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債権による調達

「債権による調達」とは何を指すか|担保・譲渡・流動化の整理

ABL・債権譲渡・流動化・でんさい・保険の5つを整理します。根っこの違いは「借りるか売るか」。償還請求権、貸借対照表への表れ方、年率での比べ方までを扱います。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 売掛金は、資金化できる資産
  2. 5つの手段
  3. いちばん大きな違い|担保か、譲渡か
  4. 償還請求権があるかどうか
  5. 数字で見る|同じ1,000万円でも残るものが違う
  6. 貸借対照表への表れ方
  7. 債務者に知られるかどうか
  8. 費用の比べ方
  9. 2020年の民法改正で変わったこと
  10. ABL(売掛債権担保融資)
  11. 債権譲渡(ファクタリング)
  12. 債権流動化・証券化
  13. でんさい(電子記録債権)
  14. 売掛債権保証・取引信用保険
  15. どれを選ぶか
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

売掛金は、資金化できる資産

売上が立っても、入金までに時間がかかります。その間、会社は「売掛金」という資産を持ちながら、現金がない状態になります。

この売掛金を使って資金を得る方法が、いくつか用意されています。担保に入れて借りる、売る、まとめて証券にする、保険をかける——目的も費用も、法的な性質もそれぞれ違います。

売掛債権商品やサービスを提供し、代金を受け取る権利。
ABLAsset Based Lending。売掛金や在庫を担保にした融資。
債権譲渡債権を第三者に売却し、所有権を移すこと。
対抗要件債権が自分のものだと第三者に主張するために必要な手続き。
この記事は地図です

個々の手段の詳細は、それぞれ別の記事で扱います。ここでは「何があるか」と「どう違うか」を整理します。違いが分からないまま個別の条件を比べても、判断できません。

この章の要点

売掛金を使う手段は複数あり、法的な性質が違います。まず違いを押さえてください。

5つの手段

手段 形 債権の所有権 返済
ABL(売掛債権担保融資) 融資 移らない 必要
債権譲渡(ファクタリング) 売買 移る 原則不要
債権流動化・証券化 売買(SPCを使う) 移る 原則不要
でんさいの割引 割引 移る 遡求される場合がある
売掛債権保証・取引信用保険 保険 移らない —(資金化ではない)

最後の1つだけ性質が違います。保証・保険は資金化の手段ではなく、回収できなくなったときの備えです。ただし、これがあることで他の手段の条件が良くなることがあります。

残りの4つが、実際に現金を得る手段です。このうち最も大きな分かれ目が、次の章です。

この章の要点

資金化する手段は4つ、備えが1つ。保険は資金化ではありません。

いちばん大きな違い|担保か、譲渡か

すべての違いの根っこにあるのが、債権の所有権が移るかどうかです。

項目 担保(ABL) 譲渡(ファクタリング等)
債権の所有権 自社のまま 相手に移る
契約 金銭消費貸借+担保設定 債権譲渡契約(売買)
受け取る金額 融資額 譲渡代金(額面から手数料を引いた額)
返済 必要(元本+利息) 原則不要
取引先が倒産したら 会社が返済義務を負う 契約による(後述)
貸借対照表 負債が増える 資産が減り、負債は増えない
規制 貸金業の規制 売買契約
「借りる」か「売る」か

ABLは借入です。返済義務があり、借入として決算書に残ります。譲渡は売買です。売掛金という資産を現金に換えただけなので、原則として返済義務は生じません。

この違いが、費用・審査・決算書への影響のすべてに波及します。まずここを押さえてから、個別の条件を比べてください。

この章の要点

根っこの違いは「借りる」か「売る」か。すべての差はここから出ます。

償還請求権があるかどうか

債権を譲渡した後に取引先が倒産した場合、誰がその損失を負うのか。これを決めるのが償還請求権(リコース)です。

形 取引先が倒産したら 手数料
償還請求権なし(ノンリコース) 買い手が損失を負う 高くなる
償還請求権あり(ウィズリコース) 売り手(自社)が買い戻す 低くなる

