
銀行の担当者との面談は、その場で可否が決まる場ではありません。担当者が、稟議書に書く材料を集める場です。
この前提を理解すると、準備の方向が定まります。説得しようとするのではなく、書ける材料を渡す。これが面談での目的です。
可否は稟議の過程で決まります。面談で決まるのは、担当者が案件として上に持っていけるかどうかです。材料が足りなければ、そもそも上がりません。
稟議の仕組みは 融資の稟議はどこで止まるか の記事で扱っています。
面談は材料を渡す場。説得の場ではありません。
| 来る人 | 役割 | 持ち帰るもの |
|---|---|---|
| 担当者(渉外) | 窓口。稟議書を書く | 事業の内容、業況、資金使途、返済原資 |
| 担当者+役席 | 金額が大きい、または初回 | 同上+社内での説明材料 |
| 支店長 | 重要な先、大型案件 | 経営者の人物、事業の方向性 |
| 保証協会の担当者 | 保証の審査 | 事業の実在性、資金使途、返済の見込み |
相手によって、聞かれることの重心が変わります。担当者は稟議に書く具体的な数字、支店長は事業の方向性と経営者の考え方を見ています。
保証協会の面談が入る場合は、事業が実在することの確認が中心になります。事業所の様子、取引の実態、帳簿の整合などが見られます。
担当者には数字、支店長には方向性。相手で重心が変わります。
| — | 質問 | 用意しておくもの |
|---|---|---|
| 1 | いくら、何に使いますか | 使途の内訳表(項目と金額) |
| 2 | なぜその金額ですか | 資金繰り表(不足する月と金額) |
| 3 | 何から返しますか | 簡易キャッシュフローと返済額の比較 |
| 4 | 直近の業況はどうですか | 月次試算表。前年同月比 |
| 5 | 売上総利益率が変わっていますが、なぜですか | 原因の分解(単価か数量か、原価か) |
| 6 | 今後の見通しは | 受注残、契約状況 |
| 7 | 他行との取引はどうなっていますか | 借入一覧(残高・金利・期日) |
| 8 | 主な取引先は | 売掛金の内訳。集中度 |
| 9 | この売掛金は回収できていますか | 売掛金年齢表 |
| 10 | 代表者への貸付金は何ですか | 精算しておく。あるなら返済計画 |
この3つは稟議書の中心的な欄に対応しています。ここが埋まらないと、案件が上がりません。面談の準備は、この3つから始めてください。
10問のうち、1〜3が最優先。稟議書の中心の欄に対応しています。
答え方には型があります。数字 → 理由 → 対策の順で組み立ててください。
| 質問 | 弱い答え | 強い答え |
|---|---|---|
| 直近の業況は | 「おかげさまで順調です」 | 「売上は前年同月比112%、粗利率は前年38%に対して35%です。原価の上昇分で、来月から価格に転嫁します」 |
| なぜ赤字ですか | 「受注が減りまして」 | 「主力のA商品が、大口のB社向けで月200万円落ちました。代替としてC社の案件が来月から月150万円入ります」 |
| 何から返しますか | 「利益で返します」 | 「簡易キャッシュフローが年900万円、返済額が年700万円です。200万円の余裕があります」 |
違いは数字で分解されているかです。「順調です」という言葉は稟議書に書けませんが、「前年同月比112%、粗利率35%」は書けます。
そして、対策まで言うことが重要です。悪い数字であっても、原因を把握して手を打っていることが示せれば、評価は変わります。
数字 → 理由 → 対策。言葉ではなく、そのまま書ける形で答えてください。
同じ決算内容の2社が、同じ質問を受けた場合を並べます。
| 質問 | A社の答え | B社の答え |
|---|---|---|
| いくら必要ですか | 「3,000万円くらい」 | 「2,850万円です」 |
| なぜその金額ですか | 「余裕を見て」 | 「9月の残高が最低で、手元に月商1か月分を残すと2,850万円足りません」 |
| 何に使いますか | 「運転資金です」 | 「増加運転資金1,250万円、季節仕入れ1,600万円です」 |
| 何から返しますか | 「利益から」 | 「増えた売上の回収から。季節分は11月〜1月の入金で」 |
| その後に起きること | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 追加の質問 | 何度も往復する | ほとんど出ない |
| 稟議書の作成 | 担当者が組み立て直す | そのまま書ける |
| 実行までの日数 | 長い | 短い |
| 金額 | 削られやすい | 根拠があるため削りにくい |
最後の行が重要です。「3,000万円くらい」は削れますが、「2,850万円」には削る理由がありません。根拠のある端数は、それ自体が積み上げた証拠になります。
