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株式による調達

共同創業者が抜けたとき、株式をどう戻すか

日本にベスティングという制度はなく、あるのは創業者どうしの契約だけです。離脱の理由で買取価格を分ける考え方、4年・1年クリフの数え方、会社が買うときの分配可能額の制約までを整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 日本には「ベスティング」という制度がない
  2. 後から戻そうとしても効かない理由
  3. 実務で使われる3つの型
  4. 買取価格を、離脱の理由で分ける
  5. 期間の数え方を、具体例で確認する
  6. 誰が買うか、現金はどこから出るか
  7. 買い取ると決めてから、完了までの流れ
  8. 創業株主間契約で決めておく項目
  9. 契約書は自分で作るか、頼むか
  10. 投資家は、この契約のどこを見るか
  11. いつ結ぶか
  12. よくある質問

日本には「ベスティング」という制度がない

「4年ベスティング、1年クリフ」という言い方は日本のスタートアップでも普通に使われますが、会社法にそういう制度があるわけではありません。あるのは、創業者どうしが結ぶ契約だけです。

つまり、契約を結んでいなければ、ベスティングは存在しません。「4年かけて確定する約束だった」と後から言っても、書面がなければ主張の根拠がありません。

創業株主間契約創業者どうしで結ぶ契約。離脱したときの株式の扱いを定める。法律上の義務ではない。
ベスティング一定期間の関与を条件に、株式が確定していく取り決め。日本では買取条項として作る。
クリフこの期間に満たずに抜けた場合は1株も確定しない、という最初の区切り。1年とすることが多い。
譲渡制限株式譲渡に会社の承認が必要な株式。非上場企業の株式はほぼこれ。
この章の要点

ベスティングは制度ではなく契約でつくるものです。結んでいなければ、口頭の合意は機能しません。

後から戻そうとしても効かない理由

株式は財産です。発行してしまえば、その人のものになります。会社の都合で消すことも、取り上げることもできません。

戻すには、次の3つが同時に必要です。

この3つが揃うのは、関係が良好なうちだけです。揉めて抜けた相手に対しては、まず成立しません。

時間が経つほど、解決しにくくなる

事業が伸びれば株価は上がります。設立時に1株100円だった株式が、シードで1株25,000円になれば、2,500株を買い戻すのに6,250万円かかる計算です。買い戻したい気持ちが強くなるころには、買い戻せない金額になっています。

この章の要点

戻すには同意・現金・価格の合意の3つが要ります。揉めた相手からは回収できないと考えておくべきです。

実務で使われる3つの型

日本のスタートアップでは、次の3つを組み合わせて作ります。単独では足りません。

型 何をするか 単独では足りない理由
創業株主間契約の買取条項 離脱したときに、会社や他の創業者が株式を買い取れると定める 契約なので、当事者以外には効かない
定款の譲渡制限 株式の譲渡に会社の承認を必要とする 第三者へ売るのは止められるが、本人が持ち続けるのは止まらない
段階的な確定 在籍期間に応じて、買い取れる株数を減らしていく 期間の数え方を決めないと運用できない

日本で多いのは、株式は設立時に全部発行したうえで、離脱時に「まだ確定していない分」を買い取れるようにしておく形です。段階的に発行していく方式は、そのつど手続きが必要になり、実務の負担が大きくなります。

この章の要点

株式は最初に全部発行し、離脱時に未確定分を買い取る形が扱いやすい。3つを組み合わせて初めて機能します。

買取価格を、離脱の理由で分ける

もっとも揉めるのが価格です。ここを契約に書いていないと、離脱の場面で一から交渉することになります。

実務では、離脱の理由によって価格の基準を変える形がよく使われます。

離脱の理由 価格の基準の例 考え方
やむを得ない事情
(健康上の理由など)
直近の株価、または純資産にもとづく価格 貢献に見合う分は受け取れるようにする
自己都合
(他社へ移るなど)
取得価額(払込金額)と、直近の株価の中間 期間に応じて確定した分だけ残す
重大な違反
(競業、背信行為など)
取得価額(払込金額) 値上がり分は渡さない
100円取得価額(設立時の払込)
25,000円直近ラウンドの1株価格
250倍どの基準を選ぶかで変わる幅

