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ストックオプションの発行枠|試算シートつき

枠は「何%にするか」から決めるものではなく、採用人数と1人あたりの割合を積み上げた結果です。計算式入りの試算シートと、ラウンドの前後どちらで枠を取るかで誰が薄まるかを整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 枠は「何%にするか」から決めない
  2. 積み上げて出す|採用計画から枠へ
  3. 1人あたりをどう決めるか|現金報酬とのトレードオフ
  4. 試算シート
  5. ラウンドの前に取るか、後に取るか
  6. 枠を取りすぎるとどうなるか
  7. 足りなくなったときに何ができるか
  8. 枠を追加するときの手続き
  9. 配った分を記録する|枠の消化を管理する
  10. 候補者にどう説明するか
  11. 枠と、実際に配った分は別物
  12. よくある質問

枠は「何%にするか」から決めない

ストックオプションの枠をどれだけ空けておくか、という話は「10%くらい」といった数字から始まりがちです。順序が逆になっています。

枠は、誰を何人採るか、その人たちに1人あたりどれだけ渡すかを積み上げた結果です。先に比率を決めてしまうと、採用が進んだときに足りないか、逆に大きく空けすぎたまま希薄化だけ抱えることになります。

ストックオプション枠これから発行する予定で確保しておく新株予約権の量。プールとも呼ぶ。
発行済の新株予約権すでに発行したが、まだ行使されていないもの。
完全希薄化後発行済株式に、未行使の新株予約権をすべて足した株数。枠の比率はこれで測る。
プールの再充填枠を使い切ったあとに、あらためて枠を追加すること。
この章の要点

枠は先に決める比率ではなく、採用計画から出る結果です。比率から入ると、必ずどちらかにずれます。

積み上げて出す|採用計画から枠へ

手順は3つです。

  1. いまの株数を確定する|発行済株式総数と、すでに発行している未行使の新株予約権
  2. 採用計画を並べる|ポジションごとに、何人採るか
  3. 1人あたりの割合を置く|ポジションごとに、完全希薄化後の何%を渡すか

3つ目に統一的な基準はありません。当編集部でも確認できるものはないため、目安の数値は示しません。決め方の考え方としては、現金報酬をどれだけ抑えるかとセットで見るのが実務的です。同じポジションでも、市場水準に近い給与を出せるなら割合は小さくなります。

この3つを掛け合わせると、必要な株数が出ます。それを合計したものが枠です。

比率で決めた枠は、株数で持つ

「7%」のまま持っていると、次のラウンドで株式が増えるたびに必要な株数が変わります。枠は株数で確定させ、比率は結果として表示するようにしてください。資本政策表と同じ考え方です。

この章の要点

いまの株数 → 採用人数 → 1人あたりの割合の順に積む。枠は株数で持ち、比率は表示にとどめます。

1人あたりをどう決めるか|現金報酬とのトレードオフ

1人あたりの割合に基準はありませんが、決め方の筋道はあります。ストックオプションは現金報酬の代わりに渡すものなので、給与をどれだけ抑えるかとセットで考えます。

同じポジションでも、次のように分かれます。

状況 現金報酬 1人あたりの割合 考え方
資金が潤沢 市場水準に近い額を出せる 小さくできる 不足分が小さいので、埋める量も少ない
資金が限られる 市場水準を下回る 大きくなる 差額を将来の値上がりで埋めることになる
立ち上げ直後 ほとんど出せない 最も大きい リスクを取る度合いがそのまま反映される

つまり割合は「その人の価値」ではなく「現金で払えない差額の大きさ」で決まります。同じ人を、資金調達の前と後で採用する場合、渡す割合は変わって当然です。

入社の時期でも変わる

早い時期に入る人ほど、会社が続くかどうかの不確実性を引き受けています。同じポジションでも、10人目と50人目では割合が違うのが普通です。後から入る人のほうが、給与も市場水準に近づけられます。

この考え方を採用の場で説明できるようにしておくと、社内で比率の説明を求められたときに一貫した答えを出せます。逆に、その場の交渉で個別に決めていくと、後から不公平が表面化します。

割合は「%」ではなく「株数」で伝える

候補者に「0.25%」と伝えても、それが何株で、いくらになりうるのかは伝わりません。株数、権利行使価額、その時点の1株価格の3つをセットで示してください。あわせて、行使にはお金を払う必要があること、株式をすぐ売れるとは限らないことも説明しておくと、認識のずれが起きにくくなります。

