。基本はこれ
非適格(無償) 行使時に課税される 適格の要件を満たせない対象者に渡す場合
有償 払込みを伴う別の枠組み 対価を払ってでも条件を柔軟にしたい場合

基本は税制適格です。要件を満たせない相手に渡したい場合にだけ、他の選択肢を検討することになります。

「後から配る」は、枠で解決する

信託型が解こうとした課題は、発行枠を大きめに確保しておき、採用のたびに付与することで実務上は回せます。行使価額は付与のたびに評価し直すことになりますが、税務上の前提が安定しているぶん、後から覆るリスクがありません。

この章の要点

基本は税制適格。「後から配りたい」は枠の確保で解決します。

早く入った人との差を、別の方法で埋める

信託型が解こうとした課題は残ります。株価が上がった後に入る人ほど、権利行使価額が高くなるという問題です。同じ働きをしても、受け取れる差額が小さくなります。

税制適格の枠組みの中で、この差を埋める手は次のとおりです。

手 やること 限界
株数を増やす 後から入る人には、多めの株数を付与する 枠を消費する。希薄化が進む
現金報酬を上げる 株式で埋めきれない分を給与で補う 手元資金が必要になる
付与の時期を前倒しする 入社の合意ができた段階で早めに付与する 評価のタイミングの問題は残る
ラウンドの前に付与する 調達で株価が上がる前に決議する 採用が決まっていないと使えない

どれも完全な解決ではありません。株価が上がるのは会社が伸びている証拠なので、後から入る人の行使価額が高くなること自体は避けられないのが実際のところです。

実務的には、株数と現金報酬の組み合わせで調整し、その考え方を社内で説明できる形にしておくことが落としどころになります。個別交渉で都度決めていくと、後から不公平が表面化します。

「差を完全に消す」設計を探さない

信託型は、その差を制度で消そうとした試みでした。結果として税務の前提が変わり、負担だけが残りました。制度で消そうとするより、株数と報酬の組み合わせで説明できる範囲に収めるほうが、後から覆りません。

この章の要点

差は完全には消せません。株数と現金報酬の組み合わせで調整し、考え方を説明できる形にしておきます。

なぜ信託型が広まったのか

この仕組みがなぜ多くの会社で採用されたのかを押さえておくと、代替を考えるときの判断が変わります。理由は3つありました。

1. 採用の時期による不公平を消せると考えられた

1人目と50人目では、付与される時点の株価がまったく違います。会社が伸びているほど差は開きます。信託に預けた時点の価格で固定できるなら、後から入る人も早い時期の条件で受け取れる——これが最大の動機でした。

2. 誰に配るかを、あとで決められた

通常の枠でも「誰に配るか」は後から決められますが、行使価額はそのつど評価し直すことになります。信託型なら価格を固定したまま配る相手だけを後から決められる、と理解されていました。採用計画が固まっていない段階でも設計できる点が支持されました。

3. 税務上の扱いが有利だと理解されていた

行使時に課税されず、売却時に譲渡所得として課税される。この理解が前提にありました。結果として、この3つ目が覆ったことで、1つ目と2つ目の利点だけでは採用の理由にならなくなりました。

広まった理由が、そのまま弱点でもあった

3つの利点のうち、1つ目と2つ目は仕組みの設計から来るものですが、3つ目は税務上の解釈に依存していました。解釈に依存した利点は、解釈が変われば消えます。設計を選ぶときは「この利点は何に依存しているか」を分けて見てください。

この章の要点

利点のうち税務上の扱いだけが解釈に依存していました。そこが覆ったため、残る利点では選ぶ理由になりません。

有償ストックオプションという選択肢

信託型を検討していた会社が、次に比較対象として挙げることが多いのが有償ストックオプションです。名前は似ていますが、性格がかなり違います。

有償型では、受け取る側が新株予約権そのものに対価を払います。無償で付与する税制適格の枠組みとは別の仕組みで、投資として引き受ける形に近くなります。

税制適格 有償
受け取る側の負担 付与時の支払いはない 新株予約権の対価を払う
行使の条件 法令の要件に縛られる 比較的自由に設計できる
対象者 役職員など。大口株主は除外 制約が少ない
会計上の扱い 要件による 条件しだいで費用計上が必要になる場合がある

有償型が向くのは、適格の要件を満たせない相手に渡したい場合や、業績条件など細かい条件を付けたい場合です。一方で、受け取る側は先に現金を払うことになるため、金額が大きいと引き受けてもらえません。

また、会計上の扱いについては過去に見解の整理が行われており、条件の設計によって費用計上が必要になる場合があります。導入する前に、税務と会計の両方を確認してください。

この章の要点

有償型は条件を自由に設計できる代わりに、受け取る側が先に払う仕組みです。適格の代わりにはなりません。

税務の前提が変わったときに、会社がすること

この件に限らず、いちど設計した仕組みの税務上の取り扱いが後から変わることはあります。そのときに会社側で必要になる動きは、おおむね共通しています。

順 やること 放置するとどうなるか
1 自社が該当するかを確認する 該当していることに気づかないまま行使が進む
2 すでに行使された分の有無を洗う 過去分の対応が必要かどうか判断できない
3 税理士と対応方針を決める 個別事情を踏まえない判断をしてしまう
4 受け取った人へ説明する 本人が知らないまま行使し、納税で問題になる
5 今後の運用を決める 次の行使でも同じことが起きる
6 投資家への説明を用意する デューデリジェンスで止まる