差が250倍になることもあります。だからこそ、価格の基準は「抜けると決まる前」に書いておく必要があります。

価格には税務の論点がある

株式を著しく低い価格でやり取りすると、税務上の取り扱いが問題になることがあります。買い取る側にも、売る側にも影響します。価格の基準を契約に入れる段階で、税理士に確認してください。当編集部では個別の税務判断はできません。

この章の要点

価格は離脱の理由で基準を分ける。取得価額と直近株価では、差が数百倍になることがあります。

期間の数え方を、具体例で確認する

「4年で確定、1年クリフ」を、2,500株を持つ共同創業者の例で追います。起算日は専念を始めた日、確定は月ごとに進む(48か月で全部)という設定です。

抜けた時期 確定した株数 買い取れる株数 説明
6か月 0株 2,500株 クリフに届かないため、1株も確定しない
12か月 625株 1,875株 クリフ到達。12か月分がまとめて確定する
24か月 1,250株 1,250株 ちょうど半分
36か月 1,875株 625株 4分の3
48か月 2,500株 0株 全部確定。以降は買取条項が働かない

11か月で抜ければ0株、13か月なら677株。2か月の差で結果が大きく変わります。だからこそ、起算日をどこに置くかが実務では争点になります。

起算日をどこに置くか

専念の開始がずれている場合は、創業者ごとに起算日を変える形もあります。全員同じにしなければならない決まりはありません。

「フルタイム」の定義を書かないと、期間が数えられない

副業として関わっていた期間を算入するのか。週3日なら専念といえるのか。ここを文章にしていないと、確定株数の計算が始められません。「他に主たる業務を持たないこと」のように、判定できる書き方にしてください。

この章の要点

クリフの前後で結果が大きく変わります。起算日とフルタイムの定義を文章にしていないと、そもそも計算が始められません。

誰が買うか、現金はどこから出るか

買取条項を書いても、実際に買う人と現金がなければ動きません。買い手の候補は3つです。

1. 会社が買う(自己株式の取得)

いちばん自然に見えますが、制約があります。会社が自社株を買うには分配可能額の範囲内である必要があり、赤字が続いているスタートアップでは枠が足りないことが珍しくありません。株主総会の決議も要ります。

2. 他の創業者が買う

会社の財源規制を受けませんが、個人が現金を用意することになります。株価が上がっているほど厳しくなります。

3. 会社が指定する第三者が買う

既存の投資家などに引き受けてもらう形です。相手の意向次第なので、確実ではありません。

「会社が買い取る」とだけ書くと、動かないことがある

分配可能額が足りなければ、会社は買えません。契約には買い手を会社に限定せず、他の創業者や会社が指定する者も買えるようにしておくのが実務的です。順番と期限も決めておくと、判断が止まりません。

この章の要点

会社による買い取りは分配可能額の制約を受けます。買い手を会社だけに限定しないでください。

買い取ると決めてから、完了までの流れ

条項があっても、手続きを踏まないと株主名簿は変わりません。会社や他の創業者が買い取る場合の流れは、おおむね次のとおりです。

順 やること 注意する点
1 契約にもとづき、買い取る意思を通知する 行使できる期間を過ぎていないか確認する
2 確定株数と買取価格を計算する 起算日と離脱の理由の区分で、金額が変わる
3 株式の譲渡について会社の承認を得る 譲渡制限株式なので、承認の手続きが要る
4 会社が買う場合は、株主総会の決議を取る 分配可能額の範囲を超えていないか確認する
5 譲渡契約を結び、代金を支払う 支払いの時期と方法を明記する
6 株主名簿を書き換える ここまでやって、はじめて対外的に整理される
7 資本政策表の取引履歴に1行足す 次の調達で必ず突き合わせられる

3と4で止まることがあります。譲渡の承認は取締役会(設置していない会社では株主総会)で決めますが、離脱する本人が取締役や大株主のままだと、手続きが進まないことがあるためです。契約に、承認手続きへの協力義務を入れておくと詰まりにくくなります。

