
創業時の株式配分は、いちばん情報が少ない時点で、いちばん戻しにくい決定をするという構造をしています。
誰がフルタイムになるのか、誰が1年後も残っているのか、資金はいくら要るのか。決める時点では、どれも分かりません。それでも配分は決めなければ登記ができないので、その場の納得感で決めることになります。
問題は、その決定が効いてくるのが数年後だという点です。決めた直後は誰も困りません。困るのは、事業が動き始めて、人が入れ替わり、外部から資金を入れる段になってからです。
配分は情報が最も少ない時点で決める、最も戻しにくい決定です。決めた直後は誰も困らないため、問題が見えるのは数年後になります。
創業時の配分が効いてくる経路は、大きく3つです。どれも「株を何%持っているか」そのものではなく、比率が別のことを決めてしまうという形で現れます。
| 経路 | いつ効くか | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 意思決定 | 方針が割れたとき | 議決権の比率で結論が決まる。話し合いで決着しない場面で顕在化する |
| 離脱 | 誰かが抜けるとき | 取り決めがなければ、抜けた人が株式を持ったまま残る |
| 次の調達 | 出資を受けるとき | 働いていない人の持分が大きいと、投資家が難色を示すことがある |
3つのうち、実際にいちばん多いのは2つ目の離脱です。共同創業は解消されることがあり、そのときに株式をどう扱うかを決めていなければ、事業から離れた人が議決権を持ち続けます。
株式は財産なので、会社の都合で消したり戻したりはできません。買い戻すには本人の同意と、買い取るための現金が要ります。事業が伸びているほど株価が上がり、買い戻しは難しくなります。つまり問題が大きくなるほど、解決しにくくなる種類の問題です。
効いてくるのは比率そのものではなく、比率が決めてしまう意思決定・離脱・次の調達の3つです。実務で多いのは離脱です。
持株比率は連続した数字ですが、できることは段階で変わります。会社法が決めている主な境目は次のとおりです。
普通決議は取締役の選任など、特別決議は定款の変更や新株の有利発行などです。いずれも「出席した株主の議決権のうち」で数えるので、全株主が出席した場合の目安として読んでください。
ここで見落とされやすいのが1/3超です。過半数を持っていれば安心と考えがちですが、相手が1/3を超えて持っていれば、定款変更や増資の一部を単独で止められます。「決められる」と「止められない」は別の話です。
さらに小さい比率にも意味があります。議決権の3%以上を持つ株主は会計帳簿の閲覧を請求でき、1%以上(または300個以上の議決権を6か月以上)を持つ株主は株主総会に議案を提案できます。数%でも、無関係ではありません。
比率の境目は 2/3・過半数・1/3・3%・1%。「決められるか」と「止められるか」は別の線で分かれます。
2人で50:50、3人で1/3ずつ。均等割りは、決める時点ではもっとも納得しやすい配分です。実際に選ばれることも多くあります。
ただし均等は「誰も過半数を持たない」状態でもあります。全員の意見が一致している間は何も起きませんが、割れたときに決める手段がありません。
均等を選ぶこと自体が悪いわけではありません。問題は、均等にしたうえで、割れたときの決め方を決めていないことです。代表に最終決定権を置く、外部に判断を委ねる、といった取り決めを株主間契約に入れておけば、均等でも動きます。
均等割りは「誰も過半数を持たない」状態です。選ぶなら、割れたときの決め方を同時に決めてください。
配分の話は「これまで何をしたか」に寄りがちです。創業前の準備、アイデアの出どころ、持ち込んだ人脈。どれも事実ですが、会社の価値をつくるのはこれからの数年です。
判断材料を並べると、次のように分かれます。
| 材料 | 見るもの | 扱い方 |
|---|---|---|
| これからのコミット | フルタイムか、いつから専念するか | いちばん重く見る。会社の価値はここから作られる |
| 担う役割 | 代表として責任を負うか、専門領域を持つか | 重く見る。責任の重さは比率に反映されやすい |
| 出資額 | 設立時にいくら払い込むか | 金額どおりに比率へ換算すると歪む。別枠で考える |
| 持ち込んだ資産 | 知的財産、既存の顧客、開発済みのもの | 評価して株式にするか、会社へ譲渡して対価を払うかを分けて考える |
| これまでの準備 | 創業前の作業 | 軽く見る。株式ではなく初期の報酬で扱えることが多い |
