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投資契約の表明保証で、何を約束することになるか

表明保証は事実の確認ではなく契約上の約束です。「知る限り」の有無で責任がどう変わるか、創業者個人が当事者になる意味、開示別紙の使い方までを整理します。

公開:2026年9月14日 Creww Finance Media 編集部
この記事の内容

  1. 表明保証は「事実の確認」ではなく「約束」
  2. なぜ投資家はこれを求めるのか
  3. 典型的な項目を一覧で見る
  4. 「知る限り」の有無で、意味がまったく変わる
  5. 違反したときに何が起きるか
  6. 補償の上限と期間
  7. 会社が負うのか、創業者個人が負うのか
  8. 開示別紙という逃げ道
  9. デューデリジェンスと表明保証は、どうつながっているか
  10. 署名の前に整理しておく資料
  11. チェックリスト
  12. よくある質問

表明保証は「事実の確認」ではなく「約束」

投資契約には、会社と創業者が「これらは事実です」と述べる条項が並びます。表明保証と呼ばれるものです。

読み流されやすいのですが、これは確認ではなく約束です。書かれている内容が事実と違っていた場合、契約上の責任が発生します。知らなかった、気づかなかった、という説明は原則として通りません。

表明保証一定の事項が真実かつ正確であることを、契約の当事者が相手に対して述べ、保証すること。
補償条項表明保証に違反があった場合に、損害を金銭で埋めることを定めた条項。
開示別紙表明保証の例外を書き出した一覧。ここに書いたものは違反にならない。
知る限り「自分の知る限りでは」という限定。付くと、知らなかった事実については責任を負わない。
この章の要点

表明保証は事実の確認ではなく、契約上の約束です。違っていれば責任が発生します。

なぜ投資家はこれを求めるのか

投資家は、会社の内部を完全には見られません。デューデリジェンスで資料を確認しても、出てこなかった事実まではたどり着けません。

そこで、「見えない部分について、問題がないことを会社側に約束してもらう」という形を取ります。もし約束と違っていたら金銭で埋める、という取り決めをセットにすることで、見えないリスクを扱える形にしているわけです。

つまり表明保証は、投資家が意地悪をしているのではなく、情報の非対称を埋めるための仕組みです。この前提を理解しておくと、交渉の仕方が変わります。「削ってください」より「ここは開示別紙に書きます」のほうが通りやすいのは、そのためです。

隠すより、書き出すほうが安全

問題のある事実を伏せて署名すると、後で発覚したときに表明保証違反になります。先に開示別紙へ書き出しておけば、それは違反になりません。開示した内容を理由に条件が変わることはあっても、契約後に責任を問われるよりはるかに軽く済みます。

この章の要点

目的は情報の非対称を埋めることです。だから「隠す」より「開示する」ほうが結果として有利になります。

典型的な項目を一覧で見る

契約によって並びは違いますが、扱われる範囲はおおむね共通しています。

分野 約束する内容の例 つまずきやすい点
会社の存在 適法に設立され、存続していること —
株式 発行済株式・新株予約権が資料のとおりであること 資本政策表と登記が一致していない
計算書類 決算書が適正に作成されていること 費用の計上時期、売上の認識
負債 開示した以外の債務がないこと 役員借入金、未払いの残業代、保証
契約 重要な契約に違反がないこと 解除条項、支配権変更条項
知的財産 事業に必要な権利を保有していること 業務委託先が作ったものの権利帰属
労務 法令に従って労務管理をしていること 残業代、業務委託と雇用の区別
税務 申告・納付を適正に行っていること —
訴訟 係争や、その見込みがないこと クレームの段階のものをどう扱うか
関連当事者取引 役員やその親族との取引を開示したこと 代表個人からの借入、家族への支払い

スタートアップで実際に問題になりやすいのは、知的財産・労務・関連当事者取引の3つです。いずれも、創業初期の運用がそのまま残っていることが原因になります。

この章の要点

実務で引っかかるのは知的財産の権利帰属・労務・関連当事者取引。創業初期の運用が残っている部分です。

「知る限り」の有無で、意味がまったく変わる

同じ項目でも、「知る限り」という限定が付いているかどうかで、負う責任の重さが変わります。

限定なし 「知る限り」付き
知らなかった事実 責任を負う 責任を負わない
争点になるもの 事実かどうか 知っていたかどうか
使われやすい項目 株式、計算書類など自社で把握できる事項 第三者の行為に関わる事項

交渉の実務では、自社で確実に把握できる事項は限定なし、把握しきれない事項には「知る限り」を付けるという切り分けを提案する形になります。

たとえば「取引先が法令に違反していないこと」を限定なしで保証するのは、現実的ではありません。取引先の内部は見られないからです。一方で「発行済株式数が資料のとおりであること」は、自社で確認できます。

また「知る限り」の範囲を、誰の認識で判断するかも決めておきます。代表だけなのか、役員全員なのか、一定の役職者まで含むのか。範囲が広いほど、責任も広くなります。

この章の要点

自社で把握できるかどうかで切り分けます。「知る限り」の対象になる人の範囲も確認してください。

違反したときに何が起きるか

表明保証に違反があった場合の扱いは、補償条項で定められます。段階は3つあります。

3つ目がもっとも重い定めです。投資家が保有する株式を、会社または創業者に買い取らせるという内容で、実質的に出資の巻き戻しに近くなります。この定めがあるかどうかは必ず確認してください。

