
エンジェル投資家は個人の資金で投資します。機関投資家は、他者から預かった資金を運用します。この違いが、条件と進み方のほとんどを説明します。
個人の資金なら、判断は本人で完結します。納得すれば決められるので、速くなります。一方で預かった資金なら、投資の判断には手続きがあり、運用の期間にも制約があります。
したがって、どちらが良いという話ではありません。資金の出どころから、何が起きるかを予測できるという話です。
違いの根は資金の出どころです。個人の資金か、預かった資金か。ここから他がすべて説明できます。
機関投資家は、資金を預けたLPに対して説明する責任があります。投資の判断も、その後の管理も、説明できる形で行う必要があります。
これが、条件が厚くなる理由です。表明保証、拒否権、報告義務、優先分配。どれも「なぜその条件を付けたか」を説明できるようにするための仕組みでもあります。
エンジェルにはこの制約がありません。本人が納得すれば、条件を軽くすることもできます。ただし裏返せば、判断が個人の感覚に依存するということでもあります。
| エンジェル | 機関投資家 | |
|---|---|---|
| 説明する相手 | 自分自身 | LP、投資委員会 |
| 判断の基準 | 事業と人への納得 | ファンドの方針と、投資基準 |
| 条件の根拠 | 合意すれば足りる | 説明できる必要がある |
機関投資家はLPへの説明責任を負っています。条件が厚くなるのは、その帰結です。
実際の交渉で違いが出るのは、次の6点です。
| 点 | エンジェル | 機関投資家 |
|---|---|---|
| 金額 | 数百万〜数千万円 | 数千万〜数億円 |
| 速さ | 数週間で決まることもある | 2〜4か月かかる |
| 条件 | 軽いことが多い | 標準的な条項が一通り入る |
| 調査の深さ | 限定的 | 資料の提出と質問が続く |
| 出口への期待 | 緩やかなこともある | 運用期間の制約がある |
| 調達後の関与 | 個人の経験に依存 | 組織として支援の体制がある |
金額の差は、そのままどの段階で当たるかを決めます。創業直後にまとまった金額が必要でないなら、エンジェルで足りることが多くなります。
6点のうち、実務でいちばん効くのは速さと条件の厚さです。
エンジェルは1人あたりの金額が小さいため、まとまった額を集めるには複数人が必要になります。5人から集めれば、5回の説明と5通の契約が発生します。
一方、機関投資家は1社でまとまった金額を出せますが、判断までに2〜4か月かかります。その間も資金は減ります。
| 3,000万円を集める場合 | |
|---|---|
| エンジェル中心 | 5〜10人。個別の説明と契約。数週間〜2か月 |
| 機関投資家1社 | 1社。調査と条件交渉。2〜4か月 |
| 組み合わせ | リードを1社決め、残りをエンジェルで埋める |
3つ目の組み合わせが実務では多く取られます。条件はリード投資家と決め、他の投資家は同じ条件で参加する形です。条件の交渉が1回で済むため、全体の時間が短くなります。
人数が増えるほど手続きも増えます。リードを決めて、条件は1回で交渉するのが効率的です。
機関投資家の投資契約には、標準的な条項が一通り入ります。
エンジェルの場合、これらが省略されることがあります。ただし「条件が軽い=有利」とは限りません。
条件が定まっていないと、後から論点になります。とくに、株式を売るときの扱いと、次のラウンドでの協力義務は、決めておかないと次の調達で止まる要因になります。
エンジェルからの出資でも、次の点は書面にしてください。①株式を譲渡するときの会社の承認 ②次のラウンドで必要な手続きへの協力義務 ③情報の秘密保持。これがないと、後から調整が必要になります。
条件が軽いことは有利とは限りません。譲渡の承認・協力義務・秘密保持は残してください。
機関投資家は、資料の提出と質問を重ねます。登記、決算書、契約書、労務、知的財産。整理されていないほど、時間がかかります。
エンジェルの場合、ここは限定的です。事業の説明と、簡単な資料の確認で終わることもあります。
ただし、エンジェルの段階で整理していなかったものは、次のラウンドで必ず出てきます。先送りしているだけなので、早いうちに整えておくほうが結局は楽になります。
| 整えておくもの | いつ必要になるか |
|---|---|
| 登記と資本政策表の一致 | どの段階でも |
| 業務委託の成果物の権利 | 機関投資家のデューデリジェンス |
| 雇用契約と労務の状況 | 同上 |
| 取引契約の条項 | 同上 |
エンジェルの段階で省いたものは次で必ず出てきます。先に整えるほうが楽になります。
機関投資家のファンドには運用期間があります。その期間内に投資と回収を終える必要があるため、出口の時期に制約があります。
ファンドの組成から年数が経っているほど、残りの期間は短くなります。「このファンドは何年目ですか」と聞いてよい質問です。残り期間が短ければ、早い出口を求められる可能性があります。
エンジェルには、この制約がありません。ただし個人の事情(資金が必要になる、相続など)で状況が変わることはあります。
ファンドの残り運用期間を聞いてください。出口を求められる時期に直結します。
資金以外に何が得られるかも、選ぶときの材料になります。
| エンジェル | 機関投資家 | |
|---|---|---|
| 支援の中身 | 本人の経験と人脈 | 採用支援、投資先同士の紹介、次の調達の支援 |
| 関与の頻度 | 人による。密なこともある | 定例の報告が中心 |
