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債権による調達

与信管理を最小の手間で回す

専任を置けない会社向けに、3つの場面だけに絞ります。粗利率30%なら500万円の焦げ付きは1,667万円の売上に相当。限度額の決め方と月30分の運用を示します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この内容

  1. 専任を置けない会社のための与信管理
  2. 焦げ付きを、売上で埋めるといくらか
  3. 3つの場面だけに絞る
  4. ①新規取引のとき|30分でやること
  5. 無料で確認できること
  6. 有料の調査を使うかどうかの線
  7. ②与信限度額を決める
  8. 数字で見る|限度額の決め方
  9. 取引先を3段階に分ける
  10. ③月次の監視|年齢表を見るだけ
  11. 危ないときに出る兆候
  12. 限度額を超えそうなときの手
  13. 取引条件で守る
  14. 焦げ付いたときの初動
  15. 続けるための仕組み
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

専任を置けない会社のための与信管理

与信管理の教科書は、専任の担当者がいることを前提に書かれています。しかし中小企業に、そんな人員はいません。

この記事は、「手間をかけない」ことを前提に、どこだけは押さえるかを整理します。完璧を目指さず、効果の大きいところだけをやる形です。

やらないと、いつか1回で持っていかれる

与信管理をしない会社は、平時は何も起きません。問題は、1社が倒れたときに一度で大きな損失が出ることです。そしてそれは、防げたものであることが多くあります。

与信代金の後払いを認めること。実質的に相手に貸していることになる。
与信限度額その取引先に対して、同時に抱えてよい売掛金の上限。
焦げ付き売掛金が回収できなくなること。
貸倒れ回収不能となり、損失として処理すること。
この章の要点

完璧を目指さず、効果の大きいところだけをやる形にしてください。

焦げ付きを、売上で埋めるといくらか

与信管理の重要性は、この計算で分かります。売掛金が焦げ付いたとき、それを埋めるのに必要な売上はいくらか。

項目 金額
焦げ付いた売掛金 500万円
売上総利益率 30%
埋めるのに必要な売上 約1,667万円
500万円焦げ付いた額
約1,667万円埋めるのに必要な売上
約3.3倍その比率

500万円の損失を埋めるには、約1,667万円を売らなければなりません。粗利率が低いほど、この倍率は大きくなります。粗利率20%なら2,500万円です。

新規の売上を取るより、1件の焦げ付きを防ぐほうが安い

1,667万円を新しく売るのにかかる営業のコストと、与信管理に30分かけるコストを比べてください。どちらが安いかは明らかです。

この章の要点

粗利率30%なら、500万円の焦げ付きを埋めるのに約1,667万円の売上が要ります。

3つの場面だけに絞る

場面 やること 頻度 時間
①新規取引を始めるとき 相手を確認する 都度 30分
②取引が始まるとき 与信限度額を決める 都度 10分
③毎月 債権年齢表を見る 月1回 30分

この3つだけです。月に1回30分と、新規取引のたびに40分。それ以上のことは、まずやらなくてかまいません。

③がいちばん重要

取引前の審査は、その時点の情報にすぎません。会社は時間とともに変わります。継続的に見ているかどうかが、実際の差になります。

この章の要点

3つの場面だけ。月1回30分の監視がもっとも効きます。

①新規取引のとき|30分でやること

順 やること 時間
1 法人番号と、登記上の所在地を確認する 5分
2 ウェブサイトと、公開情報を見る 10分
3 設立年と、事業の内容を確認する 5分
4 誰からの紹介か、どう知ったかを整理する 5分
5 初回の取引条件を決める 5分
「登記がない」「所在地が合わない」は、それだけで止める

法人番号公表サイトで検索して出てこない、登記上の所在地とウェブサイトの住所が違う——この段階で不一致があれば、その先には進まないでください。確認は5分で済みます。

4番目も実務的です。どこから来た話かが分からない新規取引は、慎重に扱ってください。既存の取引先からの紹介なら、その取引先に確認できます。

この章の要点

30分で足ります。登記と所在地の不一致は、それだけで止める理由です。

無料で確認できること

情報源 分かること 費用
国税庁 法人番号公表サイト 法人の実在、商号、登記上の所在地 無料
登記情報 設立年、資本金、役員、目的、本店の移転履歴 取得費用
決算公告 貸借対照表(公告している会社のみ) 無料
ウェブサイト 事業の内容、取引先、沿革 無料
求人情報 採用の状況。給与水準 無料
許認可の登録 建設業、派遣業などの許可の有無 無料
自社の取引実績 過去の支払いの状況 無料