端数のある金額は積み上げた証拠。「くらい」は削られます。
準備していないと詰まるのが、次の3つです。
| 質問 | なぜ答えにくいか | 準備 |
|---|---|---|
| 「この借入がなかったら、どうしますか」 | 必要性の本気度を測られている | 代替手段を検討したことを示す |
| 「計画どおりにいかなかったら」 | 楽観だけの計画か確認されている | 下振れした場合の対応を用意する |
| 「社長に何かあったら」 | 事業の継続性を見られている | 体制、権限、引き継ぎの状況 |
1番目は、「借りられないと倒産します」と答えてはいけません。それは返済能力への疑問に直結します。「支払いを◯月にずらし、設備投資を延期して対応しますが、機会を逃します」のように、代替策があったうえで借りる、という形にしてください。
2番目は、下振れのシナリオを1つ用意しておくことで対応できます。「売上が計画の85%なら、固定費をこう抑えて、返済は維持できます」と言えれば十分です。
3番目は、とくに小規模な会社で聞かれます。経営者1人に業務が集中している状態は、事業の継続性への懸念になります。取引先との関係が個人に依存していないか、権限を持つ人が他にいるか、といった点です。
「借りられないと倒産する」は言ってはいけない答え。代替策とセットで話してください。
必ず聞かれます。隠しても、決算書の借入金内訳から分かります。
| 聞かれること | 答え方 |
|---|---|
| どこから、いくら借りていますか | 一覧を渡す(残高・金利・期日・保証の有無) |
| 他行にも申し込んでいますか | 正直に。金額を分けているなら、その配分も |
| メインはどこですか | 明確に答える |
| 他行の金利は | 正確に伝える。偽らない |
| なぜ当行に来たのですか | 理由を用意しておく |
金融機関どうしで条件が分かる場面があります。後で判明すれば、それまでの説明すべての信頼が落ちます。交渉材料として使うのは正当ですが、事実を変えてはいけません。
5番目の「なぜ当行に」は、新規の金融機関で必ず聞かれます。「メインだけでは足りないため」「取引先を増やしたい」といった、率直な理由で問題ありません。曖昧にすると、他行で断られたのではないかと読まれます。
配分の考え方は 複数行から借りるときの順番と配分 の記事で扱っています。
他行のことは正直に。偽ると、すべての説明の信頼が落ちます。
赤字、延滞、取引先の倒産、大口の失注——不利な事実があるとき、こちらから先に伝えてください。
| 伝え方 | 結果 |
|---|---|
| 聞かれるまで言わない | 後で判明すると、隠していたと読まれる |
| 事実だけ伝える | 不安材料として記録される |
| 事実+原因+対策+現状を伝える | 把握できている会社と評価される |
順序も重要です。面談の早い段階で伝えてください。稟議が進んだ後に新しい事実が出ると、手続きをやり直すことになります。担当者にとって最も避けたい事態です。
「実はお話ししていないことが」という切り出し方は、隠していた印象を強めます。資料を渡す流れの中で、事実として淡々と説明するほうが伝わります。
とくに延滞の履歴は必ず伝えてください。記録として残っており、必ず把握されます。事前に説明があるかどうかで、扱いが変わります。区分への影響は 債務者区分 の記事で扱っています。
不利な事実は早い段階で、対策とセットで。後出しは最も不利です。
| 言ってはいけないこと | なぜ |
|---|---|
| 「借りられないと倒産します」 | 返済能力への疑問に直結する |
| 「他行は貸してくれると言っています」(事実でない) | 確認されれば分かる |
| 「税理士に任せているので分かりません」 | 経営者が数字を把握していないと読まれる |
| 「とりあえず借りられるだけ」 | 使途がないことを示している |
| 「返済は次の融資で」 | 返済原資がないと言っているに等しい |
| 数字の言い間違い | 資料と食い違うと、説明全体の信頼が落ちる |
3番目は、意外に多く出てしまいます。数字を聞かれて即答できないこと自体は問題ありませんが、「分かりません」で終わらせないでください。「確認して、本日中にお送りします」と答えれば済みます。
6番目も注意が要ります。記憶で答えず、資料を見ながら答えてください。後で資料と食い違うと、その1点だけでなく説明全体が疑われます。
数字は資料を見ながら答える。即答より、正確さが優先です。
面談は一方的に聞かれる場ではありません。こちらから聞くことで、その後の進め方が変わります。
| 聞くこと | 分かること |
|---|---|
| 「稟議で必要な資料は何ですか」 | 足りない材料。往復が減る |
| 「いつ頃、可否のご連絡をいただけますか」 | 案件が動いているか |
