
相見積もりを取ることを今の事業者に伝えるべきか。この問いの答えは、「乗り換えたいのか、条件を下げたいのか」で変わります。
今の事業者を使い続けたいが条件は下げたい——なら伝えるべきです。すでに乗り換えを決めているなら、伝える必要はありません。
条件を下げたいなら伝える。乗り換えるなら伝えない。
| 起きること | 自社にとって |
|---|---|
| 条件の見直しを提示される | プラス |
| 担当者が上席に相談する | プラス |
| 実績を根拠に率が下がる | プラス |
| 他社の条件を聞かれる | — |
| 関係が悪くなることがある | マイナス |
| 今後の審査が慎重になる | マイナス |
| 枠を絞られる | マイナス |
継続して使っている顧客を失うのは、事業者にとっても損です。「他社も検討している」と伝えることで、初めて条件が見直されることは珍しくありません。
ただし、伝え方によっては関係が悪化します。後の章で扱います。
条件は動く余地があることが多い。伝え方が重要です。
| 起きること | 自社にとって |
|---|---|
| 今の関係を維持したまま比較できる | プラス |
| 不利な条件を出されるリスクがない | プラス |
| 乗り換えの選択肢を残せる | プラス |
| 条件は下がらない | マイナス |
| 他社の審査で情報が動くことがある | — |
当然ですが、言わなければ下がりません。「いつか下がるだろう」と待っていても、向こうから条件を下げてくることは稀です。
5番目については次の章以降で扱います。他社に見積もりを依頼すること自体が、まったく無関係に進むとは限りません。
伝えなければ、条件は今のままです。
| 今の事業者について | 伝えるか |
|---|---|
| 対応が速く、条件以外は満足している | 伝える |
| 枠が十分にある | 伝える |
| 長く使っていて実績がある | 伝える |
| 対応が遅い・不誠実 | 伝えない(乗り換える) |
| 契約内容に不安がある | 伝えない |
| 枠が足りない | 2社目を検討する |
手続きの速さ、担当者の対応、枠の大きさ。これらに満足しているなら、乗り換えのコストを払うより、条件の見直しを求めるほうが合理的です。
条件以外に不満がないなら、伝えて見直しを求める。
| 場面 | なぜ効くか |
|---|---|
| 契約の更新時期 | 条件を見直す自然なタイミング |
| 取引実績が積み上がったとき | リスクが下がった根拠がある |
| 売掛先が変わった・増えたとき | 信用力の高い先が増えた |
| 取引額が増えたとき | 事業者にとっての売上が増える |
| 決算書が改善したとき | 自社の信用も材料になる |
| 継続利用を約束できるとき | 相手にとっての価値 |
「1年間、毎月期日どおりに回収できています」という事実は、相手にとってリスクが下がったことの客観的な裏づけです。感情ではなく事実で交渉してください。
契約更新のタイミングは 契約更新のタイミングで条件は動くか の記事で扱っています。
交渉の根拠は実績という事実です。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 今すぐ資金が必要なとき | 足元を見られる |
| すでに乗り換えを決めているとき | 伝える意味がない |
| 審査中・実行直前 | 手続きが止まるリスク |
| 枠を絞られると困るとき | — |
| 資金繰りが逼迫しているとき | 交渉力がない |
「今月中に資金が必要」という状態で条件交渉をしても、まず通りません。資金が必要になる前、余裕のあるタイミングで話してください。
交渉できるのは余裕があるときだけです。
| 伝え方 | 効果 |
|---|---|
| 「継続前提で、条件を見直したい」 | 関係を壊さずに要求できる |
| 実績の数字を添える | 根拠になる |
| 今後の取引見込みを示す | 相手の売上の見通し |
| 他社の検討に触れる(事実として) | — |
| 期限を示す | 回答を促す |
乗り換えの脅しではなく、「続けたいので、条件を見直してもらえないか」という形にすることで、相手も社内で稟議を上げやすくなります。
具体的には、こう伝えます。「1年間で24回利用し、すべて期日どおりに回収されています。継続して使いたいので、条件を見直していただけないでしょうか。他社さんにも話を聞いていますが、御社と続けたいと思っています」
