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仕入れ資金による調達受託製造の相手が前払いを求めるのは、部材の手配と与信のためです。断るのではなく相手のリスクを下げる7つの代替案と、契約で確認すべきことを整理します。

受託製造の相手から「全額前払いで」と言われたとき、「前払いは無理です」と返しても、話は進みません。
実績のない会社に数千万円の与信を出す理由が、相手にはありません。断るのではなく、相手のリスクを下げる代替案を出すことが交渉になります。
断るのではなく、相手のリスクを下げる代替案を出してください。
| 相手のリスク | 内容 |
|---|---|
| 部材の手配 | 専用の部材を先に買う。キャンセルされると転売できない |
| 与信 | 実績のない会社に、数千万円の掛けを出せない |
| ライン・人員の確保 | その期間、他の仕事を断っている |
| 仕様変更・中止 | 途中で止まると、それまでの作業が無駄になる |
| 回収できない場合 | 製品は相手には売れない |
相手が自分の資金で部材を買い、それが自社専用の仕様なら、キャンセルされたときに他へ転用できません。この部分のリスクを自社が引き受ければ、前払いの必要性は大きく下がります。
つまり、「相手が負っているリスクのうち、どれを自社が引き受けられるか」を考えるのが、代替案の作り方です。
最大のリスクは部材の手配。ここを引き受けると交渉が動きます。
1,000台の製造を、部材1,800万円・製造費1,200万円の条件で委託する場合です。
| 支払いの形 | いつ払うか | 拘束される期間 |
|---|---|---|
| 全額前払い | 製造の3か月前に3,000万円 | 約6か月 |
| 納品後30日 | 納品の翌月に3,000万円 | 約1か月 |
同じ3,000万円でも、拘束される期間が5か月違います。年利3%で借りるなら、その差は約37万円です。
37万円の差より重いのは、3,000万円を3か月前に用意できるかどうかです。創業期の会社にとって、これが最大の壁になります。
問題は金利差より、3か月前に用意できるかです。
| 形 | 内容 | 相手のリスク |
|---|---|---|
| 発注時に一部、納品時に残り | 例:3割・7割 | 大きく下がる |
| 部材の手配時に一部 | 相手が部材を買う時期に合わせる | 下がる |
| 工程ごとに分ける | 部材調達・製造・検査 | — |
| 納品を分け、そのつど払う | 分割納品とセット | 下がる |
相手が前払いを求める最大の理由は部材の手配です。「部材を手配する時期に、その分だけ払う」という形にすれば、相手のリスクはほぼ解消します。製造費まで前払いする必要はありません。
この例なら、部材分の1,800万円を先に、製造費1,200万円を納品後にという形です。前払いの額が4割減ります。
部材の手配時期に、その分だけ払う。相手の理屈に合った形です。
もっとも本質的な代替案です。部材を自社で買い、相手には製造だけを委託します。
| 項目 | 相手が部材を買う | 自社が部材を買う |
|---|---|---|
| 相手の資金負担 | 大きい | なくなる |
| 相手のキャンセルリスク | 大きい | なくなる |
| 前払いの必要性 | 高い | 下がる |
| 自社の手間 | 小さい | 大きい |
| 部材の調達力 | 相手の方が強いことが多い | 自社で確保する必要 |
| 不良の責任 | 相手 | 切り分けが必要 |
部材を自社で持てば相手の前払いの理由はなくなりますが、部材の調達・管理・不良の判定を自社でやることになります。体制がなければ、かえって混乱します。
6番目は必ず契約で決めてください。製品に不良が出たとき、部材の問題か製造の問題かで責任が変わります。支給した部材の検査の範囲も含めて、事前に取り決めが要ります。
前払いの理由は消えますが、手間と不良の責任が自社に来ます。
部材を相手に渡す形には、2つあります。会計・税務の扱いが違うため、契約で明確にしてください。
| 項目 | 有償支給 | 無償支給 |
|---|---|---|
| 部材の所有権 | 相手に移る | 自社に残る |
| 取引の形 | 部材を売り、製品を買い戻す | 部材を預け、加工賃を払う |
| 相手の在庫 | 相手の資産になる | 自社の在庫のまま |
| 支払う金額 | 製品の代金(部材代を含む) | 加工賃のみ |
| 会計処理 | 複雑になりうる | — |
有償支給では、売上と仕入の両建てになるか、加工賃だけを認識するかなど、会計基準の定めがあります。また消費税の扱いも変わります。契約の形を決める前に、税理士に確認してください。