買取請求の条項は、個人の資産に届くことがある

買取りの義務者に創業者個人が含まれていると、会社の資金ではなく個人の資産で対応することになります。会社が破綻していても義務は残ります。この条項の有無と、義務者が誰かは、契約全体の中でもっとも重い部分です。

この章の要点

もっとも重いのは株式買取請求の定めです。義務者に個人が含まれているかを確認してください。

補償の上限と期間

補償が無制限・無期限だと、リスクが計算できません。そこで通常は上限と期間を定めます。

項目 何を決めるか 交渉の観点
補償の上限 いくらまで補償するか 投資額を上限にできるか
請求できる期間 いつまで請求できるか 期間が長いほど、リスクが残り続ける
最低金額 いくら以上の損害から請求できるか 少額の請求が積み重なるのを防ぐ
例外 上限や期間の対象外とする項目 税務や株式に関する項目は例外とされることがある

上限は投資額と同額とする例をよく見ますが、当編集部で確認できる統一的な基準はありません。重要なのは、上限がいくらで、どの項目が例外になっているかを把握することです。

期間は、税務に関する項目だけ長く設定されることがあります。税務調査の時効を意識した設計です。「全部同じ期間」と思い込まないでください。

この章の要点

確認するのは上限・期間・最低金額・例外の4つ。とくに例外とされる項目に注意してください。

会社が負うのか、創業者個人が負うのか

実務でもっとも重い論点がこれです。表明保証をするのは会社だけなのか、創業者個人も当事者として加わるのか。

会社のみ 創業者個人も
補償の原資 会社の資産 個人の資産
会社が破綻した場合 実質的に回収できない 個人に請求が残る
創業者にとって 事業上のリスクにとどまる 個人の生活に影響しうる

創業者個人が当事者になる形は珍しくありません。投資家からすれば、会社だけを相手にしても回収できない場面があるためです。

個人が加わることを受け入れる場合でも、次の点は確認してください。

3つ目は見落とされやすい項目です。連帯して責任を負う定めだと、他の創業者が支払えない場合に1人で全額を負担することになります。

この章の要点

個人が当事者になる場合、項目の限定・上限・連帯かどうかの3点を確認してください。

開示別紙という逃げ道

表明保証の例外を書き出す別紙です。ここに記載した事項については、表明保証の違反になりません。

たとえば「訴訟がないこと」と保証しつつ、開示別紙に「◯◯社との間でクレームを受けている」と書いておけば、その件で責任を問われることはありません。

実務では、この別紙を作る作業が、表明保証への対応そのものになります。契約書の条項を削る交渉より、別紙を丁寧に作るほうが確実です。

書き出すもの 具体例
解決していない事項 クレーム、未払いの指摘、係争になりうる話
整理が済んでいない権利関係 業務委託先が作ったものの権利帰属
関連当事者との取引 代表からの借入、親族への支払い
契約上の制約 支配権変更条項、独占条項
労務上の未整理 残業代の扱い、業務委託の実態
「小さいから書かなくていい」と判断しない

書くかどうか迷ったものは、書いてください。書いて条件が変わることはあっても、書かずに後で発覚するほうがはるかに重い結果になります。投資家は、開示された事実そのものより「開示されなかった」という事実を重く見ます。

この章の要点

条項を削るより開示別紙を丁寧に作るほうが確実です。迷ったものは書いてください。

デューデリジェンスと表明保証は、どうつながっているか

出資の検討では、投資家が資料を確認するデューデリジェンスが先に走り、その後に契約の交渉が来ます。この2つは別の作業に見えますが、実際には連続しています。

段階 やること 表明保証との関係
1. 資料の提出 登記、決算書、契約書などを開示する ここで出した内容が、後の表明保証の前提になる
2. 質問と回答 投資家からの照会に答える 回答した内容も前提に含まれる
3. 論点の整理 見つかった問題を投資家と共有する ここで共有したものが開示別紙の原型になる
4. 契約の交渉 表明保証と補償の条項を詰める 整理できていない論点ほど、条項が重くなる

関係を一言でいえば、デューデリジェンスで見えたものは条件に反映され、見えなかったものは表明保証で担保されるという構造です。

ここから導かれることが2つあります。

1. 早く出したほうが、条件は軽くなる

問題が後から出てくるほど、投資家は「他にもあるのではないか」と見ます。結果として、表明保証の範囲が広がり、補償の条件も厳しくなります。3の段階で出し切っておくほうが、4での交渉が軽くなります。

2. 整理してから出すか、そのまま出すかを選べる

見つかった問題のうち、署名までに解決できるものは解決してから出す、という進め方もできます。業務委託先からの権利譲渡の書面を取る、未払いを精算する、といった対応です。

