
エンジェル税制は、個人が創業期の会社に投資した場合に、その投資家の税負担を軽くする制度です。優遇を受けるのは投資家ですが、要件を満たすことを証明する手続きは会社が行います。
この非対称が、実務でのつまずきの原因になります。会社にとっては直接の利益がない作業であり、後回しにされがちです。しかし会社が手続きをしなければ、投資家は優遇を受けられません。
投資を検討している相手から「エンジェル税制は使えますか」と聞かれたら、それは会社側の対応を確認する質問です。使えるかどうかが、投資の判断に影響することがあります。
優遇は投資家、手続きは会社。会社が動かなければ、投資家は受けられません。
制度は大きく2つの場面に分かれます。
| 場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 投資した年 | 投資額を、所得または他の株式の譲渡益から差し引ける |
| 売却した年 | 損失が出た場合、他の株式の譲渡益と相殺し、繰り越せる |
投資した年の優遇には複数の型があり、どの所得から差し引けるか、いくらまでかが型によって違います。投資家は自分の状況に合った型を選びます。
重要なのは、投資した年に優遇を受けた場合、売却時の取得価額が引き下げられるという点です。つまり、売却で利益が出たときに課税される金額が増えます。
制度の性格は、税の免除ではなく、繰り延べに近い部分があるということです。投資家はこれを理解したうえで選びますが、会社側も構造として知っておいてください。
投資の年と売却の年の2場面。投資時の優遇は、売却時の取得価額の引き下げと対になります。
要件は細かく定められており、改正も入ります。この記事では個別の数値を示さず、どういう種類の要件があるかを整理します。実際の適用は、中小企業庁の情報と専門家で確認してください。
| 要件の種類 | 見られること |
|---|---|
| 設立からの年数 | 創業から一定の期間内であること |
| 規模 | 中小企業に該当すること |
| 研究開発や新規性 | 試験研究費の割合、新規性のある事業であることなど |
| 株主構成 | 大企業の子会社でないこと。同族の保有割合 |
| 事業の内容 | 対象外とされる業種に該当しないこと |
| 未上場 | 上場していないこと |
実務でつまずきやすいのは3番目と4番目です。研究開発の割合は、費用の区分の仕方で変わります。株主構成は、事業会社からの出資を受けている場合に該当しなくなることがあります。
大企業が一定の割合を保有していると、この制度の対象から外れることがあります。先に事業会社からの出資を受け、その後にエンジェルから受けようとした段階で、使えないと分かるという順序で問題になります。順序を検討する段階で確認してください。
つまずくのは研究開発の割合と株主構成。事業会社からの出資が先にあると外れることがあります。
会社が要件を満たしていても、投資家の側が満たさなければ適用されません。
2つ目が見落とされます。既存の株主から株式を買い取る形(譲渡)では、この制度は使えません。会社が新しく発行する株式を、投資家が払い込んで取得する形である必要があります。
3つ目も確認してください。家族や親族から出資を受ける場合、関係によっては対象外になります。
対象は新規発行株式の払込みです。既存株主からの買い取りでは使えません。
おおまかな流れは次のとおりです。制度の詳細は変わるため、最新の手順は中小企業庁の情報で確認してください。
| 順 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 自社が要件を満たすか確認する | 満たさない場合、投資家に早めに伝える |
| 2 | 必要な書類を準備する | 登記、定款、決算書、株主名簿など |
| 3 | 所定の機関に確認を申請する | 申請先と様式は制度による |
| 4 | 確認書を受け取る | 審査に時間がかかる |
| 5 | 投資家に確認書と必要書類を渡す | 投資家の確定申告に間に合う時期に |
4番の審査にかかる時間を甘く見ないでください。書類の不備があれば往復が発生します。投資家の確定申告は年明けに行われるため、そこから逆算する必要があります。
詰まるのは4番の審査。投資家の確定申告から逆算して動いてください。
投資を受ける前です。払込みが終わってから要件を確認して、満たしていないと分かるのが最悪の順序です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 投資の話が出た段階 | 要件を満たすか、おおまかに確認する |
| 条件を詰める段階 | 投資家に、適用の可否を伝える |
| 払込みの前 | 必要書類の所在を確認する |
| 払込みの後 | 確認の申請を行う |
| 年内 | 確認書を投資家に渡す |
2番目が実務では重要です。投資家は、適用を前提に投資額を決めていることがあります。使えないと後から分かると、金額や条件の見直しになります。
確認は払込みの前に。後から使えないと分かると、条件の見直しになります。
会社が手続きをしなければ、投資家は優遇を受けられません。起きることは3つです。
3つ目は軽視できません。「あの会社は手続きをしてくれなかった」という評判は、次の調達に影響します。
逆に、使えない場合は、その事実を早く正確に伝えてください。使えないこと自体より、使えると思わせたまま進むことのほうが問題になります。
使えないなら早く正確に伝える。約束して履行できないほうが、影響は大きくなります。
