
赤字だと資金調達はできない——そう思い込んで、動く前にあきらめてしまう経営者は少なくありません。たしかに、赤字は審査で不利に働く要素です。しかし赤字であっても使える調達手段はいくつもあり、赤字の「中身」しだいでは、むしろ評価されて資金が入ることもあります。
ポイントは、手段を1つに絞らないことです。銀行のプロパー融資という1本の道だけを見ていると、赤字は即「不可」に見えます。ところが視野を広げると、株式で入れる資金、自己資本とみなされる借入、資産の裏付けで現金化する手段など、赤字局面でも通り道になる選択肢が並んでいます。この記事はその全体像を一覧で俯瞰するハブです。個々の手段の詳しい仕組みは、各章から関連記事へ渡します。
赤字は不利だが「不可」ではありません。手段を1本に絞らず、エクイティ・負債・売掛債権の3系統から、赤字の中身に合う手段を選ぶ。まずは全体像を押さえることが出発点です。
資金の出し手が最初に見るのは、金額よりも「なぜ赤字なのか」です。同じ赤字でも、意味がまったく違います。
| 評価されやすい赤字 | 説明が要る赤字 | |
|---|---|---|
| 中身 | 先行投資による赤字(採用・開発・在庫) | 本業の採算が合わない赤字 |
| 売上の方向 | 伸びている | 横ばい・減少 |
| 赤字の性質 | 意図した投資で、回収の絵がある | 構造的で、放置すると続く |
| 出し手の見方 | 成長のための赤字=将来価値 | 返済原資が読めない |
スタートアップの赤字の多くは前者、つまり意図した先行投資の赤字です。人を採り、開発に投じ、在庫を積んだ結果、いまは赤字でも売上は伸びている——この形なら、赤字そのものは調達の障害になりにくく、むしろ「なぜ投資し、いつ回収するか」を語れれば前向きに見られます。
逆に、本業の採算が構造的に合っていない赤字は、どの手段でもハードルが上がります。この場合はまず事業の立て直しが先で、資金はそれを支える範囲にとどめるのが筋です。自社の赤字がどちらなのかを見極めることが、手段選びの前提になります。
「採用に月◯◯万、開発に月◯◯万を投じ、それを除けば営業黒字」——このように赤字の内訳と、投資を除いた素の採算を示せると、赤字は一気に説明可能なものになります。金額の大小より、内訳を語れるかどうかが効きます。
赤字局面で現金を入れる手段は、大きく3系統に分かれます。性質が違うので、まず系統で捉えると整理しやすくなります。
① エクイティ系(株式)→ 返済不要・希薄化あり
② 負債系(借入)→ 返済あり・希薄化なし
③ 売掛債権系(資産の現金化)→ 返済でなく前倒し
上から順に、調達に時間がかかる・薄まるほうから、速い・薄まらないほうへと並びます。赤字でも、この3系統のどこかには道があります。
それぞれの系統に、赤字でも通りやすい代表的な手段があります。エクイティ系なら株式や評価額を先送りするコンバーティブル、負債系なら自己資本とみなされる資本性ローンやエクイティを前提とするベンチャーデット、公的な創業融資。売掛債権系なら、売掛金を担保にする、あるいは早期に現金化する手段です。次章で、これを1枚の表にまとめて俯瞰します。
赤字でも使える主な手段を、性質で並べます。「返済の有無」「株式が薄まるか」「赤字との相性」を軸に見ると、自社に合う手段が絞れます。金利・条件は制度や相手により変わるため、ここでは水準を断定せず、性質の違いだけを示します。
| 手段 | 系統 | 返済 | 株式の希薄化 | 赤字との相性 |
|---|---|---|---|---|
| 株式(エクイティ) | エクイティ | なし | あり | 成長投資の赤字なら評価されやすい |
| コンバーティブル(J-KISS等) | エクイティ | なし(転換) | 次ラウンドで | 評価額を今決めずに入れられる |
| 資本性ローン | 負債(自己資本扱い) | あり(期限一括等) | なし | 審査上は自己資本とみなされ、赤字に強い |
| ベンチャーデット | 負債 | あり | なし〜わずか | エクイティ調達を前提に組む |
| 公的な創業融資 | 負債 | なし | なし | 創業初期は実績が浅くても検討余地 |
| 売掛金を担保にする(ABL) | 売掛債権 | あり | なし | 会社の赤字より売掛先の信用を見る |
| 売掛債権の早期現金化 | 売掛債権 | なし(前倒し) | なし | 自社の赤字より売掛先の信用を見る |
この表の読みどころは、右2列です。「株式を薄めたくないなら負債系か売掛債権系」「返済負担を増やしたくないならエクイティ系か売掛債権の早期化」というように、優先したい条件から絞れます。とくに売掛債権系は、審査の視線が自社の赤字ではなく売掛先の信用に向くため、赤字でも通りやすいのが特徴です。
手段は「返済の有無・希薄化・赤字との相性」で選び分けます。株式を守るなら負債/売掛債権系、返済を増やさないならエクイティ/早期化。売掛債権系は自社の赤字より売掛先の信用を見るため、赤字局面で通りやすい系統です。
