
売掛金の残高は、自社の帳簿に記録されています。しかしその金額を、取引先も同じように認識しているとは限りません。
| 自社の認識 | 取引先の認識 | 差の原因 |
|---|---|---|
| 1,000万円の売掛金 | 950万円の買掛金 | 値引きの認識違い |
| 請求済み | 請求書が届いていない | 送付漏れ |
| 納品完了 | 検収未了 | 検収の基準の違い |
| 1,000万円 | 支払済み | 入金消込の漏れ |
この差は、相手に確認しない限り分かりません。そして、分からないまま時間が経つほど、解決が難しくなります。
自社の帳簿と相手の認識はずれます。確認しなければ分かりません。
「◯月◯日時点で、貴社に対する当社の売掛金は◯◯円です。相違がなければご確認ください」という書面を送り、相手に確認してもらう手続きです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が送るか | 債権者(自社) |
| 誰に | 取引先の経理部門 |
| 何を書くか | 基準日、残高、内訳 |
| 求めること | 確認して署名・押印のうえ返送 |
| 頻度 | 年1回〜半期に1回 |
上場企業の監査では、監査人が取引先に直接残高を確認します。「確認」と呼ばれる、監査手続きの中でも証明力の高い方法です。自社で行う場合も、考え方は同じです。
相手に書面で確認してもらう手続き。監査でも使われる方法です。
| — | 効果 | いつ効くか |
|---|---|---|
| ① | 残高が正確になる | すぐ |
| ② | 時効が更新される | 回収が長引いたとき |
| ③ | 資金調達で信頼される | ABL・債権譲渡の審査 |
多くの会社が①だけを意識していますが、実務上もっとも見落とされているのが②です。次の章以降で扱います。
効果は3つ。時効の更新が、最も見落とされています。
| 見つかるもの | 放置するとどうなるか |
|---|---|
| 入金消込の漏れ | 売掛金が実態より大きく計上される |
| 請求書の送付漏れ | そもそも請求されていない。回収されない |
| 値引きの認識違い | 端数が残り続ける |
| 相殺の記録漏れ | — |
| 検収の未了 | 売上の計上時期が誤っている可能性 |
| 二重計上 | — |
請求書を発行したつもりで送っていない——これは自社の帳簿では気づけません。売掛金として計上されているので、残高としては正しく見えます。相手に確認して初めて「請求書が届いていない」と分かります。
とくに、金額が大きい取引や、担当者が交代した後の取引では確認する価値があります。
請求書の送付漏れは、自社の帳簿では気づけません。
ここが、この記事でもっとも重要な点です。債権には時効があり、一定の期間が経つと消滅します。
民法では、債務者が債務を「承認」すると、時効が更新されます。それまでに経過した期間はリセットされ、そこから新たに時効期間が進みます。残高確認書に署名して返送してもらうことは、この「承認」にあたり得ます。
| 行為 | 時効への効果 |
|---|---|
| 債務の承認 | 時効の更新(リセット) |
| 一部の支払い | 承認にあたり得る |
| 催告(内容証明での請求) | 6か月間、時効の完成が猶予される |
| 裁判上の請求 | 時効の完成猶予・更新 |
| 単なる督促の電話 | 証拠が残らない |
つまり、回収が長引いている債権について、残高確認書を取っておけば、時効の心配をせずに交渉を続けられます。
具体的な効果は事案によります。時効が迫っている債権があるなら、弁護士に相談してください。ただし、日頃から残高確認を行っていれば、そもそもこの問題が起きにくくなります。
相手が残高を認めれば時効が更新されます。書面で残す意味はここにもあります。
2020年4月施行の改正民法で、時効の制度が整理されました。
| 基準 | 期間 |
|---|---|
| 権利を行使できることを知った時から | 5年 |
| 権利を行使できる時から | 10年 |
いずれか早いほうで時効が完成します。通常の売掛金では、支払期日が来れば行使できることを知っているので、実質的には5年と考えることになります。
以前は「飲食料は1年」「工事の代金は3年」といった職業別の短期時効がありました。改正でこれらは廃止され、統一されています。ただし改正前に発生した債権には、改正前の規定が適用されます。
5年は、思うより早く来ます。回収を諦めかけて放置していた債権が、気づけば時効という事態が起こります。
実質的には5年。放置している債権があるなら、期間を確認してください。
| 場面 | 効果 |
|---|---|
| ABLの担保評価 | 債権の実在が確認できる。評価が上がりうる |
| 債権譲渡の審査 | 買い手のリスクが下がる |
| ABLの実地調査 | 帳簿の信頼性を示す材料になる |