資金繰りの観点では、無償支給のほうが単純です。部材は自社の在庫のままで、相手には加工賃だけを払います。ただし、相手の工場にある自社の在庫を、どう管理・把握するかという論点が出ます。
有償か無償かで会計・税務の扱いが変わります。税理士に確認を。
1,000台の委託で、部材を自社で手配する場合を比べます。
| 項目 | 全額を相手に前払い | 部材は自社、加工賃は後払い |
|---|---|---|
| 前払いする金額 | 3,000万円 | 0円 |
| 部材の購入(自社) | — | 1,800万円 |
| 加工賃の支払い | — | 1,200万円(納品後) |
| 製造前に必要な資金 | 3,000万円 | 1,800万円 |
| 差 | — | ▲1,200万円 |
製造前に必要な資金が1,200万円減ります。加工賃の1,200万円は、納品後に払えばよいためです。
部材メーカーや商社も、実績のない会社には前払いを求めることがあります。「相手への前払い」が「部材メーカーへの前払い」に置き換わるだけの場合もあります。それでも、製造費の分は後払いにできます。
製造費の分だけ前払いが減ります。部材の前払いは残ることがあります。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 前払いの絶対額が下がる | 1,000台を300台にすれば、金額は3割に |
| 相手のリスクも下がる | 前払いを求める理由が弱まる |
| 実績を作れる | 2回目以降の交渉が楽になる |
| 1台あたりの単価は上がる | — |
| MOQの制約 | 部材の最低発注数量を下回れない |
3,000万円の掛けは出せなくても、900万円なら応じる——という判断はあり得ます。「小さく始めて、実績を作ってから増やす」という提案は、相手にとっても受け入れやすい形です。
ロットを小さくする判断は ハードウェアスタートアップの部材調達と前払い の記事で扱っています。単価は上がりますが、外したときの損失も小さくなります。
金額が小さければ後払いに応じてもらえることがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 商社が相手に支払い、自社は商社に支払う |
| 効果 | 商社の与信で、前払いが不要になる |
| 自社の支払条件 | 商社の条件(月末締め翌月末払いなど) |
| 費用 | 商社の口銭 |
| 審査 | 商社が自社の信用を見る |
相手が前払いを求めるのは、自社への与信が持てないからです。商社が間に入れば、相手は商社に対して売ることになり、与信の問題が解消します。
ただし、商社も自社の信用を審査します。創業間もない会社では、商社の与信枠も小さくなります。それでも、製造委託先が求める前払いより条件が良いことがあります。
詳しくは 商社の与信枠を通して仕入れる の記事で扱っています。口銭は年率に換算して、他の手段と比べてください。
商社が入れば与信の問題が解消します。口銭は年率で比べてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 銀行が、条件を満たせば支払うことを確約する |
| 効果 | 相手は銀行の信用で回収できる |
| 向いている場面 | 海外への製造委託 |
| 費用 | 開設手数料など |
| 前提 | 銀行がL/Cを開設してくれること |
| 注意 | 書類の不備があると支払われない |
L/Cは銀行が支払いを確約するものなので、銀行が自社に対して与信を持つ必要があります。無条件に開設できるわけではなく、預金を担保に入れるなどの条件が付くことがあります。
海外のEMSに委託する場合、相手はL/Cを求めることが多く、前払いの代わりとして受け入れられやすい形です。取引銀行の外国為替の担当者に相談してください。
L/Cの仕組みは 海外の取引先への請求を、円で早く受け取る の記事でも扱っています。
L/Cは海外向けに有効。ただし銀行の与信が前提です。
| 形 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 銀行の保証 | 銀行が支払いを保証する | 与信が要る |
| 親会社の保証 | グループ会社がある場合 | — |
| 代表者の連帯保証 | 個人が保証する | 慎重に判断 |
| 預金の担保提供 | 一定額を拘束する | 資金が固定される |
金融機関に対しては経営者保証を外す方向で制度が整備されていますが、取引先に対する個人保証にはそうした枠組みがありません。事業が立ち行かなくなったときに、個人の債務として残ります。他の代替案を先に検討してください。
経営者保証の考え方は 経営者保証ガイドライン の記事で扱っています。金融機関以外への保証も、負う重さは同じです。
取引先への個人保証には解除の枠組みがありません。慎重に判断を。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 小さいロットで、前払いに応じる |