この章の要点

割合は現金で払えない差額の大きさで決まります。入社の時期でも変わるのが普通です。

試算シート

上の手順をそのまま計算するシートを置いておきます。ポジションごとに人数と割合を入れると、必要な株数と、枠を含めた完全希薄化後の比率が出ます。次のラウンドの発行株数を入れれば、ラウンド後の比率も出ます。

TEMPLATE ストックオプション枠の試算シート(計算式入り)

Excel版は、採用人数と1人あたりの割合を入れれば必要な株数と希薄化後の比率が自動で出ます。入力する欄は水色、自動計算はグレーです。

はじめに|このシートの使い方

手順やること
1いまの発行済株式総数と、未行使の新株予約権の数を入れます
2ポジションごとに、採用人数と1人あたりの割合を入れます
3枠を含めた完全希薄化後の比率を確認します
※計算式が入ったExcel版があります。株数と比率が自動で出ます

1 いまの株数(記入例)

項目株数説明
発行済株式総数12,800いま実際にある株式。新株予約権は含めない
発行済の新株予約権(未行使)1,200すでに発行している分
完全希薄化後の株式数14,000発行済 + 未行使の新株予約権

2 採用計画と枠(記入例)

ポジション採用人数1人あたりの割合必要な株数合計の割合メモ
CxO クラス21.50%4203.00%経営を担う採用
VP・部門長30.60%2521.80%
シニアメンバー50.25%1751.25%
メンバー100.08%1120.80%
アドバイザー30.10%420.30%社外。要件の確認が必要
合計(必要な枠)231,0017.15%
※割合は、枠を足す前の完全希薄化後14,000株に対するものとして株数へ換算しています

3 希薄化の確認(記入例)

項目株数比率説明
発行済株式総数12,800いまある株式
発行済の新株予約権(未行使)1,200すでに発行している分
これから発行する枠1,001シート2の合計
完全希薄化後の株式数15,0013つの合計
新株予約権の合計が占める割合14.67%ここが「SO枠が何%か」と呼ばれる数字
次のラウンドで発行する株数2,800入力してください
ラウンド後の完全希薄化後17,801
ラウンド後のSO枠の割合12.36%枠を先に取ると、ラウンド後は割合が下がる

計算のしかた

項目計算式
必要な株数採用人数 × 1人あたりの割合 × 完全希薄化後の株式数
完全希薄化後の株式数発行済株式総数 + 未行使の新株予約権 + これから発行する枠
SO枠の割合(未行使の新株予約権 + これから発行する枠)÷ 完全希薄化後の株式数

Excel版は、株数と1株あたり金額を入れると持株比率が自動で出ます。 入力するところは水色、自動で計算されるところはグレーに塗り分けてあります。 1枚目に使い方、最後に用語集が入っています。

コピーを押すと、タブ区切りでクリップボードに入ります。 Googleスプレッドシートに貼ると列が揃ったまま入ります(計算式は入りません)。

入っている数字はすべて記入例です。実在の会社のものではありません。 自社の数字に置き換えて使ってください。

数字はすべて記入例です。とくに「1人あたりの割合」はそのまま使わないでください。自社の給与水準と採用したい人材に合わせて置き換えるための欄です。

この章の要点

シートは順序を守るための道具です。埋めれば、比率から入る誘惑を避けられます。

ラウンドの前に取るか、後に取るか

枠をいつ設定するかで、誰が薄まるかが変わります。ここは投資家との交渉で必ず論点になります。

ラウンドの前に取る ラウンドの後に取る
薄まる人 既存の株主だけ 既存の株主と、新しい投資家の両方
創業者への影響 大きい 相対的に小さい
投資家の主張 こちらを求めることが多い 会社側が求める

投資家が「ラウンド前に枠を設定してほしい」と求めるのは、自分の持分が枠によって薄まらないようにするためです。同じ「7%の枠」でも、前か後かで創業者の手元に残る比率が変わります。

枠の大きさそのものより、この論点のほうが金額的な影響は大きくなることがあります。枠の議論に入る前に、前か後かを確認してください。

この章の要点

前に取れば既存株主だけが薄まる。枠の大きさと同じくらい、タイミングが効きます。

枠を取りすぎるとどうなるか

「多めに空けておけば安心」とは言えません。未行使の新株予約権は完全希薄化後の株数に入るため、使っていなくても希薄化として数えられます。

逆に、小さすぎると採用の途中で足りなくなります。追加の枠を設定するには決議が必要で、そのタイミングで既存の株主が薄まります。どちらに振れても代償があるので、採用計画から積むしかありません。