この章の要点

買い取ると決めても、譲渡の承認と株主名簿の書換まで終わらないと整理されません。本人の協力が要る場面が残ります。

創業株主間契約で決めておく項目

契約に入れる項目を並べます。空欄のまま結ぶと、そこが後で争点になります。

項目 決めること 空欄だとどうなるか
対象者 誰に適用するか 一部の創業者だけ縛られる形になる
対象株式 設立時の株式だけか、後から取得した分も含むか 追加取得分が対象外になる
期間の数え方 起算日と、確定していく刻み 「いつから何年」で揉める
クリフ この期間未満なら確定しない、という区切り 短期間で抜けた人にも株式が残る
離脱の理由の区分 やむを得ない事情/自己都合/重大な違反 すべて同じ価格になり、合意が難しくなる
価格の基準 理由ごとの算定方法 離脱が決まってから交渉することになる
買い手と順番 会社/他の創業者/指定する第三者 買い手がいないまま止まる
行使できる期間 離脱からいつまでに買い取るか いつまでも決まらない
フルタイムの定義 専念とみなす条件 「関与していた」の解釈で割れる

とくに落ちやすいのが「期間の数え方」と「フルタイムの定義」です。副業として関わっていた期間を算入するのかどうかは、後から決めようとすると必ず対立します。

この章の要点

9項目のうち、期間の数え方・フルタイムの定義・買い手の順番が抜けやすい。ここが争点になります。

契約書は自分で作るか、頼むか

創業株主間契約の書式は公開されているものがあり、自分で作ることもできます。判断の目安を挙げます。

公開の書式を使う 専門家に頼む
向いている状況 創業者が2〜3人で、条件が単純 持ち込む資産がある、人数が多い、条件を細かく分けたい
気をつける点 自社の前提に合っているか、空欄を埋めきれるか 費用と時間がかかる

どちらにしても、埋める内容を決めるのは自分たちです。起算日をどこに置くか、フルタイムをどう定義するか、離脱の理由をどう分けるかは、書式が決めてくれません。

先に当事者どうしで内容を固め、そのうえで書面にする——という順序で進めると、費用も時間も抑えられます。合意ができていない状態で書面の作成だけを頼むと、結局そこから議論が始まります。

この章の要点

書式が決めてくれない項目が本体です。内容を先に固めてから書面にするほうが早く終わります。

投資家は、この契約のどこを見るか

創業株主間契約は、出資の検討に入ると必ず提出を求められます。見られるのは次の点です。

見られる点 何を確認しているか 足りないと
対象者の範囲 創業株主が全員入っているか 縛られていない人の株式が残るリスク
期間と起算日 確定の進み方が明確か いま何株が確定しているか計算できない
買取価格の基準 理由ごとに定めがあるか 離脱時に交渉が必要になり、時間がかかる
買い手の順番 会社以外も買えるか 分配可能額が足りないと動かない
投資契約との整合 これから結ぶ契約と矛盾しないか 条件の修正を求められる

投資家がこれを確認するのは、事業から離れた人が株式を持ち続ける状態を避けたいからです。出資した資金で伸ばした価値が、関わっていない人にも分配される構造になるためです。

契約が無い、あるいは項目が抜けている場合、出資の条件として締結や修正を求められることがあります。その時点で結ぶと、交渉の材料として使われる形になります。先に結んでおくほうが、条件を自分たちで決められます。

この章の要点

投資家は事業から離れた人の株式が残らないかを見ています。出資の話が出る前に結んでおくほうが有利です。

いつ結ぶか

設立と同時が理想です。遅くとも、外部から出資を受ける前には結んでおくことになります。投資家から求められて初めて着手する例が多いのですが、その時点ではすでに関係が固まっていて、条件を切り出しにくくなっています。

設立時に話せば、「これから一緒にやる前提の取り決め」として話せます。数年経ってから持ち出すと、「自分を疑っているのか」という受け取り方をされます。同じ内容でも、切り出す時期で意味が変わります。