| 「この金額は支店でご判断いただける規模でしょうか」 | 決裁の段階。日数の見込み |
| 「当行の評価上、どこが弱く見えていますか」 | 改善すべき点 |
| 「経営者保証を外す条件は何ですか」 | 3要件のうち足りない点 |
| 「使える制度融資はありますか」 | 保証料・利子の補助 |
最初の2つは、毎回聞いてください。必要な資料を先に聞けば往復が減り、期日を確認すれば案件が動いているかが分かります。
4番目の聞き方は有効です。「なぜ貸してくれないのか」ではなく、「どこが弱く見えるか」という形にすると、多くの担当者は具体的に答えます。
毎回聞くべきは「必要な資料」と「可否の連絡時期」の2つです。
| やること | 理由 |
|---|---|
| A4で1枚の要約を付ける | 担当者が所見を書く下敷きになる |
| 数字は表にする | そのまま転記できる |
| まとめて渡す | 小出しにすると往復が増える |
| データでも渡す | 転記の手間が減る |
| 全取引行に同じものを渡す | 食い違いが生じない |
持参する資料の標準は、次のとおりです。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 決算書3期分+勘定科目内訳明細書+申告書 | — |
| 直近の月次試算表 | 締めから2〜3週間以内のもの |
| 資金繰り表 | 実績3か月+予定6か月 |
| 資金使途の内訳表 | 項目・金額・根拠・返済原資・希望期間 |
| 借入一覧 | 金融機関・残高・金利・期日・保証の有無 |
| 受注残・契約状況 | 今後の売上の裏づけ |
| 会社案内・事業の説明資料 | 担当者が交代しても残る |
太字の3つが、こちらが用意しなければ存在しない資料です。決算書は税理士から出ますが、この3つは意識して作る必要があります。
試算表・資金繰り表・使途の内訳表。この3つが準備の中身です。
決算書がない段階では、見られるものが違います。
| 見られる点 | 準備 |
|---|---|
| 経歴と事業の一致 | なぜこの事業をやるのか、経験との結びつき |
| 自己資金 | いくらを、どう貯めたか。通帳で説明できるか |
| 売上の根拠 | 単価×数量。すでに見込み客がいるか |
| 費用の見積もり | 実際の見積書、賃貸借契約など |
| 返済の開始時期 | いつから返済に回せる現金が生まれるか |
| 生活費 | 役員報酬でまかなえるか |
最後の項目は見落とされやすい点です。役員報酬が生活費に足りないと、会社から借りることになります。これは後の決算で役員貸付金として残り、評価を下げます。
自己資金の見られ方は 創業融資の自己資金要件 の記事で扱っています。
創業期は経歴・自己資金・返済の開始時期。生活費の説明も用意してください。
計画的に赤字を出しているスタートアップでは、説明の組み立てが変わります。
| 論点 | 説明の仕方 |
|---|---|
| なぜ赤字か | 計画どおりであることを示す。投資の内容と、回収の時期 |
| 返済原資 | 利益ではなく、手元資金と確定した入金で示す |
| 純資産 | 調達により資本が厚く、債務超過でないことを示す |
| 手元資金 | ランウェイを月数で示す |
| 次の調達 | 既存投資家の意向、これまでの調達実績 |
| 黒字化の時期 | 月単位で示す。過去の計画の達成度も見られる |
鍵は「計画どおりの赤字」であることを示せるかです。前に出した計画と実績が一致していれば、赤字であっても計画の信頼性が示せます。逆に、毎回計画を下回っていれば、次の計画も割り引かれます。
返済原資の示し方は 返済原資の説明 の記事で扱っています。
赤字でも計画どおりであることを示せるかが分かれ目です。
| 順 | やること | 時期 |
|---|---|---|
| 1 | その場で答えられなかった点を、資料にして送る | 当日〜翌営業日 |
| 2 | 依頼された追加資料を送る | 速やかに |
| 3 | 聞かれた内容を記録しておく | 当日 |
| 4 | 確認した期日を控えておく | 当日 |
| 5 | 期日を過ぎたら、進捗を確認する | 期日後 |
1番の速さが効きます。その日のうちに追加資料が届くと、担当者はそのまま稟議に取りかかれます。1週間かかると、案件が止まります。
3番も意味があります。聞かれた内容は、次回も聞かれます。記録しておけば、次の面談の準備がそのまま整います。担当者が交代しても、同じ質問が来ます。
追加資料は当日〜翌営業日に。聞かれた内容は記録してください。
1〜3番が稟議書の中心の欄に対応します。ここから準備してください。
この記事は融資による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。