
日々の取引の中で「手数料を下げてほしい」と切り出すのは難しいものです。契約の更新時期は、その話をするのが自然な、年に一度の機会です。
相手も更新にあたって社内で検討します。こちらから何も言わなければ、同じ条件で自動更新されるだけです。
何も言わなければ、同じ条件で自動更新されます。
| 契約の形 | 更新の有無 | 交渉の機会 |
|---|---|---|
| 基本契約+個別契約 | 基本契約に期間がある | 更新時 |
| 都度契約(1件ごと) | 更新の概念がない | 毎回 |
| 枠型の継続契約 | 期間の定めがある | 更新時・増枠時 |
1件ごとに契約している場合、更新という節目はありません。その代わり、実行のたびに条件を確認できます。「前回と同じで」と流さず、毎回条件を確認してください。
まず自社がどの形で契約しているかを、契約書で確認してください。基本契約に期間の定めがあるか、自動更新の条項があるかを見ます。
まず契約書に期間の定めがあるかを確認してください。
| 確認すること | 典型的な定め |
|---|---|
| 契約期間 | 1年など |
| 自動更新の有無 | 申し出がなければ同一条件で延長 |
| 申し出の期限 | 期間満了の1〜3か月前まで |
| 申し出の方法 | 書面によることが多い |
| 中途解約 | 可否と、違約金の有無 |
| 条件変更の手続き | 合意書・覚書で変更する形 |
「満了の3か月前までに申し出がなければ自動更新」という条項なら、その期限を過ぎた時点で、次の1年は同じ条件で確定します。カレンダーに入れておいてください。
ただし、自動更新されても条件変更の相談自体はできます。合意すれば覚書で変更できるのが通常です。期限を過ぎたからといって諦める必要はありません。
申し出の期限をカレンダーに入れてください。
| 条件 | 動きやすさ |
|---|---|
| 手数料率 | 動く(実績があれば) |
| 枠の上限 | 動く |
| 掛け目 | 動くことがある |
| 事務手数料などの固定費用 | 動きにくい |
| 償還請求権の有無 | 動きにくい(事業の根幹) |
| 2社間・3社間の別 | 自社の判断で変えられる |
| 入金までの日数 | 運用の問題 |
1年間の取引実績があれば、相手にとってのリスクは初回より確実に下がっています。それが率と枠に反映されているかを確認してください。
動きやすいのは手数料率と枠です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 満了の4〜5か月前 | 実績の一覧を作る |
| 満了の3〜4か月前 | 条件見直しを依頼する |
| 満了の3か月前 | 自動更新の申し出期限(契約による) |
| 満了の2か月前 | 並行して他社の見積もりを取る |
| 満了の1か月前 | 結論を出す |
条件の変更には社内の稟議が必要です。1〜2週間では動きません。3か月前には切り出してください。
また、資金が必要な時期と重ねないことも重要です。逼迫している時期に交渉しても通りません。
切り出すのは満了の3〜4か月前です。
1回500万円・手数料8%を、月2回・年24回使った1年間の実績です。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 利用回数 | 24回 |
| 資金化した総額 | 1億2,000万円 |
| 支払った手数料 | 960万円 |
| 期日どおりに回収された件数 | 24件(100%) |
| 延滞・未回収 | 0件 |
| 売掛先の数 | 5社 |
「24件すべて期日どおりに回収されている」という事実は、相手の社内で稟議を上げるための客観的な材料です。口頭ではなく、書面で渡してください。
手数料が1ポイント下がれば年120万円、2ポイントなら年240万円です。交渉に使う時間に対して、効果は十分に大きいと言えます。
実績の一覧を書面で渡す。担当者が稟議に使えます。
| 根拠 | なぜ効くか |
|---|---|
| 期日どおりの回収実績 | 回収リスクが実証された |
| 取引回数の積み上がり | 事務コストが下がる |
| 利用額の増加 | 相手の売上が増える |
| 売掛先の信用力の向上 | 上場企業・官公庁が増えた |
| 自社の決算の改善 | 自社の信用も評価に入る |
| 今後の利用見込み | 継続の約束 |