契約書で必ず確認してください。償還請求権が付いていると、実質的には借入に近くなります。取引先が倒産すれば、自社が負担することになるからです。

手数料が安い理由が、ここにあることがある

「手数料が安い」と言われたときは、償還請求権の有無を確認してください。リスクを自社が負う分だけ安くなっているなら、比較の前提が違います。

でんさい(電子記録債権)の割引でも同様です。債務者が支払わなかった場合に、割引を受けた側が遡って責任を負う形になることがあります。

この章の要点

償還請求権の有無が、実質的なリスクの所在を決めます。契約書で確認を。

数字で見る|同じ1,000万円でも残るものが違う

額面1,000万円の売掛金を使って資金を得る場合で比べます。

項目 ABL(融資) 債権譲渡
調達できる金額 掛け目70%で700万円 手数料を引いた額
受け取る現金 700万円 —
貸借対照表・資産 売掛金1,000万円+現金700万円 現金のみ
貸借対照表・負債 借入金700万円 増えない
入金時 1,000万円が入り、借入を返済 買い手に入る
取引先が倒産 700万円の返済義務が残る 契約による
700万円ABLで調達できる額(掛け目70%)
+700万円増える負債
0円譲渡で増える負債

ABLでは売掛金が資産に残り、負債が増えます。譲渡では売掛金が現金に置き換わるだけで、負債は増えません。

この違いは、次の融資を申し込むときに効いてきます。借入が増えれば債務償還年数が伸び、負える借入の総額が減ります。この関係は 返済原資の説明 の記事で扱っています。

この章の要点

ABLは負債が増え、譲渡は増えません。次の融資への影響が違います。

貸借対照表への表れ方

手段 資産 負債 次の融資への影響
ABL 売掛金が残る 借入金が増える 債務償還年数が伸びる
債権譲渡 売掛金が減り、現金が増える 変わらない 直接の影響は小さい
債権流動化 同上 変わらない(オフバランス) 同上
でんさい割引 受取債権が減る 偶発債務として注記されることがある —
ただし、決算書に痕跡は残る

負債が増えなくても、手数料は営業外費用や売上債権売却損として計上されます。金融機関は、この費用から「債権を売って資金を作っている」と読み取ります。金額が大きければ、資金繰りが苦しいと判断されます。

つまり、「負債が増えないから銀行に分からない」というのは正しくありません。継続的に使っていれば、費用の規模から把握されます。

この章の要点

負債は増えなくても手数料は費用に出ます。銀行には読み取れます。

債務者に知られるかどうか

実務でよく問題になる点です。取引先に知られる形と、知られない形があります。

形 取引先への通知 対抗要件
3者間 行う(承諾を得る) 確実
2者間 行わない 債権譲渡登記などで代替
ABL(担保) 通知しない形が多い 債権譲渡登記

2者間では、取引先に知られずに資金化できますが、その分だけ手数料が高くなります。買い手から見れば、取引先に確認できない分だけリスクが大きいためです。

対抗要件の仕組みは 対抗要件とは、登記の実務は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。

この章の要点

2者間は知られない代わりに高い。対抗要件は登記で代替します。

費用の比べ方

手段によって費用の表し方が違うため、そのままでは比べられません。

手段 費用の表し方 比べるには
ABL 年利(%) そのまま
債権譲渡 手数料(額面に対する%) 年率に換算する
でんさい割引 割引料(年率) そのまま
年率に直して比べる

手数料3%は、期間が30日なら年率にすると約36%です(3% × 365 ÷ 30)。年利3%のABLとはまったく違います。期間で割り戻さないと、比較になりません。

ただし、年率だけで判断するのも正確ではありません。ABLには審査の時間がかかり、譲渡は速い。間に合わなければ意味がないという点も含めて比べる必要があります。費用の比べ方は 債権を使った調達のコストの比べ方 の記事で扱っています。

この章の要点

手数料は年率に換算して比べる。3%・30日は年率約36%です。

2020年の民法改正で変わったこと

債権を使った調達の前提が、2020年4月の民法改正で大きく変わりました。

項目 改正後
譲渡制限特約 特約があっても、債権譲渡の効力は妨げられない
債務者の保護 譲受人が悪意・重過失なら、債務者は履行を拒める
供託 債務者は供託できる制度が整備された
将来債権の譲渡 明文で認められた
預貯金債権 譲渡制限の効力が維持される(例外)

実務上いちばん大きいのは1番目です。以前は譲渡制限特約が付いた売掛金は事実上使えませんでしたが、現在は譲渡自体は有効です。

ただし、取引先との関係は別の話

法的に有効であることと、取引先との契約上の問題が生じないことは別です。特約に違反したことを理由に、取引に影響が出る可能性は残ります。詳しくは 譲渡制限が付いた売掛金 の記事で扱っています。