契約を結ぶ前に確認すること

  • 対象者に、全員の創業株主が入っている
  • 期間の起算日を、登記の日か、実際に専念を始めた日かで決めた
  • フルタイムとみなす条件を、文章で書いた
  • 離脱の理由の区分を3つ以上に分けた
  • 理由ごとの価格の基準を書いた
  • 買い手を会社だけに限定していない
  • 買い取りを行使できる期間を決めた
  • 価格の基準について、税務の確認をした
  • 定款の譲渡制限と、契約の内容が矛盾していない
  • 決めた内容を資本政策表の履歴にメモした
この章の要点

結ぶのは設立と同時。同じ内容でも、切り出す時期で受け取られ方が変わります。

よくある質問

Q. すでに設立から数年経っています。今から結べますか
結べます。ただし全員の同意が必要で、すでに株式を持っている人に不利な内容になるため、交渉になります。外部からの出資を控えている場合は、投資家から求められる形で話が進むこともあります。
Q. クリフは1年にするのが普通ですか
1年とする例をよく見ますが、当編集部で確認できる統一的な基準はありません。事業の立ち上がりにかかる期間や、各創業者が専念を始める時期に合わせて決めるものです。全員の専念開始がずれている場合、起算日を個別に設定することもあります。
Q. 株式を持つ人が代表1人だけなら、契約は不要ですか
創業株主が1人なら、創業株主間契約そのものは不要です。ただし、後から共同創業者や初期メンバーに株式を渡す可能性があるなら、渡す時点で同じ内容を結ぶ前提で考えておくと迷いません。
Q. 契約があれば、必ず株式を取り戻せますか
取り戻せるとは限りません。契約は「買い取れる権利」を定めるもので、実際には買い手と現金が要ります。相手が応じない場合は、最終的に裁判で争うことになります。契約は争いを無くすものではなく、争点を減らすものと考えてください。
Q. 定款で譲渡制限をかけていれば十分ではありませんか
不十分です。譲渡制限は「第三者へ売ること」に会社の承認を必要とする仕組みで、本人が株式を持ち続けることは止められません。離脱した人が議決権を持ったまま残る状態は、譲渡制限では解決しません。
Q. 会社が買い取る場合、いくらまで買えますか
会社が自社株を取得できるのは、分配可能額の範囲内です。赤字が続いている会社では枠が小さく、買い取れないことがあります。契約では、他の創業者や会社が指定する第三者も買い手になれるようにしておくのが実務的です。
Q. 投資家から契約の提出を求められました。何を見られますか
主に、対象者の範囲、期間の起算日と確定の刻み、離脱時の買取価格の基準、買い手の順番です。抜けている項目があると、出資の条件として修正を求められることがあります。創業時の配分と合わせて確認されます。
Q. ベスティングの期間は4年が標準ですか
4年という設計をよく見ますが、当編集部で確認できる統一的な基準はありません。事業が形になるまでの期間や、次の調達までの距離に合わせて決めるものです。期間より、起算日とフルタイムの定義のほうが実務では効きます。
Q. 買取価格を「時価」とだけ書いてはいけませんか
書くこと自体はできますが、時価をどう算定するかで必ず争いになります。算定の方法(純資産にもとづくのか、直近の取引価格によるのか)まで書いておかないと、離脱の場面で一から交渉することになります。
Q. 契約に違反して株式を売られたら、取り戻せますか
定款で譲渡制限をかけていれば、会社の承認がない譲渡は会社に対して効力を主張できません。ただし当事者間では有効に成立している場合があり、事後の処理は複雑になります。契約と定款の両方を備えておく理由がここにあります。
Q. 創業株主間契約と、投資家との株主間契約は別のものですか
別のものです。前者は創業者どうしの取り決め、後者は投資家を含めた取り決めです。内容が矛盾すると後で問題になるため、投資契約を結ぶ段階で両方を突き合わせてください。
出典

  • 会社法 第107条・第108条(譲渡制限株式)、第136条〜(譲渡等の承認)、第155条(自己株式の取得)、第461条(配当等の制限)— e-Gov法令検索
  • 経済産業省「新規事業の創造・拡大」— 経済産業省