
ストックオプションには、税制上の要件を満たすもの(税制適格)と、満たさないもの(非適格)があります。違いは税率ではなく、税金がかかる時点です。
| 権利を行使したとき | 株式を売ったとき | |
|---|---|---|
| 税制適格 | 課税されない | 売却益に課税される(譲渡所得) |
| 非適格 | 行使時の含み益に課税される(給与所得など) | そこからの値上がり分に課税される |
非適格で問題になるのは、まだ売っていない、つまり現金を受け取っていない段階で課税される点です。未上場企業では株式をすぐに売れないため、納税資金を別に用意する必要が出ます。受け取った側にとって、これは重い負担になります。
違いは課税の時点です。非適格は、現金が入っていない行使の時点で課税されます。
税制適格として扱われるには、複数の要件をすべて満たす必要があります。1つでも外れると非適格になります。
| 要件 | 内容 | 外れやすい点 |
|---|---|---|
| 付与対象者 | 発行会社の取締役・執行役・使用人など。大口株主とその特別関係者は除かれる | 社外協力者への付与。一定の要件を満たす社外高度人材は別枠で認められる |
| 無償での発行 | 新株予約権そのものは無償で付与する | 有償ストックオプションは、この制度の対象ではない |
| 権利行使の期間 | 付与決議の日後2年を経過した日から、一定期間内 | 付与からすぐには行使できない |
| 年間の権利行使価額 | 1年あたりの合計に上限がある | まとめて行使すると超える |
| 権利行使価額の下限 | 契約を結んだ時点の1株あたりの価額以上 | 安く設定すると要件から外れる |
| 譲渡の禁止 | 新株予約権を他人に譲渡できない定めにする | — |
| 株式の管理 | 行使して取得した株式を、定められた方法で管理する | 手続きを用意していないと満たせない |
設計の段階で見落とされやすいのは行使期間の始まりです。付与決議から2年を経過した日より前には行使できません。短期で辞めた人が行使することは、そもそも制度上できない形になっています。
要件はすべて満たして初めて適格です。1つ外れると非適格になり、行使時に課税されます。
1年間に権利行使できる金額の合計には上限が定められています。この上限は、会社の設立からの年数や、上場しているかどうかによって区分されています。
区分の条件は細かく定められており、この領域は税制改正が入りやすいところです。設計する時点での最新の内容を、国税庁の情報で確認してください。
複数回に分けて付与していても、行使する年の合計額で判定します。上場したタイミングでまとめて行使すると、上限を超えて、超えた分が非適格の扱いになることがあります。付与するときに、行使を何年に分けるかまで見ておいてください。
上限は付与額ではなく、その年に行使した額の合計で判定します。まとめて行使すると超えます。
権利行使価額は、契約を結んだ時点の1株あたりの価額以上に設定する必要があります。安く設定するほど受け取る側には有利ですが、下回ると適格の要件から外れます。
ここで問題になるのが、未上場企業の「その時点の株価」をどう出すかです。直近のラウンドで優先株式を1株50,000円で発行していても、普通株式の価額がそれと同じとは限りません。評価の方法は複数あり、どれを使うかで金額が変わります。
直近に調達をしている会社ほど、この論点は重くなります。付与の前に、税理士と評価の方法を決めてください。後から「行使価額が低すぎた」と判定されると、受け取った側が行使時に課税されます。
行使価額の下限は契約時の1株あたりの価額。未上場ではその評価方法を先に決める必要があります。
付与の対象になるのは、発行会社の取締役・執行役・使用人などです。ただし、大口株主とその特別関係者は対象から除かれます。
創業者が自分にストックオプションを付与しようとして、この点で外れることがあります。すでに大きな比率を持っている場合、対象にならない可能性があります。
一方で、社外の人材については、一定の要件を満たす社外高度人材に対して付与できる仕組みが用意されています。要件は細かく定められているため、該当するかどうかは個別に確認が必要です。
要件を満たすかどうかは、付与の時点の設計で決まります。後から契約を書き換えて適格にすることは基本的にできません。設計の順序を間違えると、やり直しが効きません。
大口株主とその特別関係者は対象外です。社外の人材には別の枠組みがあります。
権利を行使して取得した株式は、定められた方法で管理する必要があります。証券会社等への保管の委託によるほか、発行会社自身が一定の方法で管理する形も認められています。
未上場のうちは証券会社に口座を作ること自体が負担になるため、この選択肢があるかどうかで実務のしやすさが変わります。制度の詳細は改正の影響を受けやすい部分なので、設計時点の要件を確認してください。
行使後の株式の管理方法まで含めて要件です。手続きを用意していないと満たせません。
要件を外れたときの影響は、会社ではなく受け取った人に出ます。金額の感覚をつかむために、数字を置いて追います。
権利行使価額100円のストックオプションを1,000株分持っている人が、株価が25,000円になった時点で行使したとします。
非適格なら、この2,490万円が行使した年の所得として扱われます。税率は本人の所得状況によって変わるため金額は示しませんが、問題は税額そのものより、現金が1円も入っていない状態で納税が発生することです。
未上場企業の株式は自由に売れません。売って納税資金を作る、という手が使えない状況で課税されます。受け取った側は、行使をためらうか、別途資金を用意することになります。