| 2 | 期日どおりに支払い、取引を完了させる |
| 3 | 2回目は、一部を後払いにできないか相談する |
| 4 | 3回目以降、徐々に後払いの比率を上げる |
| 5 | 決算書を開示し、財務の改善を示す |
初回から後払いを求めるより、小さく始めて実績を作り、段階的に条件を変えていくほうが確実です。相手にとっても、実績のある取引先の条件を緩めるのは自然な判断です。
これは金融機関との関係の作り方と同じ構造です。実績は時間でしか作れませんが、確実に効きます。
小さく始めて、段階的に。実績は時間でしか作れません。
| 材料 | 効果 |
|---|---|
| 受注の状況 | 作った製品が売れる裏づけ |
| 資金の調達状況 | 調達済みのエクイティ、融資の内諾 |
| 決算書 | 財務の状況 |
| 資金繰り計画 | 支払いの見通し |
| 継続的な発注の計画 | 相手にとっての売上の見通し |
| これまでの支払いの実績 | 2回目以降で有効 |
相手が前払いを求めるのは、払われないリスクを避けるためです。「払える」ことを示す材料を出せば、前払いの必要性は下がります。資金を調達済みであることは、その材料になります。
2番目が効きます。「先月◯億円の資金調達を完了しています」という事実は、支払能力の裏づけになります。調達直後に交渉するほうが、条件は通りやすくなります。
示すべきは「払える」ことの材料。調達直後が交渉の好機です。
| 手段 | 向いている場面 |
|---|---|
| エクイティ | 初回。売れる確証がない段階 |
| 前受け・予約販売 | 需要の検証も同時にできる |
| つなぎ資金の融資 | 受注が確定している場合 |
| 設備資金(金型) | 耐用年数の範囲で |
| 創業向けの制度融資 | 経営者保証を不要とする制度も |
| 役員からの借入 | 個人の資産しだい |
予約販売やクラウドファンディングで集めた資金は、まさにその製品を作るための費用です。前払いに充てるのは、本来の使い道に沿っています。
ただし、集めた資金で作れることを、量産の見積もりで確認してから募集してください。足りなければ、製品を届けられなくなります。
資金の組み立て方は ハードウェアスタートアップの部材調達と前払い の記事で扱っています。
前受けで集めた資金を前払いに充てるのが、本来の使い道です。
| 確認すること | なぜ |
|---|---|
| 前払いした資金の扱い | 相手が倒産した場合に戻るか |
| キャンセル時の精算 | どこまで返ってくるか |
| 納期の遅延への対応 | ペナルティの定め |
| 不良品の責任 | 部材か製造か |
| 支給した部材の管理 | 無償支給の場合の所有権と保管 |
| 金型の所有権 | 自社のものか、相手のものか |
| 他社への転注 | 金型を引き取れるか |
金型の費用を払っていても、契約によっては所有権が相手にあることがあります。その場合、他の製造委託先に移るときに金型を引き取れません。数百万円を払った資産が使えなくなります。
1番目も重要です。前払いした後に相手が倒産すれば、その資金は一般の債権として扱われ、戻らない可能性が高くなります。相手の財務状況も、事前に確認してください。
金型の所有権を必ず確認。引き取れないと、資産が使えません。
前払いの交渉が難しくなる原因のひとつは、試作と量産をひとつの話として持ち込むことです。
| 項目 | 試作 | 量産 |
|---|---|---|
| 金額 | 小さい(数十万〜数百万円) | 大きい(数千万円) |
| 前払いの負担 | 受け入れられる範囲 | 重い |
| 相手のリスク | 小さい | 大きい |
| 目的 | 仕様を固める | 売るものを作る |
| 資金の出どころ | 開発費・エクイティ | 受注・前受け・融資 |
試作の段階で前払いに応じておけば、量産の交渉に入るときには「支払いの実績がある取引先」になっています。金額が小さいうちに実績を作るという意味で、試作は交渉の準備期間でもあります。
逆に、最初から量産の話として持ち込むと、相手は「実績のない会社からの数千万円の話」として扱います。前払いを求められるのは自然な反応です。
また、試作の段階で量産時の見積もりと支払条件を、あわせて確認しておいてください。試作が終わってから量産の条件を聞いて、資金が足りないと分かるのが最悪の順序です。量産の条件が分かっていれば、それに合わせて資金の調達を先に進められます。
試作で実績を作り、量産の条件を先に確認しておいてください。
5番の部材の手配時期に、その分だけが、最も通りやすい提案です。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。