順序として大事なのは4番を後回しにしないことです。会社側の処理の話に見えますが、実際に納税するのは行使した個人です。本人が前提を知らないまま行使すると、想定していた手取りと違う結果になります。

説明を先送りすると、信頼の問題になる

ストックオプションは、現金報酬を抑える代わりに渡しているものです。その価値の前提が変わったことを伝えないまま行使させると、報酬の約束が変わったのと同じ受け取られ方をします。税務の話である以上に、採用と定着の話になります。

この章の要点

会社の処理より先に、受け取った人への説明を動かしてください。納税するのは本人です。

この件から読み取れること

この一件は、ストックオプションの設計における一般的な教訓を含んでいます。

制度の細部は改正で動きます。設計の時点で、その扱いが法令や公表された取り扱いにもとづくものかを確認しておくことが、結局いちばん確実です。

ストックオプションを設計するときの前提確認

  • 採用する形が、法令上の要件にもとづいて扱いが定まっているか
  • 行使時に課税されるのか、されないのかを確認した
  • 課税される場合、会社に源泉徴収の義務が生じるかを確認した
  • 受け取る側に、行使時の手取りの前提を説明した
  • 税理士に、設計の時点で確認した
  • 資本政策表の潜在株式に、正しく反映した
この章の要点

教訓は3つ。前提は覆る/負担は個人に出る/後から直せない。設計の時点で確認するしかありません。

よくある質問

Q. 信託型はもう使えないのですか
仕組みそのものが禁止されたわけではありません。ただし、行使時に給与課税の対象になるという整理が示されたため、期待されていた税務上の利点は前提として成り立ちません。新しく採用する理由は小さくなっています。
Q. すでに発行済みのものは、どうなりますか
行使時の課税の取り扱いが影響します。具体的な対応は、行使済みか未行使か、会社の状況によって異なります。個別の判断になるため、税理士に確認してください。当編集部では個別の税務判断はできません。
Q. 会社が源泉徴収をしていなかった場合はどうなりますか
源泉徴収の義務がある支払いについて徴収していなかった場合、会社が納付する義務を負うことになります。対応の方法は個別の事情によるため、税理士と進めてください。
Q. 後から入る人が不利になる問題は、どう解決しますか
完全には解決しません。株価が上がった後に付与すれば、行使価額も高くなります。実務では、後から入る人には株数を多めに配る、現金報酬の水準を上げる、といった形で調整します。
Q. 投資家から、この件について聞かれますか
信託型を発行している場合、デューデリジェンスで確認される項目になっています。発行の有無、行使済みの数、税務上の対応の状況を説明できるようにしておいてください。
Q. この記事の内容は最新ですか
本記事は制度の骨格と考え方を整理したものです。税務の取り扱いは改正や新たな見解の公表によって変わることがあります。設計や対応を進める時点での最新の内容を、国税庁の情報と税理士で確認してください。
Q. 今から信託型を新しく組成する会社はありますか
税務上の利点が前提として成り立たなくなったため、新規に採用する理由は小さくなっています。採用を検討する場合は、何を目的にするのかを明確にしたうえで、税理士と確認してください。
Q. 信託に預けたままの新株予約権は、どう扱いますか
未行使の潜在株式として、資本政策表に記録してください。完全希薄化後の株数に含める点は、通常のストックオプションと変わりません。
Q. 受け取った人が退職した場合はどうなりますか
付与の条件によります。信託から配分される前か後かでも扱いが変わるため、個別の設計を確認する必要があります。
Q. 同じように後から覆りうる設計は、他にもありますか
税務上の解釈に依存する設計は、いずれも同じ性質を持ちます。法令の要件が明確に定められているものと、解釈にもとづいて運用されているものを区別して、後者を選ぶ場合はその前提を記録しておいてください。
Q. そもそも、なぜ税務の扱いが後から変わったのですか
仕組みの形式ではなく実態に着目した整理が示されたためです。会社が対価を負担し、役職員に渡している構造であれば、実質的には会社から個人への付与にあたる、という考え方です。形式を整えても実態で判断されうる、という点がこの件の本質です。
Q. 会社の会計にも影響がありますか
給与として扱われる部分については、費用の計上や納付の処理が生じます。具体的な処理は個別の条件によるため、会計士と確認してください。
Q. 受け取った人が、すでに退職している場合はどうなりますか
退職していても、行使した時点の課税関係は発生しています。過去の処理について対応が必要かどうかは、行使の有無と時期によります。税理士と個別に確認してください。
Q. こうした情報は、どこで追えばよいですか
国税庁の公表資料と、経済産業省のストックオプション税制のページが一次情報になります。制度の解説記事は更新が追いついていないことがあるため、判断の根拠にはしないでください。
出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.1543「ストックオプション税制」— 国税庁
  • 租税特別措置法 第29条の2 — e-Gov法令検索
  • 経済産業省「ストックオプション税制」— 経済産業省