
ABL(売掛債権担保融資)は、債権譲渡と比べて費用が安いのが利点です。年利で借りられるため、年率に換算した負担がまったく違います。
その代わり、毎月の報告という継続的な作業が発生します。これを見込まずに契約すると、実務が回らなくなります。
金利が安くても、毎月数時間の作業が発生すれば、その人件費も費用です。金額の小さい借入では、手間のほうが大きくなることもあります。契約の前に、何をどの頻度で出すのかを確認してください。
ABLは安いが、毎月の報告が発生します。手間もコストです。
普通の融資では、決算書を年に1回出せば足ります。ABLで毎月の報告が求められるのは、担保の中身が入れ替わり続けるからです。
| 担保の種類 | 変化 | 把握の頻度 |
|---|---|---|
| 不動産 | 変わらない | 年1回程度 |
| 売掛金 | 毎月入れ替わる | 毎月 |
| 在庫 | 日々動く | 毎月〜四半期 |
金融機関から見れば、「今いくらの担保があるのか」が毎月変わります。把握できなければ、保全が足りているかどうかが分かりません。
報告が止まれば、金融機関は担保の状況を把握できません。契約上、報告義務の不履行が期限の利益喪失事由になっていることがあります。返済が正常でも、報告を怠れば問題になります。
集合債権譲渡担保の仕組みは 集合債権譲渡担保 の記事で扱っています。
担保が毎月入れ替わるから、毎月の把握が要ります。
| — | 資料 | 頻度の目安 | 作る手間 |
|---|---|---|---|
| ① | 債権明細(取引先別の残高) | 毎月 | 会計ソフトから出力 |
| ② | 入金実績 | 毎月 | 通帳・会計データから |
| ③ | 債権年齢表 | 毎月〜四半期 | 作っていなければ新規 |
| ④ | 試算表・資金繰り表 | 毎月 | 月次決算をしていれば軽い |
| ⑤ | 新規取引先の届出 | 随時 | 軽い |
実際に求められる内容は金融機関と契約によって違います。契約の前に、様式のサンプルを見せてもらってください。「毎月の報告があります」だけでは、負担が見積もれません。
標準は5点。契約前に様式のサンプルを見せてもらってください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基準日 | 月末時点 |
| 記載する内容 | 取引先名、請求日、支払期日、金額、残高 |
| 合計 | 担保となる債権の総額 |
| 出どころ | 会計ソフトの売掛金の補助элемент(得意先元帳) |
提出する明細の合計は、試算表の売掛金の残高と一致している必要があります。合わない場合、どちらかが正しくありません。差異の理由を説明できないと、資料全体の信頼が落ちます。
作る手間は、売掛金を取引先別に管理しているかどうかで決まります。管理していれば出力するだけ、していなければ作業が発生します。
明細の合計は試算表と一致していること。取引先別の管理が前提です。
| 確認されること | 内容 |
|---|---|
| 予定どおり入金されたか | 期日に入っているか |
| 入金の遅れ | どの取引先が、何日遅れているか |
| 一部入金 | 請求額と入金額の差 |
| 回収率 | 請求に対する回収の割合 |
金融機関が見ているのは「この会社の売掛金は、本当に回収されるのか」です。予定どおり入金されている実績が積み上がれば、担保としての評価が上がります。
入金が遅れた取引先があれば、その事実と理由を添えて報告してください。後の月に残高として現れれば、いずれ分かります。先に説明してあれば、把握できている会社という評価になります。
見られているのは回収の実績。遅れは理由を添えて先に出してください。
売掛金が支払期日からどれだけ経過しているかを区分ごとに集計した表です。
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 期日前 | まだ支払期日が来ていない |
| 1〜30日 | 少し遅れている |
| 31〜60日 | — |
| 61〜90日 | — |
| 91日以上 | 担保評価から除外されることが多い |
金融機関は、滞留している債権を担保評価から除きます。回収の見込みが立たないためです。年齢表は、その判定のための資料です。
作り方と、この表から読み取るべき兆候は 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。テンプレートも置いています。
年齢表は担保評価から除く債権を判定する資料です。