| 融資の審査 | 管理ができている会社と評価される |
債権を買う側・担保に取る側が最も警戒するのは、そもそも存在しない債権です。残高確認書があれば、相手が存在を認めていることの証拠になります。
3者間の債権譲渡で条件が良くなるのも、同じ理由です。取引先が承諾することで、債権の存在が確認できるためです。この点は 対抗要件とは の記事で扱っています。
買い手が恐れるのは架空の債権。確認書はその証拠になります。
| 方式 | 相手に求めること | 返信率 | 証明力 |
|---|---|---|---|
| 積極的確認 | 一致・不一致にかかわらず返信 | 低い | 高い |
| 消極的確認 | 相違がある場合だけ返信 | — | 低い |
消極的確認は手間がかかりませんが、「返信がない=一致している」とは限りません。単に見ていないだけかもしれません。
相手からの返信がなければ、債務の承認があったとは言えません。時効の更新や、資金調達での証明力を求めるなら、署名・押印のうえ返送してもらう形にしてください。
実務では、金額の大きい取引先には積極的確認、それ以外は消極的確認という使い分けが現実的です。
時効の更新や証明力を求めるなら積極的確認(返送してもらう形)です。
| 時期 | 理由 |
|---|---|
| 決算期末 | 決算の数字を確定させる。年1回はここ |
| 半期末 | 年2回にするなら |
| ABL・債権譲渡の申込前 | 資料として提出できる |
| 滞留が発生したとき | 時効の管理のため |
| 担当者が交代したとき | 引き継ぎの確認 |
基本は決算期末に年1回です。相手も決算のために残高を確認するので、応じてもらいやすい時期でもあります。
取引先の決算期末に送ると、相手も同じ作業をしているため対応が早くなります。主要な取引先の決算期は把握しておいてください。
基本は決算期末に年1回。滞留が出たら、その都度も。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基準日 | いつ時点の残高か |
| 残高の金額 | — |
| 内訳 | 請求日・請求番号・金額の明細 |
| 返送の期限 | 2週間程度が目安 |
| 返送の方法 | 返信用封筒、メール、FAXなど |
| 相違がある場合の記入欄 | 相手の認識する金額を書いてもらう |
| 署名・押印欄 | — |
| 担当者の連絡先 | 問い合わせ先 |
合計金額だけを書いて送ると、相手は自社のデータと突き合わせる作業が発生します。請求ごとの明細を付けておけば、相手はそれと照合するだけで済みます。返信率が上がります。
6番目も忘れずに。相違がある場合に、相手の認識する金額を書いてもらう欄を設けておくと、差の原因を特定しやすくなります。
内訳を付けると返信率が上がります。相違の記入欄も設けてください。
| 状況 | 考えられること | 対応 |
|---|---|---|
| 1回目で返ってこない | 単に忘れている | 再送・電話で依頼 |
| 何度依頼しても返らない | 社内の体制の問題 | 担当者に直接確認 |
| 金額に争いがある | 認識が違う | 早期に協議する |
| 連絡が取れない | 信用上の懸念 | 与信を見直す |
| 署名を拒む | 何らかの理由がある | 理由を確認する |
他の取引先は返してくるのに、特定の1社だけ返ってこない。その差には理由があります。与信管理の観点でも見てください。
与信管理の進め方は 与信管理を最小の手間で回す の記事で扱っています。
返ってこないこと自体が情報。与信の観点でも見てください。
逆の立場もあります。仕入先から「買掛金の残高を確認してください」という書面が届く場面です。
| 対応 | 影響 |
|---|---|
| 確認して返送する | 相手との関係が保たれる。自社の買掛金も正確になる |
| 放置する | 支払う意思がないと受け取られうる |
| 金額が違うまま署名する | 認めたことになりうる |
署名・押印して返送することは、その金額の債務があると認めることになり得ます。自社の帳簿と突き合わせてから返してください。相違があれば、その旨を書いて返送します。
とくに注意すべきは、すでに支払った分が含まれていないかです。相手の消込が漏れていれば、二重に請求されている状態になります。そのまま認めると、後で争いになります。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 基準日 | いつ時点の残高か |
| 支払済みの分が含まれていないか | 相手の消込漏れ |
| 値引き・返品が反映されているか | — |
| 検収していない分が含まれていないか | — |
| 相殺の記録 | 売掛金がある場合 |
返送する前に、自社の買掛金の明細と1件ずつ突き合わせてください。合っていれば署名して返す。合っていなければ、自社の認識する金額を書いて返す。それだけです。
