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債権による調達

譲渡制限が付いた売掛金でも担保に使えるか

2020年の民法改正で、特約があっても譲渡は有効になりました。ただし債務者は履行を拒めます。法的な有効性と契約違反は別という点、承諾を求める伝え方を整理します。

公開:2026年9月14日 最終更新:2026年10月16日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 2020年に、前提が変わった
  2. 改正前と改正後
  3. 譲渡は有効、ただし債務者は守られる
  4. 悪意・重過失とは何か
  5. 数字で見る|実務でどう影響するか
  6. 債務者は供託できる
  7. 譲渡人が倒産した場合
  8. 預貯金債権は例外
  9. 法的な有効性と、契約違反は別
  10. 取引基本契約のどこを見るか
  11. 取引先に承諾を求めるという選択
  12. 承諾を求めるときの伝え方
  13. 断られたときにどうするか
  14. これから結ぶ契約で交渉する
  15. 買い手はどう見ているか
  16. チェックリスト
  17. よくある質問

2020年に、前提が変わった

売掛金を資金化しようとしたとき、長く壁になってきたのが譲渡制限特約です。取引基本契約に「債権を第三者に譲渡してはならない」と書かれているものです。

2020年4月に施行された改正民法で、この扱いが大きく変わりました。

譲渡制限特約があっても、譲渡は有効

改正民法では、譲渡制限の意思表示をしても、債権譲渡の効力は妨げられないと定められました。以前は「譲渡しても無効」でしたが、現在は「譲渡は有効」です。

譲渡制限特約債権を第三者に譲渡することを禁止・制限する当事者間の取決め。
悪意法律上は「知っていたこと」。道徳的な意味ではない。
重過失わずかな注意で知ることができたのに、知らなかったこと。
供託債務者が、支払うべき金銭を法務局に預けること。
この章の要点

2020年4月から、譲渡制限特約があっても譲渡は有効です。

改正前と改正後

項目 改正前 改正後(2020年4月〜)
譲渡の効力 無効(善意の第三者には対抗できない) 有効
債権の帰属 譲渡人に残る 譲受人に移る
債務者の保護 譲渡が無効なので、譲渡人に払えばよい 悪意・重過失の譲受人には履行を拒める
供託 制度が明確でなかった 供託できる制度が整備された
実務への影響 特約付き債権は使えなかった 使えるようになった

改正の趣旨は、中小企業が売掛債権を資金調達に使えるようにすることでした。取引先の力が強いと特約を外せず、結果として自社の資産を活用できない——この状況を変えるための改正です。

この章の要点

改正の趣旨は売掛債権を資金調達に使えるようにすることでした。

譲渡は有効、ただし債務者は守られる

ここが制度の要です。譲渡は有効になりましたが、債務者の保護もあわせて用意されています。

譲受人の状態 債務者の対応
譲渡制限を知らず、重過失もない 譲受人に支払う必要がある
知っていた、または重過失があった 履行を拒める。譲渡人に払って対抗できる
実務では、買い手は必ず知っている

債権を買う側は、契約書を確認するのが通常です。つまり譲渡制限があることを知ったうえで買うことになり、「悪意」にあたります。その結果、債務者は履行を拒めます。

では意味がないのかというと、そうではありません。譲渡自体は有効なので、債権は買い手のものになります。債務者が譲渡人に支払った場合、その資金は買い手に渡されるべきものになります。

また、次の章以降で見るとおり、催告や供託、譲渡人の倒産時の扱いなど、買い手を保護する仕組みも用意されています。

この章の要点

譲渡は有効。ただし悪意の譲受人には、債務者が履行を拒めます。

悪意・重過失とは何か

用語 意味 実務での例
善意 知らなかったこと 契約書を見ておらず、特約の存在を知らない
悪意 知っていたこと 契約書で特約を確認した
重過失 わずかな注意で知り得たのに知らなかった 契約書を確認しなかった

法律用語の「悪意」は、道徳的に悪いという意味ではありません。単に「知っていた」ことを指します。

買い手は、確認しなくても重過失になりうる

債権を買う事業者が契約書を確認しないのは、通常は重過失にあたると考えられます。つまり「知らなかったことにする」という逃げ道は、事実上ありません。

したがって実務では、譲渡制限特約がある債権を譲渡する場合、債務者が履行を拒める状態であることを前提に取引が組まれます。その前提での条件になります。

この章の要点

買い手は通常悪意または重過失にあたります。知らなかったでは通りません。

数字で見る|実務でどう影響するか

額面1,000万円の売掛金について、譲渡制限特約の有無で条件を比べます。

項目 特約なし 特約あり
譲渡の有効性 有効 有効(改正後)
債務者への請求 できる 拒まれうる
買い手のリスク 小さい 大きい
取引の可否 通常どおり 取り扱わない事業者もある
手数料 — 高くなる傾向
3者間にできれば — 条件が大きく改善する
「使える」ことと「同じ条件で使える」ことは違う