ABLに限らず、融資を受けている会社には月次の業況報告が求められます。ABLではこれが契約上の義務になることがあります。
| 資料 | 見られる点 |
|---|---|
| 試算表 | 売上・粗利率・営業利益の推移。売掛金の残高 |
| 資金繰り表 | 今後の入出金。返済の見込み |
月次の試算表を提出する習慣があれば、この項目は新しい作業になりません。逆に、これまで年1回しか出していなかった会社にとっては、月次決算の体制づくりから始まります。
月次の情報提供そのものの意味は 試算表を毎月出す意味 の記事で扱っています。ABLを使わなくても、やっておく価値のある取り組みです。
すでに月次で出していれば追加の負担はありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何を届け出るか | 新しく取引を始めた先の名称、取引の内容、想定金額 |
| なぜ必要か | 担保の範囲に含まれる債権が増えるため |
| 頻度 | 随時、または月次報告に含める |
| 承認が必要な場合 | 契約によっては、事前の届出や同意を求められる |
最後の行に注意してください。契約によっては、新規取引の開始に届出や同意が必要とされることがあります。事業のスピードに影響するため、契約前に確認してください。
新規取引に届出や同意が必要な契約があります。事前に確認を。
報告の準備にかかる時間を、月あたりで見積もります。会社の管理の状況によって大きく変わります。
| 作業 | 管理が整っている場合 | 整っていない場合 |
|---|---|---|
| 債権明細の出力 | 会計ソフトから出力 | 取引先別に集計し直す |
| 入金実績の突合 | 消込済みのデータから | 通帳と請求書を照合 |
| 債権年齢表 | テンプレートに貼るだけ | 一から作る |
| 試算表 | 月次決算で作成済み | 締めの作業から |
| 合計の目安 | 1時間程度 | 半日〜1日 |
差を生むのは、売掛金を取引先別に管理しているかと入金消込ができているかです。この2つが整っていれば、報告は出力作業になります。
入金消込の自動化については 入金消込を自動化すると何が見えるようになるか の記事で扱っています。
差を生むのは取引先別の管理と入金消込。整っていれば1時間で済みます。
細かいようですが、実務で効く論点です。「いつ時点の残高を報告するか」を決めておかないと、毎月ずれます。
| 基準日 | 利点 | 注意 |
|---|---|---|
| 月末 | 試算表と一致させやすい | 締めの作業を待つ必要がある |
| 20日など、締め日 | 請求のサイクルに合う | 試算表とずれる |
| 提出日の前日 | 最新の状況が反映される | 毎月ずれて、比較できない |
3番目は避けてください。基準日が毎月変わると、前月との比較ができません。増えているのか減っているのかが分からなくなります。月末で固定し、試算表と同じ時点にするのが実務上もっとも扱いやすい形です。
また、月末が休日の場合の扱いも決めておいてください。月末営業日とするか、暦上の月末とするか。入金が翌営業日にずれると、残高が変わります。
債権年齢表のテンプレートでは、基準日を1か所に置き、そこを変えると表全体が動く形にしています。債権年齢表テンプレート の記事で配布しています。
基準日は月末で固定。毎月ずれると、前月と比較できません。
ABLでは、売掛金だけでなく在庫(棚卸資産)も担保にすることがあります。この場合、報告の負担が大きく増えます。
| 追加される報告 | 内容 |
|---|---|
| 在庫の明細 | 品目別の数量と金額 |
| 棚卸の実施 | 毎月または定期的に |
| 保管場所 | どこに、いくらの在庫があるか |
| 滞留在庫 | 動いていない在庫の把握 |
| 実地調査 | 金融機関が現物を確認することがある |
売掛金は会計データで把握できますが、在庫は現物を数える必要があります。毎月の棚卸を求められると、現場の作業時間が相当に増えます。契約前に頻度を確認してください。
在庫の担保評価は、市場性や換価の容易さで判断されます。汎用品は評価されやすく、特注品や生鮮品は評価が低くなります。
在庫を入れると棚卸の負担が加わります。頻度を確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 頻度 | 年1回〜数回。契約による |
| 内容 | 帳簿と現物の照合、業務の流れの確認 |
| 売掛金の場合 | 請求書・契約書・納品書の確認 |