4番目も重要です。まだ発生していない将来の売掛金をまとめて譲渡・担保にできることが明確になり、集合債権譲渡担保の使いやすさが上がりました。

この章の要点

譲渡制限があっても譲渡は有効に。将来債権の譲渡も明文化されました。

ABL(売掛債権担保融資)

項目 内容
形 融資。売掛金(や在庫)を担保に設定する
提供者 銀行、信用金庫、政府系金融機関など
費用 年利。通常の融資に近い水準
金額 担保評価額に掛け目をかけた範囲
期間 審査に時間がかかる
報告 毎月の債権明細の提出などが求められる

費用は安いのですが、毎月の報告という手間が発生します。債権の明細、入金の状況、在庫の残高などを継続的に提出することになります。

実務の負担は ABLを使うと毎月どんな報告が発生するか、金融機関の評価軸は 金融機関は売掛金の何を評価しているか の記事で扱っています。

この章の要点

ABLは安いが、毎月の報告という手間がかかります。

債権譲渡(ファクタリング)

項目 内容
形 債権の売買
提供者 専門の事業者、金融機関系など
費用 手数料。年率に換算すると高い
期間 速い。即日〜数日のものもある
審査 自社より、取引先の信用力が見られる
負債 増えない

最大の特徴は速さと、自社の業績より取引先の信用力が見られる点です。赤字でも、取引先が大企業なら資金化できることがあります。

常用すると、資金繰りが固定化する

手数料は年率に直すと高くなります。毎月使い続けると、その分だけ利益が削られ続けます。一時的な資金需要への対応としては有効ですが、常態化すると構造の問題になります。

依存度を下げる順序は 資金化の依存度を下げていく順序 の記事で扱っています。

この章の要点

速く、赤字でも使えますが年率では高い。常用すると構造の問題になります。

債権流動化・証券化

項目 内容
形 SPC(特別目的会社)に債権を譲渡し、証券を発行して資金を集める
規模 大きい。数億円以上が前提になることが多い
費用 スキームの組成費用がかかる。規模が小さいと割に合わない
期間 組成に数か月
継続性 一度組めば、継続的に使える

規模が大きい会社向けの手段です。組成の費用と手間がかかるため、金額が小さいと成り立ちません。ただし継続的に一定額の債権が発生する会社なら、一度組めば安定した資金化の経路になります。

詳しくは 債権流動化とSPC の記事で扱っています。

この章の要点

流動化は規模が前提。小さい金額では組成費用に見合いません。

でんさい(電子記録債権)

項目 内容
形 電子債権記録機関に記録される債権
使い方 支払いに使う(譲渡)、割引して資金化する
利点 紙の手形のような紛失・盗難がない。分割できる
割引 金融機関で割り引いて資金化できる
注意 支払われなかった場合の遡求
前提 取引先も利用していること

紙の手形の代替として整備された仕組みです。手形と違い、金額を分割して使えるのが実務上の利点です。一部を支払いに充て、一部を割り引く、といった使い方ができます。

ただし、取引先が利用していなければ使えません。また、支払期日に決済されなかった場合、割引を受けた側が責任を負う形になることがあります。契約内容を確認してください。

この章の要点

でんさいは分割できるのが利点。ただし取引先の利用と、遡求の確認が要ります。

売掛債権保証・取引信用保険

これだけは資金化の手段ではありません。売掛金が回収できなくなったときに備える仕組みです。

項目 内容
形 保証・保険
費用 保証料・保険料
効果 取引先が倒産した場合に、一定割合が支払われる
間接的な効果 他の調達の条件が良くなることがある
与信管理 保険会社が取引先を審査するため、与信の材料になる

見落とされやすいのが4番目です。保険が付いている売掛金は、担保としての評価が上がることがあります。回収不能のリスクが小さくなるためです。

また、5番目も実務的な価値があります。保険会社が引き受けない取引先は、危ない可能性がある——これ自体が与信の情報になります。詳しくは 取引信用保険はいくらから検討する価値があるか の記事で扱っています。