改正によって特約付き債権も使えるようになりましたが、買い手のリスクは残ります。その分だけ手数料が高くなるか、そもそも取り扱われないことがあります。

最後の行が実務上の答えです。取引先の承諾が得られれば、特約があっても条件は大きく改善します。承諾があれば債務者は履行を拒みませんし、債権の存在も確認できるためです。

この章の要点

特約があると条件が悪くなる。承諾が得られれば大きく改善します。

債務者は供託できる

改正で整備された仕組みのひとつです。債務者は、譲渡制限特約が付いた債権が譲渡された場合、供託することができます。

項目 内容
供託とは 支払うべき金銭を法務局に預けること
効果 債務者は支払いの義務を免れる
誰が受け取るか 譲受人
債務者にとっての利点 誰に払えばよいか迷わずに済む

債務者から見れば、二重に請求されるリスクを避けられる仕組みです。譲渡人と譲受人のどちらに払うべきか判断せず、供託してしまえば義務を果たしたことになります。

買い手にとっては、回収の道が残る

供託されれば、譲受人がその金銭を受け取れます。譲渡人を経由せずに済むため、譲渡人が資金を流用するリスクがなくなります。

この章の要点

債務者は供託できます。その金銭は譲受人が受け取れます。

譲渡人が倒産した場合

もうひとつ、買い手を保護する仕組みがあります。譲渡人について破産手続が開始した場合の扱いです。

状況 扱い
譲渡人が破産した 譲受人は、債務者に供託を請求できる
効果 譲渡人の破産財団に資金が入るのを防げる
前提 譲受人が第三者対抗要件を備えていること

この仕組みがないと、譲渡人が倒産した場合に、取引先からの入金が破産財団に入ってしまうおそれがあります。買い手が債権を買っているにもかかわらず、です。

ここでも対抗要件が前提になる

保護を受けるには、譲受人が第三者対抗要件を備えていることが必要です。登記または確定日付のある通知です。対抗要件の仕組みは 対抗要件とは の記事で扱っています。

この章の要点

譲渡人の倒産時も保護されますが、対抗要件が前提です。

預貯金債権は例外

すべての債権で譲渡制限が無力化されたわけではありません。預貯金債権は例外として扱われています。

債権の種類 譲渡制限の効力
売掛債権など、通常の金銭債権 譲渡の効力を妨げない
預貯金債権 譲渡制限の効力が維持される

銀行の預金は、譲渡制限特約が付いていれば、悪意・重過失の譲受人に対して譲渡は効力を生じません。大量の口座を扱う金融機関の事務処理の事情が理由とされています。

実務では、預金を担保にする場合は質権の設定などの別の方法が使われます。この記事の対象である売掛債権とは、扱いが異なります。

この章の要点

預貯金債権は例外。売掛債権とは扱いが違います。

法的な有効性と、契約違反は別

ここが実務でもっとも重要な点です。譲渡が法的に有効であることと、取引先との関係で問題が生じないことは、別の話です。

論点 内容
譲渡の効力 有効(民法上)
契約違反 特約に違反したことにはなりうる
債務不履行責任 損害が生じれば、賠償の問題になりうる
契約の解除 解除事由に該当するかは契約次第
取引への影響 次の発注が止まる、条件が変わる
本当のリスクは、取引そのもの

法律上は譲渡できても、取引先が「約束を破られた」と受け取れば、取引が続かなくなる可能性があります。大口の取引先なら、売掛金を資金化して得た数百万円より、失う売上のほうがはるかに大きくなります。

したがって、特約付き債権の譲渡を検討するなら、法的な可否より、取引先との関係への影響を先に考えてください。

この章の要点

本当のリスクは法的な無効ではなく、取引そのものへの影響です。

取引基本契約のどこを見るか

確認する条項 見る点
債権譲渡の禁止・制限 禁止か、事前承諾を要するか
承諾の手続き 書面でよいか、どこに申し出るか
解除事由 譲渡制限違反が解除事由になっているか
損害賠償 違約金の定めがあるか
担保の設定 譲渡だけでなく、担保設定も禁じているか
秘密保持 取引内容を第三者に開示することの制限