| 3社間への変更 | 最も効果が大きい |
2社間から3社間に変えられるなら、相手のリスクが構造的に下がるため、率も大きく下がります。取引先に知られることの是非を、金額と比べて判断してください。
3社間への変更が、最も確実に効きます。
| 状況 | 何が起きるか |
|---|---|
| 利用の頻度が増えている | 依存とみなされ、慎重になる |
| 決算が悪化した | 率が上がる・枠が絞られる |
| 売掛先が変わった | 信用力の低い先が増えた |
| 延滞・回収の遅れがあった | — |
| 他社からも資金化していることが分かった | 枠を絞られることがある |
| 税金・社会保険料の滞納 | 大きく影響する |
月1回が月3回に増えていれば、「この会社の資金繰りは悪化している」と読まれます。更新前に頻度を減らせているかどうかは、条件に影響します。
依存度を下げる方法は 資金化の依存度を下げていく順序 の記事で扱っています。
頻度の増加は、条件を悪くする材料になります。
| 条項 | 確認すること |
|---|---|
| 償還請求権 | 回収できない場合、誰が負うか |
| 債権譲渡登記 | 必須か、範囲はどこまでか |
| 包括的な譲渡の定め | 将来債権まで含まれていないか |
| 専属条項 | 他社と取引できるか |
| 最低利用額・最低回数 | — |
| 中途解約と違約金 | — |
| 期限の利益喪失事由 | どんなときに一括請求になるか |
| 通知義務 | 何を報告する義務があるか |
契約に「今後発生する債権を含む」という定めがあると、その範囲の債権は他社に譲渡できなくなります。乗り換えや2社目の利用が、契約上できないことになります。
条項の読み方は 乗り換え前に読み直す契約条項 の記事で詳しく扱っています。
包括的な譲渡の範囲が、選択肢を縛ることがあります。
| 枠について | 確認すること |
|---|---|
| 現在の上限額 | — |
| 実際の利用額との差 | 枠が余っているか、足りないか |
| 売掛先ごとの上限 | 全体枠とは別にあることが多い |
| 増枠の条件 | 何を満たせば増えるか |
| 枠を使わない場合の費用 | あるか |
枠の維持に費用がかからないなら、広げておくこと自体にリスクはありません。急に必要になったときに、審査を待たずに使えます。
ただし、売掛先ごとの上限は見落とされがちです。全体枠が1億円でも、1社あたりの上限が2,000万円なら、大口の取引先1社では使い切れません。
売掛先ごとの上限も確認してください。
| 更新しない場合 | 確認すること |
|---|---|
| 申し出の期限と方法 | 書面が必要なことが多い |
| 債権譲渡登記の抹消 | 誰が、いつ、費用は誰が負担するか |
| 進行中の取引の扱い | 回収未了の債権はどうなるか |
| 留保金の返還 | いつ戻るか |
| 提出した資料の返却・破棄 | — |
| 解約後の守秘義務 | — |
債権譲渡登記が残ったままだと、次の事業者や金融機関から見て「他社に譲渡済み」の状態が続きます。解約時に抹消の手続きと費用負担を明確にしてください。
登記の抹消は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。
解約時は登記の抹消を必ず確認してください。
| 状況 | どうするか |
|---|---|
| 自動更新条項がある | 何もしなければ同一条件で延長 |
| 自社から動く | こちらから条件見直しを切り出す |
| 満了日が分からない | 契約書を確認する |
| 契約書が見当たらない | 事業者に写しを請求する |
更新の案内が来ないのは、自動更新で条件が変わらないからです。動かなければ、来年も同じ条件です。
契約書が手元にない場合は、写しの交付を求めてください。条件を確認せずに使い続けるのは、交渉以前の問題です。
連絡が来ないのは条件が変わらないから。自社から動いてください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 下がらない理由を聞く |
| 2 | 何を満たせば下がるかを聞く |
| 3 | 3社間への変更を提案する |
| 4 | 裏づけ資料を追加で出す |
| 5 | 他社から見積もりを取る |
| 6 | 使う額と回数を減らす計画を立てる |