「継続前提で」の一言が、相手の社内を動かします。
| 言い方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 「他社は◯%だった」と嘘をつく | 信頼を失う。確認されれば終わり |
| 「下げないなら切る」と脅す | 関係が壊れる |
| 他社の見積書をそのまま見せる | 守秘義務に触れることがある |
| 感情的に不満を並べる | 交渉にならない |
| 担当者個人を責める | 社内で味方を失う |
見積書に守秘義務の定めがあることがあります。他社から受け取った書面を第三者に開示してよいか、必ず確認してください。
1番目は特に避けてください。同じ業界では情報が回ります。嘘が判明すれば、今の事業者だけでなく他社との関係にも影響します。
嘘と脅しは使わない。事実だけで交渉してください。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 同じ債権を複数社に譲渡しない | 二重譲渡になる。重大な問題 |
| 見積もりと契約は別だと明確にする | 誤解を避ける |
| 提出した資料の扱いを確認する | — |
| 信用情報の照会に同意したか確認する | 照会の記録が残ることがある |
| 売掛先に連絡が行かないか確認する | 2社間なら特に |
見積もりを取るだけなら問題ありませんが、同じ債権を複数社に実際に譲渡すると二重譲渡になります。刑事の問題になる可能性もあります。対象の債権は必ず1社にしてください。
見積もりの段階でも、「この債権は他社にも見積もりを依頼している」と伝えておくほうが安全です。事業者側も、譲渡登記の状況を確認します。
同じ債権を複数社に譲渡しない。見積もりと実行は別です。
1回500万円を月2回、年24回使っている場合です。
| 手数料率 | 1回の手数料 | 年間の手数料 | 差 |
|---|---|---|---|
| 8% | 40万円 | 960万円 | — |
| 7% | 35万円 | 840万円 | ▲120万円 |
| 6% | 30万円 | 720万円 | ▲240万円 |
| 5% | 25万円 | 600万円 | ▲360万円 |
1回あたりでは5万円の差ですが、年24回なら120万円です。交渉に使う時間に対して、効果は十分に大きいと言えます。
自社の実績を並べる方法は 今の手数料が高いかどうかを判断する材料 の記事で扱っています。
1ポイントで年120万円。交渉する価値があります。
| 資料 | なぜ必要か |
|---|---|
| 対象の請求書 | 見積もりの前提 |
| 基本契約書・発注書・検収書 | 債権の存在を示す |
| 過去6か月以上の入金履歴 | 回収実績を示す |
| 決算書・試算表 | 自社の状況 |
| 今の条件の一覧 | 比較の基準 |
| 売掛先の情報 | — |
会社ごとに出す情報が違うと、返ってくる見積もりを比べられません。同じ債権・同じ資料で依頼してください。
同じ債権・同じ資料で依頼しないと比べられません。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 対象の債権を1件(または1セット)に決める |
| 2 | 資料を揃えて、同じ内容で送る |
| 3 | 「複数社に依頼している」と各社に伝える |
| 4 | 回答期限を揃える |
| 5 | 手数料だけでなく、掛け目・費用・スピードも聞く |
| 6 | 1社に決めてから、その社とだけ手続きを進める |
| 7 | 他社には断りの連絡を入れる |
多すぎると資料の提出と対応の手間が増え、審査も同時に走ります。今の事業者を含めて3社程度が、現実的な数です。
3社程度。回答期限を揃えて比べてください。
| 比べる項目 | なぜ |
|---|---|
| 手数料率 | — |
| 掛け目(額面の何%を買い取るか) | 今もらえる現金が変わる |
| 手数料以外の費用 | 事務手数料・登記費用など |
| 実際に手元に入る金額 | これが結論 |
| 入金までの日数 | 速さの価値 |
| 2社間か3社間か | 条件が違えば比べられない |
| 償還請求権の有無 | リスクの所在 |
| 継続利用時の条件 | 2回目以降も同じか |
手数料率だけを並べても比べられません。額面500万円に対して、手元にいくら入り、いつ、残りはどうなるのか。この形に揃えてください。
見えにくい費用は 見積書に出てこない費用を洗い出す の記事で扱っています。