出資額をそのまま比率にするのは避けたほうがよい場面が多くあります。設立時の払込は数十万円という規模で、その後の数年の労働と釣り合いません。100万円多く払ったことで比率が大きく動くと、あとで説明がつかなくなります。
重く見るのはこれからのコミットと役割。出資額と持ち込んだ資産は、比率に混ぜず別枠で扱います。
配分の議論でもっとも整理が要るのが、この論点です。持ち込んだものと、これからの働きを、同じ物差しで測ろうとすると必ず揉めます。
分けて考える方法は2つあります。
開発済みのプロダクト、知的財産、顧客リストなどは、会社が買い取る形にできます。金額を決めて、現金または一定期間の分割で支払う。株式の比率とは切り離せるため、後から見て説明しやすくなります。
この形を取る場合、会社の帳簿に資産として計上され、税務上の扱いも発生します。金額の妥当性を説明できるようにしておいてください。
現金がない段階では、株式で払うことになります。このとき決めるのは「その人がこれからも関わるかどうか」です。
2つ目の場合、その株式は数年後も同じ比率で残り続けます。会社が伸びるほど金額は大きくなり、次の調達では「この人は誰ですか」と必ず聞かれます。
アイデアを出したことに対して株式を渡す、という発想は避けたほうが安全です。会社の価値は、アイデアではなく実行から生まれます。アイデアの提供者がこれからも関わるなら、その関わり方に対して配分してください。関わらないなら、対価で精算するほうが後の整理が簡単です。
持ち込んだものは対価で払うか、株式で払うかを分ける。株式で払うなら、これからも関わるかで扱いを変えます。
人数によって、決めるべきことが変わります。
いちばん起きやすいのが50:50です。納得しやすい反面、割れた時点で普通決議すら通りません。2人で均等にするなら、次のどちらかを同時に決めてください。
「揉めることはない」という前提で進めると、揉めたときに手段がありません。仕組みは、必要にならないことを願って置くものです。
均等にすると誰も過半数を持ちませんが、2人が組めば過半数になります。2人のときのような完全な膠着は起きにくい代わりに、2対1の構図が固定されやすくなります。
また、人数が増えるほど1人あたりの比率が小さくなり、抜けたときの影響も分散します。4人で25%ずつなら、1人抜けても残り3人で75%を保てます。
| 人数 | 均等にした場合 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 2人 | 50%ずつ | 割れると決められない。決め方を別に定める |
| 3人 | 約33%ずつ | 2対1が固定されやすい。特別決議には届かない |
| 4人以上 | 25%以下 | 1人あたりが小さく、意思決定が分散する |
2人の均等は決め方を同時に定めないと動きません。3人以上では2対1の構図に注意します。
配分の話は切り出しにくいものです。順序を決めておくと、感情の問題になりにくくなります。
| 順 | 話すこと | なぜこの順か |
|---|---|---|
| 1 | それぞれが、いつからフルタイムになるか | 事実の確認から入る。比率の話ではない |
| 2 | 誰がどの領域に責任を持つか | 役割が決まると、重さの感覚が揃う |
| 3 | 持ち込むものをどう扱うか | 株式で払うか対価で払うかを分けておく |
| 4 | 抜けたときにどうするか | 比率の前に決める。関係が良いうちにしか話せない |
| 5 | 割れたときにどう決めるか | 同上 |
| 6 | 最後に比率を決める | ここまでの前提が揃っていれば、議論は短い |
比率を最後に置くのが要点です。1〜5が揃っていないまま比率から入ると、根拠のない数字の押し引きになります。逆に前提が揃っていれば、比率はほとんど自動的に決まります。
1回の話し合いで結論まで持っていこうとすると、その場の空気で決まります。前提を並べたところでいったん置き、日を改めて比率を決めるほうが、後から覆りにくくなります。取り消せない決定なので、急ぐ理由はありません。
比率は最後に話す。前提が揃っていれば、議論はほとんど必要ありません。
比率の議論に入る前に、決めておくと後が楽になることが2つあります。どちらも「もし」の話なので、関係が良いうちにしか決められません。
一定期間働き続けることを条件に株式を確定させていく取り決め(ベスティング)や、離脱時に会社または他の創業者が買い取れる条項です。口頭の合意は機能しません。関係が悪くなってから「戻す約束だった」と言っても、書面がなければ通りません。詳しくは共同創業者が抜けたときの記事で扱います。