登記情報は有料ですが、金額に対して得られる情報が多いので、大きな取引では取得する価値があります。

本店の移転履歴を見る

登記で見るべきは、資本金や役員より本店の移転履歴です。短期間に何度も移転している会社、商号を何度も変えている会社は、理由を確認してください。

最後の項目が、実はもっとも確実な情報です。自社の債権年齢表に、その取引先の支払いの履歴が残っています。他社の情報より、自社での実績のほうが当てになります。

この章の要点

もっとも確実なのは自社での支払い実績。年齢表に残っています。

有料の調査を使うかどうかの線

状況 調査を取るか
少額・単発の取引 不要
継続的に大きな金額になる見込み 取る価値がある
前払いで取引する 不要(与信が発生しない)
紹介元が信頼できる既存取引先 紹介元に確認すれば足りることが多い
ウェブ上の情報が乏しい 取る価値がある
判断の線は「焦げたときの影響額」

調査の費用と、その取引先で想定される売掛金の最大額を比べてください。数百万円の与信を持つ相手なら、調査の費用は十分に見合います。

信用調査会社のレポートには、評点(スコア)が付いていることがあります。数値そのものより、その数値がどう推移しているかを見てください。下がり続けているなら、注意が要ります。

この章の要点

判断は調査費用と、想定される与信額の比較です。

②与信限度額を決める

与信限度額とは、その取引先に対して同時に抱えてよい売掛金の上限です。

決め方 考え方
自社が耐えられる額から逆算 もっとも実務的
相手の規模から 資本金や売上の一定割合
自社の月商から 月商の◯%まで
信用調査の評点から スコアに応じた上限
「相手がいくらなら払えるか」ではなく「自社がいくらなら耐えられるか」

相手の支払能力を正確に測るのは、中小企業には無理です。それより、自社が1件の焦げ付きにどこまで耐えられるかから逆算するほうが確実です。

この章の要点

逆算するのは自社が耐えられる額から。相手の支払能力は測れません。

数字で見る|限度額の決め方

年間の営業利益が1,000万円、売上総利益率が30%の会社で考えます。

項目 金額
年間の営業利益 1,000万円
1件の焦げ付きで失ってよい上限(営業利益の30%とする) 300万円
その額を売上で埋めるとしたら 1,000万円(300万円 ÷ 30%)
1社あたりの与信限度額 300万円
1,000万円年間の営業利益
300万円1社あたりの限度額
1,000万円埋めるのに必要な売上

1社が倒れても、年間の営業利益の3割で収まる水準に置く。これなら、1件の焦げ付きで会社が傾くことはありません。

割合は会社の状況で決めてください。手元資金が厚ければ大きく、薄ければ小さく。大切なのは、感覚ではなく数字で線を引くことです。

大口の取引先だけは、別に考える

この計算をすると、売上の大半を占める取引先は限度額を大きく超えます。その場合は、限度額で管理するのではなく、集中リスクとして別に扱ってください。大口1社に依存した売掛金 の記事で扱っています。

この章の要点

目安は年間営業利益の3割。感覚でなく数字で線を引いてください。

取引先を3段階に分ける

すべての取引先を同じように管理するのは無理です。3段階に分けて、手間の配分を変えてください。

区分 対象 管理
A:大口 売掛金が大きい上位数社 毎月、年齢表で個別に見る。信用調査も
B:通常 限度額の範囲内の取引先 年齢表で区分が動いたときだけ見る
C:少額 金額が小さい取引先 合計だけ見る。個別には見ない

手間をかけるのはAだけです。売掛金の大半は、上位の数社で占められているのが通常なので、そこを見れば全体の大部分が管理できます。

上位5社で、売掛金の何%か

まず計算してみてください。上位5社で7割を占めているなら、その5社を見るだけで7割が管理できます。残りの3割に同じ手間をかける必要はありません。

この章の要点

手間をかけるのは上位数社だけ。そこで大部分が管理できます。

③月次の監視|年齢表を見るだけ

毎月やることは、これだけです。債権年齢表を開いて、区分が動いた取引先を拾う。

順 やること 時間
1 前月の年齢表と並べる 1分
2 区分が右へ移った取引先を拾う 5分
3 一部入金で端数が残っている先を拾う 5分
4 期日超過の割合を記録する 2分
5 限度額を超えている先がないか確認する 5分
6 拾った先への対応を、担当者に指示する 10分