この章の要点

未行使の枠も希薄化として数えられます。大きすぎても小さすぎても代償があります。

足りなくなったときに何ができるか

採用が想定より進んだ場合、枠は足りなくなります。取れる手は3つです。

手 やること 負担
枠を追加する 新たに新株予約権の発行枠を決議する 既存の株主全員が薄まる。投資家の同意が要ることがある
失効分を再利用する 退職などで失効した分を、別の人に割り当てる 失効の条件を契約に入れていないと発生しない
1人あたりを減らす これから配る分の割合を下げる 採用の競争力が落ちる

2つ目の失効分の再利用は、付与契約に「退職した場合は権利が失効する」と書いていなければ起きません。書いていなければ、辞めた人の分が枠に戻らないまま残ります。税制適格の要件とあわせて、付与契約の段階で決めておく項目です。

この章の要点

足りなくなったときの主な逃げ道は失効分の再利用です。付与契約に書いていないと使えません。

枠を追加するときの手続き

枠が足りなくなったときの「追加」は、書類上は新しい新株予約権の発行です。手順と、詰まりやすい点を押さえておきます。

順 やること 詰まりやすい点
1 追加する株数を決める 採用計画を出し直さないと、また足りなくなる
2 投資家の同意が要るかを確認する 投資契約や株主間契約に、発行の事前承諾が定められていることがある
3 募集事項を決議する 株主総会の特別決議が必要になる場合がある
4 1株あたりの価額を評価し直す 前回の行使価額は使えない
5 登記する 新株予約権は登記事項になる
6 資本政策表を更新する 更新を忘れると、完全希薄化後がずれる

2番でつまずくことがあります。投資契約に「一定数を超える新株予約権の発行には事前の承諾が必要」と書かれていることがあり、その場合は投資家との交渉になります。追加する理由として採用計画を示せるかどうかで、話の進み方が変わります。

4番も見落とされます。前回と同じ行使価額を使うと、契約時点の1株あたりの価額を下回る可能性があります。ラウンドを挟んでいればなおさらです。評価はそのつど必要になります。

この章の要点

追加は投資家の同意と、価額の再評価で止まりやすい。採用計画を示せるように準備してください。

配った分を記録する|枠の消化を管理する

枠を決めたあと、実務で崩れやすいのが「いま何株残っているか」が分からなくなることです。付与のたびに記録していないと、枠を超えて付与していたことに後から気づきます。

管理する項目は次のとおりです。資本政策表とは別に、1枚持つのが実務的です。

項目 書くこと 抜けると
付与日 決議の日 行使できる時期が計算できない
対象者 氏名と、付与時点の役職 対象者の要件を満たしていたか確認できない
株数 その回に付与した数 枠の残りが合わなくなる
権利行使価額 1株あたりの金額 年間の行使価額の上限を試算できない
行使できる期間 開始日と終了日 要件を満たしているか確認できない
状態 未行使/行使済み/失効 完全希薄化後の株数がずれる
枠の残り 決議した枠から差し引いた数 超過に気づかない

とくに「状態」を更新していないケースが多く見られます。退職して失効した分を未行使のまま数えていると、完全希薄化後の株数が実態より大きくなり、比率がずれたまま投資家に提出することになります。

この章の要点

枠の消化は別の1枚で管理します。とくに「状態」の更新を忘れると、比率がずれます。

候補者にどう説明するか

枠の設計と同じくらい実務で効くのが、渡すときの説明です。説明が足りないと、受け取る側は価値を評価できません。結果として、採用の武器になりません。

伝えるべき項目は5つです。

最後の項目を省かないでください。「◯◯万円分」と伝えると、現金と同じものだと受け取られます。実際には、行使にお金を払う必要があり、その後も売却できる保証はありません。ここを説明しておかないと、後で認識のずれが表面化します。

価値を大きく見せる説明をしない

将来の評価額を前提にした金額を示すのは避けてください。実現する保証がないうえ、示した金額が期待値として残ります。事実として確定しているのは、株数・行使価額・直近の1株価格の3つだけです。それ以上は本人の判断材料として渡すものではありません。

この章の要点

確定している事実は株数・行使価額・直近の1株価格の3つ。将来の金額は示さないでください。

枠と、実際に配った分は別物

資本政策表では、この2つを分けて管理してください。混ぜると、完全希薄化後の比率が合わなくなります。

区分 意味 完全希薄化後に入るか
発行済・未行使 すでに個人に付与し、まだ行使されていない 入る
枠の残り 発行を決議したが、まだ誰にも付与していない 入れるかどうかは前提しだい
行使済み 行使されて株式になった 発行済株式のほうに移る

