
同じ事業者を使い続けると、審査は速くなり、条件は下がっていく——とされます。問題は、それが本当に起きているかどうかです。
1年以上、毎回期日どおりに回収されているのに率が変わっていないなら、「使い続ける得」は発生していません。その場合、乗り換えの検討には十分な理由があります。
実績の価値は、率と枠に出ていなければ存在しません。
| 得られるもの | 金額に換算できるか |
|---|---|
| 手数料率の低下 | できる |
| 枠の拡大 | 間接的に(使える額が増える) |
| 審査の短縮 | 時間の価値として |
| 書類提出の省略 | 工数の削減 |
| 掛け目の引き上げ | できる |
| 担当者が自社を理解している | — |
| 急な依頼に応じてもらえる | — |
率が下がったか、枠が広がったか、審査が速くなったか。この3つは記録で確認できます。感覚ではなく、実績の一覧で見てください。
率・枠・審査時間。この3つは記録で確認できます。
| 失うもの | 内容 |
|---|---|
| 比較する機会 | 他社の水準を知らないまま続く |
| 交渉の材料 | 選択肢がないと交渉できない |
| 相場観 | 自社の条件が適正か分からなくなる |
| 依存が深まる | その会社なしでは回らなくなる |
| 登記の範囲が広がる | 他社が使えない債権が増える |
| 「使っていること」が前提になる | やめる判断がしにくくなる |
その事業者の枠がなければ月末を越えられない状態になると、条件が悪化しても受け入れるしかなくなります。交渉力を失った状態では、実績があっても率は下がりません。
依存を下げる方法は 資金化の依存度を下げていく順序 の記事で扱っています。
いちばん重い損は依存。交渉力を失います。
| 確認すること | 見方 |
|---|---|
| 1回目と直近の手数料率 | 下がっているか |
| 枠の推移 | 広がっているか |
| 審査から入金までの日数 | 短くなっているか |
| 掛け目 | 上がっているか |
| 提出する書類 | 減っているか |
| 同じ売掛先の率 | 先ごとに比べる |
6項目すべてが初回と同じなら、この事業者は実績を条件に反映しない方針だということです。それ自体が、乗り換えを検討する理由になります。
ただし、変わっていない理由を聞いてから判断してください。「頻度が増えている」「決算が悪化した」など、下げられない事情があるかもしれません。
6項目を確認し、変わっていない理由を聞いてください。
1回500万円・年24回(年間1億2,000万円)を資金化する場合の、3年間の累計です。
| ケース | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 3年計 |
|---|---|---|---|---|
| 継続(実績で下がる) | 8.0% 960万円 |
7.0% 840万円 |
6.5% 780万円 |
2,580万円 |
| 乗り換え(6%が続く) | 6.0% 720万円 |
6.0% 720万円 |
5.5% 660万円 |
2,100万円 |
| 乗り換え(初回だけ安い) | 6.0% 720万円 |
8.0% 960万円 |
8.0% 960万円 |
2,640万円 |
初回の率だけを見ると、乗り換えは明らかに有利です。しかし2年目以降に戻れば、継続していたほうがよかったことになります。
だから確認すべきは、「その率は2回目以降も続くのか」です。1回だけの見積もりで判断しないでください。
比べるのは初回ではなく、2回目以降の条件です。
| 確認すること | 聞き方 |
|---|---|
| 初回限定の条件か | 「この率は継続しますか」 |
| 2回目以降の率の目安 | 「2回目以降はどうなりますか」 |
| 率が変わる条件 | 「どういう場合に変わりますか」 |
| 掛け目も同じか | — |
| 書面に率が明記されているか | 口頭の説明と書面を照合する |
見積書や契約書に「初回に限る」「都度審査により決定」という文言があれば、その率は続かない可能性があります。口頭の説明ではなく、書面で確認してください。
乗り換えの判断は、2回目以降の条件を書面で確認してから行ってください。1回だけ安く、その後は同じか高くなるなら、乗り換えのコストの分だけ損になります。