エクイティは返済不要な代わりに、株式を渡すぶん持ち分が薄まります。先行投資の赤字を成長の材料として語れる局面では、赤字でも最有力の一つです。
ただし、いま評価額を確定させたくない、あるいはダウンラウンドを避けたい時期には、株価を先送りしながら資金を入れるコンバーティブル(J-KISS等)という選択肢があります。仕組みや次ラウンドとの関係、契約上の注意点は個別性が高いため、詳しくは関連記事に譲ります。エクイティは、成長投資そのものに充てる資金の中心と考えるとよく、立替やつなぎのような短期の穴埋めに使うと、株式を必要以上に手放すことになります。
負債は株式が薄まらないのが利点で、返済がある代わりに持ち分を守れます。赤字でも道があるのは、次の3つです。
返済順位が低く、金融機関の審査上は自己資本とみなされるタイプの借入です。負債でありながら財務体質を強く見せられるため、赤字局面と相性がよい手段です。仕組みと使いどころ、注意点は関連記事で詳しく扱います。
エクイティ調達を前提に組む借入で、株式を大きく薄めずに資金を足せます。次のラウンドが見えている局面で、希薄化を抑えたいときに検討されます。売掛債権を担保にするABLとは性格が異なり、その違いも別記事で整理しています。
創業初期は業績の実績が浅く、赤字でも事業計画の中身で見てもらえる余地があります。ただし審査から着金までには時間がかかるため、資金が尽きてからでは間に合いません。申し込むタイミングの考え方は、関連記事で扱います。
資本性ローンや公的融資の条件・要領は、時期や制度改正で変わります。この記事の内容は一般的な整理であり、適用可否は個別判断です。実際の利用可否と条件は、各金融機関や公的機関の最新情報で必ず確認してください。
3系統のなかで、赤字の影響を最も受けにくいのがこの系統です。理由は単純で、審査が見るのは自社の損益ではなく、売掛先が支払ってくれるかだからです。
| 売掛金を担保にする(ABL) | 売掛債権の早期現金化 | |
|---|---|---|
| 性質 | 借入(返済あり) | 債権の売却(返済でなく前倒し) |
| 主に見るもの | 売掛先の信用・債権の質 | 売掛先の信用 |
| 株式の希薄化 | なし | なし |
| 向く場面 | 継続的に売掛が積み上がる事業 | 特定の入金を早めたいとき |
どちらも自社の赤字より売掛先の信用を重く見るため、黒字化前でも使いやすいのが強みです。一方で、早期現金化はコストが借入より高くつくことが多く、常用すると利益を削ります。あくまで、融資やエクイティが間に合わない立替のぶんを埋める補助と位置づけ、金額を計算してから使うのが安全です。売掛金の現金化のしやすさや具体的な手段の中身は、関連記事で扱います。
赤字局面では、1つの手段だけで賄おうとせず、性質の違う手段を組み合わせるのが現実的です。基本の順序はこうです。
要点は、コストと希薄化の小さいものから使い、速くて高いものは補助に回すことです。売掛債権の早期化から手を付けると、コストばかりが積み上がります。逆に、何でもエクイティで賄うと株式を手放しすぎます。この順序を意識するだけで、同じ金額でも調達コストと持ち分の残り方が大きく変わります。
1手段に頼らず、安い・薄まらないものから使い、速くて高いものは最後の補助にする。エクイティで成長投資、資本性ローンで体力、公的融資でベース、早期化で立替の穴埋め——この順序がコストと持ち分を守ります。
どの手段でも、赤字局面で共通して問われるのは「返済・回収の原資が読めるか」です。先回りして揃えておくと、話が速く進みます。
とくにランウェイと資金繰りの見通しは、どの手段でも土台になります。あと何か月で資金が尽きるかを把握していないと、間に合う手段を選べません。これらの計算や作り方は別記事に譲りますが、赤字局面での調達は「早く気づいて、早く動く」ほど、安く・薄めずに済むという原則は共通です。
→ 資本性ローンという選択肢|自己資本とみなされる借入
→ ベンチャーデットとは|売掛債権担保との違い
→ 日本政策金融公庫の融資はいつ申し込むべきか|受注時点で動く
赤字局面のつなぎに売掛債権の早期化を考えるなら、まず条件を確かめられます。売掛金の額と入金してほしい時期を入れると、掲載102社のうち条件に合う事業者と手取りの目安が出ます。5問・約30秒、登録は不要です。
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の財務・税務・法務の助言ではありません。資本性ローン・公的融資・コンバーティブル等の制度や契約の条件は変更されることがあり、適用可否は個別の事情によります。具体的な調達手段の選択や契約内容は、各金融機関・公的機関の最新情報を確認のうえ、弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。