2つ目の扱いが会社によって違います。投資家と話すときは、どちらの前提で数えているかを先に揃えてください。同じ会社の同じ日でも、前提が違えば比率が変わります。

枠を決議する前に

  • いまの発行済株式総数と、未行使の新株予約権の数を登記で確認した
  • 採用計画をポジションごとに並べた
  • 1人あたりの割合を、現金報酬の水準とセットで決めた
  • 枠を比率ではなく株数で確定させた
  • ラウンドの前に取るか後に取るかを、投資家と確認した
  • 枠を含めた完全希薄化後の比率を試算した
  • 付与契約に、退職時の失効の条件を入れた
  • 税制適格の要件を満たす設計になっている
  • 資本政策表で、発行済・未行使と枠の残りを分けて管理している
この章の要点

発行済・未行使/枠の残り/行使済みを分けて持つ。枠の残りの扱いは、相手と前提を揃えてください。

よくある質問

Q. 枠は何%が普通ですか
当編集部で確認できる統一的な基準はないため、目安の数値は示しません。枠は採用計画から積み上げて出すものです。他社の比率を参考にする場合も、その会社の採用人数と1人あたりの割合まで分からなければ、比較になりません。
Q. 枠を設定しただけで、希薄化は起きますか
株式は増えないため、発行済株式総数は変わりません。ただし完全希薄化後の株数には影響します。投資家との会話は完全希薄化後を基準にするため、実質的には希薄化として扱われます。
Q. 枠の残りを、完全希薄化後に含めるべきですか
会社によって扱いが分かれます。投資家は含める前提で見ることが多いため、自社の資料では両方の数字を併記しておくと、認識のずれが起きにくくなります。
Q. 退職した人の分は、自動的に枠へ戻りますか
戻りません。付与契約に失効の条件を書いていなければ、権利はその人に残ります。契約に書いてあれば失効し、その分を別の人へ割り当てられます。
Q. 創業者自身の分も枠に含めますか
税制適格の枠組みでは、大口株主とその特別関係者は付与対象から除かれます。すでに大きな比率を持つ創業者は対象にならない可能性があるため、枠の設計に含める前に要件を確認してください。
Q. 枠はいつ決議すればよいですか
採用を始める前です。ただしラウンドの前後で誰が薄まるかが変わるため、調達を控えている場合は、そのタイミングと合わせて判断することになります。
Q. 一度に大きな枠を取って、少しずつ配ってもよいですか
できますが、配っていない枠も希薄化として数えられます。大きく取るほど、次のラウンドの1株価格の計算で分母が増えます。採用計画で説明できる範囲に収めるほうが、投資家との交渉は進みやすくなります。
Q. 枠を決議してから、実際に付与するまで期限はありますか
決議で定めた期間内に割り当てることになります。期限を短く設定すると、採用が進まないうちに枠が使えなくなります。採用計画の期間に合わせて設定してください。
Q. 複数回に分けて枠を決議してもよいですか
できます。一度に大きく取るより希薄化の見通しが立てやすくなる一方、そのつど決議と登記が必要になります。採用の計画がどこまで見えているかで決めてください。
Q. 枠の一部を、アドバイザー向けに分けておけますか
管理上は分けられます。ただし税制適格の対象者の要件を満たすかどうかは別の問題です。社外の人材に渡す場合、要件を個別に確認してください。
Q. 上場を目指す場合、枠の比率に上限はありますか
法令上の一律の上限はありません。ただし引受証券会社との協議のなかで、希薄化の程度について説明を求められることがあります。採用計画から積み上げた根拠を示せる状態にしておいてください。
Q. 枠の残りを、投資家にどう報告しますか
四半期ごとの報告に含める会社が多く見られます。発行済・未行使、枠の残り、行使済みの3つを分けて示し、完全希薄化後の株数と比率を添えてください。資本政策表の該当部分をそのまま出せる形にしておくと、手間が減ります。
Q. 行使されたら、枠はどうなりますか
行使された分は株式に変わるため、未行使の新株予約権からは外れ、発行済株式に移ります。完全希薄化後の株数は変わりませんが、内訳が動きます。記録を更新していないと、二重に数えることになります。
Q. 枠が余ったまま上場した場合、どうなりますか
未行使のまま残っている分は、上場後も潜在株式として扱われます。上場の準備段階で、残った枠をどうするか(消滅させるか、残すか)を整理することになります。
出典

  • 会社法 第236条(新株予約権の内容)、第238条(募集事項の決定)、第239条(委任による募集事項の決定)— e-Gov法令検索
  • 経済産業省「ストックオプション税制」— 経済産業省