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仕入れ資金による調達広告費は在庫と同じ「先に出る現金」です。CACの回収期間から累積の谷を計算し、用意すべき資金を出します。谷は月々の広告費ではなく累積で測ります。

広告費は費用として処理されますが、資金繰りの上では在庫と同じ性質を持ちます。先に現金が出て、あとから回収されるからです。
1件を獲得するのに3万円かかり、その顧客から月4,000円の粗利しか出ないなら、回収に7.5か月かかります。その間の現金は自社が立て替えています。
広告費は在庫と同じ。先に出て、あとから戻ります。
顧客獲得単価3万円、月額5,000円、粗利率80%のサービスの場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 顧客獲得単価(CAC) | 30,000円 |
| 月額 | 5,000円 |
| 粗利率 | 80% |
| 顧客1人の月間粗利 | 4,000円 |
| 回収期間 | 7.5か月 |
月額5,000円で割ると6か月に見えますが、実際に手元に残るのは粗利の4,000円です。サーバー代やサポートの費用を引いた後の金額で計算してください。
回収期間は売上ではなく粗利で割ってください。
回収できるかどうかは、顧客がどれだけ続くかで決まります。
| 月次の解約率 | 平均の継続期間 | LTV | LTV÷CAC |
|---|---|---|---|
| 3% | 33.3か月 | 133,333円 | 4.4倍 |
| 5% | 20.0か月 | 80,000円 | 2.7倍 |
| 10% | 10.0か月 | 40,000円 | 1.3倍 |
平均10か月で解約されると、LTVは4万円。CACの3万円をわずかに上回るだけで、固定費を賄う余地がありません。広告を出すほど苦しくなります。
ここでのLTVは「解約率が一定なら平均継続期間は1÷解約率」という単純化した計算です。実際には初期の解約が多く、残った顧客ほど続く傾向があるため、実データで確認してください。
解約率がLTVを決めます。広告の前に、まず解約率です。
先の条件で、毎月100件を獲得し続けた場合の現金の動きです(解約なしとした単純化)。
| 月 | 契約数 | 月間粗利 | 単月収支 | 累積 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 100 | 40万円 | −260万円 | −260万円 |
| 3 | 300 | 120万円 | −180万円 | −660万円 |
| 6 | 600 | 240万円 | −60万円 | −960万円 |
| 7 | 700 | 280万円 | −20万円 | −980万円 |
| 8 | 800 | 320万円 | +20万円 | −960万円 |
| 12 | 1,200 | 480万円 | +180万円 | −480万円 |
| 14 | 1,400 | 560万円 | +260万円 | 0円 |
単月の黒字は8か月目、累積の回復は14か月目です。
先の表でいちばん深いのは7か月目の▲980万円です。
用意すべきは月々の広告費300万円ではなく、累積が最も深くなる980万円です。この資金がなければ、途中で広告を止めることになります。
この構造は在庫や仕入れとまったく同じです。「毎月いくら出るか」ではなく「累積でいくら沈むか」で必要資金を測ってください。
同じ考え方を仕入れに当てはめたものが 仕入れと売上の時差を1枚の表で見る の記事です。
必要資金は月額ではなく、累積の谷の深さです。
先の計算は解約ゼロという非現実的な前提でした。月5%の解約を入れると、こうなります。
| 項目 | 解約なし | 解約5%/月 |
|---|---|---|
| 累積の谷 | 7か月目 | 9か月目 |
| 谷の深さ | ▲980万円 | ▲1,120万円 |
| 単月が黒字になる月 | 8か月目 | 10か月目 |
| 累積がゼロに戻る月 | 14か月目 | 19か月目 |
谷の深さは140万円しか変わりませんが、累積がゼロに戻るまでが14か月から19か月に延びます。その間ずっと、資金を寝かせ続けることになります。
だから広告を増やす前に、解約率を下げるほうが効きます。同じ広告費でも、回収の速さがまったく違います。
広告を増やす前に、解約率を下げるほうが効きます。
| 毎月の獲得数 | 毎月の広告費 | 谷の深さ(解約なし) |
|---|---|---|
| 50件 | 150万円 | ▲490万円 |
| 100件 | 300万円 | ▲980万円 |