返さないでいると、相手からは「支払う意思がないのか」と受け取られます。金額に争いがあるなら、なおさら書面で自社の認識を示しておくべきです。後の交渉で材料になります。
署名は債務を認めることになり得ます。突き合わせてから返送してください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 自社の明細と、相手の認識する金額を並べる |
| 2 | 差額を計算する |
| 3 | 差額に対応する取引を特定する |
| 4 | 典型的な原因(後述)に当てはめる |
| 5 | どちらが正しいかを確認する |
| 6 | 帳簿を修正するか、相手に修正してもらう |
| 7 | 再発しないよう、運用を変える |
7番を飛ばさないでください。同じ原因の差異が毎年出るなら、運用を変えなければ解決しません。
差異を直すだけでなく、運用を変えるまで進めてください。
自社が1,000万円、相手が940万円と認識している場合の内訳を分解します。
| 原因 | 金額 | どちらが正しいか |
|---|---|---|
| 入金済みだが、消込が漏れている | 30万円 | 相手 |
| 値引きの認識違い | 20万円 | 協議が必要 |
| 振込手数料の差 | 1万円 | 契約による |
| 期ずれ(相手の計上が翌月) | 9万円 | どちらも正しい |
| 差額の合計 | 60万円 | — |
この4つが、差異の典型です。1番目は自社の処理漏れ、4番目は期ずれなので実質的な問題ではありません。問題は2番目と3番目で、運用を変えないと毎回出ます。
「振込手数料は貴社にてご負担ください」と請求書にも記載してください。契約書だけでは、相手の実務担当者に伝わりません。1件数百円でも、件数が多ければ積み上がります。
差異の典型は4つ。値引きと振込手数料は運用を変えないと毎回出ます。
残高確認書をやり取りする形は、紙だけではなくなっています。メールやシステムで送受信する場合、電子取引の保存の問題が出てきます。
| やり取りの形 | 保存の扱い |
|---|---|
| 紙で送り、紙で返送を受ける | 紙のまま保存できる |
| メールで送受信する | 電子取引として、電子での保存が求められうる |
| 紙で送り、メールで返送を受ける | 返送分は電子取引にあたりうる |
残高確認書が、電子帳簿保存法でいう電子取引の「取引情報」にあたるかは、書面の内容と運用によります。請求や支払いに関する情報を含むなら、保存の要件を確認してください。具体的な判断は税理士に相談してください。
実務としては、どちらの形で運用するかを決めて、保存の方法をそろえておくことです。紙とメールが混在すると、後で探すときに手間がかかります。
また、時効の更新や資金調達の資料として使うことを考えると、いずれの形でも「いつ、誰が、何を確認したか」が分かる状態で残す必要があります。メールなら送受信の記録ごと保存してください。
紙とメールを混在させない。保存の方法をそろえておいてください。
全取引先に送るのは現実的ではありません。効果の大きいところに絞ってください。
| 優先度 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 高 | 売掛金の残高が大きい上位数社 | 差異の金額が大きい |
| 高 | 滞留している債権のある取引先 | 時効の管理 |
| 高 | ABL・債権譲渡の対象にする取引先 | 資料として必要 |
| 中 | 取引を始めて間もない先 | 運用の確認 |
| 中 | 担当者が交代した先 | 引き継ぎの確認 |
| 低 | 少額・単発の取引先 | 手間に見合わない |
上位数社だけでも、売掛金の大部分がカバーできます。まずそこから始めてください。
上位数社と、滞留のある先から。全社に送る必要はありません。
| 工夫 | 効果 |
|---|---|
| 様式を固定する | 毎年、数字を差し替えるだけにする |
| 会計ソフトの機能を使う | 残高確認書の出力機能があることがある |
| 内訳を自動で出す | 得意先元帳から生成する |
| 返信用封筒を同封する | 返信率が上がる |
| メールで送る | 相手の運用に合わせる |
| 決算期末の作業に組み込む | 別の作業にしない |
| 返信の管理表を作る | 誰から返ってきたかを追う |
別の取り組みとして立ち上げると続きません。決算期末の締めの作業の一部として、毎年同じ時期にやる形にしてください。
債権の管理全般は 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。年齢表を作っていれば、送る相手の選定もそこからできます。
決算の作業に組み込む。別立てにすると続きません。
14番の保管を忘れずに。時効の更新や資金調達で使う書類です。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。