乗り換えた先の条件が本当に得かは、今の契約の残り方と合わせて見ないと判断できません。乗り換えの前に今の契約書で読むところと、新しい見積りが得かどうかの確かめ方を順に追った解説があります。
「初回に限る」の文言を、書面で確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 債権譲渡登記の設定 | 登録免許税と司法書士報酬 |
| 既存登記の抹消 | 費用と、誰が負担するか |
| 書類準備の工数 | 決算書・契約書・入金履歴の整理 |
| 審査の待ち時間 | 初回は時間がかかる |
| 初回の条件 | 実績がないため不利なことがある |
| 3社間なら、取引先への再度の説明 | 手間と心理的な負担 |
| 社内の事務の変更 | — |
既存の債権譲渡登記が残ったままだと、新しい事業者から見て「他社に譲渡済み」の状態が続きます。抹消の手続きと費用負担を、解約時に確認してください。
登記の費用と期間は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。
既存登記の抹消を忘れると、次が進みません。
手数料率が8%から6%に下がる場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1回の資金化額 | 500万円 |
| 手数料 8% | 40万円 |
| 手数料 6% | 30万円 |
| 1回あたりの節約 | 10万円 |
| 乗り換えにかかる費用(仮に) | 30万円 |
| 回収までの回数 | 3回 |
継続的に使っている会社なら、乗り換えの費用はすぐに回収できます。スイッチングコストは、乗り換えをためらう理由にはなりません。
ただしこれは、2%下がることが本当に続く場合の計算です。前の章のとおり、2回目以降の条件を確認してから判断してください。
乗り換えの費用は取引の内容で大きく変わります。自社の実際の見積もりで計算してください。ここに挙げた30万円は、考え方を示すための仮の数字です。
継続利用なら、乗り換え費用は数回で回収できます。
| 場面 | 実績の効き方 |
|---|---|
| 同じ売掛先の債権を繰り返す | 強く効く |
| 取引額が安定している | 効く |
| 期日どおりの回収が続いている | 効く |
| 新しい売掛先の債権 | 効かない(先の信用で決まる) |
| 金額が急に大きくなった | 効きにくい |
| 自社の決算が悪化した | 実績があっても厳しくなる |
自社の実績というより、「この売掛先からは期日どおりに入金される」という実績が効きます。新しい取引先の債権では、その実績はゼロから始まります。
実績は売掛先ごとに積み上がります。
| 枠について | 価値 |
|---|---|
| 審査を経ずに使える | 急な資金需要に対応できる |
| 上限まで使える保証 | 資金繰りの計画が立つ |
| 売掛先ごとの上限 | 全体枠とは別に存在する |
| 維持の費用 | かからないことが多い |
| 乗り換えると、ゼロから | これが乗り換えの実質的なコスト |
枠があれば、急に資金が必要になったときに審査を待たずに使えます。乗り換えると、この枠をゼロから作り直すことになります。
だから、乗り換えるときは今の枠をすぐに解約しないという選択もあります。次の章で扱います。
乗り換えの実質的なコストは枠をゼロから作り直すことです。
| 状況 | スピードの価値 |
|---|---|
| 月末の支払いに間に合わせる | 非常に高い |
| 税金・社会保険料の納付 | 高い |
| 給与の支払い | 最優先 |
| 計画的な資金需要 | 低い(他の手段が使える) |
給与の支払いに間に合わなければ、手数料が1ポイント安いことに意味はありません。スピードが必要な場面では、慣れた事業者のほうが確実です。
ただし、「速いから高くても仕方ない」を毎月繰り返しているなら、それは資金繰りの構造の問題です。計画的に使えるようにすれば、条件を選べるようになります。
速さが必要な場面では慣れた事業者が確実です。
| 起きること | やること |
|---|---|
| 口頭の経緯が引き継がれない | 書面の条件を提示する |
| 対応の速さが変わる | 様子を見る |
| 条件が元に戻ることがある | 覚書を示す |
| 審査の判断が変わる | — |
| 関係を作り直す必要 | 実績の一覧を渡す |