ただし全部を解決してから出そうとすると、交渉が止まります。解決できるものは解決し、できないものは開示別紙に書く。この切り分けを早い段階で決めてください。

デューデリジェンスは、次のラウンドでも繰り返される

1回目で整理した内容は、2回目以降の土台になります。資料の置き場所と、開示別紙の内容を残しておくと、次のラウンドの負担が大きく減ります。毎回ゼロから探し直している会社と、更新するだけの会社では、調達にかかる時間が変わります。

この章の要点

見えたものは条件に、見えなかったものは表明保証に。早く出すほど条項は軽くなります。

署名の前に整理しておく資料

表明保証に答えるには、自社の状態を把握している必要があります。前もって揃えておくと、交渉の時間が短くなります。

資料 確認すること
登記事項証明書 発行済株式数、新株予約権、役員が現状と一致しているか
株主名簿と資本政策表 登記と一致しているか。潜在株式まで反映されているか
決算書と試算表 直近の数字が出せるか
借入の一覧 役員借入金を含めて漏れがないか
重要な契約 解除条項、支配権変更条項の有無
業務委託契約 成果物の権利が会社に帰属する定めがあるか
雇用契約と就業規則 労働時間の管理、割増賃金の扱い
ストックオプションの一覧 付与日、株数、行使価額、状態

とくに業務委託先が作った成果物の権利は、創業初期に契約書なしで進めていることが多く、後から整理が必要になります。事業の中核がそこにある場合、出資の前提として整理を求められます。

この章の要点

先に揃えるほど交渉は短くなります。業務委託の成果物の権利は、早めに確認してください。

チェックリスト

投資契約に署名する前に

  • 表明保証の項目を1つずつ読み、事実と違うものがないか確認した
  • 「知る限り」が付くべき項目に付いているか確認した
  • 「知る限り」の対象になる人の範囲を確認した
  • 補償の上限・期間・最低金額を把握した
  • 上限や期間の例外とされている項目を確認した
  • 株式買取請求の定めがあるかを確認した
  • 創業者個人が当事者になっているかを確認した
  • 個人が負う場合、連帯か分担かを確認した
  • 開示別紙に、迷ったものをすべて書き出した
  • 登記・株主名簿・資本政策表が一致している
  • 弁護士に条項を確認してもらった
この章の要点

順番は①事実と違う項目を探す ②「知る限り」を交渉する ③開示別紙を作る。この順で進めてください。

よくある質問

Q. 表明保証は交渉で削れますか
項目ごと削るのは難しいことが多く、現実的なのは「知る限り」を付ける、重要性の限定を入れる、開示別紙に書き出す、という方向です。削る交渉より、こちらのほうが通りやすくなります。
Q. 事実と違うことに後から気づいたら、どうすればよいですか
署名前であれば、開示別紙に追記して修正します。署名後に気づいた場合は、弁護士に相談したうえで、投資家へ速やかに伝えるかどうかを判断することになります。放置すると、発覚したときの扱いが重くなります。
Q. 補償の上限は、投資額と同額が普通ですか
当編集部で確認できる統一的な基準はありません。上限が投資額を超える設計や、項目によって例外を設ける設計もあります。数値の相場を探すより、自社が負う最大額を把握することが実務上は重要です。
Q. 創業者個人が当事者になるのを断れますか
交渉の余地はありますが、断りきれないことも多くあります。その場合は、保証する項目を限定する、補償の上限を設ける、連帯ではなく分担にする、という方向で条件を調整することになります。
Q. 開示別紙に書いたことで、出資が止まることはありますか
内容によってはあります。ただし、書かずに署名して後から発覚した場合は、補償や買取請求の対象になります。止まる可能性があっても、先に開示するほうが結果として軽く済みます。
Q. デューデリジェンスで資料を出していれば、開示したことになりますか
契約の定め方によります。「デューデリジェンスで開示した事項は表明保証の例外とする」という定めがあれば該当しますが、無い場合は開示別紙に明記する必要があります。この定めの有無を確認してください。
Q. 業務委託先が作ったコードの権利が整理できていません
事業の中核であれば、出資の前提として整理を求められます。過去の委託先に権利譲渡の書面を求めることになりますが、連絡がつかない場合もあるため、早めに着手してください。開示別紙にも記載します。
Q. 未払いの残業代がある可能性があります
労務は表明保証で必ず扱われる分野です。実態を把握したうえで、開示別紙に書くかどうかを弁護士と判断してください。把握していない状態で「法令を遵守している」と保証するのが、いちばん避けるべき形です。
Q. 2回目以降のラウンドでも、毎回やりますか
ラウンドごとに行うのが通常です。前回から今回までの間に起きたことが対象になります。前回の開示別紙を土台に更新していく形にしておくと、作業が軽くなります。
Q. 弁護士に見てもらうべきですか
見てもらってください。表明保証と補償の条項は、金額と責任の範囲を決める部分です。本記事は条項の読み方を整理したもので、個別の契約についての判断を行うものではありません。
出典

  • 民法 第415条(債務不履行による損害賠償)、第709条(不法行為による損害賠償)— e-Gov法令検索
  • 会社法 第199条(募集事項の決定)— e-Gov法令検索
  • 経済産業省「新規事業の創造・拡大」— 経済産業省