
債権を譲渡したり担保に入れたりするとき、「その債権は自分のものだ」と第三者に主張するための手続きが必要です。これを対抗要件といいます。
原則的な方法は、取引先(債務者)への通知、または取引先の承諾です。しかしこれを行うと、取引先に債権を譲渡したことが伝わります。
法人が債権を譲渡する場合、債権譲渡登記をすれば、通知をしなくても第三者に対抗できます。これが、ABLや2者間の債権譲渡で登記が使われる理由です。
対抗要件そのものの仕組みは 対抗要件とは の記事で扱っています。この記事では、登記の実務(費用・期間・手続き)を扱います。
登記は通知せずに第三者対抗要件を得る手段。法人が譲渡する場合に使えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請先 | 東京法務局(民事行政部 債権登録課)が全国を扱う |
| 方法 | オンライン申請、または書面での申請 |
| 対象 | 譲渡人が法人であること |
| 債権 | 金銭債権。将来債権も対象になる |
不動産登記と違い、債権譲渡登記は東京法務局が一括して扱っています。会社の所在地は関係ありません。
譲渡人が法人であることが要件です。個人事業主が債権を譲渡する場合、この制度は使えません。通知または承諾による対抗要件になります。
申請先は東京法務局。譲渡人が法人であることが要件です。
登記そのものにかかる税金です。債権の個数によって金額が変わります。
| 債権の個数 | 登録免許税 |
|---|---|
| 5,000個以下 | 7,500円 |
| 5,000個を超える | 15,000円 |
注目すべきは、債権の金額ではなく、個数で決まる点です。1億円の債権1件でも、100万円の債権1件でも、登録免許税は同じです。
不動産の抵当権設定登記は債権額の一定割合がかかりますが、債権譲渡登記は定額です。金額が大きいほど、相対的な負担は小さくなります。
なお、登記の内容を変更する場合や、抹消する場合にも登録免許税がかかります。金額は手続きの種類によって異なるため、法務局に確認してください。
登録免許税は金額ではなく個数で決まります。5,000個以下なら7,500円です。
実務では、司法書士に依頼するのが通常です。報酬は自由化されているため、事務所によって差があります。
| 要素 | 報酬に影響する点 |
|---|---|
| 債権の件数 | 件数が多いほど、確認と入力の手間が増える |
| 債務者の数 | 同上 |
| 将来債権を含むか | 特定の仕方が複雑になる |
| 急ぎかどうか | — |
| 書類の準備 | 自社でどこまで用意できるか |
報酬は事務所によって差があります。「登録免許税を含めて総額いくらか」を、着手前に確認してください。債権の件数が多い場合は、件数による加算があるかも聞いておいてください。
また、ABLや債権譲渡の契約では、この費用を誰が負担するかが契約で決まります。借り手・売り手の負担とされることが多いため、見積もりの段階で確認してください。
報酬は事務所によって差があります。総額で見積もりを取ってください。
登録免許税は定額なので、総額の内訳はおおむね次の形になります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 7,500円 | 債権5,000個以下 |
| 司法書士報酬 | 事務所による | 見積もりを取る |
| 登記事項証明書の取得 | 通数による | 債務者への通知に使う場合 |
| 各種証明書 | — | 登記事項証明書など |
仮に総額が10万円だとして、1,000万円を調達するなら1.0%、1億円なら0.1%です。金額が大きいほど、相対的な負担は小さくなります。登記費用を理由に登記を避けると、対抗要件がないまま取引することになります。
なお、金額が小さい取引では、登記費用の割合が大きくなります。数十万円の債権のために登記を入れるのは、費用対効果が合わないことがあります。その場合は通知による対抗要件を検討することになります。
ファクタリングで登記を求められたときは、費用に加えて、登記を求められる理由と、86サービスが登記をどう扱っているかも知っておきたい点です。
登録免許税は定額。金額が大きいほど、相対的な負担は小さくなります。
対抗要件を備える方法は、登記のほかに確定日付のある証書による通知があります。実務では内容証明郵便に配達証明を付ける形が使われます。
| 項目 | 通知(内容証明) | 債権譲渡登記 |
|---|---|---|
| 費用の性質 | 取引先の数に比例する | 定額 |
| 取引先1社 | 1通分の郵便料金 | 7,500円+司法書士報酬 |
| 取引先20社 | 20通分 | 同じ(7,500円+報酬) |
| 取引先に知られるか | 知られる | 通常は知られない |
| 将来債権 | その都度の対応が要る | まとめて対象にできる |
| 個人事業主 | 使える | 使えない |
構造として、取引先が多いほど登記が有利になります。通知は1社ごとに書面を作って送る必要がありますが、登記は件数が増えても登録免許税は変わりません(5,000個までは同額)。
実務で登記が選ばれる理由は、費用よりも「取引先に知られない」ことと「将来債権をまとめて対象にできる」ことです。集合債権譲渡担保では、通知では対応しきれません。
逆に、取引先が1社で、その取引先の承諾が得られるなら、通知・承諾のほうが手軽です。郵便料金だけで済み、司法書士も要りません。承諾が得られる関係なら、その選択肢を先に検討してください。
通知は取引先の数に比例、登記は定額。多いほど登記が有利です。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 契約書・債権の特定資料の準備 | 数日〜 |
| 司法書士への依頼・書類の確認 | 数日 |
| 申請 | — |
| 登記の完了 | 数日程度(申請の方法と混雑による) |
| 登記事項証明書の取得 | 完了後 |
全体では1週間から2週間程度を見ておくのが安全です。ただし、時間がかかるのは登記そのものより、債権の特定資料を揃える工程であることが多くあります。
登記には、どの債権を譲渡するのかを特定できる情報が必要です。債務者の商号・本店、債権の発生年月日、金額など。これが社内で整理されていないと、そこから始めることになります。
売掛金の管理が整っていれば、この工程は短くなります。債権年齢表を日頃から作っていれば、そのまま材料になります。作り方は 債権年齢表の作り方 の記事で扱っています。
全体で1〜2週間。時間がかかるのは債権の特定資料の準備です。
債権譲渡登記には存続期間が定められ、上限があります。
| 場合 | 存続期間の上限 |
|---|---|
| 債権の債務者のすべてが特定している | 50年 |
| それ以外(債務者が不特定の将来債権を含む) | 10年 |
集合債権譲渡担保では、まだ取引を始めていない将来の取引先に対する債権も含めることがあります。この場合、債務者が特定していないため、存続期間は10年が上限になります。
存続期間が過ぎれば、登記の効力はなくなります。担保が残っているのに対抗要件がない、という状態になり得ます。延長の登記が必要です。期限を管理してください。
長期の取引では、この期限の管理が実務上の論点になります。登記した日と存続期間を記録し、期限の前に延長するかどうかを判断してください。
存続期間は50年または10年。満了すると対抗要件を失います。
ここが実務でもっとも誤解されやすい点です。
| 対抗できる相手 | 必要なこと |
|---|---|
| 第三者(他の譲受人、差押債権者など) | 登記をすれば足りる |
| 債務者(取引先) | 登記事項証明書を交付して通知するか、承諾を得る |
登記だけでは、取引先に「自分に払え」と言えません。実際に取り立てる段階では、登記事項証明書を交付して通知する必要があります。2者間の債権譲渡で「取引先に知られない」のは、取り立てる事態にならない限りという前提の話です。
つまり、支払いが滞って買い手が直接取り立てに動けば、その時点で取引先に知られます。「絶対に知られない」わけではありません。この点は契約前に理解しておいてください。
登記だけでは債務者に請求できません。取り立てる段階で通知が必要になります。
| 証明書 | 内容 | 誰が取得できるか |
|---|---|---|
| 登記事項概要証明書 | 譲渡人・譲受人・登記の年月日など概要のみ | 誰でも |
| 登記事項証明書 | 個別の債権の内容を含む詳細 | 当事者など、限られた者 |
| 商業登記簿の「債権譲渡登記」の記載 | 登記がある旨が記録される | 誰でも |
個別の債権の中身は保護されますが、「この会社が債権譲渡登記をしている」という事実は、概要証明書で誰でも確認できます。取引先や金融機関が調べれば分かります。
これが実務上の論点になります。金融機関が新規の融資を検討するとき、登記の有無を確認することがあります。すでに債権が担保に入っていれば、保全が取れないと判断されます。
この影響は 一度担保に入れた資産を、他の調達でも使えるか の記事で扱っています。
中身は保護されますが、登記がある事実は誰でも分かります。
制度上は、本人が申請することもできます。ただし実務では、次の理由で司法書士に依頼するのが通常です。
| 難しい点 | 内容 |
|---|---|
| 債権の特定 | どこまで特定すれば足りるかの判断が難しい |
| 将来債権の記載 | 発生期間・債務者の範囲の書き方 |
| 申請データの形式 | 債権の明細を所定の形式で作る必要がある |
| 補正への対応 | 不備があると補正を求められ、時間がかかる |
| 取引の相手が求める | 金融機関等が、司法書士による登記を条件とすることがある |
5番目が実務上の決め手になることが多くあります。ABLや債権譲渡の契約で、登記手続きを相手方が指定する司法書士に行わせる形が一般的です。この場合、自社で手続きする選択肢はありません。
登記そのものを自社で行うより、債権の明細を整理して渡すほうが、現実的に費用を抑えられます。司法書士の手間が減る分、報酬の交渉余地が生まれます。
制度上は可能ですが、相手方が司法書士を指定するのが通常です。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 債権譲渡契約書(または担保設定契約書) | — |
| 譲渡する債権の明細 | 債務者の商号・本店、発生年月日、金額など |
| 譲渡人・譲受人の会社の登記事項証明書 | — |
| 印鑑証明書 | — |
| 委任状 | 司法書士に依頼する場合 |
手間がかかるのは2番目です。債権の明細は、経理のデータから作ります。売掛金の管理が取引先ごとに整理されていれば、そのまま出せます。
整理されていない場合、ここで数日から1週間を使うことになります。急いでいる場面ほど、この差が効いてきます。
手間がかかるのは債権の明細。日頃の管理がそのまま効きます。
| 場面 | やること |
|---|---|
| 借入を完済した | 抹消の登記を行う |
| 債権譲渡の取引が終わった | 同上 |
| 存続期間が満了した | 効力は失われる |
不動産の抵当権と同じで、債権譲渡登記も完済すれば自動的に消えるわけではありません。抹消の登記が必要です。放置すると、登記が残ったままになります。
登記が残っていると、新しい金融機関が「債権が担保に入っている」と判断することがあります。次の調達の妨げになるため、完済したら抹消まで確認してください。
抹消にも登録免許税と司法書士報酬がかかります。契約の段階で、抹消費用を誰が負担するかも確認しておいてください。
完済しても自動では消えません。抹消まで確認してください。
| 相手 | どう見られるか |
|---|---|
| 他の金融機関 | 売掛金が担保に入っていると判断。保全が取れない |
| 取引先 | 調べれば分かる。取引への影響は関係による |
| 新しい債権譲渡の相手 | 先行する登記があると、条件が悪くなる |
| 信用調査会社 | 情報として把握されうる |
いちばん実務的な影響は1番目です。売掛金という、中小企業にとって数少ない担保になる資産が、すでに押さえられている状態になります。
すべての売掛金を包括的に担保に入れると、次の調達で使える資産がなくなります。対象を一部の取引先に限定できないか、契約の段階で交渉してください。
登記は担保余力を使う行為。範囲を限定できないか交渉してください。
| 状況 | 登記の要否 |
|---|---|
| 金額が大きく、継続する取引 | 登記する。費用の割合が小さい |
| 金額が小さい単発の取引 | 通知による対抗要件も検討 |
| 取引先に知られたくない | 登記が必要 |
| 取引先の承諾が得られる | 登記なしでも対抗要件を備えられる |
| 譲渡人が個人事業主 | 登記は使えない |
判断の軸は2つです。金額に対して費用が見合うかと、取引先に知られてよいか。この2つで、ほぼ決まります。
なお、登記の費用は誰が負担するかが契約で決まります。買い手・貸し手が負担する契約もあるため、見積もりの段階で確認してください。
判断は費用が見合うかと知られてよいかの2軸です。
10番と11番——登記の限界を理解したうえで契約してください。
この記事は債権による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。