| 在庫の場合 | 保管場所の確認、現物との照合 |
| 費用 | 調査費用が借り手の負担となる契約もある |
最後の行を確認してください。第三者の調査機関を使う場合、その費用が借り手の負担とされることがあります。金利以外の費用として、事前に把握しておく必要があります。
報告してきた債権明細と、実際の請求書・契約書が一致しているか。架空の債権を計上していないかを確認する場でもあります。日頃から書類を整えておいてください。
実地調査があります。調査費用の負担者を確認してください。
| 状況 | 起きること |
|---|---|
| 1回、数日遅れる | 催促される |
| 繰り返し遅れる | 管理能力を疑われる。評価が下がる |
| 出さない | 契約違反。期限の利益喪失事由にあたりうる |
| 内容に虚偽がある | 重大な契約違反。実行の引き金になる |
ここが普通の融資と違う点です。報告義務の不履行が、期限の利益喪失事由として契約に書かれていることがあります。返済を続けていても、報告を怠れば一括返済を求められうる、ということです。
実務としては、毎月の締切を決めて、担当者を固定してください。「誰かがやる」という状態にすると、抜けます。
報告を怠ると返済が正常でも問題になります。担当者を固定してください。
報告の実務でもっとも時間を取られるのが、数字が合わないときです。
| 合わない原因 | 対処 |
|---|---|
| 入金の消込が済んでいない | 消込の運用を整える |
| 振込手数料の差 | 手数料の負担を契約で決めておく |
| 値引き・返品 | 会計処理のタイミングを揃える |
| 相殺 | 買掛金との相殺の記録を残す |
| 締めのタイミングのずれ | 基準日を統一する |
1番目がもっとも多い原因です。入金があっても消込をしていなければ、売掛金の残高が実態より大きく出ます。担保の金額が過大になり、後で修正することになります。
完全に一致しないことはあります。大切なのは、差異の理由を説明できることです。「合いません」で終わらせず、内訳を示してください。
最多の原因は入金消込の未処理。差異は理由を添えて報告してください。
| やること | 効果 |
|---|---|
| 売掛金を取引先別に管理する | 明細が出力だけで済む |
| 入金消込を毎週行う | 月末にまとめてやらずに済む |
| 債権年齢表のテンプレートを使う | データを貼るだけにする |
| 月次決算の締切を決める | 試算表が期日までに出る |
| 報告の担当者を固定する | 抜けがなくなる |
| 提出日を予定表に入れる | — |
| 様式を固定する | 毎月、数字を差し替えるだけにする |
上の2つが本体です。取引先別の管理と、こまめな入金消込。この2つができていれば、報告はほぼ自動的に作れます。
これらは、ABLを使わなくても経営に必要な管理です。債権年齢表を見れば、回収が止まっている取引先が分かります。報告のためだけの作業と考えると続きませんが、自社のための管理と捉えれば意味が変わります。
取引先別の管理と、こまめな消込。この2つで報告はほぼ自動になります。
ABLと他の手段を比べるときは、金利差を金額に直し、手間の費用と並べてください。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 金利差による年間の差 | 借入額 × 金利差 |
| 報告にかかる時間 | 月あたりの時間 × 12か月 |
| その人件費 | 時間 × 時間単価 |
| 実地調査の費用 | 負担する場合 |
| 登記の費用 | 設定時・抹消時 |
数字で見ます。借入3,000万円で、通常の融資より金利が1.0%低いとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 金利差による年間の削減 | 30万円(3,000万円 × 1.0%) |
| 報告の作業(月2時間・時給3,000円) | ▲7万2,000円(年間) |
| 登記費用(初年度) | ▲(見積もりによる) |
| 差し引き | プラスになりうる |
借入額が大きいほど、金利差の効果が手間を上回ります。逆に金額が小さいと、手間のほうが重くなります。判断は借入額しだいです。
借入額が大きいほどABLが有利。小さいと手間が上回ります。
1番と6番——様式のサンプルと喪失事由を、契約前に確認してください。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。