合計30分です。これを毎月続けることが、与信管理の中心になります。

年齢表の作り方とテンプレートは 債権年齢表テンプレート の記事で扱っています。作っていなければ、まずそこから始めてください。

この章の要点

毎月30分、年齢表を見て、動いた先を拾う。これが中心です。

危ないときに出る兆候

兆候 内容
支払いが遅れ始める 最も分かりやすい。年齢表に出る
一部だけ入金される 払える分だけ払っている
支払条件の変更を求めてくる サイトを延ばしたいという申し出
急に発注が増える 他の仕入先から止められている可能性
担当者が頻繁に替わる 社内が不安定
連絡が取りにくくなる —
手形のサイトが長くなる —
値引きの要求が強くなる —
「急に発注が増える」を見逃さない

これは見落とされやすい兆候です。他の仕入先から取引を止められている会社は、まだ取引のある相手に発注を集中させます。売上が増えて喜んでいると、その分が焦げ付きます。

発注が急増したときは、その理由を確認してください。正当な理由(新規案件の受注など)があるなら問題ありません。

この章の要点

急な発注増は危険な兆候。理由を確認してください。

限度額を超えそうなときの手

手段 内容 相手への負担
一部前受け 着手金・前渡金を受け取る 中
支払サイトを短くする 月末締め翌月末払い → 翌々月払いから変更 中
分割納品にする 1回の与信額を小さくする 小
前払いにする 与信が発生しない 大
取引信用保険をかける 焦げたときに保険金が出る なし
担保・保証を取る — 大
断る — —

相手への負担が小さいのは、分割納品と、取引信用保険です。とくに保険は、相手に何も求めずに済みます。

保険の使いどころは 取引信用保険はいくらから検討する価値があるか の記事で扱っています。

断ることも選択肢に入れる

売上を取りたい気持ちは分かりますが、焦げ付けば粗利率の逆数倍の売上を新たに取る必要が生じます。粗利率30%なら3.3倍です。取らないほうがよい取引は、あります。

この章の要点

相手への負担が小さいのは分割納品と保険。断る選択肢も持ってください。

取引条件で守る

条項 効果
所有権留保 代金が支払われるまで、所有権を売り手に留める
期限の利益の喪失 支払いが遅れたら、残りも一括で請求できる
遅延損害金 遅れた場合の利率を定める
相殺の予約 買掛金がある場合に相殺できる
取引の停止 一定の事由で、納品を止められる
連帯保証 代表者などの保証を取る

1番目は、商品を扱う会社では効果があります。代金未払いのまま相手が倒れたとき、商品を引き揚げられる可能性が残ります。

2番目も実務的です。分割払いや継続取引で、1回でも遅れたら残額を一括請求できる形にしておくと、早い段階で動けます。

取引基本契約を1回作れば、以後は使い回せる

これらの条項を入れた取引基本契約の雛形を、一度作っておけば、新規取引のたびに使えます。弁護士に1回だけ依頼する価値があります。

この章の要点

雛形を1回作れば使い回せます。所有権留保と期限の利益喪失を入れてください。

焦げ付いたときの初動

順 やること 時期
1 納品・出荷を止める 直ちに
2 残高と、納品済み・未請求の分を確定する 直ちに
3 買掛金があれば、相殺の可否を確認する 直ちに
4 所有権留保のある商品を確認する 直ちに
5 書面で督促する(内容証明) 数日以内
6 弁護士に相談する 早期に
7 他の取引先への影響を確認する —

1番が最優先です。払われていない相手に納品を続けると、損失が増えます。「これまでの取引があるから」で続けないでください。

3番目も忘れずに。買掛金があれば、相殺で実質的に回収できます。相手が倒れる前なら、相殺の効果は大きくなります。

この章の要点

最優先は納品を止めること。次に買掛金との相殺です。

続けるための仕組み

やること 理由
月次の締めの後に、30分の予定を入れる 時間を確保しないと、やらない
新規取引のチェックリストを作る 誰がやっても同じになる
限度額を一覧にして、共有する 営業担当も見られるようにする
取引基本契約の雛形を用意する 都度作らずに済む
年齢表のテンプレートを固定する 毎月、データを差し替えるだけにする
営業に、限度額を伝える 知らなければ守れない