「今は下げられない」と言われたら、「では、何が変われば下がりますか」と聞いてください。取引回数、利用額、決算の内容、売掛先の構成——具体的な条件が返ってくれば、それが次の目標になります。
相見積もりの取り方は 相見積もりを取ることを、今の事業者に伝えるべきか の記事で扱っています。
「何が変われば下がるか」を聞いてください。
| 場面 | なぜ交渉できるか |
|---|---|
| 利用額が大きく増えたとき | 相手にとっての価値が上がった |
| 信用力の高い売掛先が増えたとき | リスクが下がった |
| 決算が確定し、改善したとき | 新しい材料が出た |
| 増枠を依頼するとき | 条件全体を見直す機会 |
| 3社間に変更するとき | 前提が変わる |
更新を待たなくても、相手の評価の前提が変わったなら、その時点で見直しを依頼できます。決算書ができたタイミングは特に有効です。
前提が変わったときは、更新を待たずに交渉できます。
口頭で「安くしてください」と伝えても、担当者は社内で何も動かせません。稟議にそのまま添付できる形で渡してください。
| 書くこと | 内容 |
|---|---|
| 継続の意思 | 「今後も継続して利用したい」 |
| 実績の一覧 | 回数・総額・手数料・回収状況 |
| 依頼する内容 | 手数料率・枠・掛け目を具体的な数字で |
| 根拠 | 実績とリスクの低下 |
| 今後の利用見込み | 年間の利用額の見通し |
| 回答の希望期限 | — |
「見直してほしい」だけでは、相手も何を検討すればよいか分かりません。「手数料率を8%から6%へ」「枠を5,000万円から8,000万円へ」と具体的に書いてください。
依頼文の骨子は、たとえばこうなります。
この形なら、担当者はそのまま社内の検討資料に使えます。感情や不満を書く必要はありません。
希望する数字を具体的に書面で渡してください。
| 売掛先 | 信用力 | 条件への影響 |
|---|---|---|
| 上場企業・官公庁 | 高い | 率が低くなりやすい |
| 大手企業の子会社 | 比較的高い | — |
| 中小企業(取引実績あり) | 中 | — |
| 取引実績の浅い先 | 低い | 率が高い・断られる |
| 個人事業主 | 低い | — |
「うちの手数料は8%」と思っていても、実際には売掛先ごとに6%から12%まで分かれていることがあります。更新時には、先ごとの内訳を出してもらってください。
内訳が分かれば、どの売掛先の債権を優先的に資金化すべきかが決まります。率の低い先の債権から使えば、同じ金額でも手数料は下がります。
また、率の高い先については「なぜ高いのか」を聞いてください。裏づけ資料の不足が理由なら、契約書や検収書を出すことで下がることがあります。
売掛先ごとの率を出してもらってください。
| 残すもの | なぜ |
|---|---|
| 依頼した内容と日付 | 次の更新の基準になる |
| 回答の内容と理由 | 「何が変われば下がるか」の記録 |
| 合意した新条件 | 覚書・合意書で書面化する |
| 担当者名 | 担当が変わったときに使う |
| 口頭の約束 | メールで確認しておく |
口頭で「今回から6%で」と言われても、書面がなければ次の実行で戻っていることがあります。覚書または合意書として残してください。
また、担当者が変わると、口頭の経緯は引き継がれません。書面にしておけば、担当交代後も条件が維持されます。
条件変更は必ず書面に。担当交代で消えます。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 契約書で満了日と申し出期限を確認する |
| 2 | 1年分の実績を1枚にまとめる |
| 3 | 満了の3〜4か月前に、書面で条件見直しを依頼する |
| 4 | 手数料率・枠・掛け目をまとめて依頼する |
| 5 | 下がらない場合、条件を聞く |
| 6 | 並行して他社の見積もりを取る |
| 7 | 新条件に別の制約が付いていないか確認する |
率が下がった代わりに、専属条項や最低利用額が付くことがあります。「実際に手元に入る金額」と「縛られる内容」の両方で比べてください。
新条件は金額と縛りの両方で確認してください。
2番と12番。この2つを知らないまま更新しないでください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。