3番目を必ず確認してください。譲渡制限違反が契約の解除事由になっている場合、リスクの大きさがまったく違います。

5番目も見落とされがちです。「譲渡」だけを禁じ「担保設定」に触れていない契約もあります。その場合、ABLでの担保設定は制限されていない可能性があります。ただし解釈の問題になるため、弁護士に確認してください。

この章の要点

解除事由になっているかを必ず確認。担保設定の扱いも別に見てください。

取引先に承諾を求めるという選択

もっとも確実で、条件も良くなるのが取引先の承諾を得ることです。

承諾が得られると 効果
債務者の履行拒絶 なくなる
契約違反の問題 生じない
買い手のリスク 大きく下がる
手数料 下がる
取引への影響 事前に説明しているため、突然の発覚がない
黙って譲渡するより、先に相談する

特約に違反して譲渡し、後で発覚するのが最悪の形です。先に相談して断られるほうが、まだ手が残ります。断られたら別の手段を検討すればよいだけです。

承諾を得る形にすれば、3者間の債権譲渡として、条件のよい取引ができます。対抗要件も承諾で備えられるため、登記の費用も不要になります。

取引先に切り出すときは、3社間に切り替えるとき、売掛先に承諾をお願いする手順と文面が具体的です。

この章の要点

承諾が得られればすべての問題が解決します。まず相談を検討してください。

承諾を求めるときの伝え方

伝え方 相手の受け取り方
「資金繰りが苦しいので」 不安を持たれる。取引の継続を心配される
「運転資金の調達手段を増やしたい」 前向きに受け取られやすい
「金融機関との取引で、担保に設定したい」 通常の資金調達として理解されやすい
「増産のための仕入れ資金として」 取引先にとっても利益がある話になる

伝え方で、相手の受け取り方が変わります。ABLのように金融機関との取引の一環であれば、通常の資金調達として理解されやすくなります。

取引先にとっての利点も伝える

「資金が確保できれば、増産に対応できる」「安定して供給できる」——取引先にとっての利点が示せれば、承諾のハードルは下がります。自社の都合だけの話にしないでください。

また、承諾書の書式は買い手が用意していることが多いので、事前に取り寄せて内容を確認してから話を持っていってください。

この章の要点

伝え方で受け取り方が変わります。取引先にとっての利点も示してください。

断られたときにどうするか

選択肢 内容 判断
他の取引先の債権を使う 特約がない、または承諾が得られる先 まずこれ
担保設定なら可能か確認 契約が「譲渡」のみを禁じている場合 弁護士に確認
他の調達手段に切り替える 融資、仕入れ条件の交渉など —
特約付きのまま譲渡する 法的には有効だが、契約違反になりうる 取引への影響を評価してから
次の契約更新で交渉する 時間はかかるが、根本的な解決 —

1番目から検討してください。すべての取引先に特約があるとは限りません。取引基本契約を一覧にして、特約の有無を整理すると、使える債権が見つかることがあります。

4番目を選ぶ場合は、その取引先との年間の取引額と、資金化で得られる金額を比べてください。失うもののほうが大きければ、選ぶべきではありません。

この章の要点

まず他の取引先の債権を探す。特約の有無を一覧にしてください。

これから結ぶ契約で交渉する

根本的な対策は、契約を結ぶ段階で特約を外すか、緩めることです。

交渉の形 内容
特約を削除する 相手が応じにくいことが多い
「事前の書面による承諾を得た場合を除く」を入れる 現実的。承諾の道を残す
金融機関への担保設定を除外する 通常の資金調達を妨げない形
解除事由から外す 違反しても取引が止まらない形
全部削れなくても、一部緩められれば十分

「譲渡禁止」を完全に削るのは難しくても、「ただし事前の書面による承諾を得た場合はこの限りでない」という一文を入れるだけで、実務上は大きく変わります。

交渉のタイミングは、新規の取引開始時と、契約更新時です。取引が始まってからでは、改めて申し入れる機会が作りにくくなります。

この章の要点

完全削除でなくても承諾の道を残す一文で、実務は大きく変わります。

買い手はどう見ているか

債権を買う側・担保に取る側から見ると、譲渡制限特約は次のように扱われます。

買い手の対応 内容
取り扱わない リスクを取らない方針の事業者
手数料を上げる リスクを価格に反映する
3者間を条件にする 承諾が得られるなら取り扱う
対象から除外する 特約のない債権だけを対象にする
掛け目を下げる ABLの場合、担保評価を下げる