| 再現性 | その人がいなくなると消える | 組織として続く |
エンジェルの支援はその人の経験に依存します。同じ業界で事業を作った経験があるなら、実務に踏み込んだ助言が得られます。逆に、業界が違えば助言の精度は下がります。
「誰から受けるか」を、資金の条件と同じくらい見てください。個人からの出資は、その人との長い関係の始まりです。
エンジェルの支援はその人の経験しだいです。誰から受けるかを条件と同じくらい見てください。
実務では、リードを機関投資家が務め、エンジェルが同じ条件で参加する形が多くあります。このとき決めることが3つあります。
2つ目が重要です。少額の出資者まで拒否権を持つと、判断のたびに全員の同意が必要になります。保有比率の要件を設けるか、リードに集約する設計にしてください。
両方が入るなら条件はリードと交渉し、拒否権もリードに集約します。
| 見る点 | 確認の仕方 |
|---|---|
| 投資の経験 | これまでに何社に投資したか。継続しているか |
| 事業の理解 | 同じ業界での経験があるか |
| 追加投資の余力 | 次のラウンドでも出せるか |
| 他の投資先との関係 | 競合に投資していないか |
| 連絡の取りやすさ | 手続きが必要なとき、すぐ対応してもらえるか |
4つ目を確認してください。競合に投資している場合、情報の扱いが問題になります。投資を受ける前に聞いておくべき項目です。
5つ目も実務で効きます。次のラウンドでは、既存株主の押印や同意が必要になる場面があります。連絡がつかない株主が1人いるだけで、手続きが止まります。
競合への投資と連絡の取りやすさを確認してください。後で効いてきます。
| 見る点 | 確認の仕方 |
|---|---|
| ファンドの残り期間 | 組成から何年目か |
| 投資の段階 | シードか、シリーズA以降か。方針に合うか |
| 追加投資の方針 | 次のラウンドでも出す方針か |
| 担当者の継続性 | 担当が変わることがあるか |
| 投資先の評判 | 既存の投資先に、実際の関わり方を聞く |
5つ目がもっとも確実な方法です。投資先の経営者に直接聞いてください。うまくいっている会社だけでなく、思うようにいかなかった会社にも聞けると、実態が分かります。
3つ目も重要です。次のラウンドで既存投資家が追加で出すかどうかは、新規の投資家が見る材料になります。方針を先に確認しておいてください。
もっとも確実なのは既存の投資先に聞くことです。条件書には書かれていない実態が分かります。
断られたときの伝え方にも違いがあります。そこから読み取れる情報があります。
| エンジェル | 機関投資家 | |
|---|---|---|
| 伝え方 | 率直なことが多い | 理由をぼかすことがある |
| 理由の中身 | 事業への評価、資金の都合 | ファンドの方針、投資段階、投資基準 |
| 再度の相談 | 状況が変われば話しやすい | 次のラウンドで改めて相談できる |
機関投資家が理由をぼかすのは、事業を否定したと受け取られることを避けるためです。ここで引き下がらず、「今後どういう状態になれば、再度ご検討いただけますか」と聞いてください。この聞き方なら答えやすく、次に何を作ればよいかが分かります。
また、断られても関係を切る必要はありません。定期的に状況を送っておくと、次のラウンドで判断が速くなります。月次や四半期で、数字と進捗を短くまとめて送る形で十分です。
断られたら「どういう状態になれば再検討できるか」を聞いてください。次に作るものが分かります。
同じ金額でも、相手によって付いてくるものが変わります。何を求めるかを先に決めておくと、選びやすくなります。
| 求めるもの | 向いている相手 | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 採用の支援 | 機関投資家 | 採用を支援する担当がいるか |
| 顧客の紹介 | どちらも | 投資先や人脈の重なり |
| 業界の知見 | その業界の経験があるエンジェル | 過去の事業と役割 |
| 次の調達の支援 | 機関投資家 | 投資先の次ラウンドの実績 |
| 信用の裏づけ | 知名度のある投資家 | 取引先や採用の場で効くか |
5つ目は測りにくい要素ですが、実際には効きます。大企業との取引や採用の場面で、株主が誰かを見られることがあります。とくに実績が少ない段階では、これが判断の材料の一部になります。
ただし、これを理由に条件を譲りすぎないでください。信用は事業の実績で作るものであり、株主の名前で代替できるのは初期の一時期だけです。
資金以外に何を求めるかを先に決めます。ただし信用のために条件を譲りすぎないでください。
順序に決まりはありませんが、状況によって向き不向きがあります。
| 状況 | 先に当たる相手 | 理由 |
|---|---|---|
| まだ実績がない | エンジェル | 機関投資家の基準に届きにくい |
| 急いでいる | エンジェル | 判断が速い |
| まとまった金額が要る | 機関投資家 | 1社で出せる |
| 次のラウンドを見込む | 機関投資家 | 継続的な支援の体制がある |
実務では、エンジェルで立ち上げ、実績を作ってから機関投資家に当たるという順序が多くなります。エンジェルからの出資があること自体が、次の投資家にとっての材料にもなります。
実績がない段階はエンジェルから。実績を作ってから機関投資家に当たる順序が自然です。
7番目が、いちばん情報が得られる項目です。投資先に聞いてください。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。