この章の要点

保険は資金化ではありませんが、他の調達の条件と与信の材料になります。

どれを選ぶか

状況 向いている手段 理由
時間に余裕がある。費用を抑えたい ABL 年利で借りられる
今週必要 債権譲渡 速い
赤字で、融資が出ない 債権譲渡 取引先の信用力で判断される
継続的に大きな金額 債権流動化 組成費用に見合う規模なら
取引先がでんさいを使っている でんさい割引 分割して使える
回収に不安がある取引先がある 保険 資金化ではなく備え
常態化している まず構造を見直す 資金化は問題を先送りするだけ
最後の行がいちばん重要

毎月のように債権を資金化している状態は、回収と支払の条件が事業の構造に合っていないことを示しています。手段を比べる前に、回収サイトの短縮や支払サイトの延長を検討してください。費用がかかりません。

この章の要点

常態化しているなら手段の比較より、条件の見直しが先です。

チェックリスト

債権を使った調達を検討するときに

  • いつまでに、いくら必要かを確定した
  • 回収サイト・支払サイトの見直しで解決できないか検討した
  • 担保(借入)か譲渡(売買)かを理解している
  • 償還請求権の有無を契約書で確認した
  • 手数料を年率に換算して比べた
  • 実行までの日数を確認した
  • 貸借対照表への影響(負債が増えるか)を確認した
  • 手数料が費用として決算書に出ることを理解している
  • 取引先への通知の有無を確認した
  • 譲渡制限特約の有無を、取引基本契約で確認した
  • 債権譲渡登記が必要か、費用を確認した
  • ABLなら、毎月の報告の内容を確認した
  • 継続的に使う予定なら、年間の費用総額を計算した
  • 常態化している場合、構造の見直しを検討した
この章の要点

2番の条件の見直しで解決しないかを、必ず先に検討してください。

よくある質問

Q. ABLと債権譲渡は、何が違いますか
ABLは融資で、債権の所有権は自社に残り、返済義務があります。債権譲渡は売買で、所有権が相手に移り、原則として返済義務はありません。貸借対照表への表れ方も、費用の水準も違います。
Q. 手数料3%は高いのですか
期間によります。30日なら年率に換算して約36%です。年利数%のABLとはまったく違います。比べるときは必ず年率に直してください。
Q. 償還請求権とは何ですか
債権を譲渡した後に取引先が支払わなかった場合、売り手が買い戻す義務を負うかどうかです。付いていると実質的に借入に近くなります。手数料が安い場合、ここに理由があることがあります。
Q. 譲渡制限特約が付いていても使えますか
2020年の民法改正により、譲渡制限特約があっても債権譲渡の効力は妨げられません。ただし取引先との契約上の問題が生じる可能性は残ります。別の記事で詳しく扱っています。
Q. 債権を譲渡すると、銀行に分かりますか
負債は増えませんが、手数料が売上債権売却損などの費用として計上されます。金額が大きければ、資金繰りが苦しいと読み取られます。「分からない」というのは正しくありません。
Q. 取引先に知られずに資金化できますか
2者間の形なら通知を行いません。ただし対抗要件を債権譲渡登記などで確保する必要があり、買い手のリスクが大きい分、手数料は高くなります。
Q. 赤字でも使えますか
債権譲渡では、自社の業績より取引先の信用力が見られます。赤字でも、取引先が大企業なら資金化できることがあります。ABLは融資なので、自社の審査も通常どおり行われます。
Q. でんさいは手形と何が違いますか
電子的に記録されるため紛失・盗難がなく、金額を分割して使えます。一部を支払いに充て、一部を割り引くことができます。ただし取引先も利用していることが前提です。
Q. 取引信用保険は、資金化の手段ですか
違います。回収できなくなったときの備えです。ただし保険が付いた売掛金は担保としての評価が上がることがあり、保険会社の審査結果が与信の材料にもなります。
Q. どれがいちばん安いですか
年率で見ればABLが安くなるのが通常です。ただし審査に時間がかかり、毎月の報告も発生します。必要な時期に間に合うかを含めて比べてください。
Q. 毎月使っていますが、問題ありますか
費用が利益を削り続けます。また、回収と支払の条件が事業の構造に合っていないことを示しています。手段を比べる前に、回収サイトの短縮や支払サイトの延長を検討してください。
Q. 債権流動化は、どのくらいの規模から使えますか
組成費用と手間がかかるため、数億円以上の規模が前提になることが多い手段です。継続的に一定額の債権が発生する会社に向きます。
出典