ストックオプションは、現金報酬を抑える代わりに将来の値上がりを分けるための仕組みです。その設計が非適格だと、値上がりした時点で本人に納税義務だけが先に来ます。制度の趣旨と逆の結果になるため、適格の要件は設計の前提として押さえる必要があります。
非適格の負担は受け取った側に出ます。現金が入らない時点で課税されるのが本質的な問題です。
受け取る側に有利にしようとして、契約時点の1株あたりの価額より低く設定してしまう例です。この時点で適格の要件から外れます。直近に調達をしている会社ほど起きやすく、優先株式の発行価額と普通株式の価額を同じものとして扱ってしまうことが原因になります。
「入社してすぐ行使できるようにしたい」という設計は、適格の枠組みでは取れません。付与決議の日後2年を経過した日より前には行使できないためです。早期に報いたい場合は、別の手段を検討することになります。
行使できる条件を「上場したとき」だけに揃えると、上場した年に全員が行使します。年間の権利行使価額の上限は各人ごとに見るため、1人が大量に保有している場合に超えます。行使を複数年に分けられる設計にしておくと、この問題を避けられます。
| 失敗 | いつ気づくか | 直せるか |
|---|---|---|
| 行使価額が低すぎる | 行使のとき、または税務調査 | 直せない。発行し直しになる |
| 行使期間の始まりが早い | 設計の確認時に気づくことが多い | 発行前なら直せる |
| 行使が1年に集中する | 上場した年 | 設計時にしか直せない |
3つに共通するのは、気づくのが行使の場面で、その時点では直せないことです。発行を決議する前に確認するしかありません。
失敗はどれも行使の場面で発覚し、そのときには直せません。発行前の確認がすべてです。
行使価額の下限になる数字ですが、未上場企業には市場価格がありません。どう評価するかで金額が変わり、金額が変われば適格かどうかも変わります。
評価の考え方には、大きく次の系統があります。どれを使うかは、会社の状況と税理士の判断によります。
| 考え方 | 見るもの | 使われやすい場面 |
|---|---|---|
| 純資産をもとにする | 貸借対照表上の純資産 | 直近の調達がなく、資産の実態が見えやすい場合 |
| 類似する会社と比べる | 同業の指標 | 比較できる会社がある場合 |
| 将来のキャッシュフローから求める | 事業計画 | 計画の根拠を示せる場合 |
| 直近の取引価格を参考にする | 前回の発行価額 | 直近に調達をしている場合 |
誤解が多いのは4つ目です。優先株式を1株50,000円で発行したからといって、普通株式の価額も50,000円とは限りません。優先株式には残余財産の分配などの条件が付いており、普通株式とは価値が異なります。
ただし「だから普通株式は大幅に安くてよい」と単純に扱うのも危険です。差をどう説明するかが、そのまま評価の妥当性になります。評価の方法と根拠を書面で残しておいてください。
優先株式の発行価額を、そのまま普通株式の価額とはしません。差の根拠を残すことが評価の実体です。
要件を時系列に並べると、どこで何を決める必要があるかが見えます。
| 時点 | やること | 要件との関係 |
|---|---|---|
| 設計 | 対象者を決め、1株あたりの価額を評価する | 対象者の要件と、行使価額の下限に直結する |
| 決議 | 株主総会または取締役会で募集事項を決める | ここが「付与決議の日」になり、行使期間の起点になる |
| 割当て | 対象者と契約を結ぶ | 譲渡禁止など、契約に入れる定めを確認する |
| 2年経過 | — | これより前には行使できない |
| 行使 | 本人が行使価額を払い込む | その年の行使価額の合計が上限を超えないか |
| 株式の取得 | 定められた方法で管理する | 管理方法も要件に含まれる |
| 売却 | 本人が株式を売る | ここで譲渡所得として課税される |
設計と決議の段階で決まることが多く、そこから先は要件を満たすかどうかを確認するだけという構造です。だからこそ、最初の2ステップに時間をかける価値があります。
行使期間の起点は付与決議の日です。決議が遅れれば、行使できる時期も後ろにずれます。上場や売却の時期を見込んで設計している場合、決議の遅れがそのまま影響します。
また、決議から実際の割当てまでに時間が空くと、その間に株価が動くことがあります。行使価額は契約を結んだ時点の価額を下回れないため、間が空くほど、設定した行使価額が低すぎる状態になるリスクが上がります。
決まるのは設計と決議の2ステップ。決議の日が行使期間の起点になるため、遅れはそのまま影響します。
要件を後から満たすことはできないので、順序が重要です。
| 順 | 決めること | ここで間違えると |
|---|---|---|
| 1 | 誰に付与するか(対象者の要件を確認) | そもそも適格にならない |
| 2 | 契約時点の1株あたりの価額を評価する | 行使価額の下限を割る |
| 3 | 発行する枠の大きさを決める | 希薄化が想定を超える |
| 4 | 行使できる期間と条件を決める | 2年の縛りと合わない設計になる |
| 5 | 行使を何年に分けるかを見る | 年間の上限を超える |
| 6 | 行使後の株式の管理方法を用意する | 要件を満たせない |
| 7 | 資本政策表の潜在株式に記録する | 完全希薄化後の比率がずれる |
要件は後から満たせません。対象者と株価の評価を先に決め、枠と期間はその後です。
信託型ストックオプションの課税上の取扱いについては、信託型ストックオプションの課税見直しで何が変わったか の記事で扱っています。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。