比べるのは率ではなく、実際に手元に入る金額です。
| やること | なぜ |
|---|---|
| 断りの連絡を必ず入れる | 次に必要になることがある |
| 理由を簡潔に伝える | — |
| 他社の具体的な条件は言わない | 守秘義務・信義の問題 |
| また相談する可能性を伝える | 関係を残す |
| 提出した資料の扱いを確認する | 返却・破棄 |
今回使わなくても、審査を通しておけば次に急いだときに使えます。断り方を丁寧にしておくと、次の依頼がスムーズになります。
2社目を持つことの影響は 2社目を使い始めたときに起きること の記事で扱っています。
断り方を丁寧に。枠は複数持つ価値があります。
交渉で手数料が下がったとき、その代わりに何かの条件が付いていないかを必ず確認してください。
| 付きやすい条件 | 何が起きるか |
|---|---|
| 最低利用額・最低回数 | 使わなくても費用が発生する |
| 専属条項(他社と取引しない) | 選択肢を失う |
| 契約期間の縛り | 途中解約に違約金 |
| 掛け目が下がる | 今もらえる現金が減る |
| 対象の売掛先を限定される | 使える債権が減る |
| 債権譲渡登記が必須になる | 費用と手間が増える |
| 2社間から3社間に変わる | 取引先に知られる |
他社と取引しないことを約束すると、次に条件を交渉する材料を自分から捨てることになります。1ポイントの引き下げと引き換えにするかは、慎重に判断してください。
4番目も見落とされます。手数料率が8%から6%に下がっても、掛け目が90%から80%に下がれば、今受け取れる現金は減ります。必ず「実際に手元に入る金額」で比べ直してください。
下がった代わりに何が付いたかを必ず確認してください。
他社に依頼して断られた、あるいは今より悪い条件しか出なかった。これも重要な情報です。
| 考えられる理由 | 自社がやるべきこと |
|---|---|
| 売掛先の信用が評価されていない | 取引先の構成を見直す |
| 債権の裏づけ資料が足りない | 契約書・検収書を整える |
| 自社の財務状況 | 決算・試算表の改善 |
| 金額が小さすぎる・大きすぎる | 各社の得意な規模を確認 |
| 業種・債権の性質が合わない | 別の事業者を探す |
| すでに債権譲渡登記がある | 既存の登記の範囲を確認 |
理由を教えてもらえるとは限りませんが、聞けば「資料が足りない」「この売掛先は扱えない」といった具体的な情報が得られることがあります。次の依頼の精度が上がります。
最後の行は重要です。過去に包括的な債権譲渡登記をしている場合、その範囲に入る債権は他社が買い取れません。自社にどの登記があるかを、登記事項概要ファイルで確認してください。
登記の確認方法は 債権譲渡登記の費用と期間 の記事で扱っています。
断られたら理由を聞く。既存の登記の範囲も確認を。
| 決まること | 誰が決めるか |
|---|---|
| 手数料率 | 会社の基準+審査 |
| 掛け目 | 会社の基準 |
| 対応の速さ | 担当者 |
| 社内で条件見直しを通すか | 担当者の動き方 |
| 審査に出す情報の整理 | 担当者 |
手数料の基準は会社が決めますが、その例外を社内で通すのは担当者です。担当者を責めても条件は動きません。担当者が社内で説明しやすい材料を渡すほうが効きます。
具体的には、実績の一覧、今後の取引見込み、継続して使う意思。この3つを書面で渡せば、担当者はそのまま稟議に添付できます。
担当者が社内で使える材料を渡してください。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 今の条件と実績を1枚にまとめる |
| 2 | 今の事業者を続けたいかを決める |
| 3 | 続けたいなら「継続前提で」条件見直しを依頼する |
| 4 | 並行して、資料を揃えて他社2社に見積もりを依頼する |
| 5 | 手元に入る金額の形で比べる |
| 6 | 対象の債権は必ず1社にだけ譲渡する |
| 7 | 断る先には丁寧に連絡する |
ここが決まっていないまま動くと、伝え方も比べ方も定まりません。「条件が下がれば続ける」のか「条件にかかわらず乗り換える」のかを先に決めてください。
先に決めるのは「続けたいかどうか」です。
15番は必ず守ってください。二重譲渡は重大な問題になります。
この記事はファクタリングの一部です。手段そのものを比べたい場合は、あわせてご覧ください。