最後の項目が抜けやすい点です。与信限度額を経理だけが持っていると、営業は超える受注を取ってきます。数字を共有して、超える場合は事前に相談する運用にしてください。

「売るな」ではなく「条件を変える」

限度額を超える受注を止めるのが目的ではありません。一部前受けにする、分割納品にする、保険をかける——条件を変えて受けるのが目的です。営業にもそう伝えてください。

この章の要点

限度額を営業と共有する。目的は止めることではなく、条件を変えることです。

チェックリスト

最小の与信管理を回すために

  • 焦げ付きを売上で埋めるといくらになるか、計算した
  • 新規取引のチェックリスト(30分版)を作った
  • 法人番号公表サイトで、実在と所在地を確認している
  • 本店の移転履歴・商号の変更履歴を確認している
  • 1社あたりの与信限度額を、数字で決めた
  • 取引先を3段階(大口・通常・少額)に分けた
  • 上位5社で売掛金の何%かを計算した
  • 債権年齢表を毎月作っている
  • 月次の締め後に、30分の予定を入れている
  • 区分が右へ移った先を、毎月拾っている
  • 限度額を超えている先がないか、毎月確認している
  • 限度額を営業担当と共有している
  • 取引基本契約の雛形に、所有権留保と期限の利益喪失が入っている
  • 急に発注が増えた取引先の理由を確認している
  • 焦げ付いたときの初動(納品停止・相殺)を決めている
この章の要点

9番の30分の予定を入れること。時間を確保しないと続きません。

よくある質問

Q. 専任の担当者がいません
3つの場面だけに絞ってください。新規取引のとき30分、限度額を決めるとき10分、毎月30分。これ以上のことは、まずやらなくてかまいません。
Q. 焦げ付きは、どのくらい痛いですか
粗利率30%の会社が500万円を焦がすと、埋めるのに約1,667万円の売上が必要です。粗利率20%なら2,500万円。新規の売上を取るコストと比べれば、防ぐほうが圧倒的に安くなります。
Q. 与信限度額は、どう決めますか
相手の支払能力ではなく、自社が耐えられる額から逆算してください。年間の営業利益の3割程度を1社あたりの上限にするのが、ひとつの目安です。
Q. 無料で何が確認できますか
国税庁の法人番号公表サイトで実在と所在地、決算公告(公告している会社のみ)、ウェブサイト、求人情報、許認可の登録などです。登記情報は有料ですが、得られる情報が多く、大きな取引では取る価値があります。
Q. 信用調査は取るべきですか
調査費用と、その取引先で想定される売掛金の最大額を比べてください。数百万円の与信を持つ相手なら見合います。評点は数値そのものより、推移を見てください。
Q. すべての取引先を管理できません
3段階に分けてください。売掛金の大半は上位数社で占められているのが通常です。上位5社で7割なら、その5社を見るだけで7割が管理できます。
Q. 毎月、何を見ればよいですか
債権年齢表を前月と並べて、区分が右へ移った取引先を拾ってください。あわせて、一部入金で端数が残っている先、期日超過の割合、限度額を超えている先を確認します。30分で済みます。
Q. 危ない兆候は何ですか
支払いの遅れ、一部入金、支払条件の変更要求、急な発注の増加、担当者の頻繁な交代などです。とくに急な発注増は見落とされやすく、他の仕入先から止められている可能性があります。
Q. 限度額を超えそうなときは、断るしかないですか
条件を変えて受ける方法があります。一部前受け、支払サイトの短縮、分割納品、取引信用保険など。相手への負担が小さいのは分割納品と保険です。
Q. 契約書に入れるべき条項はありますか
所有権留保と、期限の利益の喪失は入れてください。商品を扱うなら前者、継続取引なら後者が効きます。取引基本契約の雛形を一度作れば、以後は使い回せます。
Q. 支払いが止まったら、まず何をしますか
納品・出荷を止めてください。払われていない相手に納品を続けると損失が増えます。次に、買掛金があれば相殺の可否を確認し、所有権留保のある商品を把握してください。
Q. 営業が限度額を超える受注を取ってきます
限度額を共有していないためです。数字を営業担当にも見えるようにし、超える場合は事前に相談する運用にしてください。目的は止めることではなく、条件を変えて受けることです。

取引先に残高を確認してもらう手続きは 売掛金の残高を取引先に確認してもらう手続き の記事で扱っています。

出典

  • 法人番号公表サイト — 国税庁
  • 登記情報提供サービス、商業登記 — 法務省
  • 会社法 第440条(計算書類の公告)、民法 第505条(相殺)— e-Gov法令検索
  • 取引適正化、下請取引の適正化 — 中小企業庁