口頭で合意した条件は、担当者が変われば消えます。覚書や合意書にしておけば、新しい担当者にもそのまま引き継がれます。
担当交代は、関係を作り直す機会でもあります。これまでの実績の一覧を渡して、条件の再確認を依頼してください。
条件を書面にしておけば、担当交代でも残ります。
| 項目 | 続けるべき | 離れるべき |
|---|---|---|
| 実績と条件 | 率が下がっている | 1年以上変わらない |
| 枠 | 広がっている | 足りないまま |
| 対応 | 速い・誠実 | 連絡が遅い |
| 説明 | 費用の内訳を出す | 内訳を出さない |
| 契約 | 条項が明確 | 包括的な譲渡・専属条項がある |
| 償還請求権 | なし | あるのに説明されていない |
| 登記 | 範囲が限定されている | 将来債権まで含む |
手数料以外に何をいくら取っているのかを説明しないなら、比較も検証もできません。金額の問題ではなく、取引の前提の問題です。
契約条項の確認は 乗り換え前に読み直す契約条項 の記事で扱っています。
費用の内訳を出さないなら、離れる理由になります。
| やること | 効果 |
|---|---|
| 2社目の審査を通しておく | 使わなくても、枠として持つ |
| 年に1回は他社の見積もりを取る | 相場観を保つ |
| 金融機関にも枠を作る | 選択肢を増やす |
| 包括的な譲渡契約を避ける | 他社を使える余地を残す |
| 使う額と回数を減らす | 交渉力が戻る |
乗り換えなくても、「乗り換えられる状態」であること自体が交渉力です。1社しか使えない状態では、条件は相手が決めます。
2社目を持つことの影響は 2社目を使い始めたときに起きること の記事で扱っています。
乗り換えられる状態であること自体が交渉力です。
乗り換えを決めても、今の契約をすぐに解約する必要はないことがあります。
| 選択 | 得られるもの | 注意 |
|---|---|---|
| 契約を残して使わない | 枠を維持できる | 維持費用がないか確認 |
| 主力を切り替え、少額だけ残す | 実績が途切れない | — |
| 完全に解約する | 登記が抹消される | 枠がゼロになる |
契約を残すと、包括的な債権譲渡登記も残ったままになることがあります。その場合、新しい事業者が扱える債権が制限されます。登記の範囲を確認した上で判断してください。
実務上は、登記の範囲が限定されている(特定の売掛先・特定の債権のみ)なら契約を残す、包括的なら解約して抹消するという切り分けになります。
また、最低利用額や専属条項がある場合は残せません。契約書で確認してください。
登記が限定的なら残す、包括的なら抹消する。
「担当者が自社を理解している」「急な依頼に応じてくれる」といった価値は、数字にできません。しかし無視すると判断を誤ります。
| 価値 | 換算の仕方 |
|---|---|
| 急な依頼に応じてくれる | それがなければ何が起きるかで測る |
| 説明の手間が少ない | 1回あたりの工数 × 年間回数 |
| 書類提出が減っている | 同上 |
| 判断が読める | 断られるリスクの低さ |
| トラブル時の対応 | 実際に起きたときの損失で測る |
急な依頼に応じてもらえなかったら、給与の支払いが遅れるのか、支払いを1か月ずらせるのか。起きる結果で測れば、金額に近づけられます。
逆に、これらの価値を過大に見積もって、年間数百万円の差を受け入れていないかも確認してください。「担当者がいい人だから」は、年240万円の差を正当化しません。
数字にできない価値も、起きる結果で測ってください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 初回と直近の条件(率・枠・日数・掛け目)を並べる |
| 2 | 下がっていなければ、理由を聞く |
| 3 | 他社から見積もりを取る |
| 4 | 2回目以降の条件を書面で確認する |
| 5 | 乗り換えにかかる費用を出す |
| 6 | 3年分の累計で比べる |
| 7 | 枠とスピードの価値を織り込む |
初回の率だけで乗り換えると、2年目に元の水準に戻って、乗り換えのコストだけが残ることがあります。
判断は3年分の累計で行ってください。
8番と13番。この2つで判断が決まります。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。