| 200件 | 600万円 | ▲1,960万円 |
| 300件 | 900万円 | ▲2,940万円 |
獲得数を3倍にすれば、谷も3倍になります。成長の速度は、用意できる資金が決めています。資金がないのにアクセルを踏むと、途中で止まります。
これは「伸びているのに資金が尽きる」という現象の正体です。ユニットエコノミクスが健全でも、成長が速いほど資金は沈みます。
成長の速度は用意できる資金が決めます。
| 手段 | 向いている場面 | 注意 |
|---|---|---|
| 手元資金 | 回収期間が短い(3か月以内など) | — |
| エクイティ | 回収が長く、成長を優先する | 希薄化 |
| 融資 | 回収の実績が示せる | 広告費は担保にならない |
| 売上債権の早期化 | 既存顧客からの入金を前倒し | 費用がかかる |
| 媒体の支払サイト | 月末締め翌月末など | 枠に上限がある |
在庫や設備と違い、広告費には残るものがありません。金融機関から見れば「返済原資が見えにくい使途」です。実績の数字で回収を示せるかが分かれ目になります。
実績を示せれば道はあります。過去のコホートで「獲得から◯か月で回収できている」と示せれば、返済原資の説明になります。
融資には回収の実績データが要ります。
| 方法 | 効果 | 注意 |
|---|---|---|
| 年払いを用意する | 12か月分を一度に受け取る | 割引の分だけLTVが下がる |
| 初期費用をもらう | 獲得時に一部を回収 | 成約率が下がる |
| CACを下げる | 回収期間が直接短くなる | 獲得数も減ることがある |
| 単価を上げる | 月間粗利が増える | 解約率が上がることも |
月額5,000円を年払い6万円(10%引きで5.4万円)にできれば、獲得の時点でCACの3万円を上回る現金が入ります。資金繰りの構造が変わります。
ただし、年払いの割引は年率に直すと高くつくことがあります。10%引きの年払いは、資金調達の手段として見ると年率約20.5%に相当します。前受金と売掛金では、資金繰り上の意味が違う の記事で計算しています。
年払いは効果が大きい。ただし割引を年率で検証してください。
| 支払い方 | 資金への影響 |
|---|---|
| クレジットカード(前払い扱い) | 即時に近い。カード枠の上限がある |
| 月次請求・翌月払い | 30〜60日の猶予 |
| 代理店経由 | 代理店の支払条件による |
| 前払い・デポジット | 先に出る |
月300万円の広告費をカードで払うなら、カード枠がそれを超えている必要があります。枠が足りずに広告を止めた、という事例は珍しくありません。
媒体によっては、実績に応じて月次請求(後払い)に切り替えられます。広告費が大きくなってきたら、支払条件の交渉をしてください。30日の猶予は、そのまま1か月分の資金になります。
カード枠が成長の上限にならないか確認してください。
| 項目 | 広告費 | 人件費・家賃 |
|---|---|---|
| 止められるか | 止められる | すぐには止められない |
| 止めた場合の影響 | 新規獲得が止まる | 事業が回らない |
| 既存顧客への影響 | ない | ある |
| 資金繰り上の扱い | 調整弁になる | 固定費 |
資金が厳しくなったとき、広告費は翌月から止められます。既存顧客からの売上は続くため、止めた瞬間から現金は改善します。在庫や設備にはこの性質がありません。
逆に言えば、「広告を止めれば現金が回る」という選択肢があるうちは、資金繰りは致命的ではありません。この余地を残しておくことが、事業を続ける条件になります。
広告費は止められる。この余地を残しておいてください。
| 項目 | 先行投資 | 垂れ流し |
|---|---|---|
| 回収期間 | 計算されている | 不明 |
| LTV÷CAC | 3倍以上など基準がある | 測っていない |
| チャネル別の数字 | 分けて見ている | 合計しか見ていない |
| 止める基準 | 決まっている | ない |
| 解約率 | 把握している | — |
| コホート分析 | やっている | — |
先行投資とは、回収の見込みを計算した上で、意図して現金を沈めることです。基準がないまま出し続けているなら、それは投資ではありません。
最低限、チャネルごとにCACと回収期間を分けて測ってください。合計では成立していても、一部のチャネルが赤字を垂れ流していることがあります。
違いは止める基準があるか。なければ投資ではありません。
サブスクリプションではなく、1回売り切りの商材では計算が変わります。
| 項目 | サブスク | 単発売り切り |