重要な事項について、誰の同意が必要か。逆に、誰かが単独で決められるのはどこまでか。株主間契約で定めておくと、均等配分でも意思決定が止まりません。この論点は株主間契約の拒否権の記事で扱います。
配分を決めたら、株数と1株あたりの金額を資本政策表に記録してください。「なぜこの比率にしたか」は、時間が経つと誰も再現できなくなります。取引履歴のシートに一言メモを残しておくと、次の調達のときに説明できます。
比率より先に「抜けたときの扱い」と「割れたときの決め方」を決めます。どちらも関係が良いうちにしか決められません。
配分を話し合う前に、前提を並べておくと議論が短くなります。1人1行で埋めるシートを置いておきます。
配分を決める前に、1人1行で前提を並べるためのシートです。決める前に確認することのリストも入っています。
はじめに|このシートの使い方
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 創業に関わる人を1人1行で書き出します(迷っている人も入れます) |
| 2 | 「いつからフルタイム」の欄を全員分そろえます。ここが空だと配分は決められません |
| 3 | 出資額と持ち込んだものは、比率に混ぜず別の列のまま置いておきます |
| 4 | 最後に配分案を入れ、下の確認リストを1つずつ見ます |
1 創業メンバーの整理(記入例)
| 氏名 | 担う役割 | いつからフルタイム | 設立時の出資額(円) | 持ち込むもの | 離脱したときの扱い | 配分案(%) | メモ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 山田 太郎 | 代表・事業全体 | 設立時から | 700,000 | — | 4年ベスティング/1年クリフ | 70 | 資金調達と採用を担当 |
| 佐藤 花子 | 開発責任者 | 3か月後から | 250,000 | 開発済みのプロトタイプ | 4年ベスティング/1年クリフ | 25 | プロトタイプは会社へ譲渡し対価を別途精算 |
| 鈴木 一郎 | 営業(副業) | 未定 | 50,000 | 既存の顧客リスト | 1年以内の離脱は全株買い戻し | 5 | フルタイム化の時期を要確認 |
| 合計 | 1,000,000 | 100 |
2 決める前に確認すること
| 確認すること | 見るところ |
|---|---|
| 全員のフルタイム開始時期が埋まったか | 空欄が残っていると、あとで必ず話が戻ります |
| 出資額を比率にそのまま換算していないか | 設立時の払込は、その後の数年の労働と釣り合いません |
| 持ち込むものを株式で払うのか対価で払うのか | 知的財産は会社へ譲渡し、対価を別に払う整理もできます |
| 誰も過半数を持たない配分になっていないか | 均等なら、割れたときの決め方を同時に決めます |
| 1/3を超える株主が誰になるか | 1/3超は、定款変更などの特別決議を単独で止められます |
| 離脱時の扱いを書面にする前提で話したか | 口頭の合意は、関係が良好なうちしか効きません |
| 数年後に外部から出資を受ける前提で見たか | 働いていない人の持分が大きいと、出資の障害になります |
3 議決権の境目(参考)
| 比率 | できること |
|---|---|
| 2/3以上 | 特別決議を通せる(定款変更、新株の有利発行など) |
| 過半数 | 普通決議を通せる(取締役の選任など) |
| 1/3超 | 特別決議を単独で止められる |
| 3%以上 | 会計帳簿の閲覧を請求できる |
| 1%以上 | 株主総会に議案を提案できる(または300個以上の議決権を6か月以上保有) |
| ※ | いずれも出席した株主の議決権で数えます。全株主が出席した場合の目安です |
コピーを押すと、タブ区切りでクリップボードに入ります。 Googleスプレッドシートに貼ると列が揃ったまま入ります(計算式は入りません)。
入っている数字はすべて記入例です。実在の会社のものではありません。 自社の数字に置き換えて使ってください。
埋めてみると、議論が「何%か」ではなく「誰がいつからフルタイムか」に移ります。そこが揃っていないまま比率だけ先に決めると、数か月後に必ず話が戻ります。
比率の前に前提を並べます。埋まらない欄がある状態で決めた配分は、あとで揉める場所がそこです。
この記事は株式による調達の一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。