つまり、特約の有無は条件に直接効きます。申込の前に、自社の売掛金のうちどれに特約が付いているかを整理しておくと、話が早く進みます。

金融機関が売掛金をどう評価するかは 金融機関は売掛金の何を評価しているか の記事で扱っています。

この章の要点

特約の有無は条件に直接効きます。事前に整理しておいてください。

チェックリスト

譲渡制限特約を確認するときに

  • 取引基本契約に譲渡制限の条項があるか確認した
  • 禁止か、事前承諾を要する形かを区別した
  • 担保設定も制限されているか確認した
  • 違反が契約の解除事由になっているか確認した
  • 違約金の定めがあるか確認した
  • 取引先ごとに、特約の有無を一覧にした
  • 特約のない取引先の債権を優先して検討した
  • 承諾を得る可能性を検討した
  • 承諾を求める場合の伝え方を用意した
  • 取引先にとっての利点を説明できる
  • 承諾書の書式を、買い手から取り寄せた
  • 断られた場合の代替手段を用意した
  • その取引先との年間取引額と、資金化額を比べた
  • 今後の契約更新で、条項を交渉する準備をした
この章の要点

6番の取引先ごとの一覧を作ると、使える債権が見つかります。

よくある質問

Q. 譲渡制限特約があると、譲渡できませんか
2020年4月施行の改正民法により、特約があっても債権譲渡の効力は妨げられません。譲渡自体は有効です。ただし債務者の保護の仕組みがあり、条件にも影響します。
Q. 譲渡が有効なら、取引先に請求できますか
譲受人が譲渡制限を知っていた、または重過失があった場合、債務者は履行を拒めます。債権を買う事業者は通常は契約書を確認するため、この状態になるのが一般的です。
Q. では、改正に意味はないのですか
あります。譲渡自体が有効なので債権は買い手のものになり、供託の制度や、譲渡人が倒産した場合の保護も整備されました。以前のように「使えない」状態ではなくなっています。
Q. 悪意とは、悪いことをしたという意味ですか
違います。法律上の「悪意」は「知っていたこと」を指します。道徳的な評価ではありません。契約書で特約を確認していれば、悪意にあたります。
Q. 契約書を見なければ、善意になりますか
なりません。債権を買う事業者が契約書を確認しないのは、通常は重過失にあたると考えられます。「知らなかったことにする」という逃げ道は事実上ありません。
Q. 特約に違反すると、契約を解除されますか
契約の内容によります。解除事由として定められているかを確認してください。定められていなくても、取引先との関係に影響が出る可能性は残ります。
Q. 法的に有効なら、黙って譲渡してよいですか
勧められません。法的な有効性と、取引先との関係で問題が生じないことは別です。大口の取引先なら、資金化で得る金額より失う売上のほうが大きくなります。
Q. 承諾を得れば、問題は解決しますか
します。債務者の履行拒絶がなくなり、契約違反の問題も生じません。買い手のリスクも下がるため手数料が下がり、承諾で対抗要件も備えられるため登記の費用も不要になります。
Q. 承諾を求めると、資金繰りが苦しいと思われませんか
伝え方で変わります。「金融機関との取引で担保に設定したい」「増産のための仕入れ資金として」といった形なら、通常の資金調達として理解されやすくなります。取引先にとっての利点も示してください。
Q. 担保設定も制限されますか
契約の書き方によります。「譲渡」のみを禁じ、担保設定に触れていない契約もあります。ただし解釈の問題になるため、弁護士に確認してください。
Q. 預金も同じ扱いですか
違います。預貯金債権は例外で、譲渡制限の効力が維持されます。悪意・重過失の譲受人に対しては譲渡の効力が生じません。売掛債権とは扱いが異なります。
Q. 今後の契約で、どう交渉すればよいですか
完全に削除するのが難しければ、「事前の書面による承諾を得た場合を除く」という一文を入れる、金融機関への担保設定を除外する、といった形が現実的です。新規取引の開始時か契約更新時が交渉の機会です。
出典

  • 民法 第466条(債権の譲渡性)、第466条の2(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)、第466条の3、第466条の5(預貯金債権の特則)、第466条の6(将来債権の譲渡性)— e-Gov法令検索
  • 民法(債権関係)の改正 — 法務省
  • 売掛債権の利用促進、資金繰り支援 — 中小企業庁