|---|---|---|
| 回収 | 何か月もかけて | その場で完了 |
| 判断基準 | LTV÷CAC・回収期間 | 粗利>CACか |
| 資金の谷 | 深い | 浅い |
| リピートがある場合 | — | 実質サブスクに近づく |
| 在庫 | ない | 広告費+在庫の両方が沈む |
単発の物販は回収が速い一方で、広告費だけでなく在庫の資金も同時に必要です。広告を増やせば在庫も増やすことになり、両方が同時に現金を食います。
在庫側の計算は 在庫回転日数が1日延びると、現金はいくら減るか の記事で扱っています。広告費と在庫は、必ず合わせて見てください。
物販は広告費と在庫が二重に沈みます。合わせて見てください。
| 条件 | エクイティで賄う妥当性 |
|---|---|
| ユニットエコノミクスが成立している | 高い |
| 回収期間が長い(12か月以上) | 高い |
| 市場を取る速度が競争力になる | 高い |
| LTV÷CACが3倍を割っている | 低い(先に改善) |
| 解約率が高い | 低い(先に改善) |
| チャネル別の数字を測っていない | 低い |
LTVがCACを十分に上回っていない状態で調達しても、資金が尽きるまでの時間が延びるだけです。まず単位あたりの構造を成立させてください。
資金の使途として広告費を説明する場合、投資家が見るのは「この資金でCACいくらの顧客を何件取り、いつ回収するか」です。コホートのデータで示してください。
エクイティの考え方は 出資を受けずに伸ばす選択肢を検討する の記事で扱っています。
構造が成立してから調達する。順序を逆にしないでください。
回収期間の計算は、CACの取り方で変わります。広告の出稿額だけをCACとすると、実態より短く出ます。
| 項目 | CACに入れるか |
|---|---|
| 広告の出稿額 | 入れる |
| 代理店・制作の費用 | 入れる |
| マーケ担当の人件費 | 入れる(按分) |
| インサイドセールス・商談の人件費 | 入れる(按分) |
| 初回導入の支援コスト | 粗利側で引くか、CACに入れる |
| ツール・計測の費用 | 入れる |
| 既存顧客向けの施策 | 入れない(獲得ではない) |
商談が必要なサービスでは、広告費と同じかそれ以上の人件費がかかっていることがあります。広告費だけを見て「CACは3万円」と考えていると、実際は6万円だった——ということが起きます。
ただし、資金繰りの計算では「実際に現金が出る時期」で見てください。人件費は毎月平らに出ますが、広告費は出稿した月に出ます。CACの総額と、現金が出るタイミングは別の話です。
CACには人件費も按分して入れてください。
全体の平均値だけを見ていると、直近の悪化に気づけません。
| 見方 | 分かること | 問題 |
|---|---|---|
| 全体の平均CAC | おおまかな水準 | 直近の悪化が埋もれる |
| 獲得月ごとのコホート | いつ獲得した顧客が、どう推移したか | — |
| チャネル別 | どの経路が効率的か | — |
| チャネル×獲得月 | 悪化しているチャネルの特定 | データ量が要る |
最初に取れる層は安く取れ、出稿を増やすほど1件あたりの単価は上がっていきます。過去の平均CACで計画を立てると、実際の資金の谷は計算より深くなります。
だから、獲得数を2倍にする計画では、CACも上がる前提で谷を計算してください。「CACは変わらない」という前提の計画は、ほぼ外れます。
CACは出稿を増やすほど上がります。その前提で谷を計算してください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | CACと月間粗利から、回収期間を出す |
| 2 | 実データの解約率を使ってLTVを出す |
| 3 | LTV÷CACが基準を満たすか確認する |
| 4 | 目標の獲得数で、月次の累積収支を並べる |
| 5 | 累積の谷の深さを出す |
| 6 | その金額を用意できるか確認する |
| 7 | 用意できる金額から逆算して、獲得数を決める |
「いくら広告に使うか」ではなく、「いくら沈められるかから、獲得数を逆算する」のが正しい順序です。谷の深さが用意できる資金を超えないところで止めてください。
沈められる金額から、獲得数を逆算してください。
8番と16番。この2つがあるかで、投資か垂れ流しかが分かれます。
外注費の月ごとの振れ幅を小さくする方法は 外注費の支払いを平準化する の記事で扱っています。
この記事は仕入れ資金による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。