投資家は確定申告で書類を使います。会社が渡すものは、おおむね次のとおりです。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 確認書 | 会社が要件を満たすことの確認 |
| 投資を証する書類 | 払込みの事実を示すもの |
| 株主名簿の写し | その投資家が株主であることを示す |
| その他の様式 | 制度で定められた書類 |
ここで効いてくるのが株主名簿の整備です。名簿が更新されていなければ、渡せる書類がありません。資本政策表と株主名簿の両方を、発行のたびに更新してください。
株主名簿が整っていないと、書類を渡せません。発行のたびに更新してください。
この制度は創業期の会社への投資を後押しするものなので、設立からの年数が要件に含まれます。年数が経つほど、適用できる範囲は狭くなります。
したがって、次のことが言えます。
以前は使えたが、いまは使えない。この状態が起こりえます。前回の調達で使えたからといって、今回も使えるとは限りません。そのつど確認してください。
適用の可否は時間とともに変わります。前回使えたことを前提にしないでください。
投資家側の要件により、対象にならない相手がいます。
| 相手 | 理由 |
|---|---|
| 法人 | 個人が対象のため |
| 一定の親族 | 同族に関する制限 |
| 既存株主からの買い取り | 新規発行の払込みでないため |
| ファンド経由 | 形態による。個別に確認が必要 |
4番目は判断が分かれる部分です。投資事業有限責任組合を通じた投資について、扱いが定められている場合があります。相手がファンドの形を取っている場合は、個別に確認してください。
会社としては、投資家ごとに適用の可否が違いうることを把握しておいてください。同じラウンドでも、使える人と使えない人がいます。
適用の可否は投資家ごとに違います。同じラウンドでも分かれます。
この制度は、税制改正で内容が見直されてきました。過去の情報をもとに判断しないでください。
実務としては、次の運用を勧めます。
4つ目が重要です。投資家に「使えます」と伝えてから使えないと分かると、信用の問題になります。確認が取れるまでは、可否を断定しないでください。
改正が入る領域です。確認が取れるまで、投資家に断定して伝えないでください。
制度の話は、会社側が説明を誤ると後で問題になります。伝え方の型を決めておいてください。
| 場面 | 避ける言い方 | 望ましい言い方 |
|---|---|---|
| 聞かれたとき | 「使えます」 | 「確認のうえ、可否をお伝えします」 |
| 確認が取れたとき | 「問題ありません」 | 「◯◯の型で対象になる見込みです。最終的には税理士とご確認ください」 |
| 使えないとき | 伝えるのを先延ばす | 「◯◯の要件を満たさないため、対象外です」と理由とともに早く伝える |
| 手続きの時期 | 「年内には出します」 | 「申請から確認書まで◯週間程度かかります。◯月に申請します」 |
共通しているのは、会社が最終的な税務判断をしないことです。適用の可否は投資家の状況にも左右されるため、会社が断定する立場にはありません。「当社としては要件を満たすと確認しました」までが会社の言える範囲です。
また、時期の見込みは具体的に伝えてください。投資家は確定申告の準備を自分で進めます。いつ書類が届くかが分かれば、その前提で動けます。
会社が言えるのは「要件を満たすと確認した」まで。税務判断は投資家側で行うものです。
創業期の資金調達に関わる制度は、この1つではありません。混同しやすいものを整理します。
| 制度 | 対象 | 誰が優遇されるか |
|---|---|---|
| エンジェル税制 | 個人から創業期の会社への投資 | 投資家(個人) |
| 税制適格ストックオプション | 役職員などへの新株予約権の付与 | 受け取った個人 |
| オープンイノベーション促進税制 | 事業会社からスタートアップへの出資 | 出資した法人 |
3つ目は、法人が出資する場合の制度です。エンジェル税制とは対象が違います。事業会社からの出資を検討している場合、相手側でこちらの制度が使えるかが論点になることがあります。
いずれの制度も、会社側で要件の確認や手続きが必要になる点は共通しています。どの制度を使う相手から調達するかによって、必要な作業が変わります。調達の相手を決める段階で把握しておいてください。
相手によって関係する制度が違います。個人ならエンジェル税制、法人なら別の制度が論点になります。
会社に直接の税制上の利益はありません。それでも対応する理由は3つです。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| 投資しやすくなる | 投資家の実質的な負担が下がるため、判断が進みやすい |
| 金額が増えることがある | 同じ負担でより多く投資できる |
| 対応の姿勢が伝わる | 手続きを厭わない会社という評価につながる |
一方、コストもあります。書類の準備と申請の手間、要件を維持するための制約です。とくに株主構成の要件があるため、事業会社からの出資を検討する際に選択肢が狭まることがあります。
どちらを取るかは、今後どういう相手から調達するかの方針によります。エンジェル中心で進めるなら対応する価値があり、事業会社からの出資を主に考えるなら、優先度は下がります。
会社に直接の利益はありません。今後どの相手から調達するかの方針で、優先度を決めてください。
4番目を見落とさないでください。事業会社からの出資